04 「四次元ポケットからなんか出してよ!」咆哮!イッカクモン
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――ドォン!
上空からユニモンがそのボロボロの翼を羽ばたかせながら、こちらを容赦なく攻撃してくる。
光弾が岩壁に当たり砕かれた岩石がバラバラと落ちてきて体に当たる。
山道を走って逃げるが、上空を飛んでいる素早い相手の方が圧倒的有利だ。またユニモンが口から光線を放ち、私達の横の岩壁が破壊された。
「ゴマモンなんとか出来ないの!?」
「四次元ポケットからなんか出してよ!」
「持ってねーよそんなもん!」
丈はゴマモンを抱えながら、私はインプモンの後を追って、破壊されて岩石だらけになったぐちゃぐちゃな道を乗り越えるように出る。
「うぁっ!?」
「うぇへぇ!?」
すると上からユニモンが飛んできて前に回り込まれる。逃げようと後ろを振り返るが、そこにはユニモンに破壊されてしまって崖となり山道はなくなっていた。このお馬さん、意外に策士だ!
「駄目だ、道がない!」
――ヒヒィィイン!
ユニモンが鳴くと口に光を集めはじめる。攻撃をするつもりだ。こちらはもう逃げ場もなく、丈とゴマモンはただしゃがみこんだ。
「これまでか……!」
「ううう……っ!」
「こなくそっ!」
抱き合う丈とゴマモンの前に出て私はそこらに散らばる石を拾い上げる。大丈夫、まだ!
「いけるっ!!」
「っ伏せろ、ばか!」
私がユニモンへ振りかぶる、ユニモンの光線が放たれる、その同時の瞬間。
――ドォン!
「え?」
「あ……?」
攻撃は放たれたが私達自身には衝撃は来ず当たらなかった。私がユニモンめがけて投げた石もどこかに飛んでいってしまったようだ。
何事かと見上げればそこには壁に押し付けられているユニモンと、
「バードラモン!」
そこには燃え盛る巨鳥がいた。バードラモンの足には空と太一、アグモンも掴まっている。
まさかまだ麓にいるだろうと予想していた2人と二匹の登場に私と丈達の顔が笑顔になった。
「助けに来たぜ!」
「太一!空!」
「ナイスタイミング!」
2人と一匹はバードラモンの足から降りてこちらに走って来る。バードラモンもユニモンから離れ後を追ってくる。
「みんな大丈夫?」
「大丈夫じゃねーよ、1人で突っ走りやがって!」
「Sorry、悪いが聞こえないよ!耳にバナナが入っててな!」
「何も入ってねーだろッ!……ったく!」
先程の私が無鉄砲に突っ込んで行った事にインプモンが苛々としながら怒る。条件反射なんだ、すまない寝。
直後、その背後で体勢を立て直したユニモンがバードラモンに向かって攻撃を繰り出した。後ろからまともに攻撃を食らったバードラモンは崖下へ落ちていく。
「きゃあッ!?」
「バードラモン!」
「あぁっ!」
すぐさま空が落ちていったバードラモンの元へと坂を下って行く。バードラモンが体勢を整えるその間、ユニモンの相手をしようと太一がアグモンに声をかけた。
「アグモン!」
「うん!」
「アグモン進化!――グレイモン!」
すぐにアグモンはグレイモンに進化しユニモンと対峙するが、空を飛べないグレイモンはユニモンの素早い空中攻撃に中々ついていけない。そのまま遊ばれるようにグレイモンは岩壁に叩きつけられた。
「太一ッ!」
「グレイモン、大丈夫か!?」
叩きつけられたものの今の攻撃を物ともせず太一の応援を背にグレイモンは再びユニモンへ向かう。しかしまたユニモンの先制攻撃で体当たりを食らい、後ろへ倒れてしまう。
「グレイモォォォンッ!」
「太一!」
一方的にやられながらもグレイモンは太一の叫びに応えようとユニモンを睨み付けると必殺技を繰り出した。
「メガフレイム!」
グレイモンの炎の塊がユニモンに向かって撃たれるがユニモンはいとも簡単に避けてしまいメガフレイムは明後日の方へ外れてしまった。
そのまま隙を与えずユニモンも必殺技を放ち、岩壁を崩して太一を庇うグレイモンを苦しめる。
「うわぁああああッ!」
「太一!グレイモンッ!」
太一の悲痛な声が聞こえ、丈が叫ぶ。グレイモンもバードラモンもすぐには動けない状態でユニモンがこちらをふり返った。そこでインプモンが攻撃を放った。
「ナイト・オブ・ブリザード!」
「駄目だ、当たらない!」
インプモンが氷風を起こしてユニモンの動きを鈍らせようとするが、それさえもユニモンは軽々と避けてしまい当たらない。ユニモンは今度はインプモンと私に標的を変えて突進してきた。
「下がれ!」
「い……!」
「空!バードラモンッ!」
丈の叫びと同時に死角の崖下で体勢を立て直したバードラモンが背を向けるユニモンに攻撃を仕掛けた。
「メテオウイング!」
しかしユニモンは炎弾をも華麗に避け、バードラモンの懐に入り体当たりをしてバランスを崩して打ち落とす。ちょっと奴さん強すぎないか!?
