03 「さあ、出番だ兄弟!」暗黒進化!スカルグレイモン
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壁にぶち当たったからと言って、何故前に進むことを止めてしまう。
認めろ、馬鹿であることは悪いことではない。間違える度に思い返せばいい。支えてくれるパートナーを、護りたい仲間達を。
それが、今の私が得た答えだ。
「私にも信じられる仲間がいる。信じる仲間のために私は行くんだ!」
私の手のデジヴァイスから進化の光が溢れ出た。以前とは違う、発火源のような熱を帯びて。
進化の光が燃え盛る炎に姿を変え、その炎の塊から姿を現したのは以前のデビモンでは無かった。
黒く冷たいデビモンとは真反対である、火焔色の魔導着を身に纏った全く姿の違うデジモンがそこにいた。
「インプモン進化!――フレイウィザーモン!」
「……え?ええええええっ!?」
思わず素っ頓狂な声で叫んでしまうほど、喜びより驚きが勝った。てっきりまた進化するとデビモンになると思っていたのだが、何故今回はデビモンではないのだろう。
考えても理由はよく分からないがデビモンの時とは違い、どうやら目の前のフレイウィザーモンは始めからちゃんと正気があるようだ。
フレイウィザーモンはゆっくりと私の前に背中を向けて降り立った。私の背より高い位置にある目を見上げる。
「フレイ、ウィザーモン?」
「ああ。なんだろうな、今物凄く気分がいいんだ」
横目でニヤリと不敵に笑う目の前のデジモンは、まさしく私のパートナーだった。
もう理由なんて野暮なものはどうだっていい。進化してもアイツはアイツだった。それだけで思わず涙が出そうになるくらい、胸が熱くなるのだ。いや、恥ずかしいから出さないが。
「その姿最高にイカしてるよ!さあ、出番だ兄弟!」
「おう!」
意気込み良くフレイウィザーモンはスカルグレイモンの方へ向き直ると、腰のベルトに引っ掛けている2本のマッチ型の杖を両手に構えた。
杖をスカルグレイモンに向けるとその先端に青い炎が渦巻き始める。
「ファイヤークラウド!」
そう叫ぶと、スカルグレイモンを取り囲むように周りに炎の嵐が巻き起こる。
陽炎で混乱し更に炎で視界が悪くなったスカルグレイモンはキョロキョロと頭を忙しなく動かし、ようやく闇雲に振り回す攻撃の手を止めた。
相手は一段階上の進化したデジモンだ、今はこれが精一杯なのだろう。だが、ダメージが入らなくともスカルグレイモンの動きを止めたのは大きい。
「いいぞ!そのまま砂漠へ誘導して!」
「了解した!」
フレイウィザーモンが操る幻の炎の渦に導かれ、スカルグレイモンはコロッセオを派手に破壊しながら砂漠の方へと飛び出した。
少し歩いた所で流石になにかおかしいと気付いたらしく、またスカルグレイモンは闇雲に暴れだす。
有り余る力でそこら中を攻撃し回るスカルグレイモンを押さえきれないのか、フレイウィザーモンは険しい表情でぐっと杖に力を込める。
「っ……大人しくしやがれ!」
「フレイウィザーモン!」
「お前等、今の内だ!」
「行くぞ!」
先程まで奮闘していたデジモン達も加勢にやって来た。
スカルグレイモンが陽炎に目を奪われてこちらが眼中に無い隙だらけの今が攻撃のチャンス。
ありったけの力を振り絞って再びバードラモン、ガルルモン、カブテリモンが一斉攻撃をしようと並び立つ。
「メテオウイング!」
「フォックスファイヤー!」
「メガブラスター!」
「ファイヤークラウド!」
炎と電撃が混ざり合い炎竜となる。
それは激しい音を立てながらスカルグレイモンの背中にまともに当たった。
攻撃自体は正直あまり効いていないようだったが、スカルグレイモンは幻で特定できない攻撃に咆哮した。
すると、再びスカルグレイモンの身体が光りだす。この光は進化の時と同じものだ。一体何が起こっているんだ?
