digimon | ナノ

02 「その声は我が友、李徴ではないか!?」暗黒進化!スカルグレイモン

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 ――テレレレッテレー!
 突然陽気なファンファーレが大音量でスピーカーから流れだした。
 一体何事かと音がする方――スクリーンを見上げると、画面に拍手している映像が写り、そして今一番会いたくない奴の声も一緒に聞こえた。


『アッハッハッハッ!アチキってグレイトォ〜?』

「きゃああああっ!でたぁ〜〜〜!」

「その声は我が友、李徴ではないか!?」

『それ虎じゃないの!アチキはエテモンさまだっての〜っ!』


 一番にミミが悲鳴を上げ必死にどこかへ走り出す。みんなも驚いてミミに続いて走り出し、私もまた空に手を引かれ走る。
 その後を今の今まで寝転んで休んでいたアグモンが事態に気付いて追ってくるが、ふらふらとした足取りで追いつくどころか転けてしまう。


「みんな待ってぇ!」

「あっ!アグモン!」

『ゴ〜ル!つーかまえた、つかまえた!』


 縋る声に気付き、太一がアグモンの元へ行こうと足を前に出すその直前、私達の後ろにあったゴールが前向きに倒れてきて行く手を阻む。
 アグモンへの道はネットで遮られ、ゴールは私達を閉じ込める檻と化した。
 始めからこういう風に使うよう設置されていたのか。くそ、相手の方が0.5枚上手だとは!
 あっはっは!とエテモンの脳天気な声がスピーカーを通してわんわんと鳴り響く。


「罠だったのか……!」

「これで捕まえて閉じ込めたつもりかあああいたたたたたあ!」

『あらあ、そんなコトするとケガするわよぉん!何故って、そのネットには高圧電流が流れてるんだからあ〜』


 それは早く言って欲しかった。
 エテモンの忠告は一足遅く、テントモンはブスブスと黒い煙を出しながら地面に落ちた。
 エテモンは私達を見つけられて気分がいいのか、聞いてもないのに饒舌にペラペラと喋り倒す。


『本当はアチキが直接お相手してあげたいトコだけど生憎今は遠い所にいるの。ほら、スターって忙しい商売だからぁ!でも!心配しないでネ、代わりにスペシャルゲストに登場してもらうから!だれだと思う〜?』

「知るかそんなこと!」

『きっと驚くわよ〜ん!イェイイェイイェ〜イ!』


 まあよく喋る喋る。スターなら他所でライブツアーにでも勤しんでくれていたらいいのになぁ。
 だがエテモンが言うには彼はこの近くにはいないらしい。それはそれで直接対決ではなくて安心した。まだエテモンの進化を封じられる技の打開策など全くないのだから。
 エテモンは楽しそうに言うと、スペシャルゲストとやらはモニターの下から姿を現す。それはとてもよく見るあのデジモンだ。


「グ、グレイモン!?」

『驚いてくれたようね!ン〜なんて心にクるのアチキの演出!さ、始めるわよ!イッツショーターイム!』


 敵の首輪をしたグレイモンは、向かいのゴールを踏みつけながら己を鼓舞するようにけたたましく咆哮する。
 首輪をつけているということは、強いられているのか操られているのか。どちらにせよ私達に対してやる気満々、といったところだ。
 今は一人ゴールの檻の外にいるアグモンしか戦えるデジモンはいない。必然的にグレイモンのミラーマッチとなる。


「アグモン、進化だ!」

「アグモン進化!――グレイモン!」


 太一がそう言い、すぐにアグモンはグレイモンに進化すると、敵のグレイモンと対峙する。
 正面からの取っ組み合いだ。お互い頭突きをし、腕を組みながら押し合う。更に両手が塞がっている代わりに尻尾を打ち付けて武器にする。


「頑張れ!グレイモン!」

「偽物なんかに負けないで!」

「負けるなーっ押し切れーっ!」


 しかし私達の声援も虚しく、その直後こちらのグレイモンは敵のタックルでその巨体を吹っ飛ばされる。
 そのまま真後ろへ、私達が閉じ込められているゴールにグレイモンは背中から叩きつけられるようにふまち当たり、ネットの電流がバチバチと激しい音をたててグレイモンの体を蹂躙する。
 焦げたような臭いと煙を上げながら、グレイモンは思いっきり前にのめり込んで倒れてしまう。


