お先に一口飲ませてもらったものの、やはり、副部長さんの紅茶には敵わない。まずくはないのでそのままカップに注ぐ。
 その頃には部長さんも落ち着き、副部長さんと一緒にエプロンと三角巾を外して席に着いた。部長さんはクッキーと紅茶を前に、現金にも幸せそうな顔をしている。これはまた同じような失敗をする予兆だろうな。

 皿に盛られたクッキーは型抜きの星、格子、絞り出しと多種多様だった。副部長さんはお菓子作りが妙にうまい。気紛れのように混ざっている見事なウサギ、クマ、ネコやイヌはそのチャーミングさから部長さん作だと思われる。彼女はドジだが不器用ではないらしい。

「いただきまーす」

 笑顔の部長さんに続き、副部長さんとわたしもいただきますと手を合わせた。

「フレッシャーズセミナー、楽しかったー?」

 クッキーを一口かじり、プレーンとココアの綺麗な格子縞を眺めていたわたしに、部長さんが聞いてきた。その手にはウサギのクッキー。隣りで紅茶をすすっていた副部長さんの視線も寄せられる。
 どう答えようか思案していると、彼女はウサギの耳をぽきりと折って、それをぱくっと食べた。片耳のウサギは何だか、格好がつかない。

「ジンクスは? 時計塔の告白ジンクス!」

 もう片方の耳も折られ、ウサギはウサギでなくなった。

「……知ってる人が。そこで告白されたって、聞きました」
「はええー。すごいねえ」

 感心している彼女はウサギの顔を折る。

「結構むごい食い方するね」

 言って、副部長さんは星形クッキーを口に放り込んだ。顔の片方を口の中でもぐもぐしていた部長さんがみるみる赤くなる。

「ど、どんな食べ方したって、むごいんだよ!」
「まーあなー」
「宮部くんはアニマルクッキー食べちゃだめ! 全部ことりんにあげる!」
「えー?」

 はいっ、と言って差し出されたクマとネコとイヌを、戸惑いながら受け取る。つぶらな瞳が可愛らしい。

「それで、その知り合いさんはー? どうしたの?」
「オーケーしたらしいです」
「わあ、カップル成立だね! ロマンチックー」

 わたしはココア主体のイヌのクッキーをかじった。耳は垂れて、マロのように眉毛の部分だけプレーンクッキーがくっついている。ダックスフントのように見えなくもない。

 部長さんのはしゃいだ姿を見ながら、わたしは思い出す。仕方ないわよと、くたっと、無理に浮かべられた笑顔を。

 だって、幸輔だし。

 彼女はジンクスを信じない質だと言っていたのに。そんな顔をする。

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