「あぁっ!」
「バードラモンッ!」
バランスを崩したバードラモンは、そのまま下にいた空を巻き込みながら更に崖下へ落ちていってしまった。それを上空からユニモンは旋回しながら眺める。
「きゃあああああッ!」
「空ぁーッ!」
「くそっ……インプモン、やれる!?」
「ったりめぇだ!」
「……待ってッ!」
インプモンがユニモンを攻撃しようと腕を振りかざした瞬間丈が声をあげた。
制止を叫ぶ丈の視界に入るのは、ユニモンの背中に刺さるあの黒い歯車。
「どうしたの?」
「……黒い、歯車……!」
「丈?」
まさか。
一点を見つめたままの丈はおもむろに立ち上がったと思えばゴマモンが止める隙もなく、すぐ崖下に来たユニモンの背中に飛び乗った。って、えええ!?
「えぇいッ!」
「丈!?」
「ちょっ丈くん、危ないよ!」
ユニモンの背中に見事着地した丈は黒い歯車に手をかける。ユニモンは突然の事に訳が分からないようで混乱しているようだ。バタバタと翼を羽ばたかせて振り落とそうとでもしているのか、しかしむしろこっちも同じく混乱状態だ。私もよく突っ込んでいくので人のことは言えないが、それにしても危険すぎる。
「ッこれを……!」
「丈ぉーッ!」
「これを、外せば……!」
強く引っ張り歯車を外そうとすると、痛みがあるのかユニモンが身体を弓なりにして悲鳴を上げた。激しく揺られ、丈は落ちそうになる。
「うわぁあああ!」
暴れるユニモンに必死にしがみつく丈に、ゴマモンが叫ぶ。黒い歯車もユニモンに固く突き刺さっていて、素手では簡単に取れそうにもない。
「丈!やめろぉ!無理だよぉ!」
「駄目だ!僕がやらなきゃっ……」
「……そうだ。無理、じゃない!」
「灯緒!?」
「お前……」
いつも考えてから行動をしていた丈が、なにふり構わず飛び出した理由。
自らの危険を省みず、掴み取ろうとする理由。それは諦められない理由があるからに他ならない。
「無理なんて言葉ぶっ飛ばせ!皆を想って振り絞る勇気は無駄じゃない!」
「僕がみんなを守るんだ……!僕が一番大きいんだから……!僕が皆を守る!」
今までも一番みんなの事を考えて行動していたのは彼だったじゃないか。何度も空回りもしたけれど、みんなの先輩としてプレッシャーに押されながらもいつも頑張っていたじゃないか。
今みたいに、必死に!
