02 「はしごだよ、もっと本質を見ようよインプくん」幻船長コカトリモン!
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「後生だから命だけはーっ!ガメオベラーっ!」
「もう、違うわよ灯緒ちゃん!」
「え?」
捕まった宇宙人の図で空とミミに部屋に連れて行かれる。
あまりの臭さに汚物扱いでバスルームまで強制送還されるのかと思いきや。空は手洗い場でタオルを濡らして持ってきて、ミミはタンスから常備されている救急箱を見つけると私の元にやって来てた。
一体何が始まるんです?
「傷口を綺麗に洗って清潔にしなきゃ治るものも治らないわよ」
「丁度良い所に救急道具もあるし、包帯も巻かなきゃ!」
「あ、ああー!そうか!」
優しく笑いながらそう言う空とミミを見上げた。
まさかそこまで気を遣ってくれるとは、本当にこの二人には頭が上がらない。
私が勝手に間違って怪我をしたというのにここまで迷惑をかけちゃ悪い。もう充分迷惑をかけていることは重々承知しているが。だからこそ、その伸ばされた手は取れない。
「ありがとう、気を遣って貰っちゃって申し訳ないなぁ〜」
「気にしないで。灯緒ちゃんには沢山のものを貰ってるんだもの」
「んん?」
そんなものあっただろうか。ただ私は常に私のやりたいようにやっているだけであり、何かをみんなに与えているつもりは全くない。
私は自分の理想や目標をいちいち口に出して自分に言い聞かせなければ実際行動に移せないただの間抜けだ。
つまりは過大評価なのだ。そんな感謝されるような器の大きい人間ではない。
「ありがとう!じゃ二人はお風呂行ってきなよ」
「灯緒ちゃんのが終ったらね」
「えっいや一人で大丈……」
「いいから!」
いいからテーピングだ!と有無を言わせない様子で空がテキパキとはじめる。もはや看護士というより衛生兵のようだ。
いいと言うが二人共私なんか放ってシャワーをしに行きたいだろうに。私がいるから気を遣って私を優先してしまうのだ。
面目なくて私がまだ渋っていると、空も思うところがあるのか強い口調で言い放った。
「与えるだけ与えてこっちが与えるものは拒むなんて、勝手ね」
「記憶にございません!」
「あるの!本当よ!みんなも言わないだけでそう思ってるわ」
ミミは真っ直ぐに私を見つめてぎゅっと私の手を握ってきた。
そんなに強く言われてしまえば否定しにくいじゃないか。そんなことを言ってしまっては、空もミミも他のみんなもそれぞれが私達のチームに必要不可欠な存在なのだ。私は他のみんなにどう思われているか知らないが、私が特別に何かを与えている訳がない。
「あのね、灯緒ちゃん。弱音を吐くことはないの?自分の為に無理や我儘を言うことはないの?」
「だって……」
そんなものはできない。だって、恥ずかしいじゃないか。
「だってみんなの笑顔が見たいなら自分自身が笑わないと駄目っしょ?」
「……嘘つき。じゃあもう少し騙されとくわ。だからいつバラしてくれてもいいんだからね?」
「善処します!」
「もう、ああ言えばこう言う!」
そう言うミミの表情は笑っていた。空もやれやれと肩を落とすがその眼差しは優しい。
きっと全部見透かされているのだろう。みんなのことばかりに構っていて肝心の自分は疎かにしているということを。人のことばかり気にしてないで自分のことも労れと。私の弱みが見透かされてしまった。もう誤魔化したって無駄なのだ。
それならば私はどうすればいいのだろう。答えはすぐには出ない。
「はい、出来たわ!どう、平気?」
「うん大丈夫!ありがと!」
「それじゃあたし達はお風呂入ってくるわね」
「ちゃんと安静にしとかなきゃダメよ!よーしお風呂お風呂〜!」
「はーいいってらっしゃ〜い!」
バスルームに向かう二人を見送り、一息つく。
消毒も出来たことだし、何よりきちんと包帯やテープでそれなりの措置が出来たのはありがたい。間に合わせで適当に上着を巻いていた時とは全く安定感が違う。
その安堵とはまた別に、先程の二人の言葉を胸に暖かく感じていた。
