digimon | ナノ

01 「あばよ、とっつぁーん!」パルモン怒りの進化!

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「遠い〜故郷〜思い出す〜」


 暗い地下水道にみんなの明るい声が響き渡る。
 私達はタケルの提案で歌しりとりをしていた。てかデジモン達がこういう歌知ってるとか驚きだろ!君達何処で知ったし!
 ……KY発言だから言わないでおこう。


「はい!デジモンチーム『思い出す』の『す』!」

「すっぱいな〜すっぱいな〜は成功の元じゃないないな〜い♪」

「はい!子供チーム『ないないない』の『い』!」

「『い』!?」


 一瞬にして子供チームは固まった。みんな『い』から始まる曲が思い浮かばないらしい。えーと『い』ってあったっけな……。私もワカンネ。


「い……い……」

「いけ〜ない〜人〜」

「なに、それ?」


 ミミが1人歌うが他のみんなは微妙な顔をした。私も知らずにポカンと口を半開きにする。


「お父さんがよくカラオケしていた演歌!」

「そんな歌知らない……」


 小学生が演歌知ってたら相当渋いよ!ミミ選曲渋っ!
 するとその前で光子郎が思い出したのか呟くように歌う。


「今は〜何も〜……」

「あぁ、それなら知ってる!」

「俺も!」

「え、ちょ待って私知らないんだが!?」

「せーの!」


 私以外の満場一致でみんなはその歌を歌う。
 こらああああなんだよみんなしてはぶるなよ!……グスッ。こうなりゃ1人違うの歌ってやる!しかも『い』から始まらないぜ!


「今は〜何も〜」

「びゅーんと飛んでーく鉄ー人ー!28号ーぅ!グリコ、グリコ、グリコ……」

「きゃあ!?」


ビルの街にガオー!とするような勢いで陽気に歌っていると突然空が悲鳴を上げた。驚いて太一とヤマトは空に駆け寄る。


「な、何!?助けて鉄人ー!またはオックスー!」

「大丈夫か?」

「どうしたんだ?」


 びっくりしたように目を瞑っていた空は恐る恐る目を開けた。


「違うの灯緒ちゃん、水が落ちてきたの……」

「あぁ?」


 空の言葉に太一は天井を見上げた。するとまた水滴が落ちてきて空の服を汚す。
 それを見た光子郎が指摘する。


「汚れましたよ」

「え?あ……あぁ……」


 空は増えた汚れの染みを見ると目を伏せて疲れた声音で呟いた。


「……洗濯したい……」


 その一言で一気に場の雰囲気が暗く変わる。
 ちょっ重い!重いってみんな!


「俺だって、風呂に入ってのんびりと……」


 案外言う事がおっさん臭……いやなんでもない。
 太一がそう言うと、今度はタケルがなにやらしゃがんで指を動かしてジェスチャーをした。


「僕は……」

「タケル、お前なぁこんな時にテレビゲームはないだろ。はははは……!」


 なんだその無駄に爽やかな笑い方。
 タケルを見てヤマトが笑ったと思うと、すぐに真顔になって笑うのをやめた。


「俺もタケルのこと笑えない……今俺のしたいことは、ジュージュー焼ける焼き肉……腹いっぱい食べたい!」

「誰も笑えないさ……僕は勉強。宿題山ほどやりたい!」


 目を輝かせ更には涎を垂らすヤマトに続き、丈も願いを言った。勉強したいとか本当にがり勉くんだなぁ!
 私は宿題は夏休みの最後までやらずに2日ほど徹夜して全部仕上げようとするが結局できなくて諦めて9月入ってからやる派だ!(ノンブレス)


「うーん、それは共感できないかな……」

「ほんと変わってるわね……。あたしは冷たいコーラが飲みたい!」

「ミミさんそれいい!僕も!」

「でしょ?」


 ミミが意気揚々に言うとタケルがその言葉に嬉しそうに同意した。ほほう、それはなかなかいいなあ!
 続いて光子郎も便乗して言う。


「僕は、インターネットで友達にメールを送りたい!」

「らしいなぁ。じゃあ私はカップ麺食べながら吉本見たい!」

「……灯緒さん親父臭いですね」


 うるへー!いいじゃん吉本!いいともでも可!休日の昼下がりに笑う……。そういうとなんかすごくシリアル、じゃねーやシリアスだな!
 そう子供達が口々に言うのを見てデジモン達は同情するように呟いた。


