digimon | ナノ

03 「敵襲か!?法螺貝を吹けー!」エンジェモン覚醒!

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 狡猾で残忍な、恐怖でファイル島を支配する最強最凶のデジモン。
 その在り方を今、目の当たりにする。


「デスクロウ!」


 ひとり立ちすくむタケルへデビモンの巨大な手が伸びる。
 あれに掴まれてしまったら本当に終わりだ。
 タケルも、この世界も、この旅も。

 涙が溜まる目を見開いて恐怖で動けないタケルの元へ、いち早くヤマトが走る。


「……あ、あああ……」

「逃げろ!タケルーッ!」


 ヤマトの悲痛な声にガルルモンが素早くデビモンの腕に飛び掛かり強く噛み付いた。
 デビモンが驚いた隙に次はグレイモンが足に噛み付き、バードラモンが視界を塞ぐように顔に飛び掛かる。今度は肩にカブテリモンが、もう片足にはイッカクモンが噛み付き、そして最腿にトゲモンがしがみついた。
 それぞれ既に戦える体力が残っていない。
 総力戦とも言えないくらいの、最後の足掻きだ。


「み、みんな!」


 デビモンがデジモン達を引き剥がそうと藻掻く。
 これだけしてもデビモンの動きを鈍らせるだけで、致命的なダメージには至っていない。


「っくたばり、損ない……共があああッ!」

「うわぁああああああああ!!!」


 デビモンが咆え波動を放つと、残った力を振り絞って必死にしがみついていたデジモン達は容易く吹き飛ばされれ地面に落ちた。
 地に伏し、それぞれが呻くように言葉を紡ぐ。


「す……すまない、太一……」

「元の世界に、戻してあげたかったけど……」

「もう、力が……」

「くっそぉー……!」


 痛みに苦しみながら横になっているみんなのデジモン。
 もうみんなは戦えない。もう私とタケルしかいないのだ。
 インプモンを見ると同じように私を見、そして頷いた。デビモンが標的としてタケルを狙っている今はこれしか方法がない。


「インプモン!」

「ああ!」

「灯緒さん!?」


 私とインプモンでタケルを庇うように前へ立ちはだかる。
 顔を顰めたデビモンが、インプモンに標的を移す。


「離れろこのデビデビざえもん!この子には指一本触れさせない!なぜなら!」

「オレ達が遮るからだ!」

「貴様等に興味など無い、どけ!」


 まだ進化は出来なくとも少なからず時間稼ぎはできる。本当にほんの少しでも、なんの意味が無いとしても。
 意を決しインプモンがデビモンの腕に飛びかかる。


「ナイトオブファイヤー!」

「タケルくん、早く逃げて!」

「壁にすらならん!」

「ぐっ!テメェ、だけは!」


 ちょこまかと軽いフットワークでデビモンの攻撃をかわす。しかし防戦一法で攻撃をしてもデビモンは全く動きを止めない。
 時間稼ぎの今はそれで良い。
 デビモンの一撃を掠めインプモンが顔を歪めても尚、タケルは後退りをするも未だその場に震える足で立っていた。


「で、でも……!」

「パタモン!タケルくんを連れて、うわ!」

「くそっ灯緒っ!」

「うぅ……!」


 デビモンが腕を振った際の風圧で思わず転んだ私を目の前に、それでも動かないタケル。
 伏せる私に涙をギリギリにまで溜めた目で駆け寄ってくる。

 そうだった。タケルはとても優しい子なんだ。それをこの場になって失念していた。
 簡単に逃げろと言われて、うん分かった、と仲間を置いて自分だけ逃げるような子じゃないのはこの旅で知ったことじゃないか。


「灯緒さん!大丈夫!?」

「タケルくん、生き延びるのさ!何がなんでも!走るんだ!」

「わっ!」


 タケルの腕を掴むとすぐ立ち上がり、一目散に駆け出す。
 その間なんとか時間稼ぎを頼んだぞ、インプモン!


「逃がさん!」

「そうはさせねぇ!」

「ボク、ボクは……」


 後ろでインプモンが足止めをし、私はタケルを出来るだけ遠くにと走る。
 その間パタモンはおろおろとタケルとデビモンを交互に見る。


「どうして、ボクは……!」

「雑魚が!」

「うわああ!?」


 パタモンがデビモンに向かい合った瞬間、インプモンが弾き飛ばされ地面に体を打ち付けた。
 私が声に振り返ると、デビモンがあの黒い光線を放つ。途端に私の体が岩の壁に飛ばされ押し付けられた。
 しまった、これをされると体が動かない!


