digimon | ナノ

01 「いや、その理屈はおかしい」出航・新大陸へ!

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「ほう、お前達が選ばれし子供達か。デビモンを倒すとは中々やるのぅ」


 先程のデビモンとの激戦とは遠く離れたのんびりとした声。
 それは目の前に突然現れた機械に映しだされている老人からのものだった。
 そう、デジモンではなく人間が姿を現したのだ。


「お前は誰だ!?」

「デビモンの仲間か?」

「心配せんでいい、儂はお前達の仲間じゃ」

「仲間?えっじゃあ爺ちゃんも選ばれし子供!?」

「歳を考えろ歳を」


 歳の問題はともかく、目の前の老人はどこからどう見ても人間に見える。
 このデジモン達の世界に飛ばされてから初めて人間に出会ったのだ。みんな驚きつつも期待を込めた瞳で老人を見つめた。
 全員の今の気持ちを空が代弁する。


「私達の他にもこの世界に人間がいたなんて……」

「じゃが儂は人間であって人間でない」

「オバケなの?」

「カチン」

「じゃあ妖怪人間?」

「カチーン」


 ミミの悪気の無い疑問に老人はむっとしてミミに視線を向ける。大人気無いというか随分フランクだ。早く人間になりたーい!
 老人の体は半透明ではあるが外見からするとオバケというより仙人とかそういう類の出で立ちに見える。むしろ界王さ……ゲフンゲフン。


「儂の名はゲンナイ。今までデビモンの妨害があって中々通信できんかったがやっと会えたのぅ」

「通信ってどこからしてるの?」

「ここファイル島から遠く離れた海の向こう、サーバ大陸からじゃ」

「大陸、かぁ」


 ――サーバ大陸。
 海の向こう、ということはデビモンが最期に言っていたような暗黒の力を持つ敵がわんさかいる所なのだろうか。
 光子郎の質問に答えると、他のみんなも次々に目の前の老人もといゲンナイに思い思いに疑問を投げかける。


「ゲンナイさんはいつからそこにいるの?」

「儂は最初からこの世界におる」

「おじいさんがあたし達をここに呼んだの?」

「儂じゃない」

「じゃあ誰が?」

「それは〜……」


 ミミの質問に答えようとするが、ゲンナイの声がだんだん小さくなっていく。
 もしかして……嫌な予感。


「知らん!」

「ええええ〜〜〜〜っ!」


 嬉しくない回答を堂々と言うゲンナイにみんなは声を上げる。吉本なら全員転んでいた。
 ジイちゃん随分お歳を召しているとお見受けするが、まさかボケてるんじゃないだろうな!


「じゃあボク達、どうすれば元の世界に帰ることができるか知ってる?」

「それも……知らん」


 タケルの質問にもあっさりと頼りない返事を返す。
 頼りになるならないというより、意味深げに登場しておきながら部外者並だ。色々テキトーすぎるよ。


「なんだよ頼りになんねー爺さんだな!」

「じゃが儂はお前達を頼りにしとるぞ」

「ええ〜……」

「いや、その理屈はおかしい」


 肩透かしだと脱力する私達を置いて、ここにいる全員を見渡し満足気にひとり頷くゲンナイ。
 頼りにはならないが、恐らくこちら側の仲間なのは違いないのだろう。多分。メイビー。願わくば。


「サーバ大陸に来て敵を倒してくれ。選ばれし子供達ならできるはずじゃ」

「来いと言われても場所が分かりません」

「それもそうじゃなぁ。今お前のパソコンに地図を送ってやろう」

「えっ?」


 光子郎が驚いて背負っているパソコンを見る。 飄々と凄い事をやってのけるゲンナイはやはり重大な事を知っているに違いない。と思いたい。
 うむ、と自己完結しているゲンナイに対し、丈は眉を下げる。


