02 「うるさい子は黙っちゃおうね〜」闇の使者 デビモン
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「タケル、こっちだ!」
「灯緒ちゃん、早く!」
崖っ淵で敵対するレオモンとオーガモンの二匹と私達一行側のデジモン達。
一行の中でまだ進化をしていないデジモンのパートナーであるタケルと私は優先的に避難を促される。
タケルはヤマトに、私はミミに腕を引かれ道端の岩陰に隠れ闘いを見守る。
仕方ないとはいえ、この状況は非常に歯痒い。
「行けええッ!グレイモン!」
太一の張り上げた声を合図に敵へ突撃するグレイモン。
その頑丈そうな鎧頭をレオモンは剣で防ぐ。
「ハープーンバルカン!」
「ぎゃああっ!?」
「チクチクバンバン!」
「ッ……!」
絶え間なく繰り出される攻撃に無勢で分が悪いレオモンとオーガモンが怯む。
数もこちらが圧倒的有利。これなら勝てそうだ。
「いけるぞー!一気にやっつけろー!」
「………」
私と皆は身を隠しながら善戦を見守る。
その中で先程からどことなく挙動不審な様子のインプモンにちらりと視線を向ける。
顔色が悪いし体調でも悪いのか、いやこれは。
「インプモンどうした?」
「…………別に、なんでもねぇ」
「別にって」
「とどめだぁ!」
俯いたまま素っ気ない返答をするインプモン。どう見ても何かしらある様子なのに見栄貼られてもなぁ。
追及しようかと声をかけた瞬間私の声は太一の一声に気を取られて止まる。
同時にグレイモンが必殺技のメガフレイムを撃とうと構える。相手は劣勢、疲労している今が勝機だ。
そうグレイモンが息を吸い込んだ瞬間、
「メガフレイ――……!」
――ドゴォォォン!
グレイモンの攻撃を妨害するかのように突然上空から爆音と共に無数の岩や破片が落下してきた。
デジモン達どころか私達も巻き込んでしまう程の崖崩れに誰もが驚き声を上げる。
「なッ……」
「ああっ!?」
「崖崩れだ!」
皆が絶体絶命の悲鳴を上げる中、敵と対峙していたデジモン達が直ぐに落岩へ攻撃を放つ。
「フォックスファイヤー!」
「メテオウイング!」
「メガブラスター!」
「メガフレイム!」
次々と繰り出された攻撃は大きな落岩を粉々に砕き大岩は砂や砂利のように細かくなって辺りに散らばる。
大岩であったら全員下敷きだっただろう。デジモン達の攻撃のおかげで間一髪で助かった。
「皆、大丈夫か!?」
「だ、大丈Vー!」
「こっちはなんとかな!」
「もう嫌ぁこんなのっ!」
太一の声にヤマトがしっかりと答えミミが叫ぶ。岩陰に隠れていたおかげもあり特に怪我もなく全員無事のようだ。
私は頭や身体にかかった砂埃を払い、隣の同じように砂まみれのインプモンの砂埃を払ってやろうとするとサッと避けられた。
こいつ、人の気遣いをなんだと思ってんだコラ!
「!っアグモン!」
「!」
太一の声にどうしたのかと岩陰から顔を出して周りを伺うと、闘っていたデジモン達が退化した姿で地面に倒れ込んでいた。
まさか崖崩れに巻き込まれて怪我でもしたのか!?
「大丈夫、ちょっと疲れただけ……」
「今日二回目の進化だからなぁ……」
急いで駆け寄った太一が優しくアグモンを抱き起こす。アグモンは弱々しい声で答えたが傷や怪我ではなく進化からくる疲労らしい。
皆もそれぞれデジモン達に駆け寄り心配そうに声をかける。
他のデジモン達含め誰も怪我などなく無事のようで私はほっと胸を撫で下ろす。
いや、安心するのはまだ早いか。
「そういえば、あの二匹は?」
「あっアイツらは!?」
「そうだ、オーガモンが……!」
細心の注意を払いながら辺りを見回すも私達以外は何の影も見当たらず、山道は先程の戦闘の跡と崖崩れの跡のみを残し静まりかえっていた。
分が悪かったため崖崩れに乗じて逃げたのだろうか。
「……いてまへんな」
「レオモンも……」
「もしかして逃げたのかな?」
「今の崖崩れに巻き込まれたのかも……」
いなくなった二匹を警戒しながら皆は疑問を口にする。
その中で丈が崖から落ちたのか確認しようとおそるおそる崖下を覗いた。ここはまだ頂上付近の山道だ、かなりの高さだろう。
案の定、覗いた瞬間に丈の顔があまりの怖さに凍りついた。
「ひぇぇ、ここから落ちたら助からないよ」
「レオモンもオーガモンも飛べそうもないわよね」
「えぇ」
空とピヨモンも眼下を眺めながら二匹を思い出す。
どちらにも飛べそうな翼などは無かったはず、もし崖下に落ちていったとすればいくらあの屈強なデジモンといえど助からないだろう。
でも私達全員のデジモンに対抗できる強さを持つレオモンとオーガモンがたかが崖崩れに巻き込まれて呆気なく倒される、なんてことになるだろうか?