「どうしたんだ!?」
「エネルギーが尽きたんとちゃいまっか!?」
スカルグレイモンの身体が光に包まれながらどんどん小さくなっていく。その光が向こう側の丘で完全に見えなくなった所で太一が急いで走り出した。
他のデジモン達は元の姿に戻ると、私達と一緒に太一に続いてスカルグレイモンが姿を消した方へ砂丘を越える。
すると、そこには見覚えのある小さな影――コロモンの姿があった。
「コロモンに戻ってる……」
力を使い果たしたため、アグモンの姿さえも保てずその前のコロモンにまで退化したのだろう。
太一が急いで坂を滑り降り、コロモンの元へと走りそのぐったりとした体を抱き上げた。
怪我だらけの体で力無いが、元の意識はあるようでそこは安心する。
「……――――」
「大丈夫か!?」
「うん……でも、みんなに酷いことしたみたい……。自分でもどうにも出来なかったんだ……」
「謝らなくていい」
「気にしないで!」
「そうだよ!」
「ワテもよう分かっとるさかい!」
弱々しく口にするコロモンに、デジモン達が駆け寄って励ました。あれは仕方のないことなのだ。コロモン自身なりたくてなった訳でもないし、まさか誰があんな風になると想像できようか。
そんなことよりもコロモンは自分のことを心配すべきなのに、とても優しい子だ。
「みんなの期待に応えられなくてごめんね……」
「違う!お前が悪いんじゃない!悪いのは……」
みんなの言葉を聞いてもなお自分を責めるコロモンに、ヤマトが駆けよる。
考えるより言葉が先に出てしまったのだろう。ヤマトが歯切れ悪く言葉を濁らせていると太一が立ち上がった。
「わかってる、悪いのは俺だ」
「っ!そういうつもりじゃ……」
「いいんだ。そうだよな、空」
「うん……あっいえ!」
突然言葉をふられた空は思わず思ったままを口にしてしまったようだ。手を口元に当てて慌てて訂正するが、太一にはそれで良かったらしい。
頷いてコロモンに目を落としながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「俺、知らず知らず焦ってた。紋章を手に入れてから何か、自分一人だけで戦ってるような、そんな気になってたんだ……」
弱々しい、覇気のない声音だった。太一にはすっかりあの抜身の強い意気は無かった。
自分の行いが全て裏目に出てしまい、挙句にスカルグレイモンへの進化を招いたのだ。あんな恐ろしいことを目の前で見てしまえば、それは至極当然のことだった。
私達は仲間だろうと言ってくれたのは彼自身だったのに、その彼がそれを忘れてしまっていたなんて。
この一連の出来事で目が覚めたのだろう。だから、これで良かったのだ。またいつものように、強く眩しくみんなのリーダーであって欲しい。
そう思いながら立ち尽くす姿を見ていると、太一の胸に光る紋章が太陽の光に反射してチカチカと光った。
それに目を細めて見ていると、ふいに頭を上げた太一た目が合わさる。そして、罰が悪そうに私の方に向きなおると殊更に眉を下げて、
「灯緒……俺、お前のこと、凄く傷つけるようなこと言ったよな……ごめん。本当に。思い上がってたんだ。あんなこと言うつもりじゃなかったって言ったら言い訳だけど……」
「いいよ、そんなこと。そうやってすぐ反省して謝れるのが太一のいい所だよ」
「え?」
謝罪の言葉に私は褒め言葉で返事をする。
叱咤か軽蔑か謙遜か、いずれとも予想していた返事と違ったからか、太一はぱちくりと目を瞬かせる。
人は誰しも間違うのは当たり前。大事なのはそれをただの間違いで放っておくか、それをより良い未来へと繋げるのか、そこで決まるのだ。
そして太一は後者であること。みんなわかっているよ。
全て自分の筋書き通りに事を進められるような万能な人間なんていない。だから人は足りない部分をみんなで補い合って生きている。その思いを忘れなければ、強くなろうとがんばれば人はどんどん強くなるのだ。
「みんないつもの太一が好きだよ。一人で焦っても仕方がないでしょ?答えを探すなら手伝うよ。だから安心して間違ってね。間違った時はみんなで止めるからさ!それが私達、仲間ってヤツだ!ね!」
「ええ」
「その通りだ」
「勿論よ!」
みんなに振れば、一秒も迷うことなく即座に返事が帰ってくる。これが己が大事に想われている何よりの証拠だ。
ほら、こんなにもいい仲間に恵まれているのに蔑ろにするなんてそんなの罰当たりも良い所だ。
「灯緒……悪かったな、みんな。ごめんな……」
ぐらぐらと目を眩ませないくらいの、それでも確かに私達を暖かく照らしてくれる大切な太陽。その光がようやく戻ってきて私達はひどく安心した。
きつくコロモンを抱き締める太陽を、私達はずっと見守っていた。
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