digimon | ナノ

03 「タカシ危なーいッ!」出航・新大陸へ!

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 無我夢中で叫でいると、海水と共に外へ吹き上げられ宙に投げ出された。
 やっとジャブジャブ様の中から脱出出来たのはいいがその衝撃で筏はバラバラに壊れ、そのまま残骸と共にみんな海に落とされてしまう。
 着衣水泳なんてボクくんじゃなきゃ無理無理ー!


「空、大丈夫!?」

「うん」

「なんとか出られたね」

「ああ……」

「ポヨモン平気だった?」

「ぽよ」

「良かったぁ」

「大丈夫?ドザエモンに進化してない?」

「するかダボ!」


 みんなそれぞれ溺れないよう急いでバラバラになってしまった筏の丸太にしがみつく。みんな、丸太は持ったか!?
 私もなんとか木材を手繰り寄せインプモンを乗せる。危ない危ない、私がドザエモンに進化してしまう所だった。
 すると目の前でホエーモンが大きな声を上げながらこちらに向き直る。体内にあった黒い歯車は取り除いたのだから正気に戻っているはずだが、もし獰猛な性格だったら絶対絶滅都市だ。いや海だ。


「あああっ来ないでぇ!」

「すみません、乱暴なことをして」

「ホエーモンが悪いんじゃないわ!」

「黒い歯車のせいだったのよ」

「きっとあれが最後の一個だったんだよ!」

「ホントに最後か〜?」


 ミミが思わず悲鳴を上げたが対してホエーモンは冷静に謝る。
 どうやらホエーモンは正気に戻ったらしいが、随分紳士的な態度で獰猛なんて欠片も感じない。やはり今回も宛てにならなかったデジモン情報……。
 しかし丈の言う通り黒い歯車がまだあったなんて油断ならないな。


「おかげでやっとスッキリしました」

「それは良かった!」

「ホエーモン、サーバ大陸ってここからどれぐらい離れてるか知ってる?」

「はい。私でも5日はかかります」

「かなり遠いってことか……」

「困ったね、筏壊れちゃった」


 ホエーモンでもそんなに時間かかるのか。ということは筏なんかではもっとかかるだろう。
 見回せば辺りに原型を留めていない筏の残骸が漂っている。こうなってしまったら一度ファイル島へ帰り、また一から作るしかない。サーバ大陸が遠退く……物理的にも。
 どうしよう、とみんな顔を見合わせているとホエーモンが尋ねてきた。


「サーバ大陸へ行かれるのですか?」

「うんそうだよ」

「黒い歯車を取ってくださったお礼に私がお送りしましょう」

「本当!?」

「ありがとう、そしてありがとう!じゃあお言葉に甘えて!」

「ラッキー!ってああっ!」

「ミミ!」


 なんとホエーモンが有難い提案をしてくれた。このままでは引き返していた所だ、本当に助かる!
 嬉しさのあまり思わず万歳したミミが溺れかけるが正直な所みんなも同じくらい感謝しているだろう、歓声を上げた。

 ホエーモンは水中に潜り、下から私達を掬い上げ背中に乗せる。
 進み始めると私達の間を爽やかな潮風が吹き抜けていった。


「気持ちいい〜!」

「筏に乗って行くよりよっぽど快適ですね」

「これなら船酔いしない!」

「順風満帆だね!」

「あとはデビモンが封印したっていうタグと紋章を見つければな!」


 波と風を切って進んでいく筏とは比べ物にならない程の速さに全員が感動する。揺れも少ないし速いしホエーモン様々だなぁ!
 すると太一の言葉にホエーモンが反応を示す。


「デビモンですか」

「何か知ってるのか?」

「タグと紋章というのはよく分かりませんが、前にデビモンが海の中のある場所に何かを置いていったという」

「ええっ!?その場所は?」

「サーバ大陸へ行く途中にあります。皆さん、またしばらく私の体の中に入っていただけますか」


 なんてこった、その話がタグや紋章のことなら今日は本当に運がいい。実際探すと言っても全く手掛かりがなかったのだから。
 ホエーモンに従い私達は一時的にまたホエーモンの口の中へお邪魔させてもらった。










 しばらくして、ゆっくりとホエーモンの口が開く。
 外に出てみるとそこはオーロラ色の岩肌が美しい洞窟が広がっていた。ここがどうやら海底洞窟らしい。
 観光名所になりそうなくらい神秘的で綺麗な場所だが、それよりも今はシャバの空気がうまい!