「じゃ、じゃあ助かったんだ僕達は!なんてついてるんだ!あはははは!」
(……わざわざ言って不安にさせるなんてのはいただけないな)
二匹が落ち、危機が去ったと分かると丈は安堵の声音で嬉しそうに笑い声を上げた。
皆も納得したのか下りの山道を歩き始める中、太一が崩れた崖をじっと見上げている。
「………」
「どうした太一?」
「なんで急に崖が崩れたのかと思ってさ」
「そもそも特に何もしてない時に崩れたような……」
「やっばりそうだよな、おかしくないか?」
「うーん」
太一の様子を不思議に思ったアグモンが訪ねるとうーんと考え込みながら太一が答えた。
確かにこんな危ない山道で戦闘をしてはいたが、何の前触れもなく突然崖崩れが起きたのにはどこか違和感を覚えた。
それを聞いていた光子朗が推測を言う。
「向こう側の道が崩された時に、ヒビでも入っていたのかもしれませんよ」
「あーなるへそ」
「そっかぁ……」
それならまだ納得できるが破壊された道とは少し距離があるような。それにひび割れは気付かなかったなぁ。
まだ何かひっかかるのか、晴れない顔のまま太一も一行の後を歩き出す。
私も同じように皆に続くが振り返るとインプモンがキョロキョロと辺りを警戒するように見回していた。なにしてんねんこの子。
「おうい、行くよインプモン」
「あ、あぁ」
声をかけるとインプモンは警戒をしながらも歩き始めた。
やはり先程のレオモンとオーガモンとの戦闘を始めた辺りから様子がおかしい。
何か気になる事があるのだろうか。だとしてもこの様子だと今までと同じように頑なに話してはくれないだろう。
「ねぇ」
「………」
「ねぇってば、インプモン!」
「……んだよ」
歩きながら声をかけるが私を無視する。しつこいとでも言いたそうな顔で仕方なく返事を返してきた。
可愛くないなぁ、デレ期はまだか!
「黙り決めてないでさ、何かあったらちゃんと言いなよ?」
「…………」
ほら、まただんまりだ。
「もしかして寝てないから睡魔がすごいとかかね?おんぶしたげよっか?カモン!」
「ち、ちげぇよばかっ!なんでもねぇから黙れ!」
「えぇー?本当になんもないの?……チッおんぶしたかった……」
「それが本音か!さっさと黙って歩け!」
ぶー、と口を尖らせる私を乱暴に押すインプモン。
普段を装っているつもりだろうが先程からの様子で何か隠しているのは丸分かりである。
それに気になるのは昨日の『疑うべきこと』。全くの勘だがこの二つは関係している気がする。
……でも今は、聞けない。
はいはい、と私がよろけながら歩き出すと斜め後ろをインプモンが歩く。
そしてぽつり、と呟くのが聞こえた。
「……なんでもねぇから」
ムゲンマウンテンを無事下り、岩肌が剥き出しの風景から一転して麓の木立の中を行く。
時刻は既に夕方頃で辺りは夕日のオレンジに照らされている。
「どう考えても変ですよ、1日に2回も進化なんて」
歩きながら光子朗が真剣な表情で考え込んでいる。
そういえば言われるまで気が付かなかったがグレイモンとバードラモンとイッカクモンは早朝と先程の戦闘の本日二回進化をしていたな。
考え込む光子朗とは反対に太一はご機嫌な様子で返した。
「いいじゃねーか!おかげで助かったんだから!」
「でも」
「……ねぇ、デジモン達がパワーアップしているとは考えられないかしら」
同じく考え込んでいた空がふと思い付いたらしく顔を上げた。
デジモン達自体が進化を通して鍛えられている、という。それに光子朗もはっとする。
「そうか、その可能性もありますね!」
