02 「答えはノーだ!」パルモン怒りの進化!
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みんながそれぞれバラバラに逃げて行き、私とミミとパルモンはそのまま3人で小さな木立の近くまで走ってきていた。
別れてに逃げたため今は追ってきているヌメモンの数も少ない。そこでミミと私は木の陰に隠れて、パルモンは反撃を開始した。
「ポイズンアイビ……」
「ヒイイィィ〜っ!」
「――――?」
パルモンが技を繰り出そうと叫んだ、と思ったらヌメモンは悲鳴を上げて逃げ出していった。
この期に及んで怖じ気づいたとでもいうのだろうか。
「パルモンすごーい!」
「おかしいな、まだ何もしてないのに……」
「だよね。……ん?」
パルモンが不思議に思っていると、私達の後ろからドスンドスンという地響きが聞こえてきた。
何かがこっちに向かって近づいてきているようだ。
「もんざえモン!」
「も、もんざえ?」
後ろを振り返るとそこにいたのは巨大なくまのぬいぐるみが立っていた。
一見するとテディベアで可愛いが、でもよくよく見ると目が真っ赤に光っていて妙にホラー感があって怖い。うーん、これこれで可愛いような、でも嫌な予感もするような……。
「おもちゃの町へようこそ!」
「何これ!?これデジモンなの?」
「どう見てもぬいぐるみです本当にありがとうございます」
「もんざえモンは見かけによらず強いデジモンなの。おもちゃを愛しおもちゃに愛されるおもちゃの町の町長」
その可愛らしい見た目でなかなかのハスキーボイスというギャップである。おもちゃのドンならその見た目もわかるけども。
パルモンが説明するとミミが期待を込めた声で訪ねる。
「じゃあ良いデジモンなのね?」
「そうだと思うんだけど……」
「お嬢さん方、お待ちしておりました!」
ミミの質問にパルモンはどことなく自信なさげに言う。その直後もんざえモンは、ドォン!とその目から赤い光線を私達に向かって出して攻撃してきた。
目からビーム!?
「うわあああっ!?くまが、くまさんがぎゃっ逆襲を、くまがぎゃくしゃあああああ」
「ちょ、灯緒が狂っちゃった!どうしようミミ!」
「狂いたくもなるわよぉ!良いデジモンがどうしてあたし達を攻撃するの〜っ!?」
「知らないぃ〜っ!」
「ごゆっくりお楽しみください!」
「楽しめるかー!ぶぁああかああああ!」
目からビーム攻撃を続けながら迫るもんざえモンから反対方向へ私達は慌てて走りだす。少し走ったところで前方に何かが動いたのが見えた。
「お姉ちゃん達、こっちこっち!」
「ヌメモン!?」
前方に先程私達を追っていたヌメモンが地面の割れ目の深い溝から手招きをしていた。
あいつもしかして私達を助けてくれるつもりなのか!?ええい、ままよ!
私達はヌメモンに招かれるままに地面の割れ目に飛び込んで身を隠す。溝で息を潜める私達にもんざえモンは気付かず、そのまま上を通り過ぎていった。
「行ったわ……」
「……全く、何なんだあの凶暴なぬいぐるみ……下手なホラーより怖いよぉ」
「おもちゃの町でなにかあったのかしら……」
もんざえモンの鳴らす地響きが遠くなるのを聞いてようやく私達は一息つく。
その横で安心したのかヌメモンはまたナンパを始めた。
「お姉ちゃん達ぃ〜!オレとおもちゃの町でデートしなぁ〜い?」
「しない!」
「答えはノーだ!」
即座に断られてしゅん……としおらしくなるヌメモン。だが断る。残念ながらこちらとら今お前らに構ってる暇はないのだよ!
