digimon | ナノ

02 「見よ、東方は赤く燃えている!」出航・新大陸へ!

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 翌日。快晴である。
 サーバ大陸を目指す事で一致団結した私達。
 どうやって遠い大陸へ行くか会議した結果、私が勢い余って適当に口にした筏の案が採用された。自分で言っておいてなんだがナズェコウナルンデェス!
 そうと決まればと、大きくて頑丈な筏を作るための木材をデジモン達総出で集める。


「ベビーフレイム!」

「倒れるぞ〜!」

「プチファイヤー!」

「おお〜!倒れた倒れた!」


 炎の塊を幾度もぶつけ、ようやく木が一本。
 大海原を越えるのだ。とにかく丈夫でないと。そう考え太くしっかりした木を探し切ろうとするがそう簡単にはいかなかった。
 それを遠巻きに眺めていた光子郎と空が呟く。


「木を切るだけで随分かかりそうですね」

「焦っても仕方ないわ。ゆっくりやりましょ……ん?ああーっ!」

「レオモン!」


 ふと振り返った空が声を上げたので他のみんなも何事かと同じ方を見ると、森の奥から歩いてくるレオモンの姿を見つけた。
 そういえばデビモンとの戦いが終わった後からレオモンの姿が無かったのを思い出す。
 どこかへ行っていたのだろうか。ごめん、すっかり忘れていたよ……。


「サーバ大陸に行くそうだな」

「なんでそれを?」

「噂好きのモンスター達もいるんだ。何か手伝える事はないか?」

「本当に手伝ってくれるの!?」

「頭数なら沢山いるぜ」


 ふいとレオモンが後ろを振り返り、同じように目をやるとそこには今まで出会ったデジモン達の姿があった。来たぜ……ぬるりと……!


「やあ〜!」

「エレキモンだ!」

「モジャモン!ケンタルモンもいる!」

「へっ俺達も手伝いに来たぜ!」


 相変わらず爽やかに言うエレキモンを先頭に後からどんどんデジモン達が歩いてくる。
 数日前に出会った顔ぶれだとというのに、それから様々な出来事がありすぎて早くも懐かしく思えてしまう。
 みんなやってきたデジモン達を見て嬉しそうに駆け寄っていく。


「もんざえモン〜!」

「ユキダルモンだぁ!」

「うぅ、さぶい……」

「ピョコモ〜ン!」


 ユキダルモンが近づくと漂う冷気に丈が身を震わせた。それとは逆に相変わらず熱く燃えているメラモンが歩いてくる。
 その横を沢山のピョコモン達がわらわらと駆けてきた。
 8時じゃないけど!全員集合ー!


「よーし、みんながいれば百デジモン力!力を合わせて頑張ろーー!」


 改めて私達は集まった沢山のデジモン達と一緒に筏作りを始めたのだった。









「獣王拳!」

「すごい……」


 レオモンの拳から放たれた衝撃波が次々に木をなぎ倒していく。アグモンやガブモンは思わず感嘆の声を呟いていた。
 そして倒れた木をメラモンが手刀で木の枝を削ぎ、ケンタルモンが等分に切っていく。なんという事でしょう、作業効率が劇的だよ!
 私達だけでは数日はかかるであろうと思われた作業だったが、たった数時間で筏は完成した。


「イエ〜イ!」

「ヤッホー!」


 デジモン達と筏に乗りそのまま草地を滑り降り、早速完成した筏を海へ浮かべる。
 食料を詰めた木箱を筏に乗せた状態で入念に強度などを確認する。
 物凄い早さで出来たが頑丈さも十分だ。この筏を夏休みの自由工作にしてぇ。きっとなにかしら賞が貰えること間違いナシや。


「出来た!」

「バランスもいいみたいですね」

「こんなんで大丈夫なのか?」

「モーマンターイ!」

「決めたんだ。行くしかない!」


 丈が不安そうに呟くので目の前でグッと親指を立ててやる。そんなのやってみないとわからないさ!
 丈の言葉に太一が自分にも言い聞かせるように力強く拳を握りしめた。
 その様子を見ていたレオモンが激励する。


「お前達ならこんな海きっと越えられる」

「ありがとうレオモン!君達のおかげだ」

「あっ」

「どうした?」


 レオモンが言うとなんて頼もしいんだ。クソお世話になりました!
 直後、タケルが目を丸くして抱きかかえているデジタマを見る。パキパキ、と割れる音をたててデジタマにヒビが入ったと思ったら、勢いよく中からデジモンが顔を出した。