「だがそうだとしても、流石に今日はハード過ぎたな」
ヤマトがちら、とデジモン達を見ると皆が皆いつものような元気はなく明らかに疲労が見える。
二回の進化に激しい戦闘、更に険しい山道で体力を削られてしまい足取りも重い。
「大丈夫?パルモン……」
「……全然大丈夫じゃない……」
「もう歩けないよぉー……」
ミミが心配するとパルモンとパタモンが返事をするが声には覇気がなく疲労でしんどそうだ。
私も横を歩くインプモンを見るが同じように疲れた表情で歩いている。それにデジモン達だけでなく私達も足元がおぼつかなく明らかに疲れが見えている。
正直、私も足の節々が痛い。そのくらいの疲労だ。
「駄目だ、どこかゆっくり休める場所を探した方がいいな」
「そうね、私達もかなり……」
「あああーーーーッ!あれっ!」
「うおっ何?」
「え?」
突然丈が大声を上げたと思ったらいきなり走りだした。
丈は何か見つけたのだろうか、とにかく私達も一体何事かと後を追う。
丈を先頭に走った先の少し開けた森の中にあったものは青い屋根が綺麗な立派な屋敷だった。
「やった!普通の建物だ!今度こそ人間が住んでるに違いないっ!」
「待て!いきなり入ったら危険だぞ!」
心底嬉しそうに丈が言うと、また一人先に屋敷へ走りだした。
ヤマトの制止の声も聞かずに行ってしまい、皆も仕方なく丈の後を追う。
それにしても目の前にそびえ立つ洋館はどことなく嫌な雰囲気を漂わせている、気がする。私だけだろうか。
「なんかナイスタイミングすぎて怖いな」
「だな……」
「……ん?」
インプモンもどこか違和感を感じているらしく顔をしかめた。
とりあえず一行に続いて行こうとすると前にいた太一がふと足を止めた。不思議に思ったアグモンが声をかける。
「どうした太一?」
「こんな建物、上から見た時にあったかなぁ……」
「上から見た時に見えてなかったとか?」
「うーん、これだけでかかったら見えたと思うけど……思い出せねぇな」
そういえば太一はムゲンマウンテンの頂上で画伯だったのを思い出す。
こんな大きな建物があるなら大抵絵に描いていたらなんとなく覚えているだろうが、思い出せずにうーんと考える太一にアグモンが首を傾げた。
「地図に何か書いてないの?」
「それは……」
「なくしちゃったの?」
「お前が燃やしちゃったんだろぉ!」
「あ、そっかぁ」
えへ、と悪怯れもなく笑うアグモンに太一は呆れた様子だ。そのまま先に洋館へ行った皆の後を追って歩き出した。
扉を手で押し、中をそっと覗く。
広々とした空間が目に入るが屋敷の中は灯りが無いのか扉の形の光とその中の人型の影が床に伸びる以外はぼんやりと薄暗い。
「ごめんくださーい……誰かいませんかー?」
「たのもォォォーーーッ!!むがっ」
「うるさい子は黙っちゃおうね〜」
おそるおそる声を出す丈の後ろから叫ぶと空にグワシと口を塞がれる。し、しまっちゃうお姉さん!?
後から他の皆が屋敷の中を覗く。ついでにヤマトはポカリと私の頭を叩いた。
やめろ!これ以上バカになったらどうすんだ!手がつけられなくなるぞ!
「どんな様子だ?」
「特におかしい所はないようだが……」
「それだけにかえって不気味ですよ」
「そうね……」
「君たち、まさか引き返そうって言うんじゃないだろうね?こんな立派な建物があるってのに!」
頼れる一行のブレーン達が屋敷の中の様子を伺う中、ひとり丈が力説をしだした。誰もまだそこまで言ってないよ、さすが丈先輩やでェ。
丈にそう言われてからヤマトや空、光子朗も悩む。
もうこの3人がブレーントリオでいいや。今私が名付けた!
