「あっ、ことりん、やっと来たね! 早速サボりかと心配しちゃったよー」 「こら、部長! 沸騰したお湯そのままにすんな!」 「ふええええー!」 入り口に一番近い机に設置されたコンロ、火にかけた片手鍋から湯が吹き零れていた。 「……大丈夫ですか」 毎度こんな光景でわたしを迎える、月曜授業後の調理室。 ぽわぽわ部長こと波崎先輩はいつものごとく不思議なことをしでかし、その後の始末に副部長である宮部先輩が追われている。ひとまず火を消し、床にまで零れてしまった湯を雑巾で拭いていた。 「だっ、大丈夫だよー。荷物、置いてきていいからね」 泣きべそをかきながら言うので、部長さんの言葉に従うことにした。 「ご、ごめんね、宮部くん……」 「オレに謝るなら先に事態を想定してよ。頼むから」 「う、ううっ……」 やかんから湯が吹き零れる、くらいなら理解の範囲内なのだが、片手鍋からだと言うのだからもう「何故?」としか思えない。 初めてここに来たときも、卵とスポンジを間違えたとか訳のわからないことを言っていた。恐ろしい部長さんだ。どうして副部長さんではなくあなたが部長なのですか。 調理室の後ろのほうの机に荷物を置く。調理室にはあの二人以外誰もいない。 「片手鍋だよ? どんだけ水入れたのさ」 「途中で足したりしてたらいっぱいになっちゃって」 「なんで足すんだよ、もう」 「い、以後、気を付けます」 部員名簿、というものを見せてもらったことがあるけれど、一年生は五人ほど名前が載っていたはずだ。そのほとんどが既に幽霊部員になっているとは、感服します。 「椎野さーん。クッキーあるから今日はそのままあっちに座ってていいよー」 三角巾とエプロンを身に付けた副部長さんが涙声の部長さんの背中をぽふぽふ叩きながら、窓際の机を指差した。 まるで主夫みたいだなとぼんやり思う。料理をし、子供をなだめる主夫。 「じゃあわたし、お茶、いれます」 「そう? じゃ、よろしく! ほら部長、泣くなよ……」 わたしへの返事の後、また、彼は部長さんのメンタルケアへ戻った。 窓際の机へ移動し、やかんに水を入れ、火にかける。その間にティーポットとティーカップを用意し、ソーサーも出してみた。茶葉、砂糖、ミルク。ティースプーン。こんなところか。 湯が沸き、わたしは紅茶を作った。 [しおりを挟む] ← |