digimon | ナノ

01 「出発進行ー!ナスのお新香ー!」エテモン!悪の花道

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 ファイル島を出発して5日が経つ。
 昼も夜も水平線しかない景色をぼーっと眺める日々が続いていた。
 そしてまだ空が白みはじめる頃の朝方、まだみんなが寝ている時間に見張りをしていた太一が声を上げる。


「やった〜!おい、みんな起きろ!大陸だ!サーバ大陸に着いたんだ!」

「なんだよ騒々しい……」

「タイ料理がどうしたって?」

「タイラントがなんだって?」

「タイ料理でもタイラントでもねーよ大陸だ!見ろサーバ大陸だ!」


 え?ハザードが起きたんじゃないの?ヴァイオハザァードゥ(デスボイス)
 まだ眠い目を擦りながら、太一が指を差した先を見ると水平線にうっすらと広がる影が見えた。
 待ちに待った大陸の姿に一気に目が覚める。


「朝焼け〜の〜光の中に〜立つ影は〜、ミラーマーン!」

「大陸だっつってんだろ!」

「大陸?ついに着いたんですね!」

「わーい着いたんだ〜!」

「うわあ〜大きい島〜」

「島じゃなくて大陸!」

「こないデカい陸地初めて見たわ」


 海側から見ると緑は少なく茶色の大地が多く見える新天地。みんなも起き上がってそれぞれ声を上げる。
 私も立ち上がって大陸を前に伸びをする。ずっとホエーモンの背中にいたから運動不足だ。上陸したらインターネット体操をしよう。
 みんな起きて騒いでいる中、ひとりすやすやと寝続けているミミをパルモンが揺さぶった。


「起きてミミ!サーバ大陸が見えてきたわよ!大陸よ大陸!」

「……たい焼きよりケーキがいい……」

「ケーキだけでいいのかね?ほ〜らプリンもチョコもたこわさもあるよ」

「……砂肝もつけて……」

「んもう、ミミったら」


 ミミはむにゃむにゃと寝言を言いながら寝返りをうった。それにパルモンはやれやれ、といったように肩を竦める。
 日が経つにつれ期待する方とは逆方向に逞しくなっていくミミ嬢、素晴らしい。










「よっと!」

「さあミミちゃん勇気出して!」


 大陸へ到着すると、私達はホエーモンの背中から順番に陸地へ飛び降りる。
 最後にホエーモンの背中に残ったミミに空が声をかけるが、ミミはホエーモンの上から両手を振って叫んだ。


「なんでこんな所から上陸しなくちゃいけないの〜!もっとマシな場所なかったの〜!」

「確かにここから少し北の方に上陸しやすそうな入り江はあるんですが……」

「だからみんなで相談してここから上陸する事に決めたんだ!君は寝てたけど!」

「んもう〜!そんな大切なコト勝手に決めないでよ〜!」


 ムスーッ、とむくれるミミに光子郎と丈が答える。
 海と陸の間は断崖になっており、更に中々の高さがあるため飛び降りるには勇気がいる。ミミのような女の子では尚更だ。
 かといって新大陸には何がいるか分からない。用心するに越したことはないだろう。


「ミミちゃん胸へ飛び込んでおいで〜!アーイキャーンフラーイ!」

「無理よ無理ぃ〜!あっ!いやああ〜〜〜〜〜!」


 ミミがイヤイヤと首を振ると、ホエーモンは痺れを切らしたのかその巨体を揺らした。
 バランスを崩したミミは悲鳴を上げながら地面へ滑り落ちてきた。
 その先にいたのは光子郎で、見事にミミの下敷きにされてしまった。一体光子郎くんが何をしたっていうんだ!


