こうしてわたしの中で情報を整理をするより、当人に聞いたほうが正確だ。
 沙夕里との会話の中で重要そうなもの。あれしかない。

「……頼ってばかりじゃいられない、って」

 その声は多少震えていようとも、芯はぶれなかった。瞳が潤んでいようとも、意志が霞むことはない。そんな気がした。

「沙夕里が……」

 そばまできていた癖毛くんがぼんやりと彼女の名前を口にするその様は、夜の小陰に青白い光を見て「火の玉だ」とつぶやく人のそれに似ていた。

「沙夕里が言うことなんて関係ない」

 が、その後の一言は一変して火の玉に否定的だった。

「……沙夕里といっしょにいるのはおれ」

 既に目の焦点が合っていない。癖毛くんは危ない人と化し、それだけ言うと、ふらふら、教室を出ていった。
 葉山楓も小人くんもあっけらかんとして、彼の背中を見送る。

「広瀬くん……本当に、すき……なんだよね……?」

 そんなこと、わたしに聞かれても答えようがないぞ。

「あいつ、羽柴さんのことになると、ちょっとおかしくなるんだよなー」

 沙夕里のことになると、ではなく、沙夕里のことに限り、の間違いでは。それに「ちょっと」というのも甘い気がする。

「今日、元気なかった……から、心配、だよ」
「だよなあ。いつもは羽柴さんが邑弥に謝るパターンが多いんだけど」

 今回はそれを望めないことがわかっているのか、小人くんは縮こまり、葉山楓は頭の後ろで手を組んでいた。
 沙夕里には確固たる何かがあった。それを貫くなら彼女が癖毛くんに働きかけをして状況を打破するとは思えない。いや、むしろ、打破させないために沙夕里は動かないのではないか。沙夕里が望んだこと、ではないのか。ならば、彼女の選択についてあれこれ口出しするのは無粋だ。
 そもそも他人事、なのに。

「まあ、邑弥も帰っちゃったし。どうにかするなら明日だ!」
「そう、だね……どうにか、なるなら、ね……」
「弱気なこと言うなよー!」
「ご、ごめん……」
「わたしはこれで」

 会話に別れの合図を差し込む。

「あっ、えっと、椎野さ……」
「うわ! オレ今日部活あった! じゃあな、ことり!」
「あっ、あっ、僕もだ……! 椎野さん、えっと、さよなら……!」

 沙夕里が決めたこと。
 彼女はこれまで頼ってきたものに頼らない、と言ったのだと思う。それは彼女の生活を支えてくれるものだったはずだ。

 羽柴沙夕里と広瀬邑弥は恋人同士ではない。

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