digimon | ナノ

01 「坊やだからさ」咆哮!イッカクモン

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「……っまいける・じゃくそんッ!」

「どんなクシャミだよ」


 私は身震いをしながらクシャミをした。
 おもちゃの町を出発し行く宛てもないので特に目的地もなく歩いていた私達一行だが、ここしばらく森の中を歩いている内にだんだん気温が下がってきていた。
 一行に冷たい風が吹き付ける度に私だけでなく皆がぶるりと身震いをする。


「世界的なクシャミかな!」

「うぅ〜寒いよぉ〜……!」

「しおれそ〜……」


 一行の後ろを歩くミミとタケル、パルモンとパタモンが縮こまりながら言う。そのタイミングで言われると私がダメ出し食らってるみたいなんだが。
 そう思うとまさかの以心伝心か、隣を歩くインプモンがなんとも微妙な顔をしながら私をチラリと横目で見た。


「実際身も凍る寒さだしな」

「なんだとー!お前こそスカーフ一丁のくせに!見てて寒いんだよ!」

「うるせぇばか!つーかその言い方やめろ!殴るぞ!」

「やってみろよ!ライダーキックで返り討ちにしたらぁ!」

「よくわかんねぇけどすげぇ腹立つ……!」

「灯緒と約2匹、やけに元気だよなぁ」


 ギャーギャー言い合う私達を見ながらぼやく丈の言うとおり、約二匹のゴマモンとガブモンはこの環境下で嬉しそうに元気に歩いている。
 ゴマモンはアザラシだし、ガブモンは北方動物っぽいからそりゃ平気なんだろうな。ちなみにインプモンは特に変わりない様子だ。ツマンネ。
 ってか私もかよ!


「子供は風の子って言うっしょ!これくらいの寒さでへたばってどーするよ!」

「そうだぜ、寒いのも悪かないよな!」

「「「「えぇーっ!?」」」」

「おお、気が合うじゃないか太一!」

「ばかは風邪をひかないからな……」

「あら何か言いまして?」

「別に」


 なー!と私と太一がそう笑顔で言うと特に寒がっているミミとタケル、パルモンとパタモンは物凄く嫌そうに声を上げた。
 え?インプモン?知らねーな!


「そんな、勘弁してください!」

「だって雪が降ったら雪合戦できるぜ!」

「雪合戦!?」

「いいねいいね!バトルしようぜ!」


 光子朗が嫌そうに言うが逆に太一は嬉しそうに笑顔で返した。
 まさか季節外れもいいとこの夏真っ盛りなこの時期に雪合戦ができるなんて、多分一生に一度とない体験だよきっと!


「何その雪合戦って?」

「さぁ?」


 デジモン達は雪合戦を知らないらしく、パタモンとパルモンは聞き慣れない単語に首を傾げた。ガブモンもテントモンも一体どんなものなのか想像をする。


「雪合戦かぁ……」

「なんやそれ、食べモンかいな」

「そうだよ!作り方はね、デジモンを油で揚げて……」

「デ、デジモンを!?」

「何言ってるんですか!違いますよ、雪合戦というのは雪玉をぶつけあう遊びの一種ですよ」

「なんやびっくりした……」


 光子朗が正しい説明をするとテントモンは安心したように肩を下げた。チッ。


「久しぶりに勝負できるな!」

「負けないぜ!」

「楽しみよねぇ!」


 五年生組はヤル気満々だ。なんだよ可愛いな。
 それに同調してタケルも嬉しそうにはしゃぎだす。結局の所みんな雪に期待してんのね!あらかわいい!


