02 「あんさん、めっちゃ格好ええで!」電光!カブテリモン
(15/67)
「ヤッホォォォオ!奇遇だねインプモン!ここで会ったが百年目!」
薄暗い廊下を激しく音を立てながら私は目の前を走るインプモンを追いかける。
私が追いかけてきた事に気付き、インプモンは後ろを横目で見ながら更にスピードを上げた。
フハハ、私から逃げきれると思うてか!WRYYYYY!
「お、お前こんなところまで追いかけて来たのかよ!」
「あったぼーよ!それよりもインプモンだってこんなとこで何してんのー!?」
実際は成り行きというか偶々ここにやってきたのが本当なのだが、焦りながら言うインプモンに私が追いかけながら笑った。
向こうから見れば某脱出ホラーゲームみたいなんだろうな。言っておくが私はあんな怖い顔はしてないぞ!はんぺんみたいな顔だ!はんぺん掌!
「なんだっていいだろ!お前にそんなこと関係ねぇっ!」
「めっちゃくちゃあるよ!だってインプモンは私のパートナーなんでしょ!」
そのままの調子で私は言うと、インプモンは急に黙り込んで足を止めた。それに気付き、私も止まる。
「……………」
「あれ、インプモン?」
なんだどうした。私なんかマズい事言ったかな。
「………なんなんだよ………」
「へ?」
呟くように言うインプモンに私が首を傾げる。するとインプモンは急に声を荒げた。
「なんで、なんでオレがお前のパートナーだって言い切れるんだ!オレはっ………オレは……」
「わかるよ」
私があっさりと言い切るとインプモンは唖然とした表情で私を見上げた。
「はっ……?」
「直感だよ。知らないの?直感って意外と当たるんだよ」
よく言うだろ、女の勘はカオス理論をも越えるって!……言わない?
「そんなこと言ってんじゃ……!」
「私は君がパートナーだって信じてる」
「…………」
こうなれば言いたいこと全部ぶつけてやらぁ!
私は一歩、近づく。同時にインプモンが下がった。いやいや、逃げないでよ、折角話せているんだしもう少しチャンスをください。
「だってこんな全然住む場所も姿も違う私達が出会えたことは普通じゃありえない。奇跡だよね!それって素敵なことでしょ?」
最初にここに来た時本当にわくわくしたんだ。その気持ちに嘘なんてない。
もちろん、初めてインプモンに逢った時だって。私は確信したんだ。
私がここに来た理由も君がここで待っていた理由もこれから私達が何をすべきなのかも、全部。
「だけど奇跡は偶然で起こるもんじゃない、必然なんだ。だからインプモンが私のパートナーだってのも必然なんだよ!」
私は笑う。
「ま、そんな理屈は本当はどうでもいい。大事なのは今私達がここにいるってことだ!」
「………」
私がはっきりと言い終える間インプモンはずっと目を見開いて私を見ていた。
なんだその反応は。まさか。
「あ!もしかしてインプモン、私がパートナーなのが気に入らないってこと!?そういう理由か!なら仕方がないなあ」
「!いやっ……」
急にふざけたように言う私にインプモンは思わず顔を横に振った。やったー!本音発見!
「そっか、じゃあ私と行こうよ!」
「……………嫌だ」
私が笑いながら言うが、間を置いてインプモンは俯いて呟くように声をだした。
あーもう随分頑固なんだなぁ。なら仕方ないか。あまり自分の考えを押しつけるようなマネはしたくない。……今まで散々してきたけど。
「わかったよ。でもインプモン」
なら、せめて一つ言っておこう。
ふーとため息をつきながら私はインプモンと同じくらいの目線の高さまでしゃがんだ。
「そんな悲しそうな顔で言われても全然説得力ないよ」
「!」
インプモンは俯いていた顔を上げた。
ほら悲しそう。
「そんな悲しそうな顔でいわれると私も悲しくなる。そんな表情するくらいなら全部吐き出しちゃいなよ。1人で苦しんでいたって仕方ないでしょ」
私を否定するたびの苦痛の表情。それはひとりで痛みを抱えている証拠。
ならば私が一緒に支えてあげないでどうする。
だって私はパートナーだから。
「いつまでもそんな顔でいられちゃ迷惑だ。君は私を泣かせていい程偉くないだろ」
「……っ!」
インプモンは目を見開いて私を見た。
目線が混じり私が笑うとインプモンは一瞬泣きそうな表情をしたが、すぐに突然大声を上げた。
「何も……何も知らないくせに……!何も知らないくせに語るな!!」
「インプモン!」
そう言ってインプモンはまた先へと走りだした。
いつまでたってもいたちごっこだな、こりゃ。
――ドォォオオンッ!
