digimon | ナノ

02 「俺だよワリオだよ!」冒険!パタモンと僕

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「なんだよ、よく見りゃ魚じゃないのか。びっくりさせるなよな!」

「どこをどう見れば私達が魚に見えたのか小一時間kwsk」


 大体ベッドに乗って流れてきた時点で気付いて欲しかったなぁ!いや、もしかするとこのデジモンはボケているのか……?こいつ、できる!
 そんなアホな私の心中をさておき、漁師デジモンは陸に降りて正座をしている私と偉そうに腕組みをするインプモンをじろじろと観察する。


「ふぅん。お前ら、ここらじゃ見ねぇ顔だな」

「そりゃそうだ、私なんて最近ファイル島に来たばっかりだしね」


 漁師デジモンは物珍しそうに遠慮なく主に私を見てくる。
 見ねぇ顔というか、そもそもこの子は人間なんて見たことがないんじゃなかろうか。もしかするとデジモンと思ってるかもしれないが。


「へぇー最近にねぇ。何しに来たんだ?」

「真の己を見つけるための旅さ。人はみな心の旅人よ」

「何言ってんだお前」


 フフン、と渋い感じを出しながら言えばインプモンからブリザードを食らう。こんな時にまで容赦ないツンドラぶりに乾杯。
 しかし目の前の漁師デジモンは意外にもキラキラと目を輝かせた。


「真の……己……!なんかかっこいいな!」

「は、はあぁぁ?」


 ひとりインプモンが蚊帳の外で2人の頭の心配をする。そんなのは知らずに、テンションが一段と高くなった漁師デジモンと声高に盛り上がる。
 こいつもなかなか話の分かるいい奴じゃないか!


「だっしょ〜?話が分かるヤツだな、気に入ったぜダチ公!」

「おおともよ!旅か、いいな……まぁオレは旅は出来ねぇんだがよ」

「ほぅ、なんで出来ないの?」

「オレはこの近くにある町でベビー達の世話係をやってんだ。はじまりの町っていうところなんだが聞いたことあるか?そうそう、この魚もベビー達のメシさ。毎日大変なんだぜ」


 たずねると饒舌に話し出す漁師デジモン。
 その話を聞いてインプモンは腕を組みながら考え、それから小声で私に相槌をする。


「見えた建物ってのはそのはじまりの町だろうな、ここじゃ知っていて常識ってやつだ」

「なるへそ」


 へぇー、そんな有名な場所なのかぁ。
 それなら仲間の誰かがいる可能性もある。尚更行ってみる価値はありそうだ。
 私とインプモンが話すその間も話している漁師デジモンは何か閃いたようにぽん、と手のひらを叩いた。


「そうだ、お前ら気儘な旅なんだろ。行く宛て決まってねぇなら町に来ねぇか?お前らいいヤツそうだしな、ちょいとベビー達の世話を手伝ってほしいんだ。というよりこれだな」


 そう言いながら漁師デジモンが示したのは、大量の魚が入った山のようになっている網。
 確かにこの量の魚を一匹で運ぶのには大分時間がかかりそうだ。
 このくらいの手伝いなら全然構わないし、何よりはじまりの町までの道案内になる。良いことずくめだ。
 と、ふと細かいことが今更気になってエレキモンに訊ねてみる。


「そういや聞き損ねたけど、そのベビー達っていうのは?パパさんなの?」

「ああ、町は全てのデジモンが卵から孵る場所なんだ。だが最近急に卵が増えてな……あまりにもベビー達が多くてオレも世話でてんてこ舞いでよ」

「全てのデジモン?じゃあインプモンも君もそこで生まれたの?」

「オレはそうだぜ」

「……覚えてねぇ」


 誇らしく胸を張るエレキモンと思考して肩をすくめるインプモン。
 デジモンってそういう仕組みになっているのか……。つくづくデジモンってのは不思議な生き物だ。
 しかしベビー達か、最初に会った仲間のデジモン達みたいな小さくて可愛い奴かな。楽しみだ。


「よし、ぜひはじまりの町までお供しようじゃないか!」

「そうだな」

「決まりだな!おっと、自己紹介がまだだったな。オレはエレキモンってんだ。よろしくな!」

「私は灯緒で、こっちはインプモン。良しなに!」


 意気投合したところで、今更お互いに自己紹介と挨拶をする。『エレキ』モンか、そういや最初にバリバリーっと雷出してたな。
 エレキモンはニカッと人懐っこい笑みを浮かべながら大網を持って歩き出した。


「おう!よし、町はこっちだぜ!あっ魚少し持ってくれねぇか」

「イエッサー!」








 はじまりの町を目指して、大網いっぱいに入った魚を引きずりながらエレキモンが先頭を歩く。
 デジモンが二匹いるとはいえ、なかなかの重労働だ。あとエレキモンは平気らしいが私とインプモンは魚臭さに精神も鍛えられそうだ。


「ふぅー!大漁はいいが、運ぶのがしんどいぜー!」

「ふぇぇ……私は魚臭さが一番しんどいよぉ……」

「たった今お前のキモさが一番しんどく感じた」

「ははは、そんなモン慣れだ慣れ!」


 眩しい笑顔で汗を拭うエレキモンは完全に労働者の顔そのものである。
 なんて爽やか好青年イケメン系デジモンなんだ……!