「でもデビモンより強い敵を倒すなんて出来るはずないよ!」

「いや、お前たちのデジモンがもう一段階進化すればそれも可能じゃ」

「もう一段階?」

「ボク達がもっと進化する?」

「その為にはこれが必要じゃ」


 そう言うとゲンナイの姿が消え、代わりに小さな金色の何かにネックレスのように紐がついているものが現れた。
 これがあれば進化できるのか。
 だが、もう一段階の前にインプモンはまずみんなと同じように1つの進化ができないと。私達は先が長いなぁ。


「タグに紋章をはめ込めばデジモンは更なる進化ができるのじゃ」

「そのタグと紋章はどこにあるんです?」

「さあ〜……紋章はサーバ大陸のあちこちに散蒔かれてしまったのじゃ。それにタグはデビモンがまとめてどこかに封印……」


 紋章はサーバ大陸だが、デビモンの名が出てくるということはタグはファイル島にあるんだろうか。
 と、言葉の途中でゲンナイの姿が雑音と共に乱れはじめる。


「ああ、いかん……で……が……あああ…………」

「なんだって?」

「お前……消えるのか……?」


 急に強いノイズが入りブツン、と電源が切れるように突然ゲンナイの姿ごと光は消えてしまった。
 最後はほとんど何を言っているのか聞き取れなかったが、色々大事そうなことは一応聞けたのでいいだろう。頼ると言ってきた以上、きっとまた私達とコンタクトをとってくるはずだ。


「消えた!」

「なんだったの?今の」

「やっぱりオバケなんじゃね?」

「うそ、違うんじゃなかったの!?」


 ガーン!とショックを受けているミミの横で、光子郎が急いでパソコンを立ち上げると早速今のことを確かめた。


「地図は無事届いたみたいです」

「ついでにこれより宇宙のパワーを送ります。はあああああああああ」

「いえそれは結構です」


 なんでや!と私が騒ぐ横で、さてと。と空が全員に問いかける。
 ゲンナイが言ったことは今は置いておくとして、先にデビモンとの戦いでみんな疲れきっているのだ。疲れを取り傷を癒すことの方が先決だろう。


「これからどうする?」

「とにかく疲れた!腹も減ったしみんな休もう!」

「そうだな!とりあえず山を降りよう。まず何か食って、決めるのはそれからだ!」










 ムゲンマウンテンを降りると既に辺りは暗くなり空の星々が瞬き出す時間になっていた。深い紺色に流れ星が映える。
 そんな夜空の下、私達選ばれし子供一行は滝の傍で焚き火を囲みながら晩御飯。
 森で採った果物や滝で釣った魚を食べ終わり、一息つく。


「食った食った〜!」

「ふふっ!やっと落ち着いたわね〜」

「腹いっぱいなったら眠うなってきよりましたなあ」

「今日はみんな頑張ったからね〜早く寝るといいよ!」


 私達も疲れているが、実際に戦うデジモン達の方はもっと疲れているはず。いっぱい食べていっぱい寝てもらおう。

 みんなが賑やかに食事をしているその少しはずれの滝壺のある泉。その水面の傍で、ひとりタケルは真剣な眼差しをしながらデジタマを大事そうに撫でていた。
 仲の良い友達だったのだ、とても寂しいのだろう。それを見たヤマトがタケルに近付き声をかける。


「タケル」

「ううん。ぼくのデジタマも早く孵って大きくなるといいなあって」

「お前のデジモンもまたすぐにあいつらの仲間に入るさ」

「うん!そうだね!」


 ヤマトが優しくぽん、とタケルの頭を撫でる。タケルの真剣な表情がいつものような無邪気な笑みに変わった。
 今回の戦闘でどこかタケルが大人びて見えるのはきっと成長したからなんだろうな……。しみじみ。
 大体みんな夕食を食べ終わると一息ついて太一が話をふる。


「さって!飯も食ったしこれからのこと決めようぜ!」

「おう!ゲンナイ爺ちゃんは敵を倒してほしいってことだったね」

「それでサーバ大陸に来いって言ってたけど」

「この地図が正しいとすれば、ここからかなり離れているはずです」


 光子郎がパソコンに送られてきた地図を開く。
 覗いてみると、地図には真ん中に小さい孤島と左側に大陸の一部が載っている。あとは一面の広い海。一目見て分かるほどの広さはかなりの距離だということを示していた。


