02 「巨大化はフラグ……だよね?」エンジェモン覚醒!
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バラバラになった島からファイル島の中心部のムゲンマウンテンへ向かう為、レオモンに用意してもらった小舟に全員で乗り込んだ。
レオモンに舟を漕いでもらい波に揺られながら徐々に近づいてくるムゲンマウンテンを目の前に、緊張が増していく。デビモンの存在か、空気も重さを感じさせる。
全員が前方を言葉数少なくじっと見つめる中、パタモンを抱えながらタケルが小さく口を開いた。
「……ねぇ、灯緒さんは……灯緒さんは怖くないの?」
「タケル……」
想いを絞りだすように、たどたどしく、弱々しく呟いたタケルの言葉に、パタモンが今にも泣きそうな顔に変える。
はじまりの街ではあんなに楽しそうな笑顔をしていた2人。喧嘩はしたくないと、戦いたくないと言っていたのに結局はこうなってしまった。
タケルは誰も争って傷付いてほしくない。パタモンはタケルを守る力が欲しい。どちらも優しいだけなのだ。
「灯緒さんと僕達だけまだ進化できないし……弱いままで……きっとデビモンなんてどうにもできないよ……」
「怖いよ」
ぱちくり、という擬音そのままの顔を私に向ける。
予想しなかったというような表情だが、実際あんな人間でも動物でもない謎の生き物を前に大の大人でも全く怖くないという人はいないだろう。ここにいる皆もきっと怖いという思いを抱えている。
強がりなんだ。ただの。
「ほ、本当?」
「エラバレシコドモタチ、ウソツカナイ!怖いけど、勝敗はやってみないとわからない。それに」
無謀な私なんかに付き合ってくれる仲間がいる。それだけでも随分と安心できるものだ。
そして信じたいんだ、仲間という武器を。
それはデビモンの野望なんかに負けないということを。
「もしかしたら奇跡だって起こせるかもしれないよ」
仲間を信じ希望を捨てなければ、力は無限大なのだ。
小舟を降り、レオモンを先頭にムゲンマウンテンのでこぼこの山道を登る。
すると急にムゲンマウンテンの頂上に黒い歯車が集まりはじめた。突然、辺りの様子が急変し空の色が暗く変わる。
「な……なんだ……!?」
「きゃあああああああ!何、あれっ……!?」
「巨大化はフラグ……だよね?」
地面が激しく揺れムゲンマウンテンの頂上を見上げると、頂上の神殿のような建物が建つ場所から巨大化したデビモンの姿が現れた。
激しい音を上げ山を崩しながら数十倍にも大きくなったデビモンが翼を広げる。
まるで山と見間違う程の、あまりの巨大さに、全員が目を見開いて狼狽える。
いやいやいや。あらあらお宅の子ちょっと見ない間にすっかり大きくなってっちゃって。ってレベルじゃねーぞ!
「デビモンなのか!?」
「なんであんなに大きいのよ!?」
「幻覚とかじゃないですか?前みたいに……!」
「いや、あれは暗黒の力で巨大化しているのだ……!」
「来る!」
流石に予想外だったのか、レオモンも冷や汗をかきながら頭上の巨体を見上げる。
そんな私達はいざ知らず、巨大な黒い翼を広げデビモンが頂上から飛び立つ。その様子を見る限り、巨大になった分、全体的に動きは鈍くなったようだ。創作物ではよく見るパターンではあるが、それにしても巨大すぎる。
まるで地震のような地響きを起こしながらデビモンは私達の眼下の木立へ降り立った。
「アグモン、進化だ!」
「うん!」
頷いた途端、デビモンがこちらへ振り向いたその風で私達全員が飛ばされる。
奴のほんの少しの動きがこれ程までに私達を翻弄する。
「うわああああああ!!」
「灯緒!っく……!」
体勢を崩しふらついている私達に対し容赦なくデビモンは手のひらから黒い光線を放った。光線は私達全員を包み込み、暗黒の力が体を押し潰す。
そこかしこから悲鳴が上がり、私を庇うインプモンも苦しそうに顔を歪めた。
「うわあああああ!」
「デビモンッ!……ぐぉああ!」
攻撃中の隙を狙っていち早くレオモンがデビモンに向かって構えるが、デビモンのひと振りにいとも容易く吹き飛ばされる。
「愚かな!お前達は全てここで滅びる運命だ!」
デビモンの言葉が重くのしかかる。
あまりにもデビモンと私達の力の差が歴然としていた。
「ハープーンバルカン!」
「ぬぉっ!?」
突然デビモンの無防備だった背中に見覚えのあるミサイルが炸裂する。
不意をつかれたデビモンが驚いて振り返ると、眼下の森の中にイッカクモンがいた。
その隣でパートナーの活躍に嬉しそうに腕を振り上げる最年長の姿を発見する。元気そうで何より!
「イッカクモンと丈くん!」
「やったぞ、イッカクモン!」
「メテオウイング!」
「ぐぁぁ!」
イッカクモンの方へ気を取られていたデビモンが、今度はどこからか舞い踊ったバードラモンの必殺技の無数の炎弾をその大きな標的にまともに浴びる。
その攻撃でデビモンが黒い閃光を放っていた手が消え、ようやくみんなが解放された。よし、これで自由に動ける!
「インプモン、ありがと!もう大丈夫だよ」
「ああ」
「タケルくんパタモンこっち!」
「灯緒さん!」
攻撃を庇ってくれたインプモンに礼を言うと急いでタケルの手を引いて岩陰に避難する。
ここから更に戦いが激しくなると予想して、タケルは安全な所にいてもらおう。
「みんなぁーっ!」
「空ちゃん!ありがと〜!」
あの聞き慣れた落ち着く声がする方へ顔を上げると空がこちらへ走ってくる所だ。
これでやっと選ばれし子供が全員揃った!これで勇気100倍!灯緒パンマン!