「私は先へは進めませんのでここでお待ちしています」

「ありがとう!」


 親切デジモンのホエーモンを入り江に待たせ、私達は美しい色を放つ洞窟を歩いていく。
 滑って転ばないよう慎重に奥へと歩みを進めると、何やら前方の奥が明るく光っているのが見えた。


「あ!あれは!」

「コンビニだ!」

「懐かし〜!(ファ○チキください)」

「くっ灯緒さんが脳内に直接……!」

「ノってくれてありがとうタケルくんマジ天使」


 パートナーが天使だと思ったら本人もだった。
 開けた空洞には煌々と光るコンビニが建っていた。今や日本中どこにでもあるがデジモンの世界で、しかも海底洞窟で見るとは中々シュールだ。
 そんなことを考えていたら突然地響きが辺りを震わす。
 同時に、前方のひび割れた地面から巨大なドリルが轟音を立てながら現れた。


「ああっ!」

「なんだ!?」

「ド、ドリルだとぉ!?」

「ドリモゲモンだ!」


 ドリルの正体は案の定デジモンだった。立派な巨大ドリルが鼻の位置にある、中々にぬぼーっとした愛嬌のあるもぐらデジモンだ。
 私達の前に立ち塞がったドリモゲモンの脳天にはブスリと黒い歯車が刺さっていた。
 ということは取り除いて正気に戻してやらないと。


「黒い歯車だわ!」

「やっぱりまだあったじゃないかぁ!」

「デビモン様の命によりここには誰も立ち入らせぬ!出て行け〜!」

「そうだ、インプモン!」

「ああ、やってやるぜ!」


 ピコン!と私の頭の上に電球が浮かぶ。
 私が声をかけると全て言わずともインプモンが一歩前で身構えた。シンクロしてきたな、一心合体が出来る日も近い!
 折角正面から戦える敵なんだ。早くインプモンをみんなと同じように進化させる為にもここはドリモゲモンとタイマンで戦いたい。
 なのでみんなには先にタグを探しに行ってもらおう。


「みんな!コイツは私達に任せろ!代わりにタグ探し任せた!」

「灯緒!インプモン!」

「お前のドリルは天を貫くドリルなら!私の拳も天を貫く拳だあああ!」

「今のうちだ!」


 みんなの返事も聞かず私は拳を構えながらドリモゲモンに向かって走り出す。インプモンも同じく私の横を走り抜け、ドリモゲモンもドリルを回しながら近づいてくる。
 ドリモゲモンの気をこちらに逸らしている隙に、みんながその横を通り抜けコンビニに向かって走って行った。よしよし、ミッションクリア!


「みんなも突破!ついでに私らも天元突破しちゃおうぜ、インプモン!」

「勝手にしやがれ!ナイトオブファイヤー!」


 余裕をかますインプモンが火弾を飛ばす。
 しかしドリルで振り払われドリモゲモンにダメージを与えられないでいる。
 インプモンはちょこまかと素早く動き攻撃を喰らわないものの、敵に決定的なダメージを負わせれない。


「うーん、圧倒的火力不足なんだなぁ……」

「うるせー!テメー早く倒れろよ!」

「仕方ない、こうなったら残虐ファイトの開始だ!まずはタマ蹴り……ん?」

「生々しいわ!」


 相手も攻撃を当てられないでイライラしているようだが、同じくインプモンもイライラしていた。
 するとどこからか電子音が響き、耳をすますとポケットのデジヴァイスのものだと気付く。見ると画面の下からバーが点滅しながら増えたり減ったりしていた。
 今までパートナーに反応したり聖なる光を出したりしてきた摩訶不思議デバイスだが、今度は一体何なんだ?


「……もしかして、進化!?」


 思わず胸が高鳴る。デジヴァイスを握りしめインプモンに念を送る。
 インプモン進化〜!キットコンナモン!タブンコンナモン!