「そら、そうこう言ってるうちにはじまりの町もすぐそこだぜ。……おや?」


 嬉しそうな顔で前方を示したエレキモン。
 そう言った瞬間急に険しい表情をして耳を立てた。同時にインプモンも何か探るべく黙る。


「ベビー達が泣いてる……」

「あぁ、泣き声が聞こえる」


 そう言う二匹を見て私も耳をすませると、微かに林の向こうからたくさんの泣き声のようなものが聞こえた。
 言われなきゃ全く分からないほどのかすかな音量だ。流石デジモンの身体能力。


「何かあったのか!?」

「あっ!」


 網を置いて急に走りだしたエレキモンに一足遅れて私とインプモンもその追う。
 木立の向こうに段々姿を現したファンシーな可愛らしい街並み。あれがはじまりの町らしい。


「おい、あれは……」

「え?」


 そんなカラフルな町の真ん中の小高い丘に見覚えのある影が2つあることに気付き、インプモンが呟いた。残念ながら私には影しか分からない。
 はじまりの町の入り口に差し掛かったエレキモンがその影を見て、戦闘態勢を構えた。


「あいつら何モンだ?いや、そんなことよりベビー達が危ないッ!」

「エレキモン!」










「てめぇらッ!」


 声を荒げて突進するエレキモンが向かう先にいるのはここ数日の旅で見慣れた小さな影、タケルとパタモンだった。
 大事な仲間とやっと会えたという感動の再会の場面だが、その前に今にも攻撃しそうなエレキモンを止めるべく叫ぶ。


「エレキモンちょっと待ったァ!異議あり!異議を申し立てる!」

「スパークリングサンダー!」


 制止を叫んだが時すでに遅し、荒げた声と同時にエレキモンは電撃をタケルとパタモンへ放った。
 瞬時にエレキモンの攻撃に気がついたパタモンが咄嗟にタケルの前へ飛び出す。


「危ない、タケルぅッ!」

「うわああああ!」


 エレキモンの攻撃をパタモンはタケルを庇い転がりながら間一髪で避ける。
 突然の襲来にタケルとパタモンは驚きながらもエレキモンを鋭く睨んだ。


「何するんだ!――ってアレ?灯緒さんとインプモン!」

「あっホントだ!」

「俺だよワリオだよ!」

「灯緒だっつってんだろ」


 飛び出していったエレキモンを追ってようやく私とインプモンが辿り付くとエレキモンを挟んでお互いの姿を確認する。
 慌ただしい中だが会えた喜びと安心に私達は顔を明るくした。特に最年少であるタケルは心配だったので余計だ。


「タケル、パタモン、会えて良かった!ねーちゃん心配したぞー!他の皆は一緒じゃないみたいだね」

「うん!僕達だけだよ。灯緒さん達も2人だけ?」

「おい、なんだァ?テメーら知り合いなのか?オレを無視すんなよな!」


 私とタケルが良かった良かったと笑っていると、すっかり蚊帳の外だったエレキモンがずかずかと歩いてきた。
 負けじとパタモンがエレキモンと対峙する。それを遠目に関心なさ気に見るインプモン。コイツ冷めてるなー。


「そうだよ君、いきなり攻撃なんて!危ないじゃないかぁ!」

「そりゃあ危ないさ!狙ってやったんだから!」

「どうしてそんなことするの!?」


 エレキモンは当然のことだと踏ん反り返るのに対し、タケルもパタモンも怒ったまま。そりゃそうだ、2人が何やら危ないことをするわけがないとは私はよく知っている。
 しかし初対面のエレキモンはそんなこと知ったことではない上に大事なベビー達を守るために正しい行動をしたのだ。
 それにしたって問答無用はどうかと思うけども。
 エレキモンは小さい赤ちゃんデジモンを2人から庇うように立つ。


「うちのベビー達を、可愛がってくれたからさ!」


 キリッと言ってみせるが、目の前の2人には意味が通じなかったらしく目をぱちくりさせた。
 可愛がるってお前は組織的な何かにでもいるのかエレキの兄貴ィ!