「ぽよ〜」

「デジタマが孵ったぁ〜!」

「ぽよ〜ぽよもん!」

「可愛い〜!」

「良かったわね!」

「わーいわーい!やったやったぁー!」


 顔を出したのはクラゲのような半透明の体の赤ちゃんデジモン。
 待ちに待った再会にタケルは嬉しそうにポヨモンを抱えながらくるくる周った。タケルの笑顔を見てみんなも笑顔になる。


「お別れだな」

「元気でな!」

「達者で暮らせよ!」


 レオモンやエレキモン達、駆けつけてくれた沢山のデジモン達が私達を見送るため浜辺に集う。

 いよいよ出航の時だ。
 ゆっくりと筏が海へ動き出した。


「ありがとう!」

「さようなら!」

「またなー!」


 短い間だが全ての旅はここからはじまったファイル島。
 ここにいるみんなと出会ったのも、デジモンの存在を知ったのも、インプモンと出会えたのもこの場所だ。
 ゆっくりと離れていくのを目の当たりにして寂しさを実感しながら、どんどん遠くなっていくデジモン達の姿が見えなくなるまで私達は手を振った。










「なんにも見えない……」

「見よ、東方は赤く燃えている!」

「よく見ろ真っ青だよ」

「心の目で見るんだ!さすれば道は開かれん」

「また何を訳の分からないことを……」


 一面空と海で真っ青な行く手を太一が単眼鏡を覗き進行方向を確認していた。
 その隣で眉を下げた丈が溜息をつく。


「あとどの位かかるんだろう」

「まだ船出したばっかりだぜ」

「でも水も食料も切り詰めて半月くらいしかもたない……」

「そん時は魚でも釣るさ!」

「後は天気が崩れないことを祈るだけね」


 空と一緒に顔を真上に上げる。雲は少なく風も穏やかで快晴だが、波が少し高く小さな筏は大袈裟に揺れた。
 大きく揺らされる度、既に船酔いしてしまったミミと光子郎の顔色が悪くなっていく。


「気持ち悪い……」

「こんなに揺れるとは思いませんでした……」

「寝れば楽になるのに……。膝貸すぜ〜超貸すぜ〜」

「灯緒ちゃん貸してーあたし寝る……」

「はい喜んでーーーーっ!」

「うるせえクビになれ」


 スパーンと景気良く膝を叩けば、青い顔をしたミミが膝枕の体勢でこてんと寝転んだ。ついでに背中をさすってやる。
 それをインプモンが隣でじーっとこちらを見てきた。無意識かツンデレめ。オッケー我が命に変えても後で無理矢理してやろう。


「光子郎くんには肩を貸そう!おいでよデジモンの森〜!」

「ええと……遠慮します……」

「何故!?胸に飛び込んでおいで〜!」

「ぽよぽよ〜ぽよもんっ!」

「あ!」


 念願の4年生組サンドが叶わない、だと!?認めん!認めんぞー!
 儚く野望が消えたその時、筏が一際大きく揺れる。
 ポヨモンと遊んでいたタケルが揺れで落ちそうになったポヨモンを慌ててキャッチする。ないっせー!


「こらポヨモン!気をつけろよぉ!」

「な、なんだあ!?」


 その揺れを始まりに、急に波が大きくなり筏を激しく翻弄しはじめた。
 酔う酔わない以前に不自然な波に不安がよぎる。


「どうしたんだ急に!」

「風がないのに波が……」

「近くを船でも通ったのかなぁ?」

「船なんかいねーよ?」

「こういう突然何かが起こった時って大体さぁ……」


 丈に釣られてキョロキョロと周りを見渡すがそういったものは全くない。あるのはただひとつ、水平線だけだ。
 と思えば、急に水面下から茶色い巨大なものが姿を現す。
 やっぱりフラグだったー!こういう時は十中八九デジモンだよねー!


「下からくるぞ!気を付けろ!」

「島だ!」

「違うわ、これは……島なんかじゃない!!」


 筏の何十倍もの巨体の影が筏の真下の水面に映る。ゆっくりと尾ヒレを動かし水面から顔を出すその正体は大型クジラだ。
 クジラの少しの挙動で筏は軽々と宙を舞う。
 私達の近くを泳ぎ回るクジラはどうやらこちらを狙っているらしい。


「なんでだ!?」

「ホエーモンは獰猛なモンスターやけどいつもなら海の底にいるはずや!」

「うわああああああああああ!!」


 ホエーモンがゆっくりとその巨大な口を開ける。
 まさか奴さん私達を丸呑みする気なのか!?拾い食いはお腹壊すよ!
 思わず全員筏にしがみつく。そのまま私達は成すすべもなく、筏は口に吸い込まれていく。