「みんな疲れてるんだ……」

「かわいそう……」

「同情するなら金をくれええええ!」

「灯緒、『かね』って何?」


 私はデジモン達にガンを飛ばすが元ネタどころかその言葉さえわからなかった。そうだねこの子らが福沢さん持ってるわけないね。あれ?となるとここでの通貨ってなんだろう。
 そんなこんなで和気藹々と喋ってあるとデジモン達は何かに気付いたのか咄嗟に前方を見つめた。


「あ!あの声は……!」

「ヌメモン!」

「ヌメモン?」


 知らない名前にみんなも怪訝な顔をする。
 えっと、ヌメモンだっけ?ヌメヌメしてんのかな。


「暗くてじめじめした所が好きで、知性も教養もないデジモン!」

「強いの?」

「弱い」

「弱いけど汚い」

「汚いの?」

「デジモン界の嫌われ者って言われてる」

「嫌われ者……」

「最悪な評価だなぁ」


 嫌そうにデジモン達が口々に言うには散々な言われようだ。
 そう言っていると暗闇からだんだん声が聞こえてきた。


「……ヌメェ……ヌメェ……」


 鳴き声まんまじゃねーか!
 静かに声を潜めて待ち、声が聞こえる方から姿を現したのは――緑色のナメクジ?


「やっぱりヌメモンだ!逃げろーっ!」


 ヌメモンが暗闇から現れたと思うとアグモンは大声を上げてそれに続いてデジモン達は一目散に走りだした。つられて子供達も走りだす。


「弱いのにどうして逃げなくちゃいけないんだよ!?」

「今に分かるぅ〜!」


 一目散に走りながら太一はアグモンに問いかけるが余程恐ろしいのかアグモンは太一を見ずに走り続ける。直後、ヌメモン達は『何か』を私達に向かって投げてきた。


「ヌ〜〜メェッ!」


 ――ベチャッ!


「………………え?」


 嫌な音があちこちから聞こえ、その音の正体がわかるとみんなは悲鳴を上げながら更に加速した。
 そう、ヌメモンから飛んできたのは奴らの汚物だった。しかもそれは毒々しいピンク色。


「ぎゃああああああ!?」

「うわああああああ!?」

「ちょ、う、う、ウンチイイイイイイ!?」

「このばか!言うなら伏せろよ!」

「あっごめん。ウ○チイイイイイイ!?」


 技がコレとかそりゃ嫌われるわ!
 って叫んでる場合じゃねーや。あんな変な奴らに背を向けるなんて自身が許せないね!


「誰か塩!塩持ってない!?」

「え!?何するんだい!?」

「んなの決まってんでしょ!緑の悪魔にかけてやんの!」


 そんなカッコいい呼び名じゃ元ネタが可哀想か。白い悪魔ごめん。


「これで……殺る!」


 何故か塩を持っていた丈から塩を貰うと、キランと容器を光らせ私はヌメモン軍団に向かって塩を投げた。
 おりゃあああ溶けてまえええ!


「食らえ雑魚共!悪霊退散悪霊退散!エロイムエッサイム〜!」


 パラパラパラ。


「……効かねえええ!?」

「当たり前だよ!だってあれナメクジじゃないし!ヌメモンだし!」


 私が投げたお清めの塩など全く効かず、ヌメモン達はそのまま私達に向かって突進してくる。もちろん絶えず汚物を投げながら。
 そりゃないっしょ大将!


「うわああああああああ!!」


 為す術もなく再び悲鳴を上げながら走りだすと先頭を走っていたタケルが何か見つけたらく立ち止まる。


「あ、こっち!」


 タケルが小さな横道を見つけ、みんなもタケルに続いてその道を走る。
 するとその道は地上へと続いており私達は一斉に勢い良く外へ飛び出した。


「ギャアアアアアアッ!」


 全員が出て後ろを振り返ると後をついてきていたヌメモン達は悲鳴を上げながら引き返し暗闇に去って行った。


「ヌメモン達は太陽の光が苦手なんだ」

「ニートかな」


 ヌメモン達の慌てて戻っていった横道の穴を見ながらアグモンが説明した。
 にしても運良く日当たりへ出る道を見つけて助かったよ……とりあえず危機回避はできたみたいだ。


「あばよ、とっつぁーん!」









 地下水道の抜け道からヌメモンにウンチを投げられながら追いかけられなんとか脱出して真昼の太陽の下、平野を歩くこと小一時間。


「「あ!」」


 さすがに喉が渇いたなぁなどと思いながら歩いていると、突如現れた光景にみんなは驚いて立ち止まり私とミミは思わず声を上げた。


「こんなところに自動販売機がたくさん……!」

「なん……だと……!?」


 私達の目の前には久しぶりに見る自販機が無造作に、しかもこれでもかという程大量に立っていた。
 なんて神がかったナイスタイミングなんだ!


