03 「だが断る」パルモン怒りの進化!
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「ミミちゃん、パルモン!大丈夫!?」
轟音が聞こえる方へ急いで行くと想像通り、ミミとパルモンがもんざえモンに襲われている真っ最中だった。
「あっ!灯緒ちゃん!」
「灯緒!危険よ、早く逃げて!」
「誰が!」
私が2人に駆け寄るとパルモンは慌てて言った。
でももうそんな事言われたって腹括ってきた私には耳を貸せない問題だ。
「私は逃げない!大切なダチを人形にしやがったコイツの鼻をへし折りに来たんだからな!」
「でも灯緒ちゃんっ!」
「無理よ灯緒!相手は……」
もんざえモンは私達に近づき、また目からビームを繰り出そうとしてきた。その瞬間を運よく私は目で捕える。
「危ない!」
私はミミとパルモンの腕を引き2人目がけてのビームを間一髪で避ける。しかしそのビームの爆風で私達は吹き飛ばされた。
「ふー……ミミちゃん、パルモン!大丈夫?」
「うん、ありがと灯緒ちゃん……」
「大丈夫よ。だから逃げて2人共!アタシがなんとかするから!」
「馬鹿言うな!パルモン1人でかなう奴だったらとっくに倒してるよ!」
「でもこのままじゃ!」
私の言葉にパルモンが渋る。言葉通りもんざえモンはパルモンが1人で勝てる相手ではない。パルモン自身もそれは痛いほど分かっ手いるだろう。
見上げるともんざえモンは地響きを鳴らしながらそのまま私達に向かってゆっくり歩いてくる。
途端、砂煙の中から無数の影が飛び出してきた。
「お姉ちゃん達ぃ〜!助けに来たで〜!」
突然わらわらと現れた沢山のヌメモン達は一斉にもんざえモンに攻撃を開始した。まさかの思いもよらぬ助太刀に私達はポカンとしながらその軍勢を見た。
「ヌメモン!?」
「どうして!?」
ヌメモン達はそんな私達の疑問には答えずもんざえモンに無数ウンチを投げつける。そのうちの1つのウンチがもんざえモンの額にべちゃ、と音を立ててぶつかった。
するとみるみるもんざえモンの表情が険しくなっていった。どう見てもお怒りである。
「なんという精神的大ダメージ。パネェっす、ヌメモン先輩!」
効く効かないに関わらずそのままヌメモン達はもんざえモンに向かって精神攻撃を続ける。
しかしもんざえモンには肉体的なダメージは一切なく、余裕の動きでヌメモン達を一蹴した。それでもヌメモン達は攻撃の手を休めない。
「ヌメモンが、アタシ達のために戦ってくれてる……ウンチ投げるしか取り柄ないのに……」
あ、あれは取り柄と言っていいのだろうか。だってウンチだし。精神攻撃的にはかなり有用ではあるが。
ミミは声を震わせながらヌメモン達を見上げる。その横でパルモンは悔しそうに言うと前へ出た。
「……アタシだって!」
「パルモン、危ない!」
「ポイズンアイビー!」
ミミの制止も聞かずパルモンはもんざえモンに攻撃を仕掛けるがもんざえモンはいとも簡単に弾き反した。その反動でパルモンは地面を転がる。
「っきゃあ!」
「パルモン!大丈夫!?」
「ポイズンアイビーがきかない……!」
尻餅をつくパルモンにミミが慌てて駆け寄った。パルモンはもんざえモンを見上げながら悔しそうに呟く。
いい加減頭にきたのかもんざえモンは顔をしかめながらとうとう必殺技を放った。
「ラブリーアタック!」
もんざえモンから無数の青い透明のハートが飛び散る。ヌメモン達や私達全てを狙ったその攻撃は避けれる隙は殆どない。
