digimon | ナノ

02 「ナニモンだァ!」エテモン!悪の花道

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 あれほど騒がしかった宴は終わり、しんと寝静まった真夜中。
 あの後私達はパグモン達の好意に甘え、宴会をしていた広い部屋で一泊することになったのだが。

 夜の暗闇の中、ふと自然に目が覚めた。


(……うう、床で寝ると体がバッキバキだ……いたた)


 この数日間で基本野宿ばかりしてきたお陰でどんな場所でも寝れるようにはなってきたが、流石に毎回寝覚めは悪い。
 節々が痛い体を起こし寝惚けた頭でゆっくりと見回すと、周りで雑魚寝しているみんなはぐっすりと寝入っていた。すやすやと心地良い寝息の音だけが響いている。
 久しぶりに屋根のある場所で寢れたのだ、それだけで随分と安心して眠れる。これにはパグモンに感謝をしなければ。
 そう思った矢先、異変に気付く。


(あれ、トコモンがいない?)


 確か私が寝る前に見たのは、タケルとトコモンが寄り添って一緒に寝ようと言っていた2人の姿だ。
 しかし、そのタケルの横にトコモンの姿はない。周りを見渡してみるが、この部屋のどこにもあの薄桃色の丸い姿、トコモンはいない。

 まさか一人でどこかに行ったのだろうか。
 何を企んでいるか分からないパグモン達もいる為、一人で出歩いているなら安心できない。
 もしかすると私達が寝ている間にトコモンの身に何かあったのかもしれない。

 そう一度考えてしまえばいてもたってもいられなくなってしまう。
 そっとみんなを起こさないように、私は部屋を出た。










(うーん、トコモンの足ではそう遠くに行けないと思うんだけど)

 そう思いながら村中を歩き回ってみたが、今のところ村のどこにもトコモンの姿はない。
 それどころか、昼間の沢山いたパグモン達もどの家を見てもどうやら留守なのかいないようだ。
 こいつは臭え!事件の臭いがプンプンするぜ!
 流石に怪しすぎる。戻ってみんなを起こして来ようか。
 そう引き返そうとした矢先。


「――――……ッ!」

(?)


 静かな村の中ではなく村の側の山の方向から微かに誰かの声が聞こえた。
 トコモンかパグモンか、正体は分からないが声が聞こえている今なら誰か見つけられるかもしれない。


(手がかりは今の声しかない。よし……)


 危なくなれば引き返してみんなを呼べばいい。
 とにかく、行ける所まで行ってみよう。











 山道を声を頼りに茂みの中で身を隠しながら進んでいくと、山の中腹辺りで先程よりもはっきりとした声が聞こえた。パターン青!使徒です!
 そっと草木の中から覗いてみると、そこには使徒ではなくトコモンとパグモン達がいた。


「なっなんでこんなコトするんだっ!」

「進化なんてするからだ!」

「そーだそーだ!」

「うわあああん!いいデジモンじゃなかったの〜〜!?」


 輪になっているパグモン達の中心に、縄で縛られたトコモンが転がされている。
 悪い方の予想的中だ。やっぱりトコモンはパグモン達に拐われていた。
 動けないトコモンをいいことに、パグモンは木の棒でべしべしとトコモンを叩く。
 それに藻掻きながらわーん!と泣くトコモンを愉快そうに笑って見ている。全く、いじめとは悪趣味な奴さんやで。イジメ、ダメ、ゼッタイ!やるなら強い者イジメをするべきだ!


「お芝居だよ〜ん!」

「あんなのに騙されるなんてお前らみーんなマヌケだぜ〜!」

「マヌケ!マヌケ!」

(騙されてないわいドアホぅ!うっすら思ってたもん嘘じゃないもん!あっアホは褒め言葉だ撤回)


 危ない危ない、衝動のままに飛び出す所だった。まだ姿を現すのは早計だ。
 我慢してそのまま茂みに隠れてパグモン達を様子見ていると、突如別の声が響いた。


「何をしてる!」

「ガジモン!」

(ガジガジくん?新キャラ?)