「丈くん!頑張れええええッ!!」
「っぐうう……!」
ひたすらユニモンは暴れ、丈は必死に歯車を外そうと離れない。ゴマモンと私とインプモンがそれを手の届かない場所から見下ろす。
その時、
「あっ……!?」
「丈ッ!」
「丈くん!」
暴れるユニモンから丈が振り落とされた。丈の真下の落ちていく先は岩石地帯。落ちれば重傷で済まない高さだった。
丈の悲鳴と、ゴマモンの叫びがこだまする。
「うわああああああああっ!!」
「丈おおおおおおーーーーッ!!」
二人の叫びが重なり合う。
その互いを、人を想う気持ちが、光となって溢れ出した。
「ゴマモン進化!――イッカクモン!」
「うわああああああああっ!」
落ちてしまえば人なんて簡単に死んでしまうほどの高さ。しかし丈が落ちたのはゴマモンが進化した一本角を持つ白い体毛に覆われた巨獣、イッカクモンの背中の上だった。
「……っ!」
丈はすぐに起き上がってイッカクモンを見ると笑った。その様子を私とインプモンは崖上から見下ろす。
「な、何だあのでっかいもっふもふ!?もふもふしてぇ……!超もふりてぇ……!」
「もう何言ってるかわかんねーよ!」
イッカクモンはユニモンに体当たりで反撃を開始した。
ユニモンは体当たりでバランスを崩すも、軽々と体勢を整え更に攻撃を繰り出す。が、イッカクモンもそれを軽々と避けてしまった。
「ハープーンバルカン!」
イッカクモンの必殺技、頭の角がミサイルのように相手めがけて二発発射される。
しかしユニモンはミサイルを簡単に避ける。
「駄目だ、あいつ速いぞ!」
そう言った途端角が割れ中から本物のミサイルが現れた。ユニモンめがけて飛んでいき見事直撃する。
「まさかの二段構え!ホーミングミサイルかっくいー!」
攻撃をまともに食らったユニモンはヒヒィィイン!と声を上げて逃げ出した。
バキン、とユニモンの背中に刺さっていた黒い歯車が地面に落ちてバラバラに砕け散る。そのままユニモンは何事も無かったかのように飛び去っていった。
「やった……!」
ユニモンが飛んで逃げていく姿に丈が嬉しそうに声を上げた。
「あはは!やったやったぁ!」
「あんなに苦戦したユニモンを一発とか……イッカクモン△!」
私達が喜んでいる一方、太一とグレイモン、空とバードラモンも無事だったようで声が聞こえた。
「太一!大丈夫か?」
「ああ」
「みんな!大丈夫!?」
「よかった、皆無事だったんだね!」
元気そうな皆の声が聞こえ、ホッと胸を撫で下ろす。
進化していたデジモン達も元の姿に戻り、皆丈とゴマモンの所へ集まった。
「丈くん、ゴマモン、お疲れさま!」
「見直したよ丈。昨日はごめんな!」
「丈先輩の勇気がゴマモンを進化させたんですね!」
太一がそう言って丈と握手する。空も嬉しそうに丈に笑いかけた。丈は2人の激励に少し照れくさそうだ。
「いやぁ……」
「いや!それは違うよ!」
ゴマモンが丈の言葉を遮るように声を上げた。まさかの喧嘩腰である。
「丈の勇気というよりオイラが頑張ったおかげだよ!多分!いやそうだよ、絶対そうに違いないっ!」
自慢気に言うゴマモンの前に、丈は何も言わずしゃがんで目線を合わした。それにまた喧嘩をするつもりかと思ったのか、ゴマモンは売り文句で返す。
「なんだ、やるかぁ?」
「ありがとう、ゴマモン。君のおかげで助かったよ」
「へ?」
そんなゴマモンの態度は気にせずに丈は手を差し伸べながら笑った。
思いもしなかった丈のその言葉に不意を突かれたゴマモンは、その大きな目をぱちくりとさせた。そして顔を赤らめて丈の差し出した手をそろそろと重ね合わせる。
「あ、あぁ……」
「あぁ〜!ゴマモン照れてる〜!」
「うるさい!照れてなんかないやい!」
「いいじゃないか可愛いし〜!」
「違うし嬉しくないっ!」
楽しそうに茶々を入れるピヨモンにゴマモンが怒るが、誰がどう見ても照れている様子に皆も和やかに笑った。
「でも本当、いい顔になったよ!流石丈『先輩』!」
「え、あ!今更だけど灯緒くんの方が年上だったね。またすっかり忘れてた」
「そんなこったろーと思ってたよ。でも確かに私年上って柄じゃないしさ……」
気質的にも丈の方が先輩はあっている事だ。またプレッシャーで空回りするかもしれないけどそこは上手く支えよう。
「みんなといる時は丈が一番先輩ね!」
「なんだよ、それ」
私が小突いて丈が困ったように笑う。
ここで太一が勢いよく号令をかけた。青空を背景にするムゲンマウンテンの頂上を見上げ張り切って歩き出す。
「さぁみんな、行こうぜ!頂上へ!」
「オォーッ!」
数時間歩き続け私達はようやく頂上へたどり着いた。きつい山道から解放されて皆も思い思いに声を上げる。
「着いたあああ!」
「やったぜー!」
「うわああ〜!」
解放感に皆喜ぶが、目の前の光景に一瞬にして笑顔が消える。強く吹き付ける風の音がやけに耳に響いた。
「あ……」
「こ、これは……」
ぐるりと囲む、ひとつの青。
――――ムゲンマウンテンの頂上から見えたこのファイル島は、絶海の孤島だった。
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