すると私達目がけて飛んでくるハートの群れにヌメモン達は自らの体で壁を作り上げ、ハートから私達を防いだ。
「ヌメモン!」
沢山いたヌメモンの多くがもんざえモンの青いハートに取り込まれてしまい、辺りにはそのヌメモンが入ってしまったハートが漂った。それでも残っているヌメモン達は私達を守ろうと必死に壁を支える。
……ごめんヌメモン。
「お前ら凄いよ。身を挺して守るなんて心が汚ぇヤツは出来ないよ。妨げて、ごめんね」
私は状況を忘れてただ感謝した。身は汚なくても心は汚なくなんてなかったんだ。おもちゃの町に行く前にも助けてもらったのを思い出す。そして今も。
「ありがとう!」
沢山のヌメモンがハートの餌食になってしまい小さくなってしまったヌメモン達の壁。
その横をすり抜けて1つのハートがミミとパルモンに向かっていく。私は礼を呟いた直後2人に向かって走りだした。
「ミミちゃん、パルモン!」
「ミミ!逃げて!」
こちらに向かってくるハートを見てパルモンがミミに言うが、それと同時に私は2人の前に両手を広げて立ちふさがった。
「灯緒!?何してるの、逃げて!」
「危ないわ灯緒ちゃん!」
「ダチ置いて逃げれるほど、私は利口じゃないんでね!」
体が勝手に動いちゃったから大目に見てくれ。
そう言って前を見ると青いハートが迫ってくる。勿論私がこれをどうこう出来るわけがない。
「………っ!」
あぁ、なんてデジャヴ。前にもあったなこんな事。そう思いながら私は堅く目を閉じた。
私がハートに呑まれる寸前、声が響いた。
「ナイト・オブ・ファイヤー!」
炎の塊が目の前のハートに当たりハートは弾けて消えた。私は目を精一杯見開きながら炎の塊が飛んできた方を見る。そこには先程探し求めていた姿が、インプモンがいた。
来るわけがないとは思ってなかった。でも本当に来てくれるとも思ってなかった。私を助けてくれた。
「――いいとこ来たっ!インプモン!」
「う、うるせぇ!少し貸しがあっただけだ、死なれたらパァなんだよ!」
インプモンは私からそっぽを向いてもんざえモンを睨み付けると、攻撃をしかけようと近づく。インプモンは指を立て炎の塊を作るともんざえモンへ投げつけた。
「こんなヤツ!ナイト・オブ・ファイヤー!」
「あ、インプモン!」
「……ちっ!」
インプモンが投げた炎はもんざえモンに当たったがその部分を少し焦がすのみだった。痛みがあったのかもんざえモンは驚いて振り返ると、インプモンを攻撃対象に定めたらしい。
もんざえモンはインプモンへ蹴りやビームを繰り返す。
「インプモン、余裕ぶってると危ないよ!」
「何が!」
相手は強い、と私は叫んだがインプモンは素早い動き動きが全体的に鈍いもんざえモンの攻撃を軽々と避け続ける。なんだ、もしかしてインプモンって強いのか?
「ぐっ!」
「インプモン!」
途端もんざえモンの蹴りがインプモンをかすめ、バランスを崩したインプモンは地面に尻餅をついた。すぐに私はインプモンに駆け寄って抱き上げるともんざえモンの攻撃範囲から避難する。
「だから言ったじゃんか!危ないって!」
「う、うるせぇな!あんなヤツごり押しで勝てる相手なんだよ!離せ!」
「え、どういうこと?」
そう言い合いながら、私はインプモンを抱えてミミやパルモンの近くほどまで走った。
「完全体でもアイツはそこまで強くない部類のヤツだ。疲労させたとこを叩けば勝てる相手なんだよ」
「へぇ、そうなんだ……でもインプモン1人じゃ流石に火力不足じゃないの?」
「………」
インプモンはサッと目を反らした。こいつやっぱり自己過信してたんじゃないか!
