03 ――いざ!決戦のバトルフィールドへ!冒険!パタモンと僕
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「東〜エレキのぉ〜海ぃ〜」
ぽんぽん、と回しを締めたエレキモンがお腹を叩く。布に描かれた電球マークがよく似合っている。
「西〜パタぁ〜のぉ〜山ぁ〜」
向かい合うパタモンも、同じようにお腹を叩いて音を鳴らす。ふん、と気合十分な様子だ。
「両者ぁ!見合って見合って〜……!」
そう、これはあの伝統的日本国技。
――いざ!決戦のバトルフィールドへ!
「はっけよーい!のこったぁー!」
タケルが軍配を上に上げると同時にパタモンとエレキモンの真剣勝負が始まった。
普通の相撲と違い、真ん中の一本の綱の両端を咥えて引っ張り合うなんとも平和的力比べ勝負方法。タケルくんナイスアイデア!
「ぐうぅ〜!」
「うんーッ!」
「のこったのこったぁー!」
(なんでオレがこんなことをー!)
(負けてたまるかーッ!)
「いけいけー!二人共いい勝負だぞ!負けるな〜!」
二匹の勝負を前にして完全に観戦しているただの客と化している私。誰か幕の内弁当買ってきて〜!
「のこったのこったぁ!」
「うううーッ!」
「う………うう〜っ!」
一瞬エレキモンの力が上回りパタモンが前足をばたつかせるが、すぐに体制を立て直し唸り声と共に力を込める。
その力がほぼ同等だったエレキモンを上回った。
「う!?うわああああ!?」
パタモンに強く引っ張られたエレキモンが縄と共に宙に投げ出され、始まりの町のオブジェの大きなサイコロクッションを横から突き破ってしまった。
土俵から出るどころか完全勝利だ。エレキモン、無茶しやがって……!
「ぶわぁ!」
「パタの山の勝ちぃー!」
「わぁーい!勝ったぁーッ!」
「パタの山おめでとう!お前がNO.1だ!」
「えへへ、灯緒ありがとー!」
軍配がパタモン側に上がると満面の笑みで万歳をするパタモン。
体格ではエレキモンの方が勝っていたとはいえ、純粋な力だけの勝負に勝つとは素直に凄いと思う。拍手を贈ろう!盛大(一人)にな!
「まあまあやるじゃねーか」
「なぁに、じゃあ次インプモンやる?ボクはいいよ!」
「誰がやるかよ!」
「あ、あはは……」
自信をつけたパタモンはやる気満々でインプモンを誘うが即お断りされた。
インプモン回し似合いそうだな、今度こっそり付けてやろう。むふふ。
そこで高く飛ばされたエレキモンが帰ってきた。
「どう?もう一回やる?君の気が済むまで何度でもやっていいよ!」
「へッ!見損なうな、負けは負けだ!」
ふふん、とパタモンは余裕の表情でエレキモンに視線を送る。クッションの中の羽まみれになったエレキモンは今度という今度はすんなりと頷いた。
「はじまりの町へようこそ!歓迎するぜ!」
「おお!一件落着だね!」
ようやくエレキモンはニカッと眩しい笑顔でパタモンと握手を交わした。
うーん、これはいわゆる新たな友情が生まれた瞬間だね!青春してるね〜!
