01 「困った時こそ笑えってやつさ!」暗黒進化!スカルグレイモン
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照らし続ける太陽は、果たして良いものなのだろうか。
「どこまで歩くのー……?」
「エテモンが、追ってこない所まで!」
「そんなトコあるのー……?」
滝のように流れ落ちる汗を拭いながら、ミミはみんなに問いかけた。
コロモン達と別れ、紋章のあった洞窟から宛もなく歩き始めて数時間。
緑が生い茂る山々を越えると、一面に広がっていたのは広大な砂漠であった。日を避けれそうな陰などあるわけも無く、肌を刺すような強い陽射しを浴びながら重い足取りで私達は進む。
「あることを願ってるよ……こんな所でエテモンに襲われちゃあ逃げ場所はないからな」
「だからこそ今は前進あるのみよ!」
「なんだなんだ!」
ミミの言葉にヤマトが答える。ヤマトの言うことは最もだ。逃げ場どころか遮る物のない平坦な地は、こちらに圧倒的に不利である地形。
私の手を引いてくれるミミに笑いかけると、今までの話を聞いていたらしい先頭を歩いている太一が振り返る。
一人先に紋章を手に入れたからか、太一だけは洞窟を抜けたあたりから妙に強気で意気込んでいる。弱気になっていても今の状況が一変する訳でもないし、もしかすると今はその位の心持ちが丁度良いのかもしれない。
「しっかりしろよみんな!俺達にだって紋章があるじゃないか!」
「そうだけど、紋章で本当に進化できるのか?」
「できるさ!なあアグモン!」
「うーん……」
「シャキっとしろよシャキっと!」
その自信はどこからくるのか。太一は元気良くそう意気込み、相棒のアグモンを見る。
だがそんな太一とは反対にアグモンは不安そうな表情でハッキリとした返事はなかった。
それに太一が背中を叩きながら喝を入れる。シャキッとコーンかな?黄色いだけに?
「今んトコもう一段進化できるのはお前しかいないんだから!お前が先頭に立って頑張ってくれなくっちゃ!」
「うぅーん……」
「頼りにしてまっせ〜」
「ところで、どうやったら次の進化ができるかだけど」
自信無さげにしているアグモンをそのままに、太一は話題を変え立ち止まってみんなに問いかける。
それに光子郎が丁寧に考察を並べ始める。流石参謀、圧倒的ではないか我が軍は!
「それはこれまでの進化でわかってるのは進化には大量のエネルギーを消費していることですね。つまり、ハラペコの状態だと進化できませんでした。それとパートナーが危険になった時です」
「なるほど。しかしそのエネルギーってのももう一つ上に進化するんだからな。相当なエネルギーがいるんだろう、な!」
「うぅ!」
にやっとやんちゃに笑いかける太一に、アグモンは嫌な予感を感じ取ったのか暑さとは違う汗を流す。
と、その時背中の突然の痛みに思わず声が出てしまう。
「いッ……〜〜っ!」
「だ、大丈夫!?灯緒ちゃん」
「あ……うん、汗が傷に沁みただけだよ、平気平気!」
急に鋭い痛みが背中の傷を走った。
この暑さで止めどなく流れる汗が傷口を押えているガーゼを濡らしている為だ。だがこの灼熱の地ではどうしようもないし、それよりも先を急ぐのが先決だ。
それでも一度思わず声を上げてしまえば、優しいみんなは心配そうに私を見つめてくる。
私が平気だと手を振って言っても、それを空元気だと分かってしまうらしく、私の手を引いていたミミがみんなに提案した。
先程の愚痴のような声音ではなく、心から心配そうに。
「ねぇ、少しでいいから休憩しましょ……」
「あ!待てよ……」
途端、ミミの声を遮るように太一が声を上げた。
何事かと太一を見るみんなを放っておいて、太一は単眼鏡を取り出しとある一点をジッと探る。すると、太一はパッと嬉しそうに表情を変えるとみんなに投げかけた。
「あそこにオアシスがあるぞ!」
「本当!?」
「丁度良かったじゃないか、あそこで一旦休もう!」
少し先の丘を越えた所に、小さなオアシスを見つけたらしい。