 声が聞こえた方を見上げると、そこには3匹のデジモンの影。その大岩の上に立っている声の主はガジモンと呼ばれた。
 パグモンと似た灰色の毛色で両手両足に黒く鋭い爪を持った、これまた悪そうな顔つきをしたデジモンだ。
 ガジモンは鋭い目つきでパグモン達を見下ろす。
それにパグモン達は冷や汗をかきながら恐る恐る返事をする。上下関係なのだろうか。


「そのトコモンはどうしたんだ?」

「に、人間達と一緒に来たの……」

「人間達だと?」


 驚いた顔で3匹は顔を見合う。
 そしてガジモン達はにやりと笑うとパグモン達にトコモンを隠しておくように命令した。
 パグモン達に担ぎ上げられたトコモンはなすすべも無く、滝の裏の洞窟へ連れて行かれ中へ投げ入れられる。


「うわあ!」

「ここで大人しくしてるんだな!」

「大人しくしてるんだな!」


 洞窟に声が反響するのが聞こえ、パグモン達が出てくるのを見るとガジモン達の内の1匹がどこかへ走り出す。


「まさか選ばれし子供達がこんな所に来ていたとはな」

「オレがエテモンさまに報告してくる。後は頼んだぞ!」

「おう」

「お前ら!絶対に子供達を逃がすんじゃねぇぞ!」

「は〜い!」

(エテモンさま?また新キャラ登場か、壊れるなぁ)


 新しいワードばかりで気になるが、今はトコモンを助けることが先決だ。

 それを念頭に置き、じっと身を潜めて待つ。
 そしてパグモン達は山を下りて村へ帰って行き、ガジモン達はどこかへ歩いて行った。
 それらを見送り、慎重に音を立てないように急いで洞窟の中へ飛び込む。


「あっ灯緒……」

「しー!」


 檻の中に入れられているトコモンが私に気付いた。小声でトコモンの檻に駆け寄り扉に手をかけるが開かない。ご丁寧に鍵までかけてあるようだ。
 ピッキング技術どころか使えそうな細い棒も無し、どうにかしてこじ開けるしかない。
 その辺に転がっている手頃な大きさの石を手に取り錠を壊す為何度も叩きつける。それでもびくともしない。どうにかして開ける方法はないだろうかと頭を捻る。


「今出しちゃるけんね!」

「灯緒一人?タケルは?みんなは?」

「ごめん、呼ぶ暇が無かったんだ!」

「そっか……あ!それと……」


 トコモンが洞窟の奥へ視線を向ける。
 何かと思い暗闇に目を凝らして見てみると、ぼんやりと同じような檻がいくつかあるのが見えた。
 そしてその檻の中には見た事のある影が浮かんでいる。


「お願い!ボク達も助けて〜!」

「コロモン!どうして……ってまあ察しはついたよ」


 沢山のコロモン達が檻の中からこちらを見ていた。
 おそらくあの村は本当はコロモンの村で、この子達は村の住民達だろう。ホエーモンやアグモンが言っていたことは正しかったのだ。
 となると、あのパグモン達は一体何がしたいのか目的がよく分からない。だが私達の敵であることは間違いなさそうだ。


「ここから出して〜!」

「オッケィ我が命にかえても」

「何をしている!」


 あ、しまった早速バレてしまった。スネェェェェク!
 振り返ると洞窟の入り口に近くに先程の残っていた2匹のガジモンが立っている。
 ガッツリと犯行現場を見られてしまった、こうなったら開き直るしかないな!