「ま、それもそうだが……」
「でも先に家主を探してみた方がよくね?」
「そうね、なんだか生活感がないって言うか妙に静かだし」
「もしかすると使われていないのかも」
「ああーっ!綺麗な絵!」
「ん?」
屋敷の入り口につっ立ったまま広間を見渡しつつ考えていると突然タケルが大声を上げて指差した。
タケルが示したのは、階段の踊り場に飾られている天使が描かれた絵。
薄暗いなかにぼんやりと白く浮かび上がるそれは、神秘的か不気味か分からないが異様な存在感を放っているように感じられた。……私だけだろうか?
「ふふっ本当に綺麗!天使の絵?」
「タケル、天使って何?」
「うーん。それはねぇ……」
「こんな綺麗な天使の絵が飾ってある所に、悪いデジモンがいるはずないじゃないか!」
天使の絵を見てミミも目を輝かせる。反対にパタモンはタケルに不思議そうに尋ねた。
逆に天使に暗喩でも見たのか丈はここぞとばかりに力説を開始する。
言いたい事は分かるけど逆に安直すぎないかね。馬鹿にされてるというか、垂らした釣り針がでかいというか。
言ったら丈に怒られそうだから言わんけど。
「天使なんて飾りですよ、それがえらい人には分からんのです」
「そんなことないよ!あ、もしかして灯緒君、また君は人なんていないって言うのかい!?全くいい加減にしなよ、そんなだからいつまで経っても……」
「わーった、わーったから!」
「ま、確かに今から野宿っていうのも厳しいわね」
「仕方ないか……」
ネタを言ってみたらちゃっかり丈は皮肉を読み取った。なんでこっちは分かるんだよ!
説教モードになった丈の有難いお言葉を聞き流す。耳にタコが出来そうだから先に私が馬になろう。南無。
ため息混じりで言う空とヤマトがちらりとデジモン達を見るが、全員明らかに疲れた様子で元気がない。
なんだかんだで丈の言うとおりこの屋敷を調べてみて大丈夫そうなら使わせてもらおう、という暗黙の決定になった。
「おい、みんな行くぞー」
「え?うん……」
そう決まったところで太一が声をかけるのを合図に屋敷の中へ全員入る。
バタン、と音をたてて玄関の扉を閉めると辺りは益々暗さを増した。更に不気味だ、物音ひとつしない。
とりあえず入り口から広間付近をうろうろして様子を見てみるがこの辺りは特に変わった所はない。
「ここでこうしててもしょうがないわね」
「もっと奥を探してみようか」
「なんかお化け屋敷で肝試しみたいだね!」
「誰かいるかもしれないですしね」
「……それはどっちが?」
「さあ、どうでしょう」
ふ、と意味ありげに言う光子朗にぶわっと鳥肌が立つ。
もしや光子朗、お前怪談話ウマい口か!べっ別に、そういうのが苦手な訳じゃないんだからねっ!?
「ちょおおおやめろよそういうのおおおお!」
「なぁにもしかして灯緒ちゃんそういうの苦手なの?なんだか意外〜」
「ちちち違わい!私は普通は目に見えないそーゆー霊的なものは実際にこの目で見ない限り意地でも認めないの!断固!拒否!」
「それ怖いって言ってるようなモンじゃねーか」
「ったく呑気だな。行くぞアグモン!」
「……ん?うん……」
からかってくる皆にそんなオカルトありえません!フーッ!と威嚇しているとバカジャネーノとでも言いたげな太一がさっさと奥へ歩き出す。
アグモンは疲れで立ったまま半分寝てしまっているところ、声を聞いて目を開けすぐに太一について行く。ネーネードコイクノー。
隣の同じく寝ていたガブモンも気付いて顔を上げた。
「んぁ?……これは!」
「どうしたガブモン?」
「なっ何!?お化けェ!?はい死んだ!今俺死んだよ!おおゆうしゃよ!しんでしまうとはなさけない。灯緒は犠牲になったのだ……」
「灯緒もちつけ」
ぺったんぺったん!
顔を上げたと思えばいきなり声を上げてクンクンとしきりに鼻を動かすガブモン。
どうしたのかとヤマトが問い、皆も注目する。
「食べ物の匂いだ!」
「ええええええ!?」
「それもご馳走だぁ!」
「えええええええええ!?」
「こっちだよ!」
なんということでしょう。屋敷のどこかにご馳走があるらしく予想外の事に皆で一斉に驚いた。
ということはもしかしたら誰かいるのかもしれない。
ガブモンがそう言い案内すると皆もガブモンに続いて走りだした。
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