digimon | ナノ

03 「闇の炎に抱かれて消えろ」闇の使者 デビモン

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 目の前には、本当に豪華なご馳走がずらりと並べられていた。
 扉を開いたその先、食堂なのか長細い形の部屋に同じく長細い形の大きなテーブルの上に、七面鳥やらフルーツ盛りやらがこれでもかという程盛り付けられている。
 本当にあった上に初めて見たよ、こんな絵に描いたようなGO☆TI☆SO☆U!超うまそう!ブラボー!スーパーブラボー!


「食いモン、だよな……」

「そう見えますが……」

「なんてラッキーなんだぁぁ〜!」


 恐る恐る確認する太一と光子朗とは逆に、直球に丈は泣いて喜んでいる。
 その後ろでヤマトと空はあからさまにおかしい流れに、呆れを通り越し憤慨する。せやな。


「こんな馬鹿な話があってたまるか!」

「いくらなんでも話が上手すぎるわ!」

「うーん!本当に美味いわっ!」

「むぐむぐ!」

「ペロッこれは青酸カリ!イッヒッヒッヒうまい!テーレッテレー」

「お前食ってんじゃねぇよ!」


 警戒している子供達をさておき話も聞かずデジモン達は皆本能に従いご馳走をがっつきだす。
 唯一ツッコむインプモンに超うまいよ!と口に七面鳥を突っ込んだ。秘技ツッコミ返し!
 罠だと警戒している子供達はデジモン達を見て思わず固まる。


「……なんともないのか、アグモン?」

「うん!美味しいよ!」

「こんな美味いモン食わんなんて、バチが当たるで!」

「ンまーいッ!五臓六腑に染み渡る〜ッ!」


 恐る恐る確認する太一にアグモンやテントモンが絶賛する。
 ガツガツと食べるデジモン達皆に全く異常はなく毒などはないようだ。人間にも特に異常はない。
 ほれほれ、とご馳走を皆の前にちらつかせる。うまいぜ〜超うまいぜ〜。


「……………」

「ぼ、僕は食べるぞぉ!少しくらいラッキーな事があってもいいじゃないか!」


 皆が空腹と戦いながらご馳走を凝視している中で最初に丈が声を上げ席に着く。
 こういう時に率先する丈先輩の勇気に乾杯。


「いっただっきまぁーすっ!」

「………………………」


 勢い良くガツガツと食べ始めた丈を見てとうとう目の前の欲に負けた皆がご馳走目がけて席へ走る。
 食え食え、食ったモン勝ちだ!まず……くない!もう一杯!


「……俺も!」

「あたしも!」

「僕も!」

「僕も食べる!」

「おい、タケル!」


ぐぅ〜〜……。


「……ええぃ俺も食ってやる!」

「背に腹は変えられないわね!」

「こんな美味い料理、生まれて初めてだああああああー!」

「っぶはあッ!ってめェ何すんだこのばか!」

「ほうら食べたくなったろう?」

「闇の炎に抱かれて消えろ」


 皆が席に着いた変わりに、今度は私がインプモンに椅子から蹴落とされた。









「イヤッホーゥ!」

「おい、飛び込むなよ!」

「堅いこと言うなよ!久しぶりの風呂なんだぜ!なっ!」

「うん!」

「本当、まさかお風呂まであるとは……至れり尽くせりですね」

「なんなら、電気風呂でもしまひょか?」

「……や、いいよ……」

「おじゃましまーす……」

「……ああいうのが一番許せねぇな」

「あぁ?」

「男風呂でガッチリガードしてる奴」

「……同感!」

「えっ!?な、なな何すん、だよ!や、やめろ、やめろやめろよやめろこら!離せええうぁぁあ!」

「……何やってるんだろう?」

「人間っちゅーのは分からんなぁ」

「うあああぁぁっ!やめてええええええぇぇ!」





「まーた馬鹿やってる」

「んあ〜!いい気持ち!」

「殺伐とした大地に、1人の救世主が降り立った!」

「ここは女湯だからね、灯緒ちゃん」

 かぽーん。ゆあしょっく。
 男湯のばか騒ぎを聞く限り、あちらとは違いこちらは平和にゆったりとほかほかと沸く風呂に浸かっている。
 隔たりの壁の上は壁が無いので、男湯の音は一字一句聞こえていることに男性陣は気付いていないようだ。丸聞こえだ野郎共。かまわん、続けろ。
 ちなみに屋敷の物を勝手に使っているのは食後に探索した結果、屋敷には人もデジモンも居らず無人だと分かったためありがたく今夜の宿として使わせて貰う事にしたためだ。
 そう考えるとますますあの食事が気になるが皆は気をすっかり抜いてしまっていて気にする者はいない。と補足をしておく。