「僕かまくら作りたい!」

「ねぇ、かまくらって作るの?」

「あぁ〜そりゃ食べ物に違いあれへん!」

「うん、かまくらってのはデジモンを塩胡椒で炒めて……」

「だから違いますって」


 テントモンに説明しようとするとまた光子朗に止められた。入れ知恵したっていいじゃない人間だもの、みつを。
 そう皆が楽しそうに話しているその脇で丈は1人今の皆の会話にため息をついた。


「気楽なんだから……雪なんか降られたらたまんないよ……」


 丈のその言葉に同時に振り返った私と空は顔を見合わせる。流石皆のお母さん、こういった変化を見つけるのが早いなぁ。
 私と空はアイコンタクトをとると2人で丈の隣に行く。


「丈先輩!何1人で深刻な顔してるんですか?」

「眉間に皴よせてどうした丈くん、そんな神経質だと将来ハゲるぞ!」

「余計なお世話だよ!……深刻にもなるさ。考えてみろよ!これ以上気温が下がれば野宿だって難しくなる」


 私達が訊ねると丈は眉をひそめながら、楽しそうに笑い合う皆を見ると更に不安そうに眉間の皺を深くする。


「寒冷地では食料の調達だって大変になるだろうし。頭が痛いよ……」


 丈は難しそうな顔をしながらスラスラと正論を言った。確かにそこまできちんと考えているのは一目瞭然、丈だけのようだ。


「ふぅん、難しい事考えてんのな」

「お前は全く考えてねぇもんな」

「考えてるわ!今日のご飯は何かなぁとか、今日も地球は私を中心に回っているのだ!とか」

「んなもん考えてる内に入るかよ!後者痛い奴だし」

「痛いってゆーな!私には死活問題なんだよ!文句あっかコルァ!」

「まーた始まった。似た者同士ねぇ」

「「似てない!!」」


 空が呆れたように呟けば私とインプモンは即座に反論する。ここまで息ピッタリだと逆に自分でも不思議だ。
 てか本当に似てないからね!熱血とツンデレという真逆だからね!はいここテストに出ます。
 そう火花を散らす私達を見ずに丈はひとり呟いた。


「当り前だろ、僕はみんなを守らなくちゃいけないからね……僕は一番年上なんだから」


 ………ん?


「ちょい待った!この中で一番年上は私だよ!」

「あ」

「あ、じゃねーよ!何、やっぱ私って年上に見られてないの!?」

「うん。あ、いや、ごめん」

「今何気に肯定したな丈コノヤロウ」


 本気で忘れてやがったな、今度から『眼鏡が本体』扱いしてやる!いや、いっそその眼鏡をボッシュートする!
 私がじと目で視線を送ると丈はごめんごめんと苦笑いで軽く謝ったが、またすぐ視線を反らしてひとり難しい顔をしていた。










「あぁー……」

「ほら見ろ、僕の心配した通りだ……」


 あれから少し歩いたところ、私達の目の前には本物の雪原が広がっていた。
 その光景を前に皆が唖然とした表情でつっ立っていると最初に丈がげんなりとした様子で呟いた。
 駄菓子菓子、私はそんな皆をさておき雪原へ飛び出した。ヒーハー!


「わあああああ雪だあああああ!」

「おい待てよ!」


 だって真夏の雪だぜ?遊ばな損だろ!雪やこんこん霰やこんこん!降ってはないけどずんずん積もる!
 私が駆け出すと同時にミミやタケル達も目を輝かせながら雪へ突進した。その後ろをインプモンが私を追う。


「子供だな、たかが雪くらいで……ぶっ!」

「坊やだからさ」


 私に1人文句を言うインプモンに雪玉を投げる。顔面直撃ktkr!


「……ってめぇぇぇぇぇ!」

「わーインプモンが怒ったー逃げろーい」


 私が脱兎の如く逃げ出すと後ろを般若面のインプモンが本気で追いかけてきた。
 ちょ、早っ!あの子早っ!本気と書いてマジと読むううううう!


