神に誓うな、己に誓え!
大変よくできました。
「もうちょっとだけ続くんじゃ」
「まだ始まったばっかですよ、おじいちゃん」
初っ端からボケをかましていく目の前の巨大な獣、もとい不本意ながらも私の新しい家族となったキマイラ族の族長のおじいさん。
見た目の威圧感からは想像できない飄々とした性格をしているおじいさんはむむむと唸った。何がむむむだ!かわいこぶったって中身は悪魔で年寄りって分かってるんだぞ!
「む、最近急に物忘れが酷くなってしまってのォ。それよりどうじゃ、よく寝れたかの?」
「……正直あまり」
「うぬぅ、そうか。まだその身体に慣れておらんのかのぅ」
「そりゃそうですよ、1日やそこらで急に順応できますかこんな無理矢理な急展開」
「最近の若モンはすぐメタ発言するのう」
ちょっとなんでもかんでも急き過ぎやしない?ゆとり大事だよ!
私が不本意ながらもキマイラ族となってしまった激動の昨日から一夜明けて現在。悪魔となった私は魔界で生活することを強いられ、これからここが私の家だと言っておじいさんから与えられた部屋で過ごした。
その間、何度も自分の家族のことを思い出したが、不思議と寂しいとか悲しいとかそういった感情は湧いてこなかった。もしかして私ってスーパードラァイだったのだろうか。
「それにしても、意外じゃ」
「何がですか?」
「もっとこう、人間界の者とは一生の別れなんじゃから、泣いたりホームシックになったりすると思ったんじゃがの」
「それは私も思ってました。確かにそういった感じはあまりないです。寂しいとか悲しいよりも……なんででしょう、現実味が無い感じでしょうか」
「ふむ。体が悪魔なんじゃ、きっと精神も悪魔化していっとるのじゃろう。悪魔は非情じゃからの」
「なるほど!それおじいちゃんが言えた口じゃないですね、流石本家悪魔!」
「や、やめんかい、照れるじゃろっ」
「…………」
てれてれと嬉しそうに照れるおじいさんをしらーっとした目で見る。いやおじいちゃん、全く褒めてないからね?皮肉も悪魔には褒め言葉のようだ。
さて、とおじいさんが部屋を出ていく。私もついて行って居間に入ると部屋の真ん中にちゃぶ台があり、その上に色々乗っていた。ええ、色々。
「では、朝食を頂こう。こちらに座りなされ」
「はい…………あの、もしかしてですけど、ほんとにほんとの確認ですけど、あのもしかして……これを……食べるんですか……?」
「そうじゃよ。お主の歓迎の為にわしが腕を奮ったぞい!人間界では食べた事はないのかの?」
「食べない以前に、こんな物見たことも……」
ちゃぶ台に乗っていたのはとてもじゃないけど食べ物とは形容しがたい謎の極彩色の物体が蠢いていた。皿に盛り付けられたうにょうにょした何かが動いているのをみるとどんどん食欲が無くなっていく。むしろ吐きそう。
これからはこんなもの食べなきゃいけないのか、これはキツい。キツすぎる。果たして私はここで生き延びることが出来るのだろうか。早速不安になってきた。
「……いただきます……」
「ふむ、では朝食の後に魔界について色々教えようかのぅ。最低限の常識は知っていて貰わんとな」
「あーそうですね。生活にも困るでしょうし」
魔界いいとこ一度はおいで!と、そう言えるような所だったらいいけど今の所正直不安要素しかない。
席について渋々えげつない見た目の料理を口に運ぶ。あ、見た目より普通に食べれた。舌まで悪魔になったいるようだ、まじかよ。
「他にもご近所さんに挨拶して廻らねばな。あ、この場合なんか持って行った方がええのかのぅ?持って行くなら、そうじゃな、やっぱり洗剤とかタオルあたりが使えるしマシじゃろ。ならばそういう物を買って来なければならんのぅ。そうなるとえーっと……いくつほど買わねば」
「はいはい、その辺りのことは適当でいいですから!それよりも……」
うーんと割と本当にどうでもいい事に頭を捻り始めたおじいさん。魔界にもご近所付き合いがあるのか……意外と庶民的なんだ……。
そんな事を思いながら血の滴る何かを口に運んでもぐもぐと咀嚼していると、座っている私の頭上が突然光り始めた。
「こ、これはっ!!」
「えっ、何ですか?」
眩しくて何事かと見上げればまるで魔法陣のような円形の光がそこにあった。そしてその光に吸い込まれるように私の体が浮かびあがった。ひええ宙に浮いてる!
「これは喚び出されとるぞ!」
「え、え?呼び出し!?職員室か何か!?私何も悪い事してませんよ!?」
「職員室でも生徒指導室でもない、人間界にじゃ!」
「え?」
人間界って私が住んでた所のことだよね?ということはつまり。答えに思わずパチンと指を鳴らした。
「なんだ帰れるじゃん、ラッキー」
「しまったああああ!!待て待つんじゃ夕陽〜!!まだ何も説明しとらんのに!!」
おじいさんの慌てる声がだんだん遠のき、私の頭が魔法陣に触れた。無抵抗のままでいると自動的に私の体がそのまま通り抜ければ、先程まで居た禍々しい部屋とは違い景色が一変した。
ぱちくりと目を開けばそこは薄暗い部屋の中。本がびっしり詰められた本棚に、何故か拷問器具のようなものまで置いてある。私の目の前に眼鏡をかけた女性が本を片手に立っていた。
「……えっと、あの……ど、どうも」
「あ……お食事中にごめんなさい。キマイラさん、ですよね?」
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