「ほぅ、なるほど。丈くん以外は無し派なのか。どれどれ」

「ほぅ、じゃないわよ!何考えてんの灯緒ちゃん!こら登っちゃ駄目!」

「ちょっ灯緒ちゃんのエッチスケッチワンタッチ!」

「止めるな!漢にはやらねばならない時があるんだ!その時は……今だ!」

「お馬鹿!やめなさいッ!!」

「あ゙いだぁッ!」


 女湯と男湯を隔てる壁を登ろうとしたら空から手刀が飛んできた。
 私が弱かったんじゃない……空が強すぎたんだ。


「全く!なにしでかすか分かったもんじゃないわ!」

「あ、わかったぁ!灯緒ちゃん、インプモンが一緒にお風呂入ってくれないから拗ねてるのよね」

「あぁ、インプモンなら向こうにいるんじゃないの?」

「いやそういう問題じゃない、裸一貫での付き合いこそ漢同士の友情ってヤツだろ!つれねーんだからインプモンの奴!」


 風呂に入る前にインプモンを誘ったら脱兎の如く逃げ出しやがった。向こうから声がしない様子だと風呂に入らずに外にでもいるのだろう。
 全く失礼な奴だな!そう!たった一つのこの体、正々堂々たるこそ漢、裸一貫こそ礼儀よ!それが分からねぇなんてまだまだ甘ぇ!


「いや、インプモンは別の理由で断ったと思うわ……」

「あぁん?なんで?ゴマモン分かる?」

「え〜?そんなの知らないよぉ〜はぁ、極楽極楽〜」


 隣でぷかぷか浮いているゴマモンに訊ねてみるが、お風呂が気持ちよく上の空で考えてさえくれない。
 こんちきしょう、ハンター試験に行って死線くぐり抜けて精神鍛えてこい!


「あぁーッ!?なんであんたがこっちにいるの!?」

「ゴマモンはあっちぃ〜!」

「うわあああああ!?」


 ゴマモンに気付くなりピヨモンとパルモンが大声を上げた。
 そのままパルモンは爪を伸ばしてゴマモンを相手のゴールにシュウウウウウウ!超!エキサイティン!


「「んがぁッ!?」」

「丈の霊圧が……消えた……?」


 男湯へ飛ばされたゴマモンを見て、上から来るぞ!気をつけろ!と言う暇もなく、鈍い音と2人の悲鳴が聞こえた。無茶しやがって。









「わああ!ふかふかだぁー!」

「本物のベッドだ、ちゃんとシーツに糊もきいている」

「やわらかいベッドなんて久しぶりー!」


 風呂から上がり二階の寝室へ来てみれば広い部屋の両脇にずらりと人数分ぴったりのベッドがあった。
 しかもご丁寧に下ろしたてのように綺麗な布団。ここまで寛いでいてなんだがますます怪しい、偶然にしても出来すぎている。なーんて。


「なんだか林間学校みたい!」

「うん!」

「みたいじゃないよ、そもそも僕達はサマーキャンプに来てたんだ。それがどういう訳か……あ」


 わーまた地雷。丈すぐ踏むなあ。一級フラグ建築士かな?
 丈の一言で楽しい雰囲気は一転し皆黙り、部屋はしんと静まった。
 その様子にすぐに丈は失言に気付き謝る。ここですぐに空気をサッスルことが出来るようになったことには丈の成長を感じたのだが、如何せん空気は重苦しい。


「ごめん……」


 謝っても皆は顔を伏せたまま。
 無意識に考えないようにしていた事を今の一声で思い出し色々な思いで混乱している頭の中を整理しているのだろう。
 第一声、ゆっくりと太一が口に出す。


「そうだよな。ただのキャンプに出掛けるつもりで、みんな家を出たんだよなぁ……」

「俺達がこのファイル島に来てから今日で5日……学校や町内会じゃ大騒ぎになってるだろうな」


 続いてヤマトも本来自分達がいるべき場所の事を思う。
 そう、もう5日も経っていた。あまりにも色々な出来事がありすぎて早くもあり短くもある時間だった。
 皆まだ小学生なんだ、これだけ親元を離れていて寂しくないわけがない。


「……う……」

「パパ……ママ……」

「……今日はもう寝ましょ。デジモン達も疲れてるし」


 胸の内の寂しさがこみ上げてきて、とうとう泣き出してしまったミミを筆頭に、暗い表情で俯く皆を見て宥めるように優しい口調で空が言った。
 空も不安でいっぱいだろうに。損な役回りだ。


「そうだな、おやすみ!」

「おやすみなさい」


 空の言葉で振り切るように太一が一声かけると、皆もそれに続きそれぞれ布団に潜り眠りについた。
 怒涛の展開であった今日、あまりの疲れに皆すぐに寝息をたてはじめた。ぐっすり寝て疲れを根こそぎ取ってくれ。


「……おやすみ」



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