みんなも嬉しそうに声を上げ、久しく先輩らしく丈が提案した。きっかけが私とはいえ、全員疲れていたのだ。この歩くだけで体力を消耗する砂漠地帯ではオアシスは大変に貴重な場所だ。またいつこういった場所を見つけられるか分からない。
ここはありがたくオアシスに立ち寄ろう。
それほど大きくない泉だったが、私達が骨を休めるには十分のオアシスだった。側にはヤシの木のような大きな葉の植物が生えており、日陰にも恵まれた。
ようやくオアシスに辿り着くと、私は早速空に応急手当てセットを借りて傷口を洗うことにした。ガーゼ等もまるっと交換しなければなるまい。またすぐ汗で濡れてしまうだろうけど。
その際、空が処置を手伝うと名乗り出てくれたが、丁重に断って道具だけを借りた。
毎度毎度私に気を遣わせてしまうのは忍びないし、なにより傷を見るたびに痛ましげに表情を歪ませることを知っている。一度見てしまえばそんな表情なんてさせたくないと思ってしまうのが私だ。
そういうわけで私が一人で水辺で処置をしている間に、他のみんなは今のうちに休憩がてら食事をとることにしたようだ。
しかし、
「もう食えないよぉ〜……!」
「駄目だ食えったら食え!」
「もごっ!」
「弱音を吐くな!」
「だってぇ……」
私が戻ってくると、嫌がるアグモンの大きな口に太一がぐいぐいと無理矢理食べ物を押し込んでいる所だった。既にアグモンは大量に物を食べたらしくお腹がパンパンに膨らんでいる。あの様子だとお腹にはもう入らないだろう。
そして次に目に入るのは太一とアグモンの間にはどっさりと山積みになっている木の実などの食料だ。
少しいない間に一体何があったんだ。逆兵糧攻め?
「あら灯緒ちゃん、終わったのね」
「うん。空ちゃん道具ありがとね。んで、これは何事?」
「見ての通りだよ……進化する為のエネルギーを作るからってさ……」
「はあ」
空に応急手当てセットを返し、念の為尋ねてみるが見たものそのままらしい。
答えた丈も寂しく音を鳴らすお腹を押さえながらすっかりしょぼくれている。他のみんなも同じように太一を遠巻きに見ていた。
そんな私達など知らない太一はアグモンに言い聞かせるため、遠巻きに見ている他のみんなに向かって同意するよう言葉を投げた。
「いいか!みんなが貴重な食べ物をお前にくれたのは、お前の進化に期待してるからだ!そうだよなあ、みんな!」
「ああ……」
「食べ物をあげたというよりは取られたというか……」
「でもオレ達じゃ上の進化はできないし……」
「働かざる者食うべからずか……」
「んなアホな〜」
太一の投げかけにはみんな程遠い思いのようだ。全員恨めしそうにその様子を見ている。
ぐうう、と空腹を訴えるお腹の音を鳴らしても今の太一には聞こえないようだ。それは耳に入らず、投げかけの答えが聞こえなかったからか太一はもう一度強く問いかけた。
「ええ!?なんだ!?聞こえないよ!そうなんだろ!?」
「そうで〜す」
「な!だから俺とお前で頑張んなきゃならないんだ!みんなを守ってやらなくちゃ!」
仕方なしにみんなが声を合わせて同意すると、それを聞いて満足した太一は真剣な顔をアグモンに向けた。
パートナーの真剣な瞳を真正面で見たアグモンの方も、それに応えようと頑張って口に木の実を放りこむ。それだけ見るととても健気なのだが、とても見てはいられない様子に他のデジモン達も心配そうにアグモンを見ている。
「アタシ達足手まといなのね」
「それにしてもアグモンかわいそ〜」
「そうね、あれじゃアグモンを追い詰めてるようなもんだわ」
「ほら、どんどん食え!」
そう言っている間にも太一はアグモンの口に食べ物を放りこむ。
アグモンが丁度良いと言うくらいがベストだろうにそんな食べさせてどうするんだ。本当に、いくら私が付き合いが浅いからと言って、いつもの太一だったならこんなこと絶対しないであろうことぐらいわかる。
反対に付き合いの長いらしい空も光子郎もそんな太一を見て違和感を感じているようだ。