「うわ!」

「もういやあ!」

「くっ羨まけしからん……4年サンドしたかった……!」

「本音が駄々漏れだぞ」

「それより助けてください……」


 ギギギ悔しいのう悔しいのう。
 不本意ながらもミミも無事に上陸することができ、ようやく全員が降りるとホエーモンはゆっくりと体を旋回した。


「では皆さま、お元気で」

「ホエーモンありがとう!」

「さようなら〜!」


 互いに別れを告げ、段々と小さくなっていくホエーモンにみんなが手を振る。
 ホエーモン無しではこんなにも快適な船旅は無かっただろう。ホエーモン様々や!生き神様や!
 大きなホエーモンの姿が地平線へ見えなくなるとようやく一息ついて、一番にミミがみんなに訊ねる。


「で、これから何処行くの?」

「ホエーモンが教えてくれたの!ここから半日くらい歩いた森の中にコロモンの村があるって!」

「コロモン?聞いたことがあるような……」

「ボクが昔コロモンでした!」

「そうだっけ!」


 ミミが首を傾げると、アグモンが自慢気に答える。そういえば桃色の丸い子だったなぁ、もう元には戻らないんだろうか。
 そういえばインプモンの進化前を見たことがない。どんなちっこいのなんだろう、見てみたい。


「コロモンやったらうちらにも協力してくれるはずや!」

「よーし!じゃ出発しようぜ!」

「うん!」

「出発進行ー!ナスのお新香ー!」


 とりあえず、目指すはコロモンの村だ。
 太一の号令を合図に私達一行は荒野を歩き出した。










「本当に大陸に来たんだ」

「何分かりきったこと言ってんだよ!」

「だってこんなに歩いてるのに、全然代わり映えのない景色ばっかりじゃないかぁ」


 しばらく歩いているとそう丈がぼやき、ゴマモンがそれにツッコミを入れる。
 海岸から内陸へ歩いてはきたが辺りはずっと荒野の景色のままである。
 目的地であるコロモンの村とやらは森の中だというのに森の気配は未だない。やっぱり緑は最低な奴ですぞ!
 すると同じようにミミも溜息をついた。


「あーあ、陸に上がったらお風呂に入れると思ってたのに〜」

「村に着いたら入れるわよ!」

「いつ着くのよ〜何時何分何秒?」

「それは……」

「地球が何回回った時?」

「えっと……ってややこしいから静かにして!インプモン、ちゃんと灯緒を見てて!」

「へいへい。おい駄犬、ハウス!」

「どこにだよ!!!!」

「ツッコむ所が違うでしょ」


 答えようもない文句を投げるミミにパルモンは困ってしまった。
 それに私もミミに続くとパルモンに怒られた。その文句が懐かしくってつい……。
 あとハウスって言われたって帰りたくても帰れないんだよ私達は!遠回しに傷を抉っていくスタイルやめて!
 そんなアホなことをしている一方で、先頭を行くアグモンが顔を上げ足を止める。


「ん?」

「アグモン、どうした?」

「こっちからコロモンの匂いがするんだ」

「なんだって!」


 アグモンは元コロモンだからか、仲間の匂いに敏感らしい。くんくんと鼻をきかせながら匂いを追ってアグモンが走り出した。
 それに続いて少し走ると、小高い丘の先に森が広がっていた。
 良かった、なんだかんだで森の近くまで来ていたんだ。やれやれだぜ。


「森だ!」

「ええ〜っ森!?」

「コロモンの村がある森か?」

「多分な!」

「ばっかもーん!そいつがルパンだ!追えー!」

「待って太一!灯緒ちゃん!」

「太一さーん!」


 森だと分かるとさっさと行ってしまう太一の後について走り出す。後ろで慌ててみんなが追ってきた。
 そのまま森の中をしばらく行くと、木々が途切れ急に開けた場所にぶつかる。


「あ!」

「うわあ〜」

「コロモンの村だ!」

「ここがあのデジモンのハウスね!」


 なだらかな坂の下には、丸いに屋根の可愛らしい家が幾つも建っていた。
 以前立ち寄ったピョコモンの村と違って、コロモンの村は人間サイズの建物で二重の意味で安心した。ピョコモンサイズだと入れないからなあ。嫌な……事件だったね……。
 目的地の到着に安堵していると、今度はミミが一目散に村へ突進していった。どうもお風呂のことになると突っ走ってしまうなあのお嬢さん。