「やだあぁー!食べないでえぇぇ〜!」

「灯緒先生の次回作にご期待下さいぃ〜〜!」


 心からの叫びも虚しく辺りは暗闇に覆われた。背後でバクンと口を閉じられた音が響く。
 私達を乗せた筏は呆気無くホエーモンに丸ごと食べられてしまった。
 ホエーモンの体内を筏は勢い良く吸い込まれるように滑り落ちていく。いや実際吸い込まれるというか飲み込まれている。


「きっとこれはホエーモンの食道です!勿論レストランという意味の食堂ではありません」

「何故今そんなギャグを言った!言え!」

「そんなこと分かってるよお!」

「やっぱ食べられたんじゃーん!」


 猛スピードで水流を下っていく筏にしがみついて振り落されないようにするしかない。
 みんな口々にわあわあと叫び体内に声を響かせる。暗いよ速いよ怖いよーっ!


「どこまで行けば出口なのぉぉ〜〜!?」

「出口はお尻でしょう!」

「そんなところから出るのなんて嫌だぁ〜!」

「ウンチみたい……」

「言わないでぇ〜!」

「じゃあぎょうち……」

「余計汚いわ!!」


 こんな時でもインプモンはしがみつきながら私の頭をスパンといい音で叩きツッコミを入れる。芸人魂か、感動的だな。だが無意味だ。
 ミミの心底嫌そうな叫びに答えるように今度は上から謎の液体が筏めがけて落ちてくる。


「うわああああああ!」

「なんで襲って来るんだよっ!」

「僕達のことバイ菌か何かだと思っているのかも知れません!」

「バイバイキーンされるううう!」


 直後、ようやく狭い食道を抜ければ今度は妙に明るい広めの空間に落とされた。
 筏のスピードは失われ、ようやく私達は落ち着いて立ち上がる。
 とんでもないアクアジェットコースターだ……。


「広い所に出たわね」

「ここはどこ?」

「食道の先は胃だと思うけど……」

「胃って食べ物を消化する所だよね?」

「ああ」


 キョロキョロと辺りを眺めているとどこからかピーっと電子音が鳴り、胃の側面からどろどろと謎の液体が流れ出てきた。
 いち早く光子郎がそれを見て声を上げる。


「胃液だ!」

「胃液?」

「胃に入ったものを溶かす消化液のことです!」

「アッ……」


 察し。
 胃液が筏まで流れてくると当たった所からじゅうう、と焼けるような音がした。
 その様子を見たタケルが目をぱちくりとさせる。


「……とけてる」

「胃液強すぎィ!」

「落ちるとまずいぞ!」

「早くここを通り過ぎないと危ない!」

「あぁっ!太一、あれ!」


 消化されると分かったらみんな一斉にわたわたと慌て出す。このままじゃ丸ごとみんな栄養にされてしまう!
 すると突然空が声を上げ上の方を指差す。
 全員が空が示す先を見上げると、そこには黒い歯車が壁に深々と突き刺さっていた。


「黒い歯車だ!」

「あれ、まだ残っていたんだ」

「だからホエーモンは暴れてたんだ!」

「なんとかしてあげようよ!」

「どうやって?」

「アタシに掴まって登って!ポイズンアイビー!」


 アグモンやゴマモンを筆頭にデジモン達が提案する。もしかすると黒い歯車を除けば話せる相手なのかもしれない。
 先程のテントモンの解説でホエーモンは獰猛だという言葉が引っかかるが、今は四の五の言っていられない。
 パルモンが爪を伸ばして黒い歯車に巻きつける。


「ようし!俺が行く!」


 自信満々に名乗り出た太一は、器用に蔦を掴んでぶら下がった状態で進んでいく。
 太一が近くまで辿り着くとデジヴァイスが光り、黒い歯車を粉々に砕いた。
 掴んでいたものが無くなり蔦と諸共太一が落ちるが上手く体を捻り筏の上に見事着地。素晴らしい!10点では足りない!


「よしやったぞ!」

「グレートだぜ!」


 太一とハイタッチを交わした途端、水面下から眩い光が放たれながら筏が勢いよく浮上し始めた。
 また今度は違う形のアトラクションにでも乗っているかのような浮遊感に驚いて筏にしがみつく。


「うわあああああああ!?」

「どっどこ行くんだ!?」

「ウンチか!?ウンチなのかああああああ!?」


 ――ブシャアアアア……!
 出口はお尻ではなく、ホエーモンの潮吹きの穴だった。



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