「今のうちに進化よー!」
「アグモン!」
「わかった!行くぞ、みんな!」
「うん!」
またあの身動きがとれなくなる光線をくり出される前に早く進化しないとまずい。
急いでみんな一斉に頷づくとデジヴァイスが光る。私とタケルを除いて。
「アグモン進化!――グレイモン!」
「行け!グレイモン!」
「ガブモン進化!――ガルルモン!」
「頼むぞ、ガルルモン!」
「テントモン進化!――カブテリモン!」
「お願いしますよ、カブテリモン!」
「パルモン進化!――トゲモン!」
「頑張って!トゲモン!」
進化できる全員が進化するとデビモンへ一斉に立ち向かう。
隙を見せないよう次々に必殺技を食らわしていく。袋叩きじゃー!
「みんな頑張ってくれ!」
「…………!」
「メガフレイム!」
「フォックスファイヤー!」
グレイモンの火炎弾が炸裂し、追い打ちをするようにガルルモンが青い炎を吐き出しながらそのままデビモンの腕に噛み付いた。
畳み掛けるように攻撃を続けるがどうもデビモンにダメージが届いているとは思えない。
「効いたか!?」
そう言った直後、デビモンがガルルモンが咬みついている方の腕を振り、振り払われたガルルモンがグレイモンに叩きつけられる。
両者共に衝突の大きいダメージに苦しそうに唸った。
「グレイモン!」
「ガルルモン!」
「そんな攻撃が私に効くと思っているのか!」
「メガブラスター!」
「チクチクバンバン!」
「無駄だ!」
グレイモンとガルルモンを相手している隙を狙ってカブテリモンとトゲモンが飛びかかる。
しかしそれもまた容易く弾かれる。カブテリモンは吹き飛ばされ、トゲモンは崖の下へ落とされてしまう。
「だああああ!」
「イヤぁ!トゲモン!」
「カブテリモン!」
ミミと光子郎の悲鳴が山に響く。
次々に返り討ちにあってしまう私達側の、選ばれし子供達のデジモン達。
デビモンがこれ程までに強いとは。やっぱり力の差がデカすぎる、このままじゃ……!
「クソ!オレだって、やってやる!」
「インプモン!」
「行くぞ!みんなやられちまったなら誰がやるんだ!」
「そうか……そうだね!」
私の隣にいたインプモンがデビモンに向って走りだす。
強くないからって、進化できないからって引っ込んでるのは臆病者のみすることだ!余りにも体の大きさも強さも違いすぎるが、やらないよりは断然いい!
「灯緒さん!インプモン!」
「背中だ、インプモン!」
「ナイトオブ――!」
インプモンが飛びかかるとインプモンに続いてレオモンもデビモンの背中へ飛び掛かる。
がら空きの背中を狙ったがまさかそんな事誰も予想もしていなかった。その狙った背中から、デビモンの体内からオーガモンが飛び出してきたのだ。
「甘いぜレオモン!チビ!」
「何っ!?」
「オーガモン!?」
予想外の事に驚きこちら側が固まる。
その隙にオーガモンが高笑いをしながら棍棒で殴りレオモンを地面に突き落とし、インプモンは弾き飛ばされた。
「ぐあっ!」
「背中が弱点とでも思ったかァ!?そうはいかねぇ!」
そう吐き捨てながら再び体内へ引っ込み地面へ叩き落とされたレオモンを追う。
巨大化したデビモンの体を自由に動き回れるのか、なんてデタラメな!
弾かれたインプモンを抱きとめる。
「インプモン大丈夫!?」
「な、何だアイツ……」
「オレはデビモン様とひとつになったのよ!もうてめぇなんかに負ける気はしねぇぜ!覇王拳!」
今までとは違う凄まじい威力の覇王拳は軽々とレオモンを森の奥まで吹き飛ばした。痛ましいライバルの姿に上機嫌に嗤う。
これがデビモンと融合した力、暗黒の力か。
「げっはははァ!」
「デビモンの力で勝って嬉しいのか……?」
インプモンがそう呟いた。色々な複雑な思いを込めた声色で。
そうこうしている内にバードラモンがデビモンに片手で鷲掴みにされてしまった。手から抜けだそうと藻掻くバードラモンにデビモンが不愉快そうに顔を顰める。
「バードラモン!」
「じたばたするな!」
デビモンが腕を振りかざしバードラモンをグレイモンに向かって投げる。2匹は衝突し、衝撃を受けた岩肌が砕けて雪崩を起こす。
痛みで中々立ち上がれずにその場で呻くばかりだ。
「あ、あああ……!」
「ハープーンバルカン!――うわぁっ!?」
「イッカクモン!?」
森の中からイッカクモンがミサイルを放つがデビモンはそれを軽がると片手で止め、そのまま片手で掴み上げられた。
そしてイッカクモンを今必殺技を放とうと構えていたカブテリモンに向かって投げつける。
「メガブラス――うわあああ!」
「うわあああッ!」
「カブテリモン!」
「そんな……みんな全然歯が立たないなんて!」
文字通り、進化をしたデジモン全員で相手をしても手も足もでない状況。
そして既にみんな深手を追ってしまった。これでは全く勝ち目がない。どうする、どうすれば……!
岩場の傍で震える声と涙が零れそうな瞳でタケルがデビモンを見上げる。1人無防備にいるタケルにデビモンが赤い目を向けるとにやりと笑った。
「最も小さき選ばれし子供よ。お前さえいなくなればもう恐れるものはないのだ!」
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