「みんなアイツに襲われてないかな」
「そうよね、心配だわ」
「それじゃあおもちゃの町に行きましょ」
「了解!」
意見がまとまった所で、私達は溝から出るとそのおもちゃの町とやらに向かって歩き始めた。
その背を見ながら割れ目の溝に残されたヌメモンはどこか感心するように呟いた。
「……はっきり物を言うお姉ちゃん達だなぁ〜……」
森をしばらく進んだ所におもちゃの町はあった。カラフルな色合いの建物が並び、軽快な音楽が流れ、風船がふわふわと宙を漂っている。
しかし他の物音は無く静かで誰の気配もない。可愛らしい見た目なだけに逆に不気味な雰囲気だ。
「誰もいないみたいね……」
「みたいだね。よーし今の内に……しめしめ」
「ど、ドロボー!お巡りさーん!」
「ちょっと2人共静かに!あ、誰か来る」
辺りを見回しながらそう言っていると前から見慣れた顔が走ってきた。後ろからおもちゃを引き連れて。
「あれは、太一くんじゃまいか」
「楽しいなぁ〜……楽しいなぁ〜……」
「……太一さん?」
太一は私達には目もくれず虚ろな目をしながら走る。むしろ後ろからおもちゃに追われているようにも見えた。
「何してるの?そうか、太一とうとう狂っちゃったのか……惜しい奴を亡くしたよ……」
「勝手に殺しちゃダメよ!」
「楽しいなぁ〜……おもちゃの町は楽しいなぁ〜……楽しいなぁ〜……」
「全然楽しそうじゃない……」
そのまま太一が走り去ったと思ったら、今度は別の方向から空が同じようにおもちゃのお猿を背に走ってきた。
「……とってもとっても面白〜い……」
「そ、空ちゃん?アルカホゥでも飲んだ?」
「灯緒ちゃん、違うと思うけど……」
「どこが面白いの……?」
空も太一と同じような様子で目の前を走っていった。今度は光子朗がおもちゃの兵隊を連れてやってきた。
「今度は光子朗くんだわ」
「愉快だな〜……こんなに愉快な事はない〜……」
「いやあるだろ。お前これで愉快とか器小さいぞ、君はそんなものに収まるような天才じゃないだろう」
「どういうこと?そもそもちっとも愉快そうじゃない……」
「うん……」
スターウォーズ並の規模くらいの野望持とうぜ。
見送ると次はプップー!とおもちゃの車のクラクションが響いた。次はヤマトが目の前をミニカーに追われながら走っていく。
「超〜超〜超〜……超嬉しい〜……あっはっはっは……」
「お前はギャル男か!殴っていい?ねぇ殴っていい?」
「いくら何でもだめよ!」
パルモンに制止をかけられ仕方なしに止める。だってなんか痛かったんだもん……貴重なイケメンがどうしてこんなことに……くっ!
今度は丈がおもちゃの鳥と一緒に走って行く。鳥は丈の頭目がけて嘴を突きだし、丈は紙一重で避けるという動作を繰り返していた。
「あ、丈先輩も……」
「……最っ高!文句無しの最高!……」
「いや危ないだろ!脳天突きされてるよ先輩!」
当たってないからいいものの!当たれば頭パーンだぞ!
そして最後にタケルがおもちゃのヘリコプターを連れて走り去っていった。
「ばんざぁーい……ばんざぁーい……ばんざぁーい……」
「……うん普通にかわいいな」
「落差激しいわね灯緒」
結論、キャラ崩壊はこの世の終わり。
「にしてもどうしてこうなった」
「そうよ、みんな感情が無くなっちゃったみたい……どうしたの?」
「変だな、アグモン達がついてたはずなんだけど……」
ミミが疑問を言いパルモンがうーんと考える。
子供陣はおもちゃの町にいるんだしやっぱりもんざえモンに会ったんじゃないかな。あー私頭脳派じゃないから分かんないぞよ。
「とりあえずやっぱりみんな何かあった線が強いね。探してみよっか」
「そうね。きっとどこかにいるわよ」
そう言って歩き始めるととあるおもちゃの家から何かしらの音が聞こえた。これは何かの呻き声?