(与える与えてない、か。ギブアンドテイク、親しき中にも礼儀あり、切磋琢磨……うーんしっくり来ない)
特別な意識を持ってしたことは本当にない。だが、空とミミの目は真剣そのものだった。その瞳に気圧されて事実なのかと納得してしまった。
理由を探しにもう一度過去を振り返ってみるんだ。
むしろ、私のような初対面の不審な輩を優しく迎え入れてくれたのはみんなの方だ。私を全く知らない他人だからこそ、私も自然体でいれた。そう考えればきっとギブアンドテイクが一番近いのかもしれない。
でも、それよりも何より、そんな優しいみんなが大好きで。
(大好きで……)
ここまで一緒に旅をしてきてわかったこと。
それは私はこのメンバーみんなが好きなのだ。みんなと旅をしているのが好きだ。それだけなのだ。
そして、ずっと一人でいいと思っていたくらいには孤独だった己には、他人との距離感が上手く掴めない時が多々あることには気づいている。
だからだろう。少しでも好意を貰ってしまうと、どうリアクションしていいのかわからなくて、気恥ずかしくなって、居たたまれなくなってしまうのは。
それでもみんなと居ることを止めないのはやはり、日が浅いとはいえ濃厚な旅を共に乗り越えてきた彼らを、みんなみんな好きで大切にしたい仲間となったから。
(これまで大変な思いを沢山した。でもそれ以上に嬉しくて楽しいんだ。なんて単純な……まあいつものことだけど……)
でも、悪くはない。
足りない脳みそで色々考えていたらやはり恥ずかしくなってきて、それを振り払おうと横なりにベッドに倒れこんだ。いつまで経っても恥ずかしがりは治らない。
ようやく落ち着いてふぅ、と一息ついていると急に部屋の扉が勢い良く開いた。
何事かと見るとぞろぞろと入ってきのは船員である数匹のヌメモン達だった。あれ、ルームサービスを頼んだ覚えはないぞ。
「ヌメモン?どうし――」
「ヌメェーッ!」
「ホアアアアーーーーッ!?」
ヌメモン達は私を見るなりいきなりあのある意味最強と言われる必殺技、ウンチを投げてきた。
さっきまではミミのおかげもあってかみんな優しかったのに急にどうしたんだ!?私ならウンチまみれになってもいいって言うのか!?やっぱり緑は最低ですぞ!
「もしかして……究極ウンチ地獄絵図ですかーッ!?NO!NO!NO……」
「ヌメヌメーッ!」
「YESー!?やめてください死んでしまいます!精神が!」
ヌメモンが突進してくるのをなんとかかわしつつ、急いで部屋を出て狭い通路を走り出す。後ろをチラリと見ると、どうやら部屋に入ってきた数匹のヌメモン達はみんな私を追ってきたらしく、とりあえずは部屋の奥のシャワールームにいる空とミミの存在を隠すことができたようで、逃げながらも器用にほっとする。
そのまま廊下を少し行った所の右手に扉が開いており、私は無我夢中に身を隠そうと部屋へ飛び込んだ。
そこは食堂なのか大きなテーブルに料理が並べられていたが、その脇に見たことのある形の石像に気付く。
ガブモン、テントモン、トコモンの3匹だ。
「あ、アイエエーー!?石!?石ナンデ!?」
「ヌメーッ!」
「ナイトオブファイヤー!」
驚いているとヌメモン達が真後ろに追いつき私を捕えようと飛びかかってきた。
その時、廊下の先からインプモンが走ってきて指先な炎をヌメモン達に投げつける。はじけた炎に驚いたヌメモンはそれだけで急に気を弱くしてすごすごと廊下の奥へ下がっていった。
相変わらず成長期以下の能力らしい。にしても諦め早いなぁ。
そしてインプモンは私の元まで来ると無言で私の顔をはたいた。
「無事か?」
「ブフゥッ!……え?なんで急にぶたれたの私」
「感謝しろ。公然猥褻罪になる前に止めてやってんだ。なんつー格好してんだお前は」
「安心してください。履いてます」
「そういう問題じゃねーんだよ!」
上の服を着る暇もなくヌメモン達から逃げ出して来たので、上半身は包帯で巻かれているだけの状態だった。
ちょっと一昔前の不良というかバンカラみたいでカッコイイかも……トゥンクと思ってしまう位には痛々しい。マサル兄貴曰く、番長を名乗る奴に悪い奴はいねぇんだ!