「進化するんだグレイモン!」

「このままだとまずいですよ!」

「ホンマ、進化せんとやられまっせ!」


 グレイモンは力を振り絞って再び立ち上がり、今度はこちらからタックルをするもまだまだ力が有り余っている敵のグレイモンには軽く受け流される。そこまま勢い余って地面に倒れてしまったグレイモンの頭を、敵のグレイモンのその巨体を支える逞しい足で踏み潰されてしまう。
 先程から相手の流れに乗せられてしまい、こちらが押されっぱなしだ。こんなに弄ばれるようにされてしまえば、このままだと勝機の見込みさえ危うい。


「進化だ!グレイモン進化しろ!」

「駄目ですよ太一さん、紋章が何の反応も示していない!」

「進化は無理なんだ!」

「無理なもんか!グレイモン、お前ならできる!進化できる自分の力を信じるんだ!」


 グレイモンの背中に太一が大声で叫ぶ。
 それに必死に応えるように、グレイモンは倒れたまま力を振り絞りその太い鞭のような尻尾で敵を打ちつけて反撃に成功する。
 よろめいて上から退いた隙に、ようやく踏みつけから解放されたグレイモンは立ち上がると、相手に向かってその大きな口を開く。
 こちらに流れが乗ってきたことに、太一は腕を振り上げて声援を送る。しかし、


「いいぞグレイモン!メガフレイムだ!」

「ゲ〜〜〜ッ」

「ダメじゃない、こんな時にゲップなんかしちゃあ!」

「それより動きがいつもより鈍く見えないか?」

「そうか、食べ過ぎて体が重いんですよ」

「ホンマや!あてててて!」

「あんさんはさっきから何してはるんですか」


 またネットに触れて悲鳴を上げるテントモンは置いておいて、炎の塊ではなく大きなゲップが出てしまったことでみんながグレイモンの状況を確信した。
 どうしてグレイモン同士でこちらばかりが押されているのか、単純に敵が強くこちらが弱いわけではない。
 それは先程の食事でアグモンは無理矢理に食べ過ぎたことが原因で本来の力が出せずにいるのだ。
 やはりというか、太一の行動が裏目に出てしまった。ここで悔やんでいても仕方がないが、思わず太一を見てしまう。肝心の太一は焦りを見せるものの、グレイモンが勝つと、進化すると信じきっているようで一時もグレイモンから目を離さない。
 そうこう言っているうちにグレイモンは敵のグレイモンに尻尾を掴まれぐるぐるとジャイアントスイングをされてしまう。そのまま勢いをそのままに投げられ、グレイモンは客席の間の塀に頭から突っ込んだ。
 結局、グレイモンは全く反撃も出来ずに敵にされるがままになってしまっている。このまま先頭を続けていても、分が悪いこちらは常に一方的に叩かれ、最後はやられてしまうだろう。


「グ、グレイモン!」

『意外と早くケリがつきそうね!あ〜っはっはっは!』

「危ない!マーチングフィッシーズ!」


 再び敵が攻撃をくり出そうとした時、ゴマモンが叫ぶ。すると何故か客席の上の端に施されているコロッセオの彫刻の口から魚達が飛び出す。
 魚達は一瞬どこかに行き戻ってくるとどこからか手に入れた花火を口に咥え、敵のグレイモンに花火を振りかざして邪魔をする。
 なんとかグレイモンの窮地を救ったが、今の一連の流れは色々突っ込みたい所がある。つまりどういうことだってばよ!