そんな私達を見てミミに支えられていたパルモンは立ち上がりもんざえモンを見上げた。
「否定し続けてたインプモンも、汚なくて根性の無いヌメモン達も、ミミ達を必死に守ってる……!」
パルモンが呟き、その言葉に呼応するようにミミのバックについている機械が光り輝いた。これは何度も見た希望の光。
「この光は……!」
「……?」
「パルモン進化!――トゲモン!」
ミミと私、そしてインプモンは目の前の巨体を唖然と見上げた。
サボテンを思わせる刺だらけの体に両手には真っ赤なグローブをはめたパルモンの進化した姿、トゲモン。
「パルモンが……進化した……」
「いくぞぉおお!」
トゲモンは両拳をバンバンと叩き合わせて気合いを入れると、真正面からもんざえモンに向かって走り出し勢い良くパンチを繰り出す。もんざえモンもまともにダメージを食らい顔をしかめて仰け反った。
どう見てもボクシングですたぎるぜえええ!
「よし、そこだ!フックだアッパーだジャブだクロスカウンターだぁ!」
「……お前うるせぇ」
「セコンドのミミちゃんは唖然としたまま見守っております!勿論トゲモン選手の勢いはバツグン!さぁこの試合一体どう転びますかね?このまま1ラウンドで決まるでしょうかインプモンさん?」
「オレ解説!?」
トゲモンともんざえモンのパンチの激しい打ち合いが続き、もんざえモンが目からビームを放とうとした瞬間トゲモンはアッパーをお見舞いしてビームを自分から反らした。
「はぁああああっ!!」
そしてその決定打の直後トゲモンは必殺技を放った。
「チクチクバンバン!」
「うわあああああっ!」
トゲモンの身体中の刺がもんざえモンを襲う。無数の刺が全身に刺さり、もんざえモンはよろめきながらそのまま後ろへ倒れていった。
「8……9……10!カンカンカン!決まったー!」
ゴーン――ゴーン――……。
と、トゲモンの勝利を祝うようにおもちゃの町の鐘の音が辺りに響きわたる。
トゲモンの体が光り、パルモンに戻っていった。
「はぁー……」
「パルモン素敵ぃ!」
へたりと座り込んでいたパルモンが安心と疲れを込めたため息をついているとミミが嬉しそうにパルモンの首に抱きついた。笑顔のミミとは反対にパルモンは呻き声を上げる。
「く、苦しい……」
「ミミちゃん、パルモン危ないよ締まってるよ!」
「え〜だって、嬉しいんだもん〜!」
「そっか、なら仕方ないなー!」
「えぇ!?灯緒助けてよぉ〜!」
ミミが強く抱き締めパルモンが涙目で助けてを求める。
そういった様子でいられるのもみんなが助かったという安心感からくるもので、私達は顔を見合せると笑い合った。インプモンは事情を知らないので不思議そうにしていたが。
「さぁ、みんなの所に行こう!」
「えぇ!」
辺りは既に夕暮れのオレンジでうっすらと染まりはじめていた。
感情を取り戻した子供達や箱に閉じ込められていたデジモン達も無事に助けることができ、みんなはもんざえモンの前に集まっていた。
「おもちゃは飽きられるとあっさり壊されホイホイ捨てられてしまう……それが許せなかったのです」
私達を目の前に正気に戻ったもんざえモンはゆっくりと話し始めた。
「だからおもちゃの町の町長のわしはおもちゃの地位向上を目指して……」
「おもちゃの地位向上って?」
「おもちゃを偉くするってことだと思う」
もんざえモンの言葉にミミが首を傾げると丈がそれに答えた。
おもちゃの地位向上ねぇ。よくよく思えばここのおもちゃ勝手に動いてね?新手のホラー?この世界地味にホラー展開多すぎるよ!
「その通りです。おもちゃが遊ばれちゃいけない、おもちゃが遊ばなきゃいけない、と」
「それで俺達がおもちゃに遊ばれてたんだ!」
太一が苦笑いを浮かべながら言うともんざえモンは一層申し訳なさそうにした。
「すいません。思い上がってたんです」
パキン!