「しまっ、た……!」

「灯緒さぁん!あっ……」

「タッタケル……ッ!」


 再びデビモンの手がタケルへ伸びる。他の子供達が倒れる中、ヤマトも地面に伏しながら弟の名を叫ぶが虚しく響くだけだった。
 もう、誰もタケルを助けに入れない。
 まさか、こんな所で終わりだなんて。


「……あ……!」

「エアショット!」


 パタモンが押し返そうと必死に空気弾をひたすら繰り出す。それはデビモンの手の中央に当たるがビクともせず全くダメージかない。
 少しも引かぬままゆっくりと手は迫ってくる。

 ――……終わらせない。


「エアショット!エアショット!」


 それでも全く変わらない。
 自分の弱さにぶわっとパタモンの目に涙が溢れる。まるで自分の存在がないように、無視してタケルへとデビモンの手は伸びていく。
 もう掴める直前まで手が迫った時、涙を散らし泣き叫びながらパタモンはタケルの元へ飛び込んだ。

 ――終わらせて、なるものか!


「パタモォーンッ!」

「タケルーッ!」


 デビモンの手が二人を覆う。

 ――どうか、奇跡が起こってくれ!


「タケルーッ!」

「あ、ああぁッ……!」


 直後、デビモンの指の隙間から光の線が現れる。
 デビモンは震えるような声を洩らし、タケル達を掴んだ手を放すと途端に漏れていた光が大きくなり、辺り一帯を照らし始める。
 突然のそれにその場にいた全員がその光に釘付けになった。
 だって、この光はいつだって助けてくれた、あの。


「あっ……!?」

「何!?」

「あれは……!」

「進化の光!」


 一層強く光が舞い上がる。
 奇跡のような、聖なる光が。


「パタモン進化!――エンジェモン!」


 凛とした声と共に聖なる光を帯びた天使が現れる。
 6つの翼に金色のロッドを持った凛々しい天使はパタモンが進化した姿。あの小さい姿からはとても想像はできない、奇跡のような進化。
 いや、きっと必然だったのだろう。


「パタモンが進化した……!」

「エンジェモン……?」

「タケルの、デジモンなのか……?」

「まるで天使……」


 あまりの神々しさにみんなが息をのんでエンジェモンを見上げる。
 同じようにエンジェモンの真下でタケルも進化したパートナーを見つめていた。あの自分のパートナーの成長に口が閉まらない様子で。


「パタモンが進化した……」


 恐ろしく強大な黒い悪魔と正反対に、光り輝く真っ白な天使。
 まるでこの時を待っていたようにさえ思える光景だと思った。
 目の前に突如君臨したエンジェモンにデビモンが心底忌々しいと言うように怒りを含めながら吐き捨てる。


「おのれ!もう少しだったのに……!」

「お前の暗黒の力、消し去ってくれる!」


 デビモンの目の前に浮かぶエンジェモンは高らかに声を上げ、その手のロッドを真上に掲げた。


「我が元に集まれ!聖なる力よ!」


 エンジェモンの声に呼応したのか全員のデジヴァイスが同時に光り出し、その聖なるデバイスの力が光の線となってエンジェモンの元へ集まっていく。
 何が起きるのかと皆が驚いて自分のデジヴァイスを見る。


「ああっ!?」

「な、何をする気だ!?」

「あぁ?ゴマモン!」


 それぞれのデジヴァイスの力がロッドへ送られるとイッカクモンはゴマモンに、アグモンもグレイモンにと進化していたデジモン達は元の姿に戻ってしまった。
 ここにきて、ようやくデビモンが余裕の無い表情で慌てだす。


「やめろ!そんなことをすればお前もただでは済まんぞ!」

「だが、こうするしかないのだ」


 デビモンの言葉に、エンジェモンは強く言い聞かせるような声音で返すとロッドを後ろへ振りかぶる形で構える。
 恐らくエンジェモンの通常の攻撃ではなく、全員分のデジヴァイスの膨大な聖なる力を使っての攻撃のためエンジェモンの体では耐え切れないのだろう。
 その覚悟を決めたことを云うに含む言葉にタケルがはっとする。


「例え我が身がどうなろうと!」

「エンジェモン!」

「デビモン。お前の暗黒の力は大きくなりすぎた……この世界から、消し去らねばならん!」

「させるかよォーッ!」


 と、ここで存在を忘れられていたオーガモンが空気を読まずデビモンの体から飛び出す。
 エンジェモンに向かって棍棒を振り下ろすが、それは軽々と黄金のロッドに弾かれる。
 そのまま体の反対側に飛び出し、オーガモンはどこかへ飛んでいってしまった。やっぱりあいつはどこか憎めないなぁ。


「ぐぁッははァ!失礼しまああああっす!」

「あいつがいると空気が和むな」

「それはねーよ」

「しまった!」


 デビモンが隙を見せたその間、手のロッドは吸収されて消えエンジェモンの右の拳に全ての力が集まり右手が黄金に輝きだす。
 きっとあの一撃であの暗黒の力を消し去れるほどの聖なる力が凝縮されているのだろう。