「なんであんなとこから魚が出るんだよ!」

「えっと……んなこと言われたってオイラ難しいことわっかんないよ〜」

「多分あれですよ、異次元空間の切れ目があそこにあるんです」

「だってさ」

「そっか」


 そうか、空間の切れ目なら仕方ないな。うん。
 魚達は花火を敵のグレイモンの足下に置いて逃げていった。まだ火がついてパチパチ言っている花火に敵のグレイモンが慌てて足をバタバタとさせていて気を取られている。
 予期せずナイスな働きをしてくれた彫刻の口へ戻っていく魚達に空が律儀にお礼を言う。


「ありがとーお魚さーん!今のうちにここから逃げましょ!」

「四方と上を塞がれてりゃ残る道は……下だ!」

「ですね。穴を掘るのはどうです?」

「それだ!」


 幸いにも床はタイルだ。光子郎、ヤマト、タケルが床の石板をひっペ返し、それにみんなも続いて下の地面を探る。
 石板の下には隙間にケーブルが張り巡らされており、真ん中にがっしりとした岩が塞いでいた。


「ここにも黒いケーブルが……」

「アカン、この岩が邪魔やわ」


 岩には何か不思議な模様が描かれている。どこかで似たようなものを最近見た気がする。
 そう思えば丈のタグが再び反応を示した。
 そうか、こんな隠されるように普通見えない所にあったらそりゃ普通に探しても見つからない訳だ。


「は、反応してる!まさかこの岩が紋章?」

「きっとそうだよ!」

「まさか、この岩が本当に紋章なら……!」


 丈がごくりと息を飲んだ。
 私達の後ろでは依然グレイモンが相手に押されている。ぐずぐずしていると本当にグレイモンを助けられない。意を決して丈はタグを首から外して模様の上に置くと、途端にタグと模様が綺麗な水色に光り出した。
 その光に目が眩んで手を目に当てていると、急に地浮遊感を感じた。ボッシュートです!


「うわああああああああああ〜〜〜っ!!!!」


 私達が乗っていた岩は綺麗さっぱり消え、足場がなくなったため飛べるテントモン以外の全員がそのまま落下した。
 下はそこそこ深い穴になっており、みんな落ちて重なり合う。うう、落ちて痛いし背中が圧迫されて痛いーッ!我慢だ、我慢……!
 だが一番下になっている丈は痛みよりも嬉しさに声を弾ませた。念願の紋章を手に入れたぞ!


「やった!僕の紋章だ!」

「あっトンネルや!ここから出られまっせ!」


 落ちた穴に更に横穴を発見し、そこから地下の通路を通り私達は元居たグランドへ戻ることが出来た。
 すると地上への階段を上がったそのすぐ側の壁へこちらのグレイモンが飛ばされる。依然グレイモンは一方的にやられていた。
 太一はタグを握りしめると、私の横を走って通り過ぎこちらとグランドを隔てる塀に登る。


「た、太一くん!」

「グレイモーンッ!」

「待って!」


太一がグレイモンの元へ行こうと塀から飛び降りようとした所で、急いで空が止に入る。
 激しい戦いが行われている今、グレイモンの近くは安全ではない。むしろ邪魔になってしまうのではないか。何にせよ行った所でどうにもならないだろう。
 だが太一は聞く耳を持たない。


「止めるな!グレイモンを進化させるチャンスなんだ!頼むから邪魔しないでくれよ!」

「でも紋章に何の反応もないし進化なんて無理だわ!」

「絶対進化する。いや、させてみせる!」


 そう拳を握りしめ立ち上がった太一の顔は、これまでになく険しかった。
 そのまま後ろを振り返らず一目散にグレイモンの元へ走り出す。同時に、その時地上に上がってきたヤマトが走っていく太一の姿を見てぎょっとする。そのすぐ後ろにいた光子郎がすぐさま太一の思惑に気が付く。
 私に言われたくないかもしれないが、なんて無茶をするんだ!


「何する気だあいつ!」

「進化のもうひとつの条件は、パートナーが危なくなった時……まさか太一さん!」

『そろそろトドメよ〜!メガフレイムでケリをおつけ!』

「やめろぉーッ!」


 エテモンが楽しそうに相手のグレイモンに命令をする。それを止めこちらに気が付かせる為に太一は石を投げ、その石は敵のグレイモンの頬に当たった。
 既に必殺技を構えていた敵のグレイモンは、石の衝撃でメガフレイムを的外れの方向へ飛ばしてしまった。


「お前なんか怖くないぞ!さあ、俺にかかってこい!」

『んまあ、カッコつけちゃって!いいわ、お望み通りアンタからやっつけてあげるワ!』


 太一に不意をつかれた敵のグレイモンは状況を把握したようでゆっくりと向き直る。
 自分を睨む太一を見つけ標的に定めたようだ。本当にこのままでは太一の身が危険すぎる。そうまでして進化したとして、本当に良いんだろうか?