「……可愛がったけど、それのどこが悪いの?」

「ねぇ」

「チッチッチッ!これだから困る。可愛がるって言葉にはな、普通の可愛がるっていう意味の他に虐めるっていう意味もあるんだよ!」


 そりゃあそうだけども、さっきからエレキモンは言動がどことなくヤンキーっぽいな。ベビー達の兄貴分ではあるんだろうが。


「全然反対の意味なのに?変なの!」

「でも僕達虐めてなんかないよ?世話してただけ!」

「あ、これみんなタマゴと赤ちゃんか!君いい体してるね、ゲッターチームに入らない?」

「お前さあ……」


 近くにいた小さくて黒い赤ちゃんデジモンを触ってみる。私が触っても赤ちゃんデジモンはぽけーっとしていて抵抗もしない。何この子、ぽよぽよ柔らかくて気持ちいい!可愛い!
 私が赤ちゃんに夢中になっているとインプモンが呆れた顔であれはいいのかよ、と親指でタケル達とエレキモンを示す。ゆーて、エレキモンは良いデジモンだと分かってるし、ただファーストコンタクトが悪かっただけで仲良くなれると思うんだけどな。
 誤解を解こうとするがエレキモンも中々頑固でそれでは全く納得しないようだ。エレキモンは更に捻くれた言葉を投げかける。


「そうだ。言っとくがな、誰もおめぇらに世話頼んでねーぜ」


 ふん、と鼻をならしながらエレキモンはタケルとパタモンを睨みつけた。
 一々棘のある言い方に流石の二人もムッとした表情を露わにする。


「そんなこと言って……君はベビー達のなんだよ!」

「何って……保護者とか、世帯主、連帯保証人……」

「普通に保護者でいいだろ!」


 言い返せばエレキモンはどこか気まずそうに言葉を濁らせた。
 連帯保証人ってそんな概念デジモン界にもあるのかよ生々しいわ!


「そ、そんなことどうだっていいじゃねーか!このガキ!」

「っお前だってガキじゃないかぁ!」

「う……っく〜〜ッ!あったまキタぁーッ!」


 とうとうただの悪口の投げ合いになってしまった。
 先手を打って動いたエレキモンが叫ぶと共にジャンプしながら電撃を再び放つ。パタモンがそれを避けたと思えばエレキモンが直接掴みかかる。
 エレキモンも少し気が立っているだけで悪い奴じゃないし、リアルファイトはまずいだろ!


「痺れるぅう〜っ!」

「オレに触ると危ないぜ!」

「待ったストップ!いじめダメ絶対!」

「灯緒は黙ってな!」


 叫ぶパタモンにエレキモンが爽やかな決め台詞を放つ。直ぐ様パタモンが空気弾を放って反撃をする。
 リアルファイトがとどまることを知らない!


「エアショット!」

「くぅ〜ッ!」

「このぉ〜ッ!」

「インプモン」

「やだ」

「まだ何も言ってないのにお前!ナイトオブブリザード(物理)やめろよ!」


 関わりたくない、とツーンと顔を明後日の方向に背けるインプモン。
 本当にこいつはやる気がないな!いややるときはやる子だけど!なぜベストを尽くさないのか!


「……やめてよ」


 エスカレートしていくパタモンとエレキモンの戦いを前にタケルが小さな声で呟く。
 その様子さえも目に入らず二匹は攻防を続ける。


「うわぁ!」

「ぐっ……っいってー!」

「やめてよ、やめてったら……やめて……」


 呟く度にタケルの声は段々涙声になっていく。
 しかし以前戦いに熱中していて二匹はタケルの声に気が付かない。


「やめて……お願いだから……」


 一息ためて、タケルが叫ぶ。


「やめてえええええええーーーっ!!!」


 突然の怒号にパタモンとエレキモンは思わず目を見開いて取っ組み合いの姿勢のまま固まった。
 今まで旅してきた中でタケルのこんな声は聞いたことがない。どことなく、寂しげだ。


「……………」

「やめてよ君たち、喧嘩はよくないよ。ベビー達も怖がってるじゃないか」

「……ちっ!」


 タケルの強い言葉に2匹はゆっくりと周りを見渡す。
 目に飛び込んでくるのは、まだ産まれて間もないベビー達の怖がって目を見開いて固まっている子や震えて泣いている子の姿。
 それを見てようやく我に返って冷静になった2匹はお互い背を向ける。パタモンは近くのベビーを抱き上げた。


「ごめんね、怖がらせちゃって……」

「……うちのベビー達に気安く話しかけんじゃねぇ、ガキ!」

「ねぇ君たち知ってる?本当のガキほど大人ぶるんだって。やだねー」

「っぐぐ……!なんでなんでぇ!文句があんなら直接言えばいいじゃねーか!正面はいい子ちゃんぶって陰じゃ悪口言いふらすって口かぁ!?」

「……っ!」

「もぉ!」


 また飛びかかりそうな雰囲気になった所で再びタケルが声を上げる。
 今度はパタモンも意地を貫こうとエレキモンに向き直った。


「タケル頼む、やらせてよ!コイツと決着つけさせて!」

「オレだって望む所だぁ!」

「……どうしてもやりたいの?」

「「当然ッ!」」

「だったら正々堂々と……」


 タケルが曇った表情で言葉を続けた、と思えばその途中で何か閃いたらしく突然ぱあっと笑顔に変わる。


「そうだ!僕にいい考えがある!」

「?」


 タケルが楽しそうな顔を上げるのを、その場の皆は疑問を浮かべながら見るしかなかった。



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