01 「せっかくだから私も加勢するぜ!」エンジェモン覚醒!
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「そういえばさ」
依然、はじまりの街の側の森の中。
私とインプモンは情けないお腹の虫を鳴らしながら草木をかき分け食料を探している。
自分達とはじまりの街で待っているタケルとパタモンの分も探すとなると、中々量が集まらない。いっそエレキモンのように魚を捕まえた方が早いかも知れないが、お腹が空いて力が出ないよボカァ。
「インプモンは進化しないの?私どんなのになるか滅茶苦茶楽しみにしてるんだ!ショウミーユアブレイブハート!」
「自分だけじゃ出来ねーし……そんなもん進化してみねーとわかんねぇよ」
「やっぱり?実は気になってて。進化の条件があったでしょ?体調が万全な時とパートナーが危険に晒された時」
今まで仲間達の進化を近くで見てきたことを思い出す。そう推測を立てた参謀の光子郎くんはおそらく正しい。
皆あれだけ格好良く進化したんだ、インプモンもそりゃあもう厨二全開のイケイケデジモンになるに違いない!俺の封印されし右目が疼くぜ……!
「それで私思うんだけど……」
「な、なんだよ……?」
――ゴクリ。
「私いちいち自ら危険に突っ込んでくから簡単に危険に晒された時っていうけど、その危険の度合いが皆よりずば抜けて高い気がするんだよね!」
「それな」
「あっさり塩味か!」
真顔で肯定された!本当にそうだったらどうするんだこれでフラグ立っちゃったよ。
タケルやパタモンみたいに焦ってもその時が来るまでどうしようもないとは分かってはいるが、やはり待ち遠しいものは待ち遠しい。
「何であれいつかは進化するんだ、進化して強くなってやる!」
「おうよ、その意気だ!俺達の冒険はこれからだ!って終わり文句じゃなくて!」
おお、珍しくインプモンが熱くなっている!もっと熱くなれよ!なるほどフラグじゃねーの。
「だからってお前あんま突っ込むんじゃねぇぞ、って言ったってお前には無駄か……」
「よくわかってんじゃねーか兄弟。試練ってやつだな!風来じゃない方の!」
「全く……。さっさとダンジョン突破しようぜ!」
さー気張って食べ物探すぞー!と意気込んだその直後、インプモンがピクリと耳を動かし私の服の裾を掴む。
こう人間より身体能力が高いところを見るとデジモンが羨ましい。
「おい灯緒、近くで声と地響き……戦っている音が聞こえるぞ」
「オッケー、急ごう!インプモン」
「こっちだ!」
おいおいこのタイミングでって嫌な予感しかしない。
タケル達の身に何かあったのかと思い、食べ物をその場に放ってはじまりの街へと駆け出した。
「最も小さき子供を――倒す!」
「レオモン!オーガモンも!」
「アイツらいつの間に!」
インプモンの後を追って森から抜けるとはじまりの街と森の間、そこで既に激しい戦いが繰り広げられていた。
そこにはいつ現れたのかまた敵と化しているレオモンとオーガモンがいた。
だがその内のレオモンは昨日見た時と違い、今は体が黒く染まり一回りほどの大きさに巨大化している。
その2匹の近くに太一とヤマトが倒れているパートナーデジモン達に駆け寄っていた。既に一戦交えた後らしくグレイモンもガルルモンも苦しそうに呻いている。
そんな状況には目もくれず、レオモンが物騒な言葉を吐きながらゆっくりとタケルへ近づいていく。
「タケル!」
「お兄ちゃん……!」
恐ろしさに足が竦んでその場から動けないタケル。一歩一歩迫ってくるレオモンに対抗しようとパタモンが構えた。
動けないガルルモンの傍でヤマトが叫ぶ。
「馬鹿、逃げろ!」
「エアショット!エアショット!エアショッ――うわあっ!」
空気弾を連射し必死に抵抗するも虚しくパタモンはレオモンに掴まれてしまい身動きがとれなくなる。締め付けられパタモンは苦しそうに呻くだけだ。
「パタモォーン!」
「うぅ……う〜!」
悲鳴を上げる二人に、私とインプモンは何ふり構わず飛び出した。
インプモンが人差し指を振りかざし炎をパタモンを掴んでいるレオモンの右腕にぶつける。その隙に私はタケルを庇うように立ちはだかった。
「真打登場!待たせたなブラザー!」
「ナイトオブファイヤー!」
「灯緒さん!インプモン!」
タケルは涙でいっぱいの瞳で私を見上げる。
全く、こんな小さい子を泣かせるなんて大人の風上にも置けねぇな!デジモンに大人も子供もよく知らんけど!