「太一さんってクラブの時とか僕達後輩に優しかったんですけどね」
「そういえばサッカー部でも……。太一って一人で突っ走るタイプに見えるけど、あれで結構周りの状況を冷静に見てるんだ……」
「はい……」
「それが今は……」
空がなにか思い出したようにどこか遠くを見つめながら呟く。
特にサッカーなんて大人数の競技は殊更チームプレイが重要なものだ。それをしているなら、こんなチームの和を乱すようなことは良くないと分かるようなものなのに。
空と光子郎が話す間も太一はどんどんアグモンの口に食べ物を突っ込んでいく。
「俺達しかいないんだ!だから頑張れ!どんどん食え!」
「……もうダメ……」
太一の思いに応えようと必死に頑張っていたが、アグモンはお腹を押さえてとうとうひっくり返ってしまった。
守りたいものがあると必死になるのは立派なことだ。だが、その守る対象を蔑ろにしているということを、前しか見ていない太一は気づいていないのだ。
今私達全員がするべきこと、それは十分に休んで食べ物を食べて体力を回復しておかなければならない、ということだ。
でなければ最悪の場合この炎天下で倒れてしまうかもしれないというのに。
「紋章を手に入れてからの太一、なんだか人が変わっちゃったみたい……」
そんな空の不安げな眼差しも、太一は全く気付かない。
いつまでもこの調子でいられたらこちらもたまったものではない。今の状況に早く気付いて元のいつもの太一に戻って欲しいものだ。
そんなことを考えつつみんなと同じように遠巻きにその様子を見ていると、そこでずっと何も言わずに隣にいたインプモンが徐に立ち上がり太一とアグモンに近づいて行った。なんだ珍しい。
「どうしたんだ?」
「もういいだろ。食いきれねぇならこっちに寄越せよ」
「うん、あげるよ……お願い食べて〜……」
「アグモン!おいインプモン、余計なこと言うなよ!」
インプモンがアグモンに近付き事短くそう言うと、アグモンは倒れながら弱々しく返事をした。
しかし、それを聞き捨てならないと太一が立ち上がる。その勢いに離れた位置にいる私達は少なからず驚いたが、今の強気な太一に怯まずにいるインプモンに少し驚いた。
「全員腹減ってんだ。怪我人もいる。いいから寄越せってんだよ!」
「何言って……」
「まーまー!アグモンがいいって言ってるんだからいいじゃないの〜!それっ」
「わわっ!」
「灯緒?」
珍しくも折角インプモンがみんなが言えずにいた言いたいことをどストレートに代弁してくれたのだ。きっとインプモンなりにみんなを心配してくれた。
そして、自惚れでなければ私のことも。
なら、これに続かないでどうする。
私もへらへらと笑いながら太一達に近付き、食料の山の一部となっている木の実をそれぞれみんながいる方へぽーん、と軽く投げる。
全員まさか食べ物を投げるとは思わなかったのか、ぽかんとした表情で自分の元へ投げられたものを慌ててキャッチする。
「なにしてんだよ、灯緒!」
「いいじゃないの、腹が減っては戦はできぬってことよ!みんな疲れてるんだしさ、ちょっとくらい……」
「今はそうじゃないだろ!アグモンの為なんだよ!」
「ろくな判断力も持たねぇ奴の言葉なんて聞く必要ねぇよ!」
「なっ、なんだとぉ!?」
「待てってインプモン、言い方ってもんが……――わっ!」
インプモンの乱暴な言葉にカチンときたのか、太一は思わず私に掴みかかってきた。突然のことで反応も出来ずにそのまま強く肩を掴まれ、その振動でズキリと傷が痛み出し顔を顰める。
思わずその場に手をついて耐えようとしていると、上から降りてきたのは今の私にとって酷く重くのしかかる言葉。
「――っ……」
「ほらみろ!怪我なんかしてて、一番役に立たないのはお前等だろ!」
――役に立たない。
そうだ。一番迷惑かけているのは私じゃないか。
一人で勝手に怪我をして、進化だって遅かった上にデビモンになった。
今までだって私がなにかみんなに役に立ったようなことってあったっけ?