「いやだって急にヌメモン達が襲ってきて、あそこにはデジモン達が石にされてるし……一体全体なんだってんだい!」
「石?……あ、本当だ」
「軽くない?」
インプモンがちらりと部屋の中を覗く。豪華な掃除の行き届いている室内にこんな不自然に石像が転がっている訳がない。どう考えても私達の仲間が変えられた姿だろう。
またヌメモン達の必殺技はウンチしかなくこんな芸当はヌメモンにはできない。ということは、
「ヌメモン以外に誰かいるのか。厄介だな……」
「多分ね。とにかく、わかるのはこの船は危険だってことだね。みんなを探そう!」
「あっ!アグモンとゴマモンだ!」
「こいつ等もか!」
船内を歩き回っていると、プールのあるデッキに出た。そのプール横にあるパラソルの近くにもアグモンとゴマモンの石像があった。否、いた。
これで男性陣のパートナーデジモン達はみんな石に変えられていることが分かったが、そのパートナーの人間組はどこに行ったんだろうか。
「灯緒、上だ!」
「えっ?」
「その声は……灯緒かぁ……?」
インプモンが船の上部を指差す。
今聞こえた声はもしかして太一の声だろうか。見上げるとそこには宙に網が広げられており、その網の上に大の字で動けないように縛られて捕らえられているみんながいた。
直射日光が全身に当たり、熱さと痛さで呻いている声が聞こえる。いつからああされていたのだろうか、この気候じゃ拷問じゃないか。ヤムチャしやがって!
「なんで皆揃って天日干しにされてるの!?」
「ヌメモンと……コ、コカトリモンっていうデジモンにやられたんだ……多分エテモンの仲間だ……!」
「アイツ……モノを石に変える力があるんだ。それで、みんな……」
なるほど、ヌメモンの他にコカトリモンというデジモンがいるのか。
まだ鉢合わせていないが、石に変えられてしまってはこちらに勝ち目はない。かなりの強敵と見た。
みんなは苦しそうに途切れ途切れに情報を伝えてくれる。要チェックやで!
「石に変えられちゃったって訳だ」
「そう……なんです……」
「僕と太一は……紋章も、盗られちゃって……」
「にゃにーっ!?」
どうやら私達は気づかないうちにかなりの窮地に追いやられているらしい。嘘だろ承太郎。嘘だと言ってよバーニィ!嘘だッ!!
捕まっているみんなの周りにはデジモンの姿はない。今の内にみんなを助け出そう。このまま放っておいたら干物になってしまう。
テムくんヴァンピまで、の悲劇を繰り返してはならない!
「あそこから登れそうだぞ」
「はしごだよ、もっと本質を見ようよインプくん」
「言ってる場合か!」
乗務員用であろう備え付けの梯子を登って網が結ばれている所に向かう。
結び目の縄をインプモンに焼いてもらい、まずは網を床に下ろした。そして網に体を縛り付けている縄をちゃっちゃと解きはじめる。
しかしみんなどこかあらぬ方向を向いている。あぁん?なんで?
「おまたせみんな!……どこ向いてんの?寝違えた?」
「いや灯緒こそどうしたんだそれ?」
「その、目のやり場が……」
「言っとる場合かーーーーッ!」
「だから言ったじゃねーか」
私もこんな格好のままで悪いと思っているが今はそんなことを言っている場合ではない。
確かに背中の傷がグロテスクなことこの上ないが、後で服を取りに行くからそれまで我慢してくれ!
網に括りつけられていた縄を全て解き、インプモンと二人でようやくみんなを屋根の上まで下ろす。そんなに長い時間ではないとはいえ、強い日射しに当てられ全員ふらふらだ。パートナー達も石に変えられてしまった今、みんなはとても戦える状態ではない。
どうするべきか思案していると、船内からまるで鶏のような声が聞こえてきた。
「コカーッコカーッ!」
「今の……コカトリモンの声だよ……!」
ハッとしてタケルがそう教えてくれた。ドタドタと慌ただしく走るような物音も聞こえる。
恐らく残りの私達を探しているか、空やミミ達を追っているのかのどちらかだろう。
みんなは瀕死の状態ではあるが一応こうして助けられたのだ。歩けるくらいには回復できるよう、しばらくは見つからないように物陰に隠れてもらって、私は空とミミ達の所へ合流しよう。
「行くぞ灯緒!」
「テスタメント!みんなはここで待っててね!」
「すまん、頼んだ……!」
「コカーッコカーッコカーッ!」
鶏のようなけたたましい声のする方へ、私とインプモンは船員用の通路をつたいながら追う。
「いたぞ!」
行き止まりのデッキから見下ろすと、荒々しく足音を鳴らすコカトリモンが空とミミ達を船の甲板の先に追い詰めている所だった。もう既に二人を見つけていたが、まだピヨモンもパルモンも無事のようだ。
まだコカトリモンはこちらには気付いていない。上機嫌に鳴きながらタオル一枚姿の空とミミにじりじりと近付いていく。お風呂からそのまはま逃げ出してきたらしく、本当に丸腰である。変態の上に卑怯とはなんて奴!SOS!SOS!ほらほら呼んでいるわ〜今日もまた誰か乙女のピンチ〜!