「こうなったら必殺!エターナルフォースブリザード!相手は死ぬ!」

「んなもん効くかばか!」

「なんだと!?貴様、ニュータイプか!?」


 そう雪で遊ぶ私達とミミやタケル達を置いといて、一行のブレーン達は何やらこれからの事を話し合っている。
 なんか丸々任せちゃってすまんね。でも反省も後悔もしていない。そもそも私は考えることは向いていない。こういう時は適材適所が一番だ。


「これからどうするの?」

「とりあえず先へ進む!ここでぼけっとしててもしょうがないだろ!」

「え!?この雪原をか!?」


 悩みながら空が皆に問いかけるとすぐにきっぱりと言う太一にヤマトが抗議の声を上げた。
 それに続いて丈も太一に意見をぶつける。


「そうだよこれ以上は無理だよ!」

「じゃあどうするんだよ!前は雪原、後ろはあの山。どっちにしろどっちかへ進むしかないだろ!」

「ん?ちょっと待って。なんだか変な匂いが……」


 言い争いがまた勃発しそうな瞬間アグモンが何やら鼻をヒクヒクさせながら顔を上げた。するとアグモンに続いてピヨモンやガブモンも辺りの匂いを嗅ぎはじめる。


「そういえば臭いわ」

「なんだろう、これ」

「誰だしたヤツは。怒らないから名乗り出なさいっ」

「ちげーよばか」

「これってもしかして……」

「あ、あれだ!」


 全員が辺りを見回していると流石と言うべきかいち早く光子朗が反応し雪原の向こうを見た。皆もすぐに光子朗の示す方を振り返る。示された先には林から立ち上がる煙が見えた。


「煙が出てる!」

「そうか、この匂いは……」

「温泉だ!」

「「「「温泉〜〜っ!?」」」」


 丈が叫ぶと雪で遊んでいたミミやタケル達はピタリと走り回るのを止め嬉しそうに声を上げる。
 そう、漂ってくる匂いはいわゆる硫黄の匂いだ。そしてあの煙はおそらく湯煙。それはそれは冒険に疲れている一行にはとても魅力的に聞こえるものだ。


「わかった!ここは登別なんだ!」

「いやそういう事じゃねーだろ」

「え?じゃあ別府?いっい湯っだなっアハハン!」

「……もうやだこいつ……」


 私がボケている間に皆は一斉にその煙が立ち上がっている方へ走りだしていた。
 この私が出遅れただと!?不覚!てか皆急にみなぎってきたな!これが温泉の力か!


「お風呂だぁ〜!」

「お風呂ぉ〜っ!」

「ババンババンバンバン!ハ〜ビバビバ!」





 


「……ってコレ、沸騰してるぜ……!」

「……アーチーチーアーチー燃えてるんだろうか〜」


 ろっとぉ、まさかの光景に思わず現実逃避をと歌ってしまったよ。まぁいい。
 私達一行が意気揚々と煙の下へ走って来たのはいいものの、肝心の温泉はグツグツと音を立てて煮えたぎっておりました。


「これに浸かるんかいな……」

「まさか……」

「心頭滅却すれば火もまた涼し、頑張れば行けん事もないかもよ多分メイビー願わくば!」

「いや流石に無理だろ……ちょっ押すなばか!」

「あーん!これじゃあお風呂に入れないぃ〜……」

「でも温かいわ」

「とりあえず寒さは凌げるな」


 デジモン達も含め皆がコレには流石に落胆する。特にミミなんかは期待が大きかったらしく気が抜けたように地面に座り込んだ。
 だが温泉の蒸気のおかげで辺りは暖かくこれで暖はとれそうだ。


「呑気な事言ってる場合か!食料はどうするんだよ!?ここには食料なんて……」

「あるよー」


 そんな中丈が喚くように声を上げるが、すぐにタケルが軽いノリでそれを遮った。


「何言ってるんだよ、こんなゴツゴツした岩だらけの所に……!」

「ほらぁ!」

「……へっ!?そんなバカな!」

「なんと面妖な……ゴクリ……」

「何だよ?あ、ラッキー!」


 笑顔でタケルが示した先にはまさかの現代神器がミスマッチな風景に溶け込みながらそこにあった。ミスマッチもキャラのうちっ!