「聞こえますか……今あなたの頭に直接話しかけています……力を解き放つのです……邪気眼を使うのです……」

「なんかさぶいぼたってきた。それやめろ!」

「強い子良い子のインプちゃんは進化できる〜」

「やめろっつってんだろーが恥ずかしい!!!」


 さながら授業参観だ。タカシ安心して!カーチャンが見守ってるからね!
 割と本気でキレたインプモンの火の玉攻撃が思わず変な方向へ飛ぶ。これにはドリモゲモンも予測不能だったのか火の玉は思いっきり額にぶち当たった。
 目を渦巻きにしながらよろめいたドリモゲモンが背後のコンビニにぶつかり、その振動でコンビニ諸共洞窟内が揺れる。
 おいおいここ海底なんだから洒落にならないって!


「あ、ヤベ」

「軽っ!みんな大丈夫かぁー!?」

「何やってんだよ灯緒〜!」

「きゃああああ〜!」


 遠目から見てもコンビニ店内の棚や壁が今の衝撃で派手に崩れたらしい。
 もうもうと埃煙が立ち込めているが全員の声が聞こえるのを確認する。良かった、なんとか無事のようだ。
 尻餅をついていたドリモゲモンが起き上がるとどこからか取り出した巨大な骨を投げてきた。


「クラッシャーボーン!」

「タカシ危なーいッ!」

「誰がタカシだ!ナイトオブファイヤー!」

「グワアアアアアアア!」


 ドリモゲモンの必殺技の隙をついてインプモンは懐に入り込むと黒い歯車に向かって火弾を投げる。黒い歯車は粉々に砕け散り、同時にドリモゲモンが悲鳴を上げて倒れた。
 倒すんじゃなくて黒い歯車自体を狙うとはやりおるわい。
 インプモンが自慢気に笑う。


「よし!どうだ、ざまあみろ!」

「やった!やったけど……」

「なんだよ灯緒?」

「なんか惜しかったっぽい」

「惜しい?」


 ちらりと手に持ったデジヴァイスを見る。さっきまでの反応はなくなっていた。
 これは進化し損ねた感じだろうか。やっちまったなぁ!
 考えながらデジヴァイスを仕舞うと、ドリモゲモンが穴を掘って逃げようとしているところだった。目があうとドリモゲモンはへっぴり腰でへこへこと会釈をする。


「す、すみませんでした!」

「おーっと、待ちたまえドリモゲくん。タグは何処にあるか知ってるかね?」

「はいっ店の中にあるはずですっはい!じゃ頑張って!」


 変わらずへこへことしながら返答するドリモゲモン。やけにあっさり吐いたな。やはりただ黒い歯車に操られていただけなので、別に情報を漏らすことに関してはどうでもいいのだろう。
 それだけ言うとドリモゲモンはさっさと地中へ姿を隠してします。
 もう用はなくなったのでそれはいいとして、進化について考えてみる。
 もしかすると本当に前にインプモンに話した通り、私がかなり危ない目に会わないとだめなのかもしれない。
 うーん、謎は深まるばかりだ。迷宮入り。










 埃まみれになったみんなが店内から出てきた。
 申し訳ないとみんなに謝ると、タケルがコンビニの中でポヨモンが見つけたという怪しげな箱をみんなに見せる。ヤマトがその箱を開けると中には見たことのある金色の物が沢山入っていた。


「タグだ」

「ゲンナイさんが映し出したのと同じです」

「キレー!」

「ごまだれー!お宝ゲット!」


 人数分あったそれを取り出してそれぞれ首にぶら下げる。揺れるとキラキラと光るタグを見つめた。
 とりあえずこれでタグは見つけたから、次は紋章集めだ。
 まだまだ先は長い、気合いいれて行こう!


「紋章はサーバ大陸のあちこちに散蒔かれたって言ってたな」

「うん、タグと紋章が合わされば!」

「ボク達は更に進化できるんだ!」

「ああ!紋章も必ず探し出す!」

「さあ、サーバ大陸に行こう!」


 それぞれタグを首にかけ、トップを握りしめながら顔を上げる。

 そして私達は再びホエーモンの元へ戻り、彼の背中に乗り新天地サーバ大陸を目指して進み始めた。



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