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リフレイン!
いつもの朝


 ――――ピロリーン♪

「……てってきしゅー!?敵襲!?」

「ありがとうございます!我々の業界ではご褒美です!」

 バキッ!と朝っぱらから私の脳天に拳が直撃する。良かった、彼の筋力ではスマホなんて粉々にされる所だった。
 だがそのスマホから発した音ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた家康は慌てて起き上がり体勢を整え体を構えた。流石現役武将、様になってはる。

「うわ!な、なんだ夕陽殿かすまない!……それで、今のは?」

「めんごめんご。あ、今の音は敵襲とかじゃないからご安心くだされ!」

「そ、そうか。それならいいんだが……それで、その手の物は?」

 あはは、と笑って誤魔化すが、じーっと私の手のものに視線を向ける家康。
 その視線から外そうと私の後にスマホを持った手をやる。私の目もブルブルと震え冷や汗が滝のように吹き出した。動機と息切れが止まらない。これが恋……?

「べっ別になんでもないわよっ勘違いしないでよねっ!」

「物凄く怪しい!なんだ、それでワシに何かしたのか!?」

「オー!ワタシソンナヤマシイコトゼンッゼンヤッテナイヨー!アイユエニー!」

「どこぞの南蛮人みたいに言ってもダメだぞ!ちゃんと言いなさい!こら!」

「ウワーッやっさんもちついてー!殿中!殿中でござるあああ!」

 スマホを取ろうとした家康を避けて私が逃げれば二人でドタバタと部屋の中を走り回る。
 ごちゃごちゃと色んな物が転がっていてお世辞にも綺麗とは言えない部屋は障害物が多くて、逃げる私と追う家康の距離は中々縮まらない。これならいけるぞ!あばよイエヤスウウウウとニヤリと笑った瞬間、私の手のスマホが姿を消した。

「「あ」」

「朝っぱらからドタバタうるせぇんだよお前ら!何してんだ!」

「丁度いい所に来てくれた元親!夕陽殿がそれで寝てたワシに何かしていたみたいなんだ!」

「うわあああ!誤解だ、俺は悪くねぇ俺は悪くねぇ!返せこの超乳首元痴漢!」

 扉の前で仁王立ちをしている元親の手には先程まで私の手にあったスマホが握られていた。元親は基本的に家康の味方だ。くっそおお万事休す!
 取らせまいと片手を上へ挙げられ、スマホを取ろうとぴょんぴょんと必死に跳ねても私と元親の身長の差では全く届かない。終いには頭を平手で押さえつけられればもう確実に奪い返せない。我慢し続けて早数ヶ月、ようやく我が野望が果たせたというのに!無念!悔しくて全力で涙すると二人にドン引きされた。

「はい没収。なんじゃこりゃ、妙に小せぇからくりだな。お?」

「えっこれワシか!?」

 元親がスマホを見ると画面には先程私が撮った家康の寝顔が画面いっぱいに写っていた。それを家康も覗けばぱちくりと目を瞬かせる。
 驚いたと同時に顔を赤くする家康の今の表情も是非カメラに収めたい所存にござる。

「これ絵か!成る程そういうからくりか!ほほう、こいつぁすげぇな……ふ〜ん……」

「輝かしい瞳でじっくり解体しようとするな!いくらすると思ってんだそれー!」

「ああ?いいじゃねーか、減るもんじゃあるめぇし」

「減る!金銭的な意味でごっそり減るから解体とかマジ勘弁!ヒーッ本当にやめてーーッ!」

「HELL DRAGON!!」

 突然バチバチと激しい音をたてながら青い稲妻が私達を襲う。
 威嚇射撃だったので私達には当たらなかったが反対側の壁がブスブスと焦げた。こんな事ができるのは一人しかいない。
 部屋の扉の方に視線をやると、そこには可愛い私のエプロンを身に付けた政宗が菜箸を両手に六本持っていた。食事当番の出で立ちにも関わらず政宗の顔はそれに相応しい顔ではない。

「テメェらいい加減にしろよ……アア"!?」

「筆頭ううう!?室内で婆裟羅使ってはならぬとあれほどおおおお!」

「やけにうるせぇから様子を見にくれば……俺の飯が食えねぇってのか!」

「それは違うよ!兄貴が悪いんだ!私の至福の時を邪魔したんだ!俺は悪くねえ!」

「あってめ!もとはと言えばお前が家康にやらかしたからこーなったんだろーが!」

「と、とりあえず落ち着こう!な?」

 私と元親が睨み合い、家康がなだめる。こんなやり取りも一体どのくらいやっただろう。またかよとでも言いたげに政宗は呆れた顔で仁王立ちしている。
 今ではこうして見慣れた風景も、いつかなくなってしまう。そう思うとじんわりと胸の奥が重くなるのだ。

「だって、みんなといつ突然別れが来るかと思うと……さ。だから一緒にいたっていう証明が欲しくて……」

「夕陽お前……すまねえ、俺はてっきり……」

「で、本音は?」

「やっさんの寝顔ぐうかわいい」

「てんめええええええ!!ちょっと信じた俺が恥ずかしいじゃねーか!!ふざけんな!!」

「かわいい……のか……」

 真顔で親指を立てれば元親のゲンコツが飛んできた。
 再び言い合いをしている間、家康はひとり複雑そうにスマホの画面を見つめていた。大丈夫だ、今時の女子はかっこ良くても何でもかんでもかわいいの一言で済ませるから問題ない!褒め言葉だと素直に受け取るといいよ!素直になぁれ!
 再び騒がしくなって結局収集がつかないことになったので、政宗ははあ、と溜息をひとつついた。

「あー分かった分かった、とりあえず飯を食え。話はそれからだ、you see?」

「I see!です筆頭!今日は出かけるしね」

「あっそうだった、今日もう一度神社に行くっていう話だったな。ならこうしてはいられないな!」

「おう!夕陽、この話は後だ後!」

「え、まだするの?」

 今日は休日。丸一日時間があるので、この三人と出会った場所に再び行って何かそれに関することはないか色々と調べよう、という話を昨夜していたのを思い出す。
 そうと決まればここでグダグダしている場合ではない。何より筆頭の美味しいご飯を冷ましてしまってはバチが当たる。
 私達は一斉に台所に向かって歩き出した。こっそりと後で無音カメラをダウンロードしなければと考えながら。
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