「エンジェモン!」


 あれを食らってはおしまいだと、させまいと咄嗟にデビモンが両手でエンジェモンを潰そうと手を伸ばす。
 タケルの呼び声にようやくエンジェモンが小さく呟いた。


「すまない、タケル」

「……!」

「潰れてしまえッ!」

「――ヘブンズナックル!」


 デビモンの両手が迫り潰されそうになる直前にエンジェモンが黄金の拳をデビモンに放つ。
 凄まじいエネルギーと眩い光はデビモンの体の中心を貫通し、そのままずっと遠くの海の向こうまで光の線が伸びていく。膨大なエネルギーの影響か辺り一帯をその眩い聖なる光が包み込み真っ白に変わった。
 トンネル(物理)を抜ければ以下省略。


「――愚か、愚かだぞエンジェモン。こんなところで力を使い果たしてどうする」


 目が痛くなるほどの光の中、デビモンとエンジェモンが粒子になりながら空中に溶けるように消えていく。
 デビモンは聖なる力に敗れ、エンジェモンは限界を超えたのだ。


「暗黒の力が広がっているのはこのファイル島だけではない。海の向こうには私以上に強力な暗黒の力を持ったデジモンも存在するのだぞ!」


 そう忠告するデビモンは開き直って可笑しそうに笑い声を上げた。
 最後の悪足掻きか、私達にとって不吉な言葉ばかりを残してデビモンは笑い声を響かせながら姿を消した。


「おしまいだよ、お前達は……はっはっはっはっは――――……」

「……エンジェモン……」


 デビモンが完全に消え、同じくエンジェモンが消える最中タケルのか細い声が耳に届く。
 目を潤ませてこちらを見上げる守るべき人に、エンジェモンは優しく笑いかけた。


「タケル、きっとまた逢える。君が望むなら」


 そう消える間際に言い残すと、エンジェモンは白い羽根を散らし姿を消した。
 途端にタケルの目から積を切ってありったけの涙が溢れ出る。


「エンジェモォォォォォン!!」


 タケルの泣き叫ぶ声が島全体に響いた。
 声が反響する中ゆっくりと辺りを包んでいた光が消えていく。

 一人両手を地面につき俯くタケルの前にエンジェモンが残した羽根がふわりふわりと舞いながら集まり、そしてそれが光ったと思えば形を変えた。


「……あ……」


 タケルが涙で濡れ瞳目を開けると、目の前には黄色い縞模様の卵があった。
 呆然と卵を見つめていると、いつの間にかみんながタケルの元に集まってきていて同じように卵を見る。


「……デジタマや」

「エンジェモン……なの?」

「エンジェモンはもう一度タマゴからやり直すんだ」

「そうそう。ちゃんと進化すればまた会えるわよ」

「良かったね、タケルくん」


 と言うことはエンジェモンはいなくなってしまったが死んでしまったという訳ではなく転生をしたらしい。
 それなら本当に良かった。しばらくは会えないが二度とではない。
 大丈夫だと励ますデジモン達の声にタケルは涙を止め、両手でぎゅっとデジタマを抱きしめた。


「……大切に育てるからね」


 タケルの決意をみんなで見届けていると、ゴゴゴと地面が揺れたと思うと遠くに見える元ファイル島の島々がこちらに向かって動き出していた。島が元にのファイル島に戻ろうとしているのだ。
 ということはこの島からは暗黒の力は消え平和になったということか。この島だけは、だが。


「……あ、見て!島が戻ってくる!」

「この島を覆っていた暗黒の力が無くなったんです!」

「これでもう島は大丈夫だね!」

「でも、海の向こうにも強力な暗黒の力を持ったデジモンがいるって言ってたな」


 海の様子を眺めていると真剣なヤマトの言葉に、またみんな沈んだ表情に後戻りをする。
 そうだった、デビモンは私は四天王の中でも最弱……発言をしていたんだ。
 つまり、この先まだまだ戦うべき相手がこの世界のどこかにわんさかいるというらい。
 俺達の冒険はここからだ!ご愛読ありがとうございました!


「元の世界に戻れるかと思ったのに……」

「まだ戦わなきゃいけないの?もうイヤ……」

「だけど、やるしかないんだ。どんな相手だろうと」

「そうさ!でも今だけは全員が無事っだったことを喜ぼう!」

「ああ、そうだな!」


 ガックシと肩を落す丈とミミに太一が力強く返す。意気込むのもいいが今はこの喜びに浸りたいなぁ〜。
 すると、バキィン!と突然大きな音をたてて地面が割れる。その地面の割れ目から何やらよく分からない平べったい機械が現れた。


「なっなんだぁ!?」

「敵襲か!?法螺貝を吹けー!」


 もう次の敵か!?その台状の機械は光を上へ放ちその光の中に人影を映し出した。まるでSF映画に登場するホログラムの立体映像だ。
 そして、そこに映し出された人影からノイズ混じりの声が響く。それはゆっくりと落ち着いた老人の声だった。


「これが選ばれし子供達か」

「ま、まさかコイツ……?」



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