「追い詰めたがや!」
「待てぇーーーいッ!」
「誰だがや!?」
バッとこちらを振り向いたコカトリモンと目と目が合う〜瞬間好〜きだと〜気づ〜かな〜い。それよりも空とミミ達が私に気付いて嬉しそうな表情を見せたことに私も笑い返す。
さあ、私の大切な仲間達を陥れる悪党の鼻っ柱をへし折ってやろうではないか!
「彩りましょう食卓を、みんなで防ごうつまみ食い!常温保存で愛を包み込むカレーなるメダロッター、怪盗矢吹灯緒ただいま参上!」
「かっ怪盗だがや!?」
ポーズをとりながら、たこ焼きは地球だ!と決め台詞を吐きつつ遥か下のコカトリモンを見下ろした。メダロッターじゃなくて選ばれし子供だろ、とでも言いたげなインプモンの眼差しは>そっとしておこう。
「残念だったな、みんなはとっくに助けさせて貰った!後はお前を打ちのめすだけだ!さあ、かかってこい、棒々鶏!」
「なっなんだぎゃ!?せっかく捕まえたのに、コカーッ!おのれぇ!」
「灯緒ちゃん!インプモン!」
そう告げればコカトリモンは地団駄を踏んで悔しがる。別に形勢は逆転も何もしていないのに啖呵を切っただけで単純だな。だが私より単純明快な奴はいない。
インプモンも颯爽と手すりに登って臨戦態勢だ。それを見て私もデジヴァイスを手に取る。
「初仕事だ、覚悟はいいか?俺はできてる」
「ばか言ってんじゃねぇ、オレだって覚悟くらいとっくに出来てるぜ!」
「気合充分!行くぞ!」
「まかせとけ!」
「ロボトルーーッ!ファイ卜!」
私の声を合図に勢い良く飛び出したインプモンの体が光を帯び、二度目の進化を始める。
進化の光が体を包み込み、炎を纏った姿に変わると全身からゆらゆらと出る熱気と共にコカトリモンの斜め上で止まった。
「インプモン進化!――フレイウィザーモン!」
「翼がないのに飛んでるがや!?」
「テメェと一緒にすんじゃねぇ!ファイヤークラウド!」
「コカーッ!生意気だがや!ペトラファイヤー!」
フレイウィザーモンのマッチ杖から放たれた青い炎と、コカトリモンの目から放出された緑の炎。二つの炎が真正面から激しくぶつかり合う。
だがこちらは正真正銘の炎の魔術師だ。炎天下は最適のコンディションが保たれる。
既に力が目に見える勢いで増幅し、段々とフレイウィザーモンの炎の方が勢いを増していく。
「コカーッ!?」
「おらああああッ!」
そのままフレイウィザーモンな青い炎がコカトリモンを飲み込み、コカトリモンは声を上げながら吹き飛ばされた。見事な圧勝である。すごいぞーかっこいいぞー!
コカトリモンが上空に吹き飛ばされて船の煙突にホールインワンされた。あれだけダメージを負わしたのだ、倒したも同然だろう。
「ありが特大サヨナラホームラン!」
「って何やってんだ!危ねーだろーがっ!」
感極まってフレイウィザーモン目掛けて飛び降りるとフレイウィザーモンが慌てて飛んできてキャッチされた。くっ、どさくさに紛れて抱きつけなかった!