「非常識だ!何でこんな所に冷蔵庫が!?」

「野外に冷蔵庫なんてない、そのふざけた幻想をぶち壊す!」

「灯緒くんは黙ってて!」


 目の前の予想外の光景に丈は思わず叫んだ。
 そしてどや顔をした私を一喝した。私はショボーン顔になった。最近私立場弱くね?なんで?一応年上だよ。自覚ないけど。


「何が入ってるのかな」

「そういう問題じゃないだろ!」

「とりあえず開けてみたら?」

「だからぁ!」

「ミミ、ゼリーがいいな!」

「ゼリーってなぁに?」

「ゼリーってのはデジモンを……」

「まだ言ってんのかよ!」

「よーし開けちゃえー!」


 皆は見事な連携プレーで丈の言葉を受け流し和気あいあいと話す。なんかだんだん可哀想になってきた。丈先輩マジ空気。
 丈の制止も虚しく率先して太一が勢い良く冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中にはここ最近食べていない物がズラリと並んでいた。


「うわあーっ!」

「卵だぁ〜!」


 全員がこれには予想外だったが食べられそうな食材だと分かると笑顔になった。一番前で冷蔵庫を覗き込んでいた太一が笑顔で振り向く。


「今日の夕食はこれで決まりだな!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!食べられるかどうか分からないじゃないか!」


 悪びれなく言う太一に素早く丈が反応する。
 確かによくよく思えばこれデジモンの卵とかじゃないよね……?あれか、デジモンと動物は別物でいいのか。共食いとかシャレになんねーぞ!


「大丈夫だよ、毒味だったら俺がやるからさ!」

「何言ってんだよ!食べられるにしても人の物を勝手に食べるなんて泥棒と変わりないじゃないか!」


 丈は諫めるように言うが太一だけでなく他の皆も太一に賛成らしくそれぞれ丈に意見を言う。
 私としてもこんな野晒しな所にほったらかしだし正直盗まれても仕方ないと思うんだ。てか盗んで下さいって言ってるようなもんだよねコレ。


「仕方ないだろ、腹減ってるんだから」

「こんな所に置いてる奴さんが悪いって事で!」

「事情を話せば分かってくれるわよ」

「なにしろ非常事態ですからね」

「夕飯はこれで決まりや!」

「…………」


 満場一致の意見に丈はひとり押し黙るしかなかった。









「器は僕らに任せてよ!」

「出来たぁーッ!」

「ゆで卵ぉ!」

「ほら、薪拾ってきたぞ!」

「ねぇ、これどうするー?」


 皆はそれぞれ役割分担をして夕食の準備をしていた。
 勿論今日の夕食は先程の冷蔵庫にあった卵を使った久々の食卓らしい夕食だ。
 あー楽しみ!オレサマオマエマルカジリ!


「……みんなは呑気でいいよなぁ……僕はそういう訳にはいかないんだ、僕には責任があるんだから」


 皆と少し距離を置いた場所でナイフで木を削り箸を作りながら丈はひとり呟いた。
 お、ここは私の出番ですかな。読者の皆様も期待している事でしょうし!


「いやしてない絶対してない神に誓ってもいい」

「全力で否定!?てか心読むなよお前プライバシーの侵害ですよ慰謝料くれインプモンさん!」

「……きみ達そんな所で何やってんの?」


 こっそりと茂みに隠れながら丈の様子を見ていた私とインプモン(※強制連行)だが、私の大声であっさりと本人に見つかってしまった。これも全てインプモンのせいだ!俺は悪くねぇ!


「ふっ、見つかっちゃあしょうがない。それより独り言が趣味ですか丈くん」

「……灯緒くんには関係無いよ」

「んな寂しい事言いなさんなよ、そんな事言う丈くんは残念ながらボッシュートです!」

「ちょっと、もう!止めてくれよ!」


 私が眼鏡を取ろうとちょっかいを出すと丈は心底面倒くさそうに顔をしかめる。その顔地味に傷ついたぞ。お前も慰謝料を要求する!