空から何かが砕ける音がしたと思いみんなが見上げると、黒い歯車が割れて塵のように細かくなって消えていった。
「あ!黒い歯車!?」
「もんざえモンが思い上がっていたのは歯車のせいだったのか!」
「二度あることは三度ある、ってことかい」
もんざえモンの暴走の原因はこれまでにもあったように黒い歯車だった。アンドロモンもメラモンも、どちらも原因はあの歯車。やっぱりあの黒い歯車には何か縁があるのだろうか。
「もんざえモンのおもちゃを愛する気持ち分かるわ!」
「えぇ!」
「うん!私小さい頃遊んだおもちゃ大事にとってるよ!」
話を変えてミミとパルモンが笑顔で励ますようにもんざえモンに言う。それに便乗して私も励ました。
「だって沢山の思い出が詰まってるからね!」
「……ありがとう、お嬢さん達」
もんざえモンは今までとは違う、本当に優しい表情で笑った。
もんざえモンは立ち上がり、みんなに向き直った。
「パルモン、ワシの思い上がった心を正気に戻してくれてありがとう。お礼にハッピーにしてあげましょう。これが本当のラブリーアタック!」
正気ではなかった時のもんざえモンの青いハートと違い、本当のもんざえモンの技は可愛いらしい赤いハートが飛び出した。
「ハッピィ〜!」
「ラブリィ〜!」
「あははは!」
みんながハートの中に入り、幸せそうに笑った。パルモンが言っていた幸せの詰まったハートはこの事だったらしい。
私はまだハートに入らずにいると傍のマンホールから突然一匹のヌメモンが顔を出した。お前ら神出鬼没だな!
「お姉ちゃ〜ん!キスしてぇ〜!」
「イヤっ!」
「……じゃあそっちのお姉ちゃ」
「だが断る」
「……相変わらずはっきり言うなぁ……」
またもやミミと私に即座に断られヌメモンはしゅんと落ち込んだ。そんな様子を見て宙を漂うみんなが笑う。
「ヌメモンまだ言ってるよ、図太いな〜」
「…………」
私は離れ立っているインプモンに話しかけた。恥ずかしいのか他のみんなともほとんど話していないようだ。シャイだなぁ。
「どうしたの?しかめっ面して」
「……お前、オレが来るってわかってたのか」
横を向くインプモンは視線だけを私に向けて言った。
「いや。でも自分の言葉で言おうとすると口を閉ざしちゃうけど心は閉ざしてないってのは思ってたよ。まぁでも賭けだったね」
「………」
私が答えると今度は視線も外して黙り込んだ。何か考え込んでるっぽいけどなんなんだろうかこやつは。
私はインプモンに近づいた。前みたいに下がられはしない。
「今までの気にしてんの?」
「……悪いかよ……」
「いや、似合わないなーって思って」
「おっお前なぁっ!」
「嘘嘘!ごめんって!」
インプモンは怒りを通り超した呆れた様子で私に向き直る。こいつ顔の部分白いから頬がちょっとでも赤いと分かりやすいな。
「私は気にしないよ。踏み出したその先が見えなくて、どうなるか怖くて……嫌な事ばかり考えて身動きがとれなくなったんでしょ。本当は頭では分かってるのにね」
笑っちゃうほど、よくある話だ。
「そんなの誰にだってあるよ」
「……お前にもか?」
「そうだね」
私が笑うとインプモンは驚いて私を見上げた。なんだ失礼だな!私はこう見えて繊細もいいところなひび割れガラスハートなんだぞ!多分!
「でも大丈夫!分かったんでしょ?ほら、目を背けるのは終わり!」
「………」
私が一個の空のハートに近づいてインプモンに振り返る。するとインプモンの口が微かに動いたのが見えた。
「―――――」
「え?ごめん、なんて?」
「べ、別にっ!」
「?」
小さい声で紡がれた言葉はなんだったのか気になったが、そっぽを向くインプモンに聞いても素っ気ない返答のみだった。
なんだなんだ、気になるじゃないか。思わず難聴系主人公になっちゃった。
「ほら、こっち来なよ!インプモン!」
私はインプモンに手を差し伸べた。
自分がどうするべきか、まだはっきりとは分からない。今まで信じてきたものが根本から揺らいでしまった。それでも自分を偽り続けるよりは断然いい。偽ることの辛さや痛さを知っているならなおのこと、偽ることは止めにする。
ずっと1人でいいと思っていた。でもそれはただの虚勢だったんだ。
差し伸べられたその手を、取った。
「――ありがとう」
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