そんな私が、どの面下げてなにを偉そうに口出せる。
ぽたりと汗が地面に落ちた。
「灯緒……ってめえ!もがっ」
「ごめんよ太一くん!いやいや、全くその通りだったわー、灯緒一生の不覚!あはは、は」
上手く笑えただろうか。
ここで逆上なり何なりしてもただの遠吠えだ、これ以上情けないところを晒したくはない。
私が無謀に怪我を負ったことが原因の一つなのだ。良かれと思って偽善に突っ走り、独り善がりの結果がこれだ。
ひどく自分が惨めに思えた。
表情には出さないようにしたつもりでも、私を見たインプモンは察したらしい。
バッと振り向いたインプモンが太一に掴みかかろうとするのを慌てて口を塞いで止める。太一の方も、言いたいことは言ったとでもいうようにアグモンに向き直って再び強要をする。
私なんかでは役立たずで役不足だった。それだけだ。
遠巻きに見ているみんなの視線が私の背中に突き刺さっているのに気付く。私のことよりもせっかく少しだけど木の実を渡したのだ、早く食べ物を食べて良いのに。いや、こんな雰囲気では食べられないか。
つくづく役立たずだ。申し訳なさに無意識に唇を咬む。
「…………あ?なんだぁ?」
この場の沈黙を破ったのは、いつものトーンでの丈の声だった。
振り返ってみると、丈がタグを服の下から出して見てみる所でしかもタグがチカチカと光っている。
「おいみんな!僕のタグが!」
「何かに反応してる!」
「近くに紋章があるんですよ!」
「えっ本当か!」
丈が驚いて立ち上がり叫ぶと、それを聞いた太一が急いで単眼鏡を取り出して覗く。
太一はキョロキョロと辺りを見回すと、とある方向で止まった。
「あっ!何かあるぞ!建物みたいだ、大きいぞ!」
「きっとあそこに紋章があるんだっどおおおうわあああ!」
丈が走り出したと思えば言葉の途中で変な悲鳴に変わった。下り坂で何かに躓いて転んだらしい。
なんだろうとゴマモンが丈の足元を探ると、なにやら黒い紐状のものが砂の中から出てきた。こんな広大な砂漠になんでそんなものが埋まってるんだ?
「なんだよぉ……?」
「なんでこんな所にケーブルが?」
よく分からないが、考えていても仕方がない。
とにかく私達一行はオアシスを後にしてその建物へと早足に歩き出した。
太一が言っていた建物に辿り着くと、その建物は私達の世界で見たことものある形をしていた。
もちろん見たことがあると言ってもそれは写真やメディアからの情報であり、実際に生で見たことがあるわけではないが、それはあの有名な世界遺産――円形闘技場と瓜二つだと気付く。
目の前に鎮座するその姿はとても立派で神秘的な佇まいだが、何故こんな砂漠のど真ん中に建っているんだろう。
「うわあ、ローマ時代のコロッセオみたいだ!」
「それってなんですの?」
「昔の競技場だよ」
丈のタグはこのコロッセオの中に反応しているらしい。紋章があるなら、と警戒を怠らず中へ入ってみることにした。
ホールを通り広々としたグランドに出ると、そこにはサッカーゴールが設置してある。石造りではあるが、節々に妙に近代的なところが見られる。
「オーロラビジョンもある!」
「ゴールがある、サッカー場よ!」
「さあ、手分けして紋章を探そうぜ!」
「はあああ……」
まさかこんな所でサッカーが出来るようになっているとは思わなかった。無駄に立派な設備に思わず嬉しくなってみんなもせわしなく見回す。
そんなことよりもと言うように太一がさあ探そう、と一歩踏み出そうとした横でアグモンが深い溜め息をついた。
「どうした?」
「もう動けない……ちょっと休ませて……」
明らかに先程の食べ物の食べ過ぎが原因だろう。
アグモンは苦しそうにぽっこりと膨れたお腹を抱えて、ごろんとその場に寝転んでしまった。
それを見ていた太一はそれが許せないようでアグモンに叱咤する。だが、アグモンも余程苦しいのか太一の声を聞いてもそこから動かない。
「なんだよ、しっかりしろよ!」
「ごめん〜……」
「休ませてやれよ!」
「え?」
アグモンを叱りつける太一を見かねた丈が止めに入った。流石にただ静観しているには可哀想になったのだろうか。先輩が先輩してる……!
丈は反応を見せるタグを手にしながら太一やみんなに言う。
「手掛かりはこのタグだけだし、僕とゴマモンで探すからみんなは休んでて!特に灯緒君はね!」
「えっう、うん」
「あ、俺も探す!」
丈はそう言い残すとゴマモンと一緒に走っていった。その後を急いで太一が追う。
丈もああ言って名指しまでして気遣ってくれたし、悪いがお言葉に甘えて少し休ませてもらおう。まだ傷は全く癒えていないのだ。
その場に腰を下ろし一息ついていると、近くにいた空がどこからか転がってきたサッカーボールを見つけた。嬉しそうに顔を綻ばせて、器用に足でボールを捌く姿は様になっている。
「あっサッカーボールだ!ねぇ、サッカーしない?」
「うわあ!おもしろそう!」
「人間チームとデジモンチームに分かれてやるか!」
「サッカーって一体なんでっか?」
「このボールを足を使ってゴールに入れるの。胸とか頭を使ってもいいんだよ。それっ!」
空がそう提案すると、みんなもそれに乗り気でわいわいと集まってくる。
ここまでずっと重たい空気でやってきたのだ。気分転換に丁度良いだろう。こういう時くらい楽しくしたいものだ。きっとみんなも同じ思いだったに違いない。ただ、険悪な雰囲気を助長した私が言うなという感じではある。ぐわーっブーメランが首を狩りにきた!
