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 昨日は盛大なる拍手の中にいて、

「なあ、椎野さん! 先生との決闘っていつやるの?」

 今日は大きな大きな人だかりの中にいる。

「昨日の蹴り、かっこよかったよー! あたし惚れちゃうかも!」

 ……女の子に惚れられてもうれしくないのだが。

 波乱の入学式の翌日、つまり今日、わたしはいつもと変わらない様子で学校へやってきた。歩き慣れない校舎の中を他の一年生たちについていきながら、自分の教室について……と、そこまでは普通のはずだったというのに。

 ガラッと教室の扉を開けた途端、普通の生活を送っている子は味わわないであろう奇異な視線を全身に浴びたのだから、わたしは特異な存在になってしまったのだろうなと自覚した。

 普通なら友達を作ろうと思って様々な子に話しかけたりするだろう。が、わたしの場合はそれをすっ飛ばして人だかりの中に放り込まれた感じだ。
 ……人だかりを作ったのはわたしなのだけれども。

「なになに、みんなどうしたの?」

 たった一つ、優しい雰囲気で尋ねる声があった。

 男女両方から質問攻めにあっていたわたしは、その子に注目が集まってくれないだろうかと藁にもすがる思いで声のした方を見た。

 他の子たちも一斉にそちらを見る。

 つやがあって、さらさらのロングヘアと頭のてっぺんにくっついた小さなおだんご。小柄で、いかにも女の子らしいという雰囲気をまとい、穏やかに細められた綺麗な瞳を持つ可愛らしい少女……が、そこにはいた。
 わたしはもちろんのことだけれど、わたしを囲んでいた生徒たちが一瞬沈黙する。その子があまりにも可愛かったから。

「ええ……と、あの、本当にどうしたの?」

 戸惑いがちに首を傾けて彼女がつぶやいた。

「小枝(こえだ)は入学式休んだから知らないんだったっけ」

 彼女の問いにただ一人だけ呼応したのは、人だかりから少し離れた場所でこちらを見ていた男子生徒。小枝と呼ばれた少女はキョロキョロと頭を動かし、問いに応えた人物を探しているようだった。

「その椎野って子、初日から楓(かえで)のこと蹴り上げたから有名なんだよ」

 それを聞いた女の子はふむふむと相づちを打ち、わたしに笑顔を向けてきた。ああ、これが天使の微笑みというやつか。
 おもむろに手を伸ばしてくる。

「初めまして! わたし、中塚(なかつか)小枝です。よろしくね」

 ニコニコと笑いながら、こんな大勢に囲まれたわたしにあいさつをしてきた。なかなか度胸のある子だと思う。度胸のある子は嫌いじゃない。

 わたしは、彼女に一歩近づいた。

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