「灯緒達もすまねぇ、本当に悪かったな。ほら、ここんとこ変なことばっかり続いてんだろ?挙げ句の果てに島が割れちゃうし……疑り深くなってたんだ」
「このご時世じゃ仕方ないよ!全く最近の上のモンときたら」
「何の話?」
ポリポリと頬を掻いて申し訳無さそうに謝るエレキモン。
そうか、ファイル島に住んでいるデジモン達は訳がわからないまま島がバラバラになって現在に至るんだ。流石にこれには申し訳なくなるなぁ。
「ま、大人ぶってみたところでオレもまだまだガキだったってことだな!」
「子供の喧嘩ならいいよ。すぐ仲直りできるから」
「タケルくん?」
ははは!と爽やかに笑うエレキモン。それに対しタケルも気にしないで、と優しく言うがその表情が段々と雲っていく。
最後にぽつりと小さく呟いた。
「……でも、大人の喧嘩は……」
「……………」
大人の喧嘩ということはおそらく家庭内で何かあったのだろうか。
まだこんなに幼いのに、辛い思いを立派に耐えていると思うと悲しくなった。この年齢の時の私はどうだっただろうか、とまで考えて首を降る。
流石に家庭内の問題は私が口を出していい問題ではないから、せめてこの冒険中タケルくんを危険な目に合わせないよう最大限助けよう。それしかできないというのが本音だが、うん、それがいい!
「お前見かけによらず随分強ぇじゃねーか!」
「見かけって……体の大きさで判断してもらいたくないなぁ」
「ははっ、悪い悪い。本当にお前の言う通りだ!えーとなんだっけ……」
タケルが小さく呟いた言葉はエレキモンにもパタモンにも聞こえなかったらしい。
軽い調子で笑い合う。
「えー山椒は小粒でピリリと辛い……だったっけ?」
「三色スミレは小粒でピリリと辛い?君、三色スミレ食べたことあるの!?」
「こっちの世界に三色スミレあるの!?」
「……違ったかな?ま、いいかぁ!」
「あはははははは!」
気が付くと辺りは夕焼けのオレンジに包まれ、夕日を背に皆で笑い声を響かせた。
見よ、東方は赤く燃えている!西方だけど!
「しばらくこの町でゆーっくりしていくといい!もっともベビー達の世話でそうゆっくりも出来ないかな」
「うん!」
「ところで君はあの山に帰る方法を知らない?」
「あ、あの山って……」
話を変えてタケルが遠くに見える鋭く尖った高い山を指差した。その言葉にエレキモンはサーッと顔色を変えて振り返る。
「む、ムゲンマウンテン!?」
「そう」
「あの山に登る気か!?それだけはやめた方がいい!あそこにはデビモンが!」
「私達どうしてもデビモンとケジメつけなあかんのや兄貴」
「デビモンと!?」
先程まで豪快な笑顔を見せていたエレキモンが血相を変えてわたわたと狼狽え出す。その様子を見て、やはりデビモンはこのファイル島では恐怖の存在なのだと改めて実感する。
エレキモンが必死に訴えるがタケルは頑と引かない。
「そうなんだ!そのデジモンにお兄ちゃん達をどこにやったのか訊かないと」
「訊いて素直に教えてくれるような相手じゃないぜ!?なんたって凶悪なデジモンだからな……どうしても訊きたいっていうなら戦って倒すしかないな……」
「戦うのだけは、嫌だ!」
「嫌って言っても……」
ぎゅっと拳を握りしめるタケル。
あんな恐ろしいデジモンにでさえ戦いを避けなんとかしようとするとは、この子は優しい子だ。
だがタケルには申し訳ないがデビモンとは戦わなければいけない気がする。しかも私としてはインプモンが世話になった借りを返したいのが本音だ。
うーん、どうしよう気まずいな!