「何1人でカリカリしてるか知らんけど、あんまり自分追い込んじゃいけんよダメガネ」

「ダメガネって僕の事!?怒るよ!?」

「やだもう分かってるく・せ・にっ」

「うわ腹立つ。本当になんなんだよきみ」

「ある意味尊敬する程のウザさだな」

「わーまるで蛆虫を見るような目だー」


 驚きのウザさ!ってか。そんな洗剤みたいなキャッチコピーいらんわ。
 2人に白い目を向けられるがそんな事で怯む私ではない。さてそろそろ本題に入ろう。文字数とか色々問題があるのだよ。メタいなどと言ってられるか!


「まぁ戯れ言はここまでとして。ほら肩の荷下ろしてちゃんと前向きなさいな!なんの為にそのメガネしてんだよ」

「……それは貶してるの?励ましてるの?ちょっとムカつくんだけど」

「どうとでも!」

「………そう」


 私があははと気の抜けた笑顔をすると反対に丈は俯いた。
 それを合図にしたかのように食事の準備が終わったらしく皆が声をかけあった。私はそれに気付き丈の手を引く。


「あ、晩飯出来たみたいだよ!msdz!」










「いっただっきまーす!」

「……いただきます」


 即席で作ったテーブルの上にズラリと並ぶ卵料理が眩しい。皆料理上手いな!上手に焼けました〜!
 久々のまともな食事に皆は笑顔で挨拶をすると勢いよく食べ始めた。


「ん、美味しい!」

「こっこれは!素材にある本来の旨味を活かしたシンプルな味に絶妙な火加減でまろやかに仕立てた口溶けのよい食感がなんとも…!」

「黙って食え。お前にはまだ早い」

「お、お父さん……!」


 早速目の前の卵焼きを一口食べるとあまりの美味しさに皆笑い合う。
 調味料などは一切無かったので、味には多少不安があったが問題なく美味しく出来ている。うーまーいーぞー!


「こんなまともなメシって久しぶりだよ!」

「これで白いご飯でもあれば言うこと無しだな!」

「ほかほかご飯にゆで卵!」

「目玉焼きon食パンのラピュタパンも忘れてもらっちゃ困るな!」

「うん、いいわね!」


 皆も箸を進めながら食事を堪能する。その中で丈だけ暗い表情で料理を見つめていた。丈のその様子に気付いたゴマモンが声をかける。


「なんだ丈、食べないのか?」

「……うん、家に帰ればこんな苦労しなくていいんだな……と思ってさ……」


 わぁ禁句。
 丈が言うと途端に沈黙が走り皆の空気が変わる。そして最初にミミが泣き出しそうな表情で呟くと他の皆も俯きながら暗い表情になった。


「……あたし、お家に帰りたい……」

「みんな、どうしてるかなぁ……」

「あれからもう4日も経ってるんですよね……」

「………」


 タケルや光子朗も思いを馳せるように呟くと丈はそこで自分の発言で皆に嫌な思いをさせてしまった事に気付いたのか顔を歪ませた。流石に家恋しくなるわなあ……まぁ薄情にも私は平気なんだけどね!


「でもやっぱ、目玉焼きにはなんか味付けが欲しいよねー」

「あ、えぇ、そうね!ねぇみんな目玉焼きには何かけて食べる?」


 話題に気付かないように私が言うと、咄嗟に空は私の意図を組み取り更に話題転換を皆に持ちかけた。nice boat!
 それに言った事は本当の本心で、やっぱり目玉焼きにはなんかアクセントが欲しいな。このままでも十分美味いんだけどね!


「目玉焼きには塩胡椒って決まってるじゃないか!」

「俺、醤油!」

「マヨネーズ」

「あたしはソース!」

「僕はポン酢を少々」


 丈がいち早く言うと太一、ヤマト、空、光子朗と次々に答える。皆結構バラバラなんだ、個性があって面白いな!


