沙夕里も咲乃もわたしにとっては他人のはずだった。知り合い、友人、そういうカテゴリーでの話ではない。親でなければ姉妹でもない。そちらのカテゴリーの話だ。それは小枝もそう。
 高校生活というのは大人になるために過ごさなければならない期間のことで、わたしにとって目的などではなかった。通過儀礼に近いもののはずだった。それは手段にも似ている。つまり、端的に言えば中身のない意味のないもの。
 咲乃はイケメンくんと他の女子生徒が付き合うことを聞いて割り切ろうとしている。沙夕里は癖毛くんの元を離れ、立ち、歩くことを決めた。彼女たちは通過儀礼の中でアクションを起こす。

 高校生活が彼女たちにとっては通過儀礼ではないから。

 それなら、少なくとも、彼女たちの高校生活にいるはずのわたし、という存在も、通過儀礼の一部ではないはずで。

 わたしは何がしたい?
 この生活に意味を求めなければそれはそれで楽なことなのだろう。大人になるためのステップ。ただの踏み台。

 しかし、だ。
 わたしはその踏み台の中で強者を知った。やつの存在を認知した途端、それは踏み台ではなくなったのだ。

 そもそも、通過儀礼にはきちんとした意味があるはずだったのだ。わたしがそれを元から無いものと見なしていただけで。

「お土産までもらっちゃったけどよかったのかな! あの先輩たちいい人だよなー! オレも部長に言って、藤沢先輩みたいに兼部したいな!」

 隣りで自転車を押す葉山楓がにへらにへらと笑う。その手には余ったクッキーを入れた袋。

 こいつの家はどうして、わたしの家と同じ方向にあるのだろう。家の位置を把握されるのは嫌だ。
 仕方がないので普段の帰路を変更し、あの公園へ寄り道することにした。そこで適当に別れさせよう。

 葉山楓は一方的に話しかけてくる。わたしが応じなくても話は膨らみ、迂回する。教室では癖毛くんのことを気にするふうな発言をしておきながら、今はぺらぺらと関係のないことばかり。

 わたしの高校生活が踏み台ではなくなった、イコールきちんとした意味を持ったらしい今なら、知り合いや友人のあたりにカテゴライズされた沙夕里や咲乃、小枝も意味を持つ。
 小枝もきっと、高校生活を意味のないものだとは思っていない。天真爛漫という言葉の似合う彼女もきっとアクションを起こすことだろう。

 わたしは不審者を蹴るのではない。攻撃するのではない。

「なんかもう腹減ってきちゃったなあ。一個食べちゃおう!」

 隣りの葉山楓は減速し、自転車を路肩へ駐車した。わたしも減速し、立ち止まる。
 彼は手元の袋からクッキーを取り出すと、一つ頬張った。そして、もう一つ取り出した。

 呆れた。食べるのは一つではなかったのか。

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