「……〜〜〜〜っ!」
「?」
不思議に思い私達は顔を見合せて、恐る恐るその家に入ってみた。
「誰かいるの?」
「パルモ〜ン!」
薄暗い部屋にには大きな箱があり、それからくぐもっているが聞き慣れた声がした。
「アグモン!?」
私達は慌てて箱に駆け寄った。この中に閉じ込められているらしい。
私が箱を開けようと力を入れるがびくともしない。くそおお開かないぞこれええ!開けゴマああ!
「ピヨモン、テントモン、ガブモン、ゴマモン、パタモンは!?」
「みんなここにいる!」
「オレ達みんなもんざえモンにやられたんだ!」
説明しよう!
アグモンが言うにはあれから私達と同じようにもんざえモンに襲われ、それぞれ攻撃したがもんざえモンには適わずパートナーもデジモンもヤツの攻撃により捕まってしまった。そして気が付いたらデジモン達はこの箱に閉じ込められていたという。
ふぅ。
「じゃあみんなは!?」
「オレ達にもよく分からない!だけど、もんざえモンは『感情を消しておもちゃのおもちゃに』って言ってた!」
「感情を消す?」
「おもちゃのおもちゃ?」
私達は先程見たみんなの様子を思い出す。確かにどちらかと言うと子供達の方が遊ばれていたように思う。
「みんな、おもちゃに遊ばれてたのね」
「えぇ……」
「おk、理解した」
2人も納得して頷いた。続いてパルモンが訪ねる。
「もんざえモンの身に何が起きたの?」
「分からない……」
そうだよね、襲われた後ずっとこの箱の中にいるんだし分からないのは無理もない。
次に隣でミミが訪ねた。
「ねぇ、この箱から出られないの?」
「壊そうとしたけどダメだった!」
「オレ達の事よりヤマト達を助ける事の方が先だ!」
アグモンは悔しそうに言い、その後ガブモンが急くように言うとパルモンは聞き返す。
「助けるったってなぁ……」
「どうやって?」
「もんざえモンを倒すしかないわ!」
「えぇっ!?」
「無理よ!」
ピヨモンの言葉にパルモンもミミも驚いて声を上げた。
2人は反論するがアグモン達がこの箱から出られない今、私達しかみんなを救うことは出来ない。
アグモンは説得するように強く言った。
「パルモン、ミミ、灯緒!頼りはお前達しかいない!」
「そうよなあ」
「どうする?」
「あたしに聞かれても……」
「とりあえず外に出よっか」
ミミとパルモンと私はそう言い家を後にした。
「もんざえモンのラブリーアタックは幸せの詰まったハートを飛ばすハッピーな攻撃のはずなんだけどな……」
「そうなの?あ、タケルくんだ」
「……あはは……ばんざーい……ばんざーい……」
パルモンが呟くように言うと目の前をタケルが相変わらずの様子で走って行った。それを見てミミは顔をしかめる。
「どこがハッピーなのよ」
すると突然ミミの足元からシャンシャンシャン!とシンバルを叩く音がした。見てみるとそこにはシンバルを持ったお猿のおもちゃ。
「うるさいわね!」
今の状況にイライラしていたミミはその猿のおもちゃを足で蹴飛ばした。おもちゃはこてん、と地面に転がると倒れながらシンバルを鳴らす。
私はそれを見て先程のアグモンの言葉を思い出した。
――お前達だけが頼り。
違う、私以外だ。お前達はミミとパルモンの二人で、私は入っていない。
私は何もできない。何をやっても空回り、何をやっても。
「…………」
「――――?どうしたの灯緒ちゃん?」
「……私、ちょっと行ってくる!」
「ちょ、ちょっと灯緒!?」
「すぐ戻る!」
私が突然黙り込んだと思うと突然走りだしたのを見て、2人は訳がわからずに困惑しその間にも私は2人から見えなくなっていた。
「……畜生!」
今の私ではミミとパルモンに付いて行ったって足手纏いになるだけだ。
私には何の力も無いんだから。悔しい、悔しい。自分が弱いなんて嫌だ。だって決めたから、強くなるって誓ったから。
私はおもちゃの町と森の境目まで走って来ると、声を張り上げた。
いる確証はない。それでも私にはいると信じたかった。
「インプモン!いるんでしょ、インプモン!」
「………!」
突然町中から出てきて何を言うかと思えば突然自分の名前を呼ばれて、灯緒を追って木の上から町の様子を見ていたインプモンは驚いて振り返った。
あいつ一体何を?
