そのまま談笑が続くかと思いきや──がらっ、と。響いたのは、調理室の引き戸が開けられる音だった。
 三人でそちらに目をやると、ひょこっと顔を出したのはサイドテール先輩だった。それに続いてひょこひょこと、見知らぬ顔。

「あれー? 花音ちゃん、今日は軽音でしょ?」
「部員が集まんなくって」
「高堀さんは?」
「あいつー? 『これじゃ部活の意味ないから帰って自主練しろォ!』って。言ったのね。で、暇になった」

 どやどやと、とまではいかないものの、サイドテール先輩を筆頭に女子生徒が三人と、男子生徒が二人入ってくる。

 げ……。

「あー! ことり!」

 男子生徒二人のうち、一人がわたしを指差して叫んだ。うわあ知らないふりしたい。隠れる場所もないのでどうしようもないが。
 軽音楽部員たちの集まりだと思われるグループから抜け出た葉山楓はこちらへやってこようとした。部長さんはぽかんと口を開け、副部長さんも目を見開く。しかし、葉山楓の動きは途中で止まった。

「ここは調理室。埃、立てないでくれる?」

 サイドテール先輩が彼の制服の襟を引っ付かんだからだ。なんて素敵な先輩だろう。そのままこの部屋の外に追い出してもらえたらうれしいのだが。

「わあ、わあ。花音ちゃんの後輩さんだねー? ことりんとも友達なの?」

 嗚呼。
 ぽわぽわとした空気をまといながら、その、葉山楓をわたしの隣りに座らせるのは、止めてくれ。部長さん。お気を確かに。
 サイドテール先輩が呆れている。目が合うと苦笑いされた。

「へえ、ことり、こんなとこにいたんだ! ここって調理室だろ? ってことは先輩と同じ家庭部? そっか、知らなかった!」

 一人で話して一人で結論を出している。

「えっとー、ことりんのお友達さん。よかったら、家庭部、入らない?」
「えっいいんですか!」
「ダメ、ダメ。高堀にボロクソ言われて強制退部の道が見えてるよ」
「花音ちゃーん……わかってるよー、言ってみただけだもん」
「どうかな。あんた、ちゃっかりしてるし」
「もー!」

 部長さんとサイドテール先輩とのやり取りの間にクッキーをつまんでいる窃盗犯のほうが余程ちゃっかりしていると思うのだけれども。

「おお! これ、うまい! さくさく!」
「宮部くんが作ったんだよー! あ、今、紅茶いれるからねえ」

 わたしに安息の地はなかった。

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