「ピヨモン!太一を助けて!」

「うん!」

「お前もだ、ガブモン!」

「分かった!」


 これ以上は駄目だと、空とヤマトの2人がパートナーに太一を助けるよう頼んだ。
 2匹は颯爽と太一とグレイモンの元へ飛び出す。


「ピヨモン進化!――バードラモン!」

「ガブモン進化!――ガルルモン!」

「グレイモン!俺はお前を信じてる!」


 進化した2匹が助けに来てもそれも返り見ず、太一は立ち上がるとグレイモンに声をかけ続ける。
 ただただ必死に叫び続けた。


「進化するんだ、グレイモンッ!!!」


 その太一の必死の叫びが届いたように、太一のタグとデジヴァイスが光を溢れさせた。
 しかし、その光は徐々に暗い闇色へ変わっていく。
 同時にグレイモンの身体も光に包まれ進化が始まったが、いつもの光り輝く聖なる光ではなかった。
 そのゾクリと全身が震えるような冷たい光は依然私が見たものと酷似していた。
 あれは、インプモンがデビモンに進化した時と同じものだ。


「あれは……」

「……?」


 太一も進化に期待を膨らませた表情で見守っていたが、そのいつもと違う様子に気付く。
 禍々しい闇の炎の光に包まれ、その中からゆっくりと、グレイモンが更に進化した姿を現した。
 それは、全身が骨で出来た悍ましい巨竜の姿。


「こ、これは……?」

「どうなってるんだ?」

「嘘やろ、あれスカルグレイモンやないか!」

「スカルグレイモン!?」

「大変だ!間違ってとんでもないものに進化しちゃったみたいだ!」


 全員が息を飲んで震え上がらせるような無機質な唸り声を上げる白骨の竜――スカルグレイモンを見つめる。その作り物のような青い目は、何も写していない。
 想像していなかった程の恐ろしい変貌を遂げたパートナーを、太一は呆然と見上げるだけだった。

 カカカカ、と不気味な声を洩らすスカルグレイモンを見るなり、何かを察したらしい敵のグレイモンは何ふり構わず逃げ出した。
 逃げ惑うグレイモンを見ていたスカルグレイモンはおもちゃで遊ぶ赤子のように手で軽々と弾き、吹き飛ばされたグレイモンはエテモンが映っているモニターに叩きつけられ、大の字で画面に張り付けられる。その衝撃で画面が割れて映像が消え、モニターの電気が漏れバチバチと音を立てグレイモンを痺れさせる。
 そこにつかさずスカルグレイモンは背中の巨大なミサイルを爆音と共に発射する。
 ミサイルは正確に狙いのグレイモンに当たると、凄まじい破壊音と砂煙が巻き起こり、地震と錯覚するような衝撃が辺りを揺らす。
 煙が無くなってから見えたのは、グレイモンとモニター諸共跡形もなく消えたぽっかりと壁に空いてる穴だけだった。敵がどこに行ったのか、考えるまでもない。
 文字通り、スカルグレイモンは圧倒的な破壊力を持っている。


「…………」

「スカルグレイモン!お前本当にグレイモンの進化した奴だよな!?」


 問答無用で、敵とはいえグレイモンを一瞬にして亡きものとしたパートナーに、太一がどこか縋るような思いを含めて疑問を投げかける。
 しかし、スカルグレイモンはギロリとその感情のない目を太一に向けるだけだった。もちろん、返事も何もない。
 同じだ。自分のあの時と同じように感情をコントロール出来ず暴走しているんだ。直感でそう思う。


「逃げろ太一!」


 今はもう逃げるしかない。あんなに力を持て余しているような相手にできることなどない。
 混乱して立ち尽くしている太一にヤマトが叫ぶ。太一を守ろうとガルルモンとバードラモンがスカルグレイモンに向かっていくが、ガルルモンは手で弾かれバードラモンはその骨の尻尾で叩かれ地面に落ちた。
 まるで纏う虫を払うように、いとも簡単に伸されてしまう。それほどまでに力の差が歴然としている。