「何か方法があるはずだよ、戦わなくてもいい方法が」
「そんなのがあったら……」
「さっきの気持ち、思い出して」
強くしっかりとした口調のタケルに眉を下げるエレキモン。エレキモンも私達を心配してやめろと言っているのだ。
出会って間もない私達にその心遣いをしてくれるあたりエレキモンは本当に根がいいデジモンなのだ。その心遣いはとてもありがたいのだが、今はエレキモンの言うことには素直に頷けない。
同じく真剣な眼差しをしていたタケルは今度は変わってにこっと笑いかける。
「みんなで一緒に笑ったよね!」
「……うん」
「何かが起きる気がするんだ。僕達の心がひとつになった時」
「何かが……」
「起きる?」
タケルの言葉にパタモンとエレキモンは2人して頭の上にハテナを浮かべる。
エレキモンは何か考えていたかと思えばはっとして急に何処かへと駆け出した。
「っもしかしたら!」
「どこ行くの!?」
「ちょっくらギアサバンナまで!ピョコモン達の村があったろ?あいつらにも今の話をしてぇ!」
顔だけ振り返って叫ぶエレキモンのその顔は先程とは打って変わって明るく、目には希望が見えた。
まだ数日前の事なのにピョコモンの村も最早懐かしい。
「みんなの心がひとつになった時、バラバラになった島が元に戻る……ってな!」
「島が元通りに!?」
「予感だけど……オレはそう信じたい!」
エレキモンは真っ直ぐな空色の目をタケルに向ける。先程の恐怖を帯びた色は消えていた。
その表情にタケルとパタモンは嬉しそうに顔を見合わせる。
「うん!」
「じゃあな!」
「気を付けてねー!」
みんなでどんどん小さくなっていくエレキモンの影を見送っていると、隣から小さい虫の音が鳴ったのが耳に入る。
あ、と自分でも今更お腹が空いたことに気付いたような顔をするタケル。なんだかんだしていたら真っ赤な夕焼けが辺りを包む時間だ。
「日も暮れてきたし、ちょっくら私達食べ物探してくるか!」
「あ!僕達も行くよ!」
「いや、タケルとパタモンはここでベビー達見てて欲しいな。エレキモン行っちゃったし誰かが見てあげないと!」
そうそう、エレキモンここのベビー達の世話役で保護者じゃなかったのか!
思いついたら一直線タイプなんだろうか、ほったらかして行ってしまった。
仕方がない、この二人はベビー達の扱い上手そうだしベビー達を任せよう。それにはじまりの街は平和そうだからここならきっと安全だろうし。
「あ、そっか!そうだよね、灯緒さん気を付けてね〜!」
「すぐ戻るからね〜!」
二人に手を振りながらインプモンとはじまりの街を囲むすぐ側の森の中へと向かった。
「インプモンお手手繋いで歩きましょ〜ウフフ」
「何のために腕二本あんだよ自分で繋いでろ」
「斬新すぎるわ!」
一人で自分の両手繋いで何か楽しいんだよ、錬金術でもしろってのか!やめてくれないかニーサンをネタにするのは!私はインプモンのデレが見たいんだよ!
しかし困ったなあ。
「タケルくんはああ言うけど私としてはデビモン許すまじ!なんだよなあー!」
「エレキモンの言う通りあいつと話なんて十中八九無理だ。またあの手この手で汚え罠をしかけてくるぞ」
だろうなあ、とぼやきながら木の実をもぎ取る。
レオモンとかオーガモン……は違うだろうけどデジモンを操ってデビモン自身が直接来ないのが気に食わん。
そもそも黒い歯車だってあれも手当り次第適当にデジモンを操ってくんだから、一種の無差別テロだよあれは。
「インプモンのこともまだまだお礼参りし足りないしな!インプモンと、今まで操られてたデジモン達の分もきっちり返さないと!いやあ一発まぐれで決まった時は爽快だったな〜!」
「オ、オレの分はオレが自分で返す!余計なマネすんな!」
「私が好きでするんだから気にしないでいいんやで。あれれ〜?インプちゃん顔が赤いぞ〜?」
「うっうるさい!赤くねーし!」
「おっ良かった、インプモン元気出てきたな!」
「……べ、別に!」
昨日の今日だ。昨夜のあのカミングアウトを引きずってかどこか気まずそうに大人しかったからこっちもずっと気にかかっていた。……いやインプモンを気にかかっているのは前からか。
あれだけ気にするなと言ってるのにまだ何かあるのか、機密事項大杉くんやで。
「とにかく!そのためには早く皆と合流しないとな」
「おう、更にその前に腹ごしらえだ」
「よーしパパ、タケルくん達のために沢山デジタケ採っちゃうぞ〜」
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