「ん?なにモンだ?」

「ナニモンだァ!」

「灯緒それネタするのまだ早いよ!」

「あ、わかったぞ!お前人間だな!」

「人間以外の何に見えるってんだ!私のようなデジモンがいるか!」

「えっ自分で言うの!?」


 やったね!バッチリ好印象!
 ノリの良いデジモンだな、戦うのが惜しいくらいだ。だが私達を狙ってくる敵であるなら仕方がない。
 しかしデジモンを、しかも2匹も相手にするのは無謀だ。なんとか村まで逃げてみんなに助けを呼ばないと。
 トコモンには悪いがここは一旦退かせてもらおう。


「選ばれし子供達はエテモンさまに差し出すことになってんだ」

「仕方がねぇ、大人しくしてもらうぜ!」

「灯緒!早く逃げてー!」

「逃げるんだよォォーーー!」


 トコモンの声が洞窟に反響する。
 ギラリと目を光らせて睨んでくるガジモン達の横をすり抜けて、洞窟の外へと走る。


「俺の最速理論を証明してみせる……って速!」


 一直線に出口へ全力で走るが、身体能力の優れたデジモンの足には敵わなかい。あっという間に距離を詰められすぐ側までガジモンが迫る。
 そして、鋭い爪を持つ腕を勢いよく振りかぶった。


「逃がすかぁ!」

「――……っ!」


 途端、背中に激痛が走る。
 鋭い爪が服を破り、背中に傷跡が出来たのが辛うじて理解できた。
 痛みにそのまま地面へ崩れるように倒れ込む。その後ろでガジモン達の慌てた声が聞こえる。


「バカ!パラライズブレスにしとけよ!もしエテモン様を怒らせたら……!」

「や、やり過ぎたか?でもこれで大人しくなるだろ」

「灯緒、灯緒!灯緒ーーー!」


 トコモンが必死に私に声をかける中、返事も出来ずにそこで私は意識を手放した。













「トコモーン!トコモーン!」

「どこにいるんだよ……」


 タケルの呼びかけが村の中を木霊する。太一が屋根に登り、上から単眼鏡で周辺を見回すが眉を下げて呟いた。
 それを横目に見ながら息を切らしてオレは来た道を戻っていく。
 朝起きるとどこにも灯緒とトコモンの姿が無かった。それから全員総出で村の近辺を捜し回るが、2人の姿は依然として見つからない。


「灯緒ー!トコモーン!聞こえたら返事してー!」

「駄目!こっちの方にはいないわ」

「こっちもだ」


 散らばって捜していた奴らが戻ってくるが、結果は空振りばかり。
 それを聞いた光子郎が地面に描いた地図にバツを書き込んでいく。オレに気付くと光子郎は真剣な顔を上げた。


「インプモン、向こうはどうでした?」

「……いなかったぜ」

「そうですか……」

「もう、折角のんびりできると思ったのに。手間かけさせないでほしいわ」

「今まで一番手間かけさせてたのは誰だっけ?」

「んー、丈先輩?」

「君だよ君!」

「ええっ!?」


 ミミと丈の危機感の無い会話に少しムッとする。
 だけど今はそんなことはどうでもいい。あいつは、灯緒はどこをほっつき歩いてやがるんだ。
 どうしてオレを置いて行ったんだ。どうして。


「…………灯緒……」

「いなかったいなかった!」

「滝の方にはいなかったよん!」

「そうですか……」


 一緒に捜索に協力していたパグモン達がわらわらと戻ってくるとそう言った。
 パグモンが言うとおりに光子郎が地図の滝の位置にバツを追加する。これで村の中もその周辺もかなりの範囲を捜したはずだ。


「トコモン……」

「……ニヤリ!」

「……!」


 タケルが泣きそうな声で呟くと、それを見たパグモン達がタケルに見えないように隠れて笑ったのを偶然にも視界に捉える。
 パグモン達の好意を受け入れたのは甘かったのだ。コイツ達が怪しいのは明白だったのに、それを見送ってしまってこのザマだ。
 途端酷く胸騒ぎがして、オレは一目散に滝のある方とやらへ走り出す。
 どうか、無事であってくれ。



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