digimon | ナノ

05 「歯ァ喰いしばれええやあああああああッ!」闇の使者 デビモン

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「ナイト・オブ・ファイヤー!」


 手の平ほどの炎の塊がレオモンとデビモンに当たり、弾ける。
 不意を突かれた攻撃に怯んだレオモンとデビモンの腕が緩み、その腕に掴まれていた太一と私は解放され、そのまま力なく地面へ落ちる。同じように痛むであろう体で、太一がすぐに私を支えてくれる。


「…………」

「インプ、モン」

「貴様!この私に歯向かうか、愚か者が――」

「……………っせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇッ!!」


 すくんでいた足は今はもう治まっていた。
 私の前に両手を広げながらしっかりと立つインプモン。
 勢いよく顔を上げ涙ぐんでいた瞳から水滴が散った。


「オレは!オレはもう誰の指図も受けねぇ!ましてやお前なんざのデタラメな脅しにも屈しねぇ!!何がパートナーは来ねぇだよこのクソ野郎ォッ!!」


 デビモンに向かい大きく声を張り上げる。
 目を反らさずに真っ直ぐと。その瞳は覚悟を決めた鋭い目。


「こいつは来た!確かに遅くなったけど、オレの所に来たんだ!」


 どこかで聞いたことのあるフレーズを叫んだ。


「オレはこいつを、灯緒を信じる!灯緒がオレのパートナーだ!!」

「貴様ッ……」

「インプモン」


 待たせてごめん。待っていてくれてありがとう。
 仁王立ちのインプモンの横に同じように立つ。

 やっと同じスタートラインに立てた気がする。
 待って待たせてすれ違っていたちごっこで変に遠回りをして短い間でハードルばかりだったけど、これでやっと隣だ。


「私もインプモンを信じる。こんな奴の脅しに打ち勝ったインプモンを信じる!」

「灯緒」

「いいか、インプモン」


 目を見開くインプモンにビシッと勢い良く指を差す。それに綻んだ表情になるインプモンを見て、私はただその勢いのまま腕を天に伸ばした。
 指を一つ二つと数えながら名乗りあげる。


「一つ!胸に抱くは貫く心!」


 信じる気持ちが力になるのなら!


「二つ!瞳に宿るは燃えたぎる魂!」


 命燃えるまで全身全霊をかけて!


「三つ!信じるはパートナー!」


 私は、信じる!

 信じ貫きこの手で掴むは勝利の暁星。
 夜の星々を指差して宣誓する私を中心に周りが雰囲気に圧倒されていた。
 見栄でいい、その気にさせりゃあこっちのモンとくらァ!


「インプモン。私と一緒に戦ってくれ!」


 声をかけるとインプモンはハッとした顔で私を見上げた。


「生憎今機嫌悪くてね、あの憎たらしい顔に一発パンチでも食らわさなきゃ気が済まねんだ」

「――ああ、オレもいい加減頭にきてんだ。本気で後悔させてやる」

「よしきた!」

「クッ……」


 空気の流れに乗せられているとは知らずデビモンが焦りで思わず一歩引く。
 真っ向に戦わずともこちらの実力は及ばないだろうが、今この勢いに乗せてこちらが有利であるかのように錯覚させる。
 それに、気合いが実力を超えるかもしれないしな!


「行くぞ、こんな奴に礼儀なんざ勿体ねぇ!問答無用に思い知らせてやる!」

「ナイト・オブ・ファイヤー!」


 私の掛け声にインプモンが颯爽と飛び出し、指先から出した火の連弾をデビモンへ投げつける。
 しかしデビモンはその長い腕を一振りし火の玉を弾くと同時にインプモンを打つ。


「フン!」

「ぐッ!」

「インプモンッ!」


 地面に叩きつけられ体勢を崩したインプモンを掴もうとデビモンがインプモンに気を取られているその隙に突進する。
 右手を引き、目がけて走るのは奴の顔。


「歯ァ喰いしばれええやあああああああッ!!」

「灯緒ッ!」


 私の突進に気付き構えようとしたデビモンの足下に膝をつく。
 インプモンが思惑を察知しすぐに冷気の塊をデビモンの足に放つ。


「ナイト・オブ・ブリザード!」

「ぐっ!」


 放った先はデビモンの足元。冷気は一瞬で氷塊となって固まりデビモンの足と地面とを固定し動きを封じる。
 隙を見せた今、右手がデビモンを撃つ。


「「今だッ!!」」

「ッ!」


 跳んでギリギリの高さでものの見事にパンチが決まる。勢いに任せて撃った拳がビリビリと震えた。
 たかが人間の小娘の打撃。まさかそれを受けようとは。デビモンの歪む顔が更に歪んでいく。


「このッ餓鬼がァッ!」

「今更クールぶんな!化けの皮剥がしてかかってこい!」

「黙れ、信じることが正しいなどと思っている子供が!」


 まさか人間のガキに一発食らわせられるとは思ってもなかったのだろう。少し煽ればデビモンは怒りを露に怒鳴る。
 そんな戦いの脇で太一とアグモンはポカンと口を開けて見守っていた。
 君達、見てる暇はないぞ!