「あたし25メートルも泳げないんだもん。そんなの無理!」

「うーん……あ、船を探すとか!?」

「簡単に言うけど見つかるか?」


 ピョコモン達の村の近くの湖に大きい廃船はあったが、きちんと動く船はあるかわからない。船というものはこの世界にもあるんだろうが……。となると没。
 うーむ、とみんながみんな腕を組んで考え込む。


「行かなきゃいけないのか?この島からデビモンはいなくなった。黒い歯車も消えた。ほぼ一周したからどんな場所も大体分かる。水も食べ物も困らない」

「どういう意味?」


 難しい顔をしながら丈がつらつらと言葉を並べる。今現在の情報整理の言葉に空がぱちくりと目を開いた。
 おお、なんか丈が先輩っぽいぞ!


「だって、ゲンナイとかいう奴のこと簡単に信じていいのか?本当にサーバ大陸なんてあるのか?」

「おいなんだよ!ここにいても元の世界には戻れないんだぞ!」

「デビモンを倒すのも大変だった……でも更に強い敵が待ち受けてるのよね」

「そこは大丈夫でしょ!デジモン達だって段々強くなってるんだし!」


 以前に一日に何回も進化できるようになってきたのはデジモン達自身が強くなっているのではと空がそう意見した時のことを思い出す。レベルを上げて物理で殴れ、だ。
 ね!と笑顔で空の肩を叩くが、本人は不安そうに沈んだ顔をしたまま。
 パタン、とパソコンを閉じ光子郎が顔を上げる。


「でも、海の向こうの大陸にどうやって行くんです?」

「変なデジモンとかいるかもしんないし!」

「うん」

「もう少しここで様子を見てもいいかもな」


 光子郎の言葉に続いてミミも丈もヤマトも、次々に意見するのは保守的な案だった。
 太一も反対意見が大多数なことに、困ったようにみんなを見渡した。


「なんだよ皆〜……」

「太一くんは行くのに賛成なんだ?」

「あったり前だろ!」

「ふむ」


 確かに、みんなの言う通りデビモンのいないこの島が平和になったというのは確実だ。
 ならず者は少なからずいるのだろうが最悪と言われたデビモン以上の脅威は今はいない。基本的には安全だろう。
 だが太一の意見の通り、ファイル島に留まってもそれはただの現状維持で状況は変わらないのだ。
 とっくに人間の助けが来ないことも分かっている。
 危険は伴うがゲンナイの言うようにサーバ大陸へと行って敵と戦えば、恐らく私達は元の世界へ帰れる。

 つまり、安全をとるか、希望をとるか。

 そして余談だが、みんなには申し訳ないが昔から毎年通信簿に念入りに書かれるほど、私は集団行動が苦手なタチだ。とても今更なことだけど!


「私は行くよ!」

「は、って……」

「みんな無理して行くことないよ。残る組と進む組、2手に分かれるのもいいんじゃない?私は行く。一人でも行くよ」

「ええっ!?」


 全員が目を見開いて私を射貫く。
 どちらの意見もよく分かるからこそ、私の口から自然に言葉が出た。

 私は譲れない。それは私の勝手な欲からだ。欲張りで嫌らしい私はそれを求めて譲らない。
 この目で確かめたいんだ。この世界のこともデジモンのことも選ばれし子供達、自分のことも。
 私のお世辞にも賢くない頭では、この世界の何もかもが謎だらけでさっぱりわからないし解けるとも思わないが、それでも一つだけ分かること。