「ミミ、まさか飲みたいなんて……」

「そのまさか!」

「理性がログアウトしましたー!」


 心底嬉しそうな顔で眼下を見るミミにパルモンが不安げに聞くと、直後ミミは自販機に向かって突進した。
 だよね!これを見て黙っていられるかっての!
 という訳で私もミミに続いて自販機へと走りだす。


「ミミくん、灯緒くん!どうせ出やしないよ!」

「聞いてないわね……」

「全く……」

「しょうがないわよ、まだ子供なんだもん」


 丈が叫び、太一や空が呆れたように言っているがそんなのお構い無しだ!てか空、その言い方なんかおばさん臭……いやなんでもない。言ったら地獄を見るやもしれぬ……。


「あらやだお高い」

「灯緒ちゃんおばさん臭いわよ?」


 でも、お高いんでしょう?
 私とミミと、ミミを追ってきたパルモンはとあるひとつの自販機の前に立ち、並んでいる商品を眺める。まあ自販機なら値段はこんなもんかな……。
 そういえば自販機によってはコーンスープやお汁粉の缶があるよね。流石にこれにはラインナップにないか……いやあっても今は買わないけど!あれで喉が潤せるか!ああいうのは冬場の寒さで凍えそうな時のみご用達だ。


「コーラがある!パルモンは?」

「いらないっ!」

「怒らなくてもいいのに」


 ミミはパルモンに訊ねるがパルモンはぷいっと横を向いた。ミミの行動に対して流石に拗ねているようだ。でもそんな仕草が逆にかわいいよパルモン!


「それじゃあ灯緒ちゃんは何にする?あたし奢ってあげる!」

「ホント!?ありがとーミミちゃん!」


 そうだった。走ってきたのはいいけど私一文無しだった。一体私は何をしに来たんだ。
 それじゃミミのお言葉に甘えようかな!
 ミミと同じくコーラを頼みミミが自販機にお金を入れてコーラのボタンを押す。するといきなり自販機の扉が私達が立っている前側に倒れてきた。


「きゃあああっ!?」

「うええええ!?」


 自販機の中は機械などないハリボテの空洞で、その代わりにいたのは先程見たデジモン界の嫌われ者。正直もう見たくない相手なんですけど再会早すぎませんかね!フラグ管理雑ゥ!


「お姉ちゃん達ぃ〜!オイラとデートしなぁ〜い?」

「ミミと灯緒のことナンパしてるわよ?どうする?」


 自販機から登場したヌメモンが楽しそうに訪ね、パルモンが更にミミと私に訪ねた。
 ミミをナンパするたぁ見る目はあるなぁ。私はお門違いだけど。


「えぇ〜!?どうもしないわよ!なんであたしがこんな奴とデートしなきゃいけないの!?」

「条件付きならいいよ。全財産よこせ」


 ミミは嫌がりながらきっぱりと否定し私は腕組みをしながら見下すように言った。
 今私は金がねぇんだ!世の中金が全てなんだよ!金は命より重い……!ざわ……ざわ……。


「2人共怒らせちゃダメよ」

「平気よ!太陽の光の下じゃ………え?」


 ミミがそう言って空を見上げるやいなや、どこからともなく雲が現れて太陽の光を遮った。途端に辺りは暗くなってヌメモンが行動できる環境になってしまった。天は我を見放したか!


「……雲がログインしました」

「う、うそぉ……!」


 まさかの展開に私もミミも暗くなった空を見上げながら唖然としていると、ヌメモンは憤りながら自販機から飛び出してきた。


「こんな奴とはなんだぁ!もう怒ったぞぉ!」


 そう目の前のヌメモンが言うと周りの自販機の中からもどんどんヌメモンが現れた。その数は数えきれないほどだ。てか数えたくない。どうせ数えるなら素数数えるよ。


「11……13……17……19……」

「ちょ、灯緒ちゃんしっかり!」

「に、逃げるわよ!」


 私があっているのかいないか分からない素数を数えている横でミミとパルモンはヌメモンを見て顔をひきつらせ、私達はその場からみんながいる方へ走りだした。


「あ、あ、あ、あんなにたくさん……!?」


 私達の行動を小高い場所から一部始終見ていたみんなは、ヌメモンを後ろに引き連れて戻ってくる私達を見て、まさに顔面蒼白で脱兎の如くその場から逃げ出した。
 その中でも焦りながらもまだ冷静でいたヤマトは追ってくるヌメモンを横目で見るとみんなに叫んだ。


「これじゃ埒があかない!分かれて逃げよう!」

「賛成!」



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