「灯緒すっげぇ……」

「太一くん、一気に畳み掛けるぞ!」

「おう!いけるか?アグモン」

「う、うーん……」


 太一がアグモンを見るがアグモンは先程のレオモンの一撃でかなり体力を消耗しているようだ。
 そういえば完全に空気になってたけどレオモンは。


「太一くん、レオモンが!」

「あっアグモン後ろだ!」


 アグモンの背後、攻撃しようと構えているレオモンを捉え太一に伝える。
 太一の声にアグモンが気付き振り返った瞬間、ドォン!と音を出して今まで宙を旋回していたベッドが近くに落ちた。
 激しい衝撃に跳ねたベッドからコロンと何かが地面に落ちる。まばゆい光がそれから突然射した。


「う、うおおおおおあああああああッ!!――……」

 ベッドから落ちたそれ、転がるデジヴァイスから光が溢れその光を浴びたレオモンが苦しそうに叫ぶ。
 と思えばレオモンの瞳に光が戻りはっきりとした声で高々と叫んだ。


「邪悪消滅!」

「!?」

「お、おう」


 デジヴァイスの光も収まり太一が駆け寄って地面のデジヴァイスを拾う。
 どうやらレオモンを救ったようだが、デジヴァイスがまさかこんな風に役に立つなんて思わなかった。たまげたなぁ。


「ど、どうなってるんだ!?」

「君達が選ばれし子供達だったのか……」

「え?」

「選ばれし、子供達……」

「くっ、まずい」


 じっとレオモンが太一を見つめる。また選ばれし子供達か、モッテモテやな。
 事態に気付いたデビモンが宙に手を翳すと頭上を飛び回っていたベッドが急に落下しはじめた。
 乗っている皆の悲鳴が響く。


「うわああああああああッ!!」

「きゃああああああああッ!!」

「皆ぁ!」

「!」

「獣王拳!」


 すぐさまレオモンがデビモンに攻撃を放つ。
 金色の獅子がデビモンに当たるとベッドは海面ギリギリの所でまた宙に浮かびなんとか墜落は免れた。
 それを見届け、レオモンはデビモンに向き直り対峙する。


「デビモン、貴様よくも私にあのような卑劣な真似を……許せん!」


 レオモンが整端な表情でデビモンに言い放つとその瞬間、今までどこにいたのかデビモンの背後からオーガモンがレオモンに飛びかかった。
 棍棒と剣の間に火花が散る。この2人、さっきまで共闘してたけど実は仲悪いのか。


「ハハッ、やはり俺達は戦う運命にあるようだなァ!」

「くっ!少年達よ、ここは私に任せて逃げろ」

「でも……!」

「敵前逃亡なんてまっぴらごめんだね!」


 レオモンの言葉に突然の事でどうするか迷っている太一。私としてはむしろご一緒したいくらいだ。
 しかしそれはインプモンに止められる。


「コイツの言う通りだ。一旦退くぞ」

「ぐ、ぐぬぬ」


 先程圧倒されたようにレオモンは今の私達より断然強い。
 今残っても力にはなれない、むしろ足を引っ張ってしまうことだろう。悔しいがここはレオモンに任せた方がいい。
 タイミングよく無人のベッドが近くを飛んでおりインプモンは颯爽とベッドに跳んで移る。インプモンに腕を引いてもらい、私もそのベッドによじ登る。
 見た目以上に不安定で狭い!ベッド無駄にスリリング!


「デビルマン、首洗って待ってやがれ!太一くん早く!」

「お、おい灯緒!」

「ぐずぐずするな!」


 まだ近くに立つ太一とアグモンにレオモンが一喝すると剣を床に突き刺しひび割れ崩れた床と共に太一とアグモンは海の浮き島へ落とされる。
 おいおい助け方荒いよ!なにやってんの!彼も必死なのだから文句は言えない。


「うわあああっ!」

「君達はこの世界にもたらされた唯一の希望なのだ!生きのびてくれ!」

「逃がすかァッ!」


 敵に背を向けているレオモンに今がチャンスとオーガモンが飛び掛かる。
 しかし、レオモンはそんな攻撃は効かぬとでも言うように軽々と身をかわし更にオーガモンに反撃をも与えた。
 力の差が歴然と見える身のこなしだ。


「獣王拳!」

「ぐぇっぐはぁああッ!?」

「アイツ面白いな」

「……そうか?」


 逆に真正面からレオモンの攻撃を食らったオーガモンが変な悲鳴をあげながら瓦礫にダイブした。
 アイツ一発芸人か何かか。なんかこう、体を張ったギャグをする演技派魂を感じる。


「レオモォン!」

「縁があったらまた会おう!」


 心配そうな太一の声に逆に爽やかに返事をするレオモン。
 正義のデジモンだっけか、本当は優しくていいデジモンなんだな。今ならよくそれが分かる。
 そんなレオモンの後ろに不吉な黒い影、デビモンが音も無く舞い降りるのが見えた。太一もそれに気付いたらしくレオモンに対する叫び声が聞こえた。


「ッレオモォーン!」

「後ろォッ!」

「っ!?」


 飛ぶベッドの上からは見えづらいがレオモンが気付いた素振りをしたのは確認出来た。
 しかし、段々遠ざかってゆく中で次にレオモンがどうなったかは分からなかった。
 だが、直後。


「うわああああああああ――――……ッ!!」

「レオモォォォォォォーンッ!!」


 星が輝く夜空の下、遠ざかってゆく中心部の島と海へバラバラになってゆく島々を背に、レオモンの悲鳴と太一の呼び声が響き渡った。



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