そのままフレイウィザーモンに下の甲板まで降ろしてもらうと、空とミミ達が駆け寄ってくる。
「灯緒!フレイウィザーモン!」
「フレイウィザーモン凄い凄ーい!」
「空ちゃんミミちゃん、大丈夫?」
「うん、平気よ。ありがとう!」
ピヨモンもパルモンもフレイウィザーモンのあまりの活躍ぶりに驚いていた。前回は相手が相手だけにあまり良い見せ場が無かったが、コカトリモン戦で汚名を挽回できたようだ。
私がアイコンタクトを送るとフレイウィザーモンは自慢気に笑い、すぐにインプモンの姿に戻った。もう進化は自由のままのようだ。これが私とインプモンの成長の証と言えるだろう。
それを見守っていた空が私に笑いかけた。
「ほら、やっぱり助けてくれるのは灯緒ちゃんだわ」
「…………そりゃそーよ!レディはガラスのように手厚く扱えって爺ちゃんに言われてんだ!」
「あ、照れてる」
嬉しそうに笑うみんなの笑顔が眩しくて私も今出来る最大限の笑顔で返した。
まだ勝手が分からない部分もあるが、大好きなみんなが望むような私になるように頑張ろう。インプモンにも約束したし、みんなにもそう約束しよう。
未熟な私には不相応なくらいの大切な荷物を沢山背負ってしまったのだ、これを頑張らずにどうする。
そう、既に答えは出ていたのだ。
男性陣が隠れている所に戻ると、既に仲間のデジモン達が石から元の姿に戻っていた。コカトリモンを倒した為にその力が消えたのだ。
全員の無事に喜んでいると、船員のヌメモン達が制服を脱ぎ捨てながら急いで豪華客船から降りていくのに気が付く。リーダーのコカトリモンがやられてしまったのを知ったのだろう。
「ヌメモン達が慌てて逃げていくぞ!」
「この船は危険ですね」
「あたし達も早く脱出しましょう!」
「そうだな!」
急いで持ち物を回収し、私達も豪華客船から脱出する。早く豪華客船から離れようと懸命に走り、再び灼熱のサバンナを行く。
ある程度走って船が見えなくなっていたのでようやくそこで歩きに変えた。
しかし、エテモン本人が襲ってこなくても、こう手下が来られちゃあデジモンに会う度に警戒しなくてはならないな。
「あつぅい……」
――ブォォォーーーー……。
「……あ?」
汗を吹いていると聞き覚えのある音が響いた。嫌な予感がして、見たくないけど仕方なくゆっくりと後ろを振り返る。
すると、あの豪華客船がこちらに向かってきているではないか。それもかなりの猛スピードで、確実に私達を追って来ている。
一瞬唖然とした後、全速力で私達は駆け出した。
「わあああああああああ!!!」
「コカトリモンが蘇ったのか!?」
「そんな馬鹿な!」
「あやつ正気か!?」
だがコカトリモンは吹き飛ばしただけで確実に倒したという姿は見ていないのだ。十中八九奴なのだろう。しまった!
兎にも角にも豪華客船ごと追われては手も足も出ない。無我夢中に走っていると、今度は私達の前方にまたあの巨大サボテンが姿を現した。
「巨大サボテン!?」
「また蜃気楼!?」
「いや、影がある!」
「ということは……」
巨大サボテンは先程のとは違いハッキリと地面に陰がある。
その横を私達が通り抜けようとすると、豪華客船は軌道を変えれずに巨大サボテンに真正面からぶつかる。
そして弾力のあるサボテンは豪華客船をボヨ〜ンと間抜けな音を出しながらはじき飛ばし、その衝撃で豪華客船はバラバラに壊れてゆきやがて空中で大爆発を巻き起こした。
あれでは執念深かった流石のコカトリモンと言えども、ひとたまりも無いだろう。あわれコカトリモン、アーメン。
「ビューティフォー……」
「蜃気楼じゃなかった……!」
「本物の巨大サボテンだ!」
計らずも私達の窮地を救ってくれた巨大サボテンを見上げていると、巨大サボテンの一番天辺にふわりとピンク色の花が咲いた。その花弁の隙間から若草色の光が漏れる。
その光は少し前に見た紋章の光と同じものだった。光から浮かび上がったのは雫のような形の模様が描かれた石盤だ。
「なに!?」
「紋章だ!」
「えっ!?」
雫型の紋章は、あんぐりと口を開けているミミの元にゆっくりと降りてきた。
ミミのタグが呼び寄せられるように服の下からひとりでに出てくると、光がおさまった頃には紋章がタグに納まっていた。
これで集まった紋章は三つ目だ。反応がなくなったタグをミミは手にとってまじまじと見つめる。同時に空が呟いた。
「これがゲンナイさんの言ってたタグと紋章がひかれ合うってことなのね」
「欲しくなかったのに……。あたし、パルモンを正しく育てられるかしら……」
「ミ、ミミ……」
紋章を不安げに見つめるミミに、パルモンは彼女の名前を呟くことしかできなかった。
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