「お願いインプモン、私に力を貸して!出てきてくれインプモン!」
灯緒がオレの名前を呼ぶ。視線はあってさえいないはずなのに全てを見透かされているような気がした。
それでもオレは。行くわけにはいかない。行ってはいけない。
だけど、灯緒の言葉に動揺する自分が分からなかった。
「みんなが、みんなが危ないんだ!このままじゃとても助けられない!それに私にはみんなを助ける力が無いから……助けたいのに私は無力だから!何もできない!」
私は叫ぶ。自分でももう何を言っているのか何を言いたいのか、頭の中で絡まって分からなくなってきた。ただ気持ちだけが急いで口まかせに言葉を吐き続けた。
私はぐっ、と両手に力を込めた。両腕が震える。
「だから私のパートナーであるインプモンに力を借りたいんだ!私に、みんなを救う力を貸してほしい!」
私はみんなを助けたい。だから一緒に来てほしい。
たくさん言葉を並べたけど一番言いたいことはたったそれだけなんだ。
「……お願い……!」
私は思わず頭を下げる。最初にインプモンと会った時と同じように。
インプモンも木からの同じ光景を思い出した。
「……オレは……」
「……インプモン……」
……ダメ、か。
何の反応もない森を見て私は顔を伏せた。
いや、ぐずぐずしている暇はない。こうしている間にもミミとパルモンがもんざえモンを探して……。
すると突然、
――ドオォォォオン!
轟音がおもちゃの町から響いてきた。
振り返るとおもちゃの町の真ん中から砂煙が立ち上がっている。
「!」
「まさか、もんざえモンの攻撃!?」
「あ!」
2人が危ないかもしれない!私は今上がった砂煙を目指して走りだした。
オレは思わず声を上げたが地響きで灯緒には聞こえなかったようで既に灯緒の姿は見えなくなっていた。
行くべきか。いや、オレは行ってはいけない。行くべきじゃないんだ。オレは日の目を見てはいけないんだ。
葛藤に追い詰められたオレの頭の中は悪循環が生まれ、怖くなった。
嬉しくて、怖くて、もどかしくて、楽しくて、悔しくて、その気持ち全てを押し殺そうとした。
なのに、この焦りはなんだ?
「でも、でもオレは……!」
でも。
「でも、私来たよ!遅くなったけど、君のもとまで来た!もうどこにも行かない!」 そうだ、あいつは本当に来た。
「じゃあどうするの?お兄ちゃんを助けたいでしょ?……どうすればいい!?」 じゃあオレは一体どうすればいいんだ。
「たった今、ダチが死にかかってるんだよ?相手の力量を測って怖じ気づいてる場合じゃないんだ、力の問題じゃないんだよ!」 最も問題なのは、オレの心。
「よし!じゃあもちろん、うまくいく!」 うまくいくなんて保障、本当はないけど。
「ピヨモン、空のこと大好きだよね!って話!」 ……オレは。
「周りのものに惑わされるな、君は君だ!他の誰でもない!」 オレは、あいつのパートナー。
「いつまでもそんな顔でいられちゃ迷惑だ。君は私を泣かせていい程偉くないだろ」 いつまで否定し続けるんだ。
「何してんだ!こんなところでおちおち死ぬ気かよ!行け、走れッ!」 あいつひとりで突っ走って、その隣には誰もいない。
「インプモン!」「どうして、危険を冒してまでオレに会いに来たのか……」
そんなもの、決まってる。
酷く優しいから、あいつは走るんだ。
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