「お風呂〜〜〜!」

「ちょっとミミ待って!」

「なら、2番風呂は頂いた!」

「……あれぇ?」

「どうしたアグモン?」

「違う、ここ」

「え?」


 首を傾げるアグモンに、この場にいる全員も首を傾げた。










「お風呂!お風呂〜!ねぇお風呂どこ?」

 ひとり嬉しそうに走っていくミミは、村の中にいた丸い塊に話しかける。
 コロモンの村なのだから居るのはコロモンのはずだが、こちらに振り向いたそれは別の見たことのないデジモン達だった。
 コロモンと同じ大きさだが灰色の体ににやりと笑っているような赤い目をしている。


「あれ?コロモンってこんなのだっけ?」

「違うわ!こいつらパグモンよ」

「パグモンか、おうおうデカいツラしやがって!」

「つーかコイツ等一頭身だろ」

「にゅふふふ……」


 パグモンとやらは不敵に笑う。笑い方は可愛いが、いかにも悪そうな良からぬ含みのある笑い方だ。
 そういえば前にもミミと突っ走ってきて危ない目に遭ったのをふと思い出す。あれ?もしかしてこれってデジャヴじゃない?
 隣でミミがはてなを浮かべていると、突然パグモン達は数匹掛かりでミミを持ち上げどこかへ走り出す。


「うあああ〜!?」

「ミミさま万歳!?」

「ミミ!あの角を曲がったわ!」

「ここはコロモンの村じゃなかったのかぁ!?」

「そうみたいー!」


 ミミの悲鳴を聞きつけて他のみんなが走ってきた。私達も急いで連れ去られたミミを追う。
 まさか、あのホエーモン神の情報が間違っていただと!?


「どっちだ!?」

「きゃあああああ〜〜〜〜!」

「あそこだ!ミミー!」

「ミミさーん!」

「ごめんくださいお客さん来てはるでー!」

「あそこにミミちゃんの帽子よ!」


 ミミの声が聞こえた建物の中へ飛び込む。外観からは想像するより広いホールのある家だ。やだ、意外と豪華なハウスだわ!
 入るなり咄嗟に空が階段を指を指す。階段には見慣れた帽子が落ちていた。


「やっぱりミミちゃんのだわ」

「おいあれ、ミミくんのバッグじゃないか?」

「そうですよ!ミミさんのに間違いありません」

「ようし、ここか!」


 階段を登り、その廊下の先にも見慣れたバッグが落ちているのを発見すると太一が奥へ急いだ。
 太一達が行った後、横の壁にある棚を見ると更に見慣れた服一式が籠の中に置いてあった。そしてそれを見た瞬間、ミミの置かれている状況を瞬時に察した。
 あ、これあかんやつや。
 私が固まって、次にそれを見た空が一瞬固まった後、慌ててずんずんと前を行く太一に声をかける。が、時既にお寿司。


「ん?……――駄目ぇ!太一!」

「ミミ!」

「はぁ〜極楽極楽〜……」


 空の静止の声も虚しく、太一がカーテンを勢い良く開けてしまった。
 カーテンの先には広々とした浴場にまったりと湯船に浸かっているミミがいた。
 なんという、小学生には刺激が強すぎるお色気たっぷりのサービスシーン。サービスマンじゃなくて良かった。