「ううん、僕は大丈夫!それよりパタモンが!」
インプモンの攻撃で力が緩まったレオモンの手からパタモンは開放された。
しかし力無くタケルの腕の中へ抱きとめられる。この様子ではパタモンは暫く戦うのは無理だろう。
「パタモン、大丈夫!?」
「タケルは……ボクが守らなきゃ……」
「パタモン!しっかりして!パタモォン!」
タケルが声をかけるがパタモンは反応する気力もなく目を閉じる。と、目の前のレオモンが再び剣を構えた。
と思えばその瞬間突如上空から知った声が響く。
「チクチクバンバ〜ン!」
「トゲモン!ということは……」
「太一さーん!」
「光子郎か!」
「光子郎くん、ミミちゃん!ナイスタイミングッ!」
空からの聞き慣れた声に顔を上げると、光子郎とミミがカブテリモンに乗ってこちらへ飛んできていた。
偶然にもこれで仲間の半数以上が集ったことになる。慌ただしい中の再会だがひと安心だ。
先に戦闘に加わったトゲモンは必殺技の棘飛ばしを叫びつつレオモンに体当たりをかましレオモンは地面に叩きつけられる。
棘が当たればなんでもチクチクバンバンなんだろうか、という無粋な疑問が場違いにも浮かぶ。細けえこたぁいいんだよ!
「聖なるデヴァイス、デジヴァイスを使うんです!」
「聖なるデヴァイス?」
「これよこれ!」
ミミが得意気にデジヴァイスとやらを見せる。
それは私達全員が持っている、デジモン達が進化をする時に光を放つあの小さい機械だった。
「聖なるデヴァイスには暗黒を消し去る力があるんです!」
「そういえば……!」
「邪悪消滅!か!」
はっと太一が思い出したように自分のデジヴァイスを手に取る。
おそらく私と思い出した事は同じだろう、昨夜のレオモンが正気を取り戻した際のデジヴァイスの光を思い出した。
あの突然の謎名言はそういう事か!
「よし、それなら!」
ヤマトとタケルにレオモンがゆっくり迫るその後ろを太一がデジヴァイスを握りながら堂々と歩いてくる。
突然の無謀とも言える行動にヤマトがぎょっとする。
「レオモン!お前の狙いは俺達なんだろ?俺を捕まえてみろよ!」
「太一?どういうつもりだ!」
「選ばれし子供達……倒す!」
「今だ!」
レオモンが向き直った瞬間、太一がデジヴァイスをレオモンに向けて構えた。
するとデジヴァイスの画面から眩い光が溢れだす。昨夜の光と同じだ!これならいける!
「うおおああああああああああッ!!」
「そうか、そういうことか!」
「せっかくだから私も加勢するぜ!」
デジヴァイスの光を真正面から浴び、レオモンが苦しそうに叫ぶ。呻くレオモンの背中から黒い歯車がゆっくりと出てきた。
それを見てヤマトも私もデジヴァイスをレオモンに向ける。更に増えた眩い光が辺を照らしレオモンが更に悲鳴を上げた。
「うおああああああッ!!――私は、私はあああ……ッ!!」
この流れはいける、と確信すると同時にそれを遠くから見ていたオーガモンが急にが焦りだす。
このままではまたレオモンが正気に戻って敵になってしまう、とこちらへ攻撃をしようと向き直った。しかしそれを近くにいた光子郎が阻止する。
「ま、まずい!ガキ共が……!」
「お前の相手は、こっちです!」
「メガブラスター!」
カブテリモンが放った電撃を真正面に喰らいオーガモンがまたおかしな悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。
同時にレオモンの叫びと重なる。
「ではあああッ!」
「うおあああああッ!」
叫びと共に沢山の黒い歯車がレオモンの体内から飛び出し、空中で粉々に砕け散る。
デジヴァイスからの光も徐々に収まりレオモンから暗黒の力が消えた事を悟る。
「やった!」
黒い歯車の力が消えたためか巨大化していたレオモンの体が元の大きさに戻った。がくりと地面に膝をつく。
強敵の巨大化はフラグだからね。肝に銘じておけ!