「私達はこの世界を救うために来たんだ。ここで終わっていいのか?んなわけねーだろ、私の終わりは私が決める!筏でも作って意地でも行くさ!」

「灯緒……」

「でも……一人は流石に無茶だ」

「危険すぎるわ……!」

「まさか本当にお前一人って訳じゃねーよな」


 私の勢いに押されみんなが言葉に詰まる。
 するとムスっとした不機嫌そうな声が聞こえ声の主へ振り返ると、そんな声とは裏腹に不敵な笑みを浮かべていた。
 さすが私のパートナー、インプモンさんやでェ……。


「お前かませ臭凄いからな。仕方ねぇから終わらねーように見張っといてやるよ」

「インプモン、素直に一緒に行くって言ってもいいのよ?ツンデレかよ今時はやらな」

「ここで終わりたいならそう言えよオラァ!」

「めんごアイタタタタ!ギブギブ!」

「ダメだよ!」


 顔を真っ赤にしたインプモンに四の字固めをお見舞いされていると、幼い声が響いた。
 咄嗟に上げた声の主は、泉の側に佇んでいる。真剣な眼差しをしてデジタマを抱きかかえている小さな影。タケルだ。
 ようやくタケルの瞳とみんなの瞳が交差する。ずっと離れた所で黙って話を聞いていたタケルが口にしたのは、希望の道。


「それは嫌だよ!バラバラになるなんて……みんなで行こうよ!」

「タケル!」

「どんな敵が待ってるか分からないけど、みんなでやってみようよ!きっとエンジェモンもそう言うと思うんだ」


 タケルの瞳に涙はなかった。
 少し顔を伏せエンジェモンの名を口にしながらデジタマを優しく撫でる。
 そして再び顔を上げても瞳の覚悟を決めた力強さは消えない。


「だから、ぼく!」


 再度タケルはその大きな瞳でみんなを見つめた。
 これまでの旅でのタケルはみんなの後で守られながら言う通りに行動し、そして泣いていた。
 だが今はどうだろうか。
 デビモンと対峙し、パタモンはエンジェモンに無事進化、そして消えデジタマに戻った。
 怒涛の試練の中タケルはもう後ろから付いていくだけの存在ではなくなったのだ。強く成長したその姿は小柄なのに大きく見えた。
 タケルの決意を込めた言葉がみんなの胸をうつ。


「ボク達も行くよ!タグと紋章があれば更に進化できるんでしょ!そうしたらきっと太一達を守ることが出来ると思う!」

「アグモン!」


 言葉を挟まず見守っていたデジモン達もタケルによって心が決まったようだ。
 ドン、と自身の胸を叩くアグモンの頼もしい言葉に太一が笑う。


「空、行きましょ!」

「なんとかなりますって!ね?」

「サーバ大陸にはアタシより綺麗な花はないだろうけどさ〜!」

「オイラは泳いで海を渡れるしね!」

「ヤマト!行こうよ!」


 次々に勢い良く声を上げ、みんな自分のパートナーの顔を覗き込んで笑顔を見せる。励ますデジモン達にみんなが一斉に表情を変えた。
 そうだ。パートナーが、みんながいるじゃないか。
 傍にいて、守ってくれて、共に戦ってくれる仲間がいれば恐れるものは何もない。
 これからも同じように共にあってくれるだろうと、その笑顔達を見て確信する。


「――行こう!」

「うん、行きましょう!」

「分かったよ!僕も行く!」

「皆が行くんなら、あたしも行く!」

「新大陸ですか!」

「よーし決まったな!一人でなんて行かせねぇぜ、灯緒!」


 ニッと太一が悪戯っぽく私に笑いかけた。
 完全に私の案は愚策だった。くっ、我ったら迂闊!
 それぞれが決意しみんなその場で立ち上がって円を作る。
 もう先程までの暗い表情は既になく、みんながみんな笑ってお互いの顔を見る。この先何があろうとみんながいればどんな困難でも乗り越えられると、そう確信した。

 ここにいる全員の絆を信じて、いざ。
 太一の掛け声に合わせて夜空へ片腕を突き上げた。


「頼もしいなあ!それじゃあ、改めまして〜!」

「サーバ大陸へ行こう!」

「おおーーーーっ!!!!」



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