「……うへへ……」

「ポン酢……ねぇ……」

「気持ち悪い……」


 しかし光子朗の言ったポン酢は皆には不評だったらしく他の皆は苦笑する。あれ、意外とポン酢って美味しいのに。


「ぅえーっ!みんな変よぉ!」


 そこで嫌そうな声を上げて全否定をしたのはミミだ。そして今度は満面の笑みを見せるミミに、嫌な予感しかしない。


「やっぱり、目玉焼きっていえばお砂糖よね!あたしその上に納豆乗っけたのも大好き!」

「……納豆……?」

「それ変過ぎだよぉ……」

「う、うひひ……」

「ははは……」

「勝てる気がしない……」


 流石ミミ嬢だ、まともな答えが返ってくる筈がなかった!砂糖とか負ける気しかしない!
 でも実は納豆on目玉焼きは美味しいんだよ、ハツ江おばあちゃんが言ってた。皆もやってみてね!砂糖は……知らない!


「えぇー!?みんなは目玉焼きにそんな変なものかけるのか……!?ショックだ、日本文化の崩壊だぁ!」

「何ワケの分かんないこと言ってんだよ!」


 一通り話を聞くと丈は箸を置いて頭を抱えた。そのオーバーな反応にゴマモンは呆れたように声をかける。皆もそんな丈の様子に苦笑をする。


「お、おい丈……」

「そこまで悩むか?普通……ま、納豆は悩むかもしれないけどな!」

「だって目玉焼きには塩胡椒だもの!ソースでもマヨネーズでもなく、塩と胡椒っ!」

「よろしい、ならば戦争だ」

「な、何がだよ?」

「それは塩派の私への宣戦布告ととった!」

「意外と灯緒ちゃんはシンプルな塩派なのね」

「なんだって、君もか!どうして塩胡椒じゃないんだ!」


 丈は塩胡椒教にでも入信してんの?世界の中心で塩胡椒!と叫ぶの?というくらい丈はヒステリックに叫ぶ。
 意見を意地でも曲げない丈にゴマモンははぁ、と大きくため息をついた。


「やれやれ、丈は融通が利かないなぁ」

「なんだと!?」

「だってそうだろ、どーでもいいコトで悩むし」

「僕のどこが融通が利かないんだよ!」

「ほぉーら!すぐムキになる!」

「あーあ、始まった……」

「うーん……」


 馬鹿にするように言うゴマモンに丈がつんけんと突っ掛かり、とうとう丈とゴマモンとで口喧嘩が始まってしまった。傍から見る限り今はゴマモンの方が考えは大人だな、逆に丈は何かイライラが募って焦ってるようにしか見えない。


「やるかぁ!?この!うりうりうり!」

「くっそぉ〜!」


 ゴマモンが逆なでする様にからかえば丈は悔しそうに唸り立ち上がってゴマモンを睨む。不穏な雰囲気になったのを見兼ねてヤマトが丈を止めに入った。


「おい、丈!落ち着けよ!」

「うるさい!」


 丈の肩を軽く抑えるヤマトの手を丈はバシッと渇いた音を立てて叩き落とした。その瞬間皆の間は険悪な雰囲気に変わる。
 丈はそんな事には気付かず、焦りを見せた表情で自分を言い聞かせるように声を上げる。


「僕は落ち着いてるよ!いつだってね……!」

「……今日はどうかしてるぞ、疲れてるんじゃ……」


 そんな様子の丈にヤマトは心配そうな表情で問うが、それさえも丈は大声ではねのけた。


「疲れてなんかないよ!どうかしてるのは……みんなの方だッ!」


 離れていく丈の背中を見つめながら皆は呆然とした表情や複雑な表情をしていた。
 テーブルの上の料理達は再び口に運ぶ頃には冷めきっていた。



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