「あ、あああ……」

「ミミさ……」

「……ん?いやあ〜〜〜〜!!!何覗いてんのよ!!!レディが入浴中なのよ〜〜〜〜ッ!!!」

「いやいやいやそんなつもりはうごっ!」

「うわっ!」

「だから駄目って言ったのに……」

「これが噂のラッキースケベか……なんて凄まじい威力なんだ……是非これは会得」

「するなよ。フリじゃなくて絶っ対にするなよ」


 ミミが全力投球した桶やボトルが太一と光子郎の額に見事にクリーンヒットし、勢いよく太一と光子郎が倒れてしまう。
 やれやれ、と肩を竦めた空がカーテンを閉めながら、目を回して倒れている2人を見下ろした。
 惜しいやつをなくしてしまった。南無。










「ようこそ!ハイハイ〜ようこそ〜!ハイ〜!ここはパグモンの〜村!」


 その日の夜。
 私達一行をもてなす為にパグモン達は宴を開いてくれた。
 広間に言われるままに座ってどんちゃんどんちゃんとよく分からない踊りを披露するパグモン達を眺める。そして私達の前に沢山の美味しそうな食べ物がどんどん運ばれてくる。
 どうやらパグモン達は悪い顔をしてはいるが、私達を歓迎してくれるらしい。
 最初に見た時思わず身構えたけど、彼等は友好的のようだし好意は受け入れよう。なんだかんだでありがたい。


「ここ、パグモンの村だったんだ」

「おかしいなぁ〜確かにコロモンの匂いだと思ったんだけど……」

「お待たせしました!」

「まるで竜宮城に来た乙姫さまの気分だわ!」

「それを言うなら浦島太郎」


 アグモンはまだ納得出来ないのか頭を捻っている。余程確信があったのだろう。
 そんなことは眼中になく、次々に運ばれてくるご馳走にミミは目を輝かせる。既にお風呂にも入れてもらったからかパグモン達をかなり信用しているようだが、反対に空はまだ疑いの眼差しだ。


「まさか偽物ってことはないわよね」

「そう何度も同じ手に引っかかってたまるかよ!ん、うめえ!本物だ!」


 食べ物をまじまじと見る空の横で太一が果実に齧り付く。
 デビモンの創りだした幻の館での前例がある以上、完全に疑いは晴れない。
 しかしパグモン達のような幼いデジモンにそんな力があるとも思えない。結局確かめる術はない。


「でも変やなあ、パグモンは意地の悪い性格っちゅー噂やったけど」

「ただの噂だよきっと」

「そーそーただの噂ー!」

「本当はいいデジモンなのよ!」

「そーそーいいデジモンー!」


 首を傾げるテントモンの言葉に他のデジモン達はすっかり心を許し、食べ物を頬張る。
 それにパグモン達も同意する。こらこら、折角一応信用しようとしてるのに自分達で言うのは逆に怪しいぞ。


「おいしい?」

「ぽよ!ううう……ぽよぉ〜!」


 タケルがポヨモンに食べ物をあげていると、突然ポヨモンが声を上げて光りだした。
 そして眩い光が収まると、そこにはトコモンがいた。ようやく進化ができ再会を果たしたトコモンとタケルは笑顔で抱き合った。


「トコモンだぁ!」

「進化したんですね!」

「良かったな、タケル」

「うん!」

「次に進化したらパタモンだ!」

「タケル!一緒に頑張ろーね!」

「うん!」

「はーい拍手!」


 タケルとトコモンが本当に嬉しそうに笑うと、2人を見ていたみんなもそれを暖かく見守る。
 ミミが立ち上がり司会役のように拍手し、全員がタケルとトコモンに拍手を贈る。こいつぁめでてえや!


「おめでとう〜!!!」

「おめでとう〜……」


 そんな和やかな雰囲気の中、パグモン達は同じように拍手しながら行動に似つかわしくない鋭い目つきをしたのを見た。
 結局の所、パグモンが怪しいのは保留となったままこの村で一夜過ごすことになりそうだ。


「それではここでトコモン進化を祝福致しまして僭越ながらこの灯緒一曲歌わせて頂きます。無限大なああああああああああああああああああ」

「うるせー下手くそ!」

「金返せー!」


 こうして夜は更けていく。
 嫌な予感を引き連れたまま。



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