突如大きな地響きが工場ごと辺りを揺らす。
工場の建物の間の道で子供達とそのデジモン達は襲いかかってくる敵と対峙していた。
「スパイラルソード!」
人造人間のようなデジモン、アンドロモンが腕を振り上げて真空波を繰り出した。
「メガフレイム!」
「フォックスファイヤー!」
その真空波を避けグレイモンとガルルモンが口から炎を吐き出しアンドロモンへと放つ。しかしアンドロモンは素手で軽々と炎を打ち消した。
その目は煌々と赤く無機質さをたたえた『敵』の顔だった。
私は前を走るインプモンを追っていた。あれからインプモンは私に何も言葉をかけずただ前を走る。
話は最後まで聞けって習わなかったのかこのヤロー!
「こら、待てってば!インプモン!」
「――ッ!」
薄暗い廊下から明るい外へと飛び出したインプモンを私もそのまま追いかけた。
「あ!灯緒!?」
「灯緒!それにインプモンも!?」
外へ出ると突然上から聞き慣れた声が聞こえた。
あれ、なんでみんなそんな所にいるんだ?
「侵入者、捕捉。ガトリングミサイル」
私が上を見上げてみんなに気をとられた瞬間、前を行くインプモン目がけてミサイルが飛んできた。左側にはミサイルを飛ばしたと思われる人型のデジモンが立っている。
インプモンと私の間は地味に遠いが、間に合わせるッ!
「あ……!」
「インプモンッ!」
私は咄嗟に地面を蹴り、こっちへ飛んでくるミサイルを間一髪の所でインプモンを抱き抱えて避けた。
そのままインプモンを庇いながら私は体を地面に叩きつけられる。
「な……!」
「っい……!」
インプモンが私の腕の中で目を見開いて私を見る。そして私の腕を押し退け出て横にかがんだ。
「なっ何してんだよ!お前、怪我……!」
「へっ、こんぐれーかすり傷にも入んねーよ……!ってね」
敵のミサイルには当たらなかったものの私は地面に衝突したことによって擦り傷を作ってしまい、じわりと足から血を流していた。ただの擦り傷だがなかなか傷は大きく足に力が入らない。
「……お前……」
「侵入者、捕捉」
インプモンにむけてミサイルを放ったデジモンが私達に一歩、また一歩と近づく。
どう見ても私達を攻撃対象にしてやがるな。ぐぬぬ。
「逃げろ!早く、インプモン!」
「!」
インプモンは突然の叱咤に驚いて私を見る。
私は足に怪我を負って立てないけどインプモンは無傷だ。逃げるなら今しかない。
「何してんだ!こんなところでおちおち死ぬ気かよ!行け、走れッ!」
「………――ッ!」
私が強く叫ぶとインプモンは歯を食い縛って躊躇いながらも漸く背をむけて走りだした。
うつ伏せになっていた私は仰向けに変えて上半身を起こす。
うわぁ血ひでぇぐろい。こんな派手な傷、下り坂で自転車からすっころんでスライディングした時以来だよ。
「痛っ!あーあ……背中の傷は武士の恥よ……」
あ、背中じゃねーわ。ちなみに武士でもない。ま、いっか。日本人はみな心に一本の刀を持つ根っからのジャパニーズサムライよ。
「ガトリングミサイル!」
「――――ッ!」
今の危機感に実感が湧かず呑気な事を思っていると、私を標的に飛んでくるミサイルが見えた。それに私は思わず目を瞑った。
「灯緒!!」
上の方からみんなの叫び声が聞こえる。しかし悲鳴に混じって別の声音の声が響いた。
「テントモン進化!――カブテリモン!」
頭上から何度か見た眩しい光が降り注ぐ。
そしてその直後、状況なんて全く分からずただ眩しさに目をぎゅっと瞑っていた私の体は宙に浮いていた。謎の浮遊感に私は目を開く。
「ま、まさか……テントモン!?」
「今はカブテリモンですわ」
そうだ、さっきの光は進化の光だった。テントモンは私を手に乗せるほどの大きさの青い昆虫へ姿を変えていた。
その見た目と渋い声で関西弁とは笑ってしまう。そのギャップ、ごっつ好きやで!