サッカー自体を知らないデジモン達にそう空が簡単に説明をした。へぇ、こっちの世界にはサッカーはないのか。
はじめにお手本に空は軽くヘディングをしてみせてボールをパスした。流石サッカークラブ所属、ボール捌きが素晴らしい。そのボールを、ガブモンが嬉しそうに跳ねるように駆け寄ると全身を使って大きく蹴り上げる。
「いくよ〜っ!」
「うわあ!」
ガブモンのボールは見事にピヨモンの頭に当たった。良いチャージインだ!
声を上げて尻餅をついたピヨモンの後ろにいたパルモンが、跳ねて近くに落ちてきたボールを両手でキャッチする。
その見事なキャッチに空は思わず笑う。
「手を使っちゃダメよー」
「それってアタシとかすごい不利なんじゃなあい?」
「ゴールキーパーなら手を使ってもいいんだよね」
「ああ。パルモンはゴールキーパー向きだ」
「そーれぇっ!」
それもそうだ。人間と違い、デジモンはそれぞれ全然姿が違うのだから向き不向きが明確に分かる。
そうと決まれば、とパルモンが勢い良くぽーんと高くボールを投げた。
その投げられたボールを私は離れた塀に腰かけて見学するように眺める。
やはりというか、ルールをよく知らずやったことのないデジモン達は中々苦戦しているようだ。
それでもみんながみんな、楽しそうにボールを追いかけていて、このタイミングで良い息抜きが出来て何よりだと自然と口角が上がる。こんなほのぼのしている平和な風景を見ていると眠たくなってくる。
「みんな元気だねー……インプモンも混ざってくれば?」
「うるせぇな、あんなガキみたいなことやれるかよ」
ケッ、と冷めた反応をするインプモンだが、その視線は常にボールを追っているのがわかる。ツンデレここに極まれり。
それに、そういうことを言ってる内は十分ガキだと思うが。それを言ったら怒られるので伏せておこう。
「……それよりも、さっきなんでアイツに言い返さなかったんだよ」
「事実、図星だったからだよ」
「……なんで笑ったんだよ」
「困った時こそ笑えってやつさ!」
アイツ、というのは太一のことだろう。
確かに、きっといつもの私ならあそこで何かしら言い返しただろう。
でも今はそれは出来ない。傷を負って事実役立たずである以上は。
なら笑うしかない。私は馬鹿面下げて笑うしか能がないのだ。
だが、インプモンは私の答えに全く納得がいかないという顔で私を見上げてきた。
「無理して笑うんじゃねぇよ。それにオレが信じるお前をバカにするんじゃねぇ。でないとオレだって進化できた意味がねぇだろーが」
「――――」
いつの間に、インプモンはこんなに強くなったのだろう。
つまり、インプモンは自分が進化した姿を気にしているのなら気にするなと言いたいのだ。
何の因果であの姿に進化したのかは分からない。だが次こそは守るからと、だから自分を信じろと。
少し前までは私がインプモンを引っ張っていかないとなんて思っていたくらいなのに、それがまさか逆転するなんて。
大きな揺らぎない若草色の瞳に驚きが勝り、なんと返事をすればいいか暫しの間迷う。
すると、どこかへ紋章を探しに行っていた太一が戻ってくるのが視界に入った。
思わずふと太一に目をやると、どうも肩を揺らしてズカズカと歩いてくる。みんながサッカーをしていることに気が付いた太一は走り出すと、思いっきり強くサッカーボールを蹴りどこかへ飛ばした。
飛んでいったボールが何かにあったようだったが、遠くだった為何か分からなかった。
それよりも、目の前の太一だ。
「こんな時にサッカーなんて、よくそんなことやってられんな!状況を考えてみろよ!丈が紋章を見つけたらすぐに出発するんだから!」
「…………」
少しの気分転換でさえ、今の太一には腹ただしかったらしい。余程頭にきたのか、かなり声を荒げて言う太一の言葉にその場にいた全員が俯いた。
正論であると同時にみんなの気持ちなど眼中にないと、そう言っているようなものだった。
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