「聖なる力が勝った!」
「パタモン!もう大丈夫だよ!」
「ええぇ、冗談じゃねぇ……!俺1人であいつら全部に適うはずねぇだろ!」
「おうおう、1ヶ月鍛えて出直してきな!」
「短ぇ!」
4匹の成熟期デジモンが集まり、更に正気に戻ったレオモンと多勢になったこちら側。
それを見て冷や汗をかきながらこっそりオーガモンが逃げ出していくのを見送った。
「いつの頃からだったか……噂が流れ始めた」
さわさわという草木が爽やかな風に揺れる音と、レオモンの落ち着いた声がよく響く。
木陰に空と丈を除く全員がレオモンを囲むように腰を下ろし、静かに語る声に耳を傾る。
それは衝撃の真実であった。
「世界が暗黒の力に覆われた時、別の世界から選ばれし子供達がやってきて世界を救うというものだ。今のファイル島はまさに暗黒の力に覆われている……そこに、君達が現れた」
レオモンはそう語りながらゆっくりと私達を見渡す。全員が黙ってじっと真剣に聞いていた。
この噂というのはこのデジモンの世界の伝説かなにかだろうか、まるでお伽話みたいじゃないか。これがもしかすると事実であることを除いて。
一通り話が終わると一番に太一が呟く。
「それで俺達が選ばれし子供達……ってわけか」
「だけど証拠はないんだろ?」
「選ばれし子供達はデジモンを進化させる力を持つという。君達のようにな」
「となると私達と完全に一致、か」
世界を救うという大それた事はまだ未完なので置いておくとして、他の節は私達一行に一致するのでほぼ間違いないだろう。
ということは、と光子郎が何か考え込み独り言のように言う。
隣に座っているミミは意味がわからず眉を下げた。
「……もし、そうだとしたら……暗黒の力を消滅させれば僕達はこの世界にとって不必要なものとなる」
「何言ってんの?光子朗くん」
「つまり、元の世界に戻れるかもしれないって事ですよ」
要は連れて来られた理由の使命を完遂すればいいのだ。簡単な事じゃないか!
光子郎の戻れるという嬉しい言葉を聞いた途端、ミミはぱあっと笑顔を作る。
「本当に!?」
「だがその為には……」
ヤマトは振り返り遠く後に高くそびえるムゲンマウンテンを見上げる。それにみんなも続いてムゲンマウンテンを振り返る。
あの禍々しい山の頂上に待ち構えているであろうデビモンの姿を思い出す。
「――暗黒の力の中心にいるデビモンを倒さなければならない」
そのレオモンの言葉にみんながムゲンマウンテンを見つめながら静かになる。
あの恐ろしい最凶最悪のデビモンに立ち向かわねばならない。
いや、ならないではなく、すべきなんだ。
「それは私達選ばれし子供達しかできないんだろ?なら、やってやろうじゃないか!」
私達が元の世界へ帰るための道はあそこにある。
だがそれと同時にここに住む君達の、デジモン達の世界がかかっているのだ。
私達がやらなきゃデジモン達の世界はどうなる。破滅への道をただ歩むだけなんだろう。そんなことあっていいものか!
「灯緒……」
「今まで助けてくれたデジモンも、前に立ち塞がったデジモンも、何よりいつも傍にいてくれる私達のパートナー達が笑顔で過ごせる明日を。世界を救うってそういうことだろ?」
な、とインプモンの頭を撫でる。なんてアホ面晒してやがんだ。
偶然でもこのメンバーの私達が選ばれたことには変わりない。
選ばれた理由がなんであれ、私達は世界を救うと云われる選ばれし子供達なんだ。
「その為なら立ちはだかる暗黒とやらを倒すことに、なんの迷いがあるってんだ!」
「灯緒、お前本当に啖呵切るのだけは上手いよな」
「私の必殺技だからな!」
立ち上がってムゲンマウンテンに向かってシャドーボクシングのようにパンチをくりだす。
本当は自分を奮い立たせようと大声を張っただけだ。怖くない、私はいける!
悪態をつきながらインプモンも同じく立ち上がりムゲンマウンテンに向き直る。
不敵な笑みを見せるペアに、太一も表情を笑みに変えて立ち上がった。
「……そうだな!やろうぜ、みんな!アイツを倒さなきゃ俺達は生き延びることは出来ないんだ!」
「そうですね、それに僕達には聖なるデヴァイスもあるし!」
「ミミも頑張る!怖いけどお家に帰りたいし!」
「アタシ達も頑張るわ、ミミ!」
決意を次々に口にし立ち上がる選ばれし子供達。
そんな私達を見てデジモン達も決意を新たに意気込んだ。
目を輝かせて自分のパートナーに笑いかける。
「体力も回復したことやしな!」
「いつでも戦闘オッケーだよ!」
「行こうよヤマト!ムゲンマウンテンに!」
「……そうだな、やるしかないな」
「…………」
湧き立つ私達を遠目にひとり、タケルはじっと私達と決意したヤマトを見つめる。きっと不安なのだろう。
意見が一致した所でレオモンが声をかける。
「私も協力しよう」
「旅は道連れ夜は情け、よろしくレオモン!」
「ああ、共に征こう」
強く頷いてくれるその声はとても心強い。
デビモンが己の仲間に加えようとしたのもきっと脅威になると懸念したからだ。流石は正義のデジモン!
新たな仲間が加わり、太一が勢い良く腕を突き上げた。
「よーし!決まりだ!」
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