「駄目だ、強過ぎる……!」

「ワテも加勢しまっせ!」

「頼むぞテントモン!」

「テントモン進化!――カブテリモン!」


 察したテントモンが飛び出し、颯爽と進化しカブテリモンになるとスカルグレイモンへ突進する。新手に気付いたスカルグレイモンはまたその感情のない目でカブテリモンを見据える。否、睨む。
 たったそれだけだが、その一瞬でカブテリモンは相手の力を感じ取った。


「……こらあかん!」


 思わずくるりと来た道を引き返すカブテリモンをスカルグレイモンはすぐに追う。見るもの全てを破壊し尽くす勢いだ。
 ドタバタと激しく大地を揺らして動き回るスカルグレイモンは、手当り次第で掴んだゴールをまさか奮闘するデジモン達ではなく、離れて見守る私達がいる客席の方へと投げつけた。
 私達は思わず悲鳴を上げて、驚きつつも横へ走って間一髪で避ける。生きた心地がしなかったが、なんとか全員無事だ。あんな物に潰されてしまったら確実に死んでしまう。
 つまりスカルグレイモンは回りにいるもの全てを殺しに来ている、ということに戦慄する。


「メテオウイング!」

「フォックスファイヤー!」

「メガブラスター!」


 一斉攻撃を仕掛けるも、全ての攻撃がまともに当たった筈なのにスカルグレイモンは傷一つ無く微動だにしない。少しでも動きを止めることさえできない。
 こんなにも力の差があるなんて、これ以上どうしようもないじゃないか。
 みんなが愕然としていると、またデジモン達はスカルグレイモンの手で払いのけられ四方に吹き飛ばされた。

 しかし元はアグモンという大事な仲間なんだ。本気で戦う訳にはいかない。
 だが相手の力が強大すぎる。かすり傷さえ負わない。
 なら逃げるのか、それでアグモンが助かる保証があるわけじゃない。
 どうするんだ、どうすれば最善だ?

 ただただその様子を静観していると、もう我慢の限界だと言うように痺れを切らしたインプモンが塀に立つ。


「インプモン!?」

「何突っ立ってんだ、灯緒!行くぞ!」


 行くってまさか、あのスカルグレイモンを止めに?
 無理だ無謀だ、止めろと言う前にインプモンを止めようと伸ばした手が止まった。

 逆だ。
 そんな馬鹿みたいな言葉、いつも誰が言っていた?


「…………私は」


 間違って落ち込んで考えこんで、それでも頭が良くないから次に活かせなくてまた落ち込んで、全部自分が悪いのだと思い込む。
 出来なくて持っていなくて馬鹿なことは決して悪いことではないのに。
 間違えることは誰にだってあるのに。
 そう落ち込んでいる暇があるなら、より良い未来へと突き進む。

 それが私の考える"正しさ"だったはずだろう?


「何が馬鹿だ何が役立たずだ、それでいいじゃねーか!そんなヤツが本当に何もできないか見せてやろうぜ!」


 インプモンが強い意志を抱いた目をこちらに向ける。

 皮肉を言いながらも、いつも前ばかり見て私の覚束ない足元を支えてくれた。
 いつも私の強がりを、粋がりを支えてくれた。
 自分のしていた、唯一の甘えだった。

 もう誤魔化すのはやめにしよう。目をそらしている場合じゃない。
 そうしている間にも私の中の何かが傷ついていることは分かっている。
 また、ただ痛い目をみるだけだ。
 そんなものあってなるものか。私達が転げ落ちた時じゃ遅すぎるんだ!私の終わりは私が決めるんだ!


「アイツとやり合っても勝てる気はしねぇけど、俺が止めずに誰が止めるんだ!オレの知ってるヤツならそう言うぜ」


 弱い私をいつも信じていた。
 なら、私も信じないでどうする!
 千載一遇で拾ったチャンス、生かすも殺すも腕次第!

 迷いを認めてしまえば、確かに私の中の何かを軽くした。

 どうすべきか、ではなく、どうしたいか。

 それだけだ!


「ああ!征こう!」



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