神に誓うな、己に誓え!
呼ばれて飛び出て
「えーっと、はじめまして。佐隈りん子です」
「は、はじめまして……」
もしかしなくともキマイラさん、と呼ばれたのは私だろう。
昨日おじいさんに言われた事を思い出す。私がこの体になった事により、おじいさんにキマイラ族の代表に本人の同意なく無理矢理されたのだ。おじいさんはもう年だからと言って。年齢の話を出せば折れるしかないじゃない。帰ったらじじい張り倒す。
とにかく、私はどうやらキマイラ族の代表悪魔として今目の前にいる女性――佐隈さんに召喚されたらしい。というか、まだその辺りの説明はおじいさんから全く聞いてないんだけどどうすりゃいいんすかね!適当言っても駄目だよね雰囲気的に!
「あの、お名前伺ってもいいですか?」
「あ、はい。赤川夕陽です」
「あれ?キマイラ……じゃなくて?」
「あっ!えっと……その〜」
思わず癖で生前の人間の時の名前を名乗ってしまった。おじいさん曰く、キマイラとなった私はキマイラ夕陽と名乗らなければいけないらしい。芸名か何か?
慌てて訂正しようとすると、扉の近くで壁に寄りかかっていた男性が私に近付いた。めちゃくちゃ目つきが悪くて正直怖いちびる。ア○コやこの人悪魔界の和田○キ子やで〜〜。
「お前、悪魔じゃないな」
「!わ、分かるんですか!?」
「ええっ!?でも見た目は普通の悪魔ですよ」
「えっ……ええええええ!?」
佐隈さんの言葉に、そういえば私の姿は完全に獣のような悪魔に成り果てていたのを思い出して自分の体を見る。だがそこには昨日から見ていた姿とはまた違う私の体があった。悪魔から更にミニマムな姿になっており、例えるならただのぬいぐるみのような丸々としたフォルムのマスコット姿になっていた。
道理で目の前のお二方が妙に大きく見えると思ったよ。だって自分の方がが小さくなってるんだもの。みつを。
「えええええ!あの……うえええええ!?」
「お、落ち着いてください!」
「何これサ○リオキャラクター!?私どうなってしまうんですか!?」
「ああ〜夕陽ちゃん泣かないでください」
状況についていけず、思わず手に持った箸と茶碗を放り投げてわんわんと泣き出せば佐隈さんがよしよしと頭を撫でてあやしてくれた。初対面なのにこの優しさ!単純にもう佐隈さん好きだよ!
「まさか練習に適当に下級悪魔を呼び出したのに、こんな事になるなんて……」
「れ、れんしうだったんすか……」
「少し前までは別の奴だったはずだ。おい、経緯を話して貰おうか」
「は、はいい!」
かくかくしかじかまるまるうまうま、と私が悪魔になった経緯とおじいさんの説明を交えて話す。その間男性は黙ってじっとこちらを睨んでいた。睨んではいなかったかもしれないが、なんせ目つきが悪いものだから私はブルブル震えながら涙目で説明した。くそう、あれもこれもみんなおじいさんのせいだ!
「なるほどな」
「そんな事ってあるんですね」
「そういうことなんですけど、あの……私まだ悪魔について全然分からないんでどうすればいいでしょうか」
「つまり、悪魔は一度人間に召喚されたら絶対服従。そう肝に銘じてもらう」
「えっ」
なにそれ怖い。悪魔ってブラック企業だったの?昨日まで学生やってて急にブラックに就職しちゃったの?私の悪魔の社畜生活が今始まる!夕陽先生の次回作にご期待ください!
唖然と今後に不安を感じていると佐隈さんが強面の男性に声をかけた。
「芥辺さん、いきなりそんな言い方したら可哀想じゃないですか。まだ少し前まで人間だったんですよ。普通に接してあげましょうよ」
「ううう佐隈さぁん……!」
「はい鼻水チーンしましょうね〜」
「アッハイ」
優しく微笑みながら佐隈さんはティッシュで私の顔を拭いてくれる。
人間扱いというより幼児扱いだこれー!
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