「あんさん、めっちゃ格好ええで!」
「おおきに!」
カブテリモンは私をみんながいる建物の屋上へ降ろした。カブテリモンはすぐに敵へと飛んでいき、降ろされた私にはみんなが心配そうだったり嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。
「灯緒!」
「灯緒ちゃん!」
「やあやあみなさんお揃いで!ねぇ、あの敵対してるイケメンデジモンってなんていうの?」
「言ってないで傷を見せて!」
「あれはアンドロモンだよ」
空は心配そうにしながらもサッとポーチから救急セットを取り出し、私の場違いな質問に丈がそのアンドロモンに目を向けながら答えた。
膝の痛みからの現実逃避に付き合ってくれてありがてぇ……ありがてぇ……!
「光子郎ー!」
「わっ灯緒さん?」
パソコンを開いきながら眼下の戦いを見ている光子郎にどーん!と私はもたれかかった。
戦いの最中だろうが、私は嬉しかったのだ。ちょっとのはしゃぎも大目に見てくれると嬉しいな。
「光子郎くん、テントモン進化したね!カブテリモンに」
消毒液の染みる痛みなんて気にせずに、私は笑った。
「君だから進化できた。君だけが進化させることができた、ね!」
「……はい」
そう言うと光子郎はぱちくりと目を瞬いた後、微笑んだ。
「くそ、アンドロモンに弱点はないのか!?」
「……弱点……」
光子郎の隣で戦いを見ていた丈が進化してもまだ苦戦はしないが中々良くならない状況に焦って声を上げた。
その言葉を聞き光子郎は観察するようにアンドロモンを見つめる。
「……あ!」
その瞬間、アンドロモンの右足が不自然に光った。
「カブテリモン、右足だ!右足を狙え!」
光子郎が叫ぶとカブテリモンは旋回してアンドロモンのミサイルを避け、光子郎の言葉のとおりアンドロモンの右足を狙って必殺技を放つ。
「メガブラスター!」
テントモンの時とは桁外れの巨大な雷の塊が、アンドロモンを襲った。
バチバチと激しい音をたてて、カブテリモンが放った巨大な雷の塊がアンドロモンの右足に直撃する。
ナイスコントロール!
「ウオオォォォオオオ!!」
アンドロモンが苦痛の声をあげたその瞬間、その右足から幾度か見たことのあるモノが飛び出した。
「あれは……!」
「黒い歯車!」
アンドロモンの体内から出てきた黒い歯車は細かく砕けて塵と化すかのように消えていった。
なんてデジャヴ。そういえばメラモンの時も同じだったなと思い返す。
「消えた……」
黒い歯車が消え、赤く光っていたアンドロモンの瞳に本来の光が戻る。そしてアンドロモンは呟くように言った。
「……邪心ガ落チタ……」
「機械二紛レ込コンダ黒イ歯車ヲ取ロウトシテ、アンナ事二ナッテシマッタ」
正気に戻ったアンドロモンは丁寧に私達に説明をしてくれた。ちなみにその際に別行動グループの経緯もみんなが話してくれた。
それにしても、本当はいいデジモンじゃないかアンドロモン!格好いいし紳士だし素敵やでェ。
「黒い歯車……!」
「また!?」
みんなは黒い歯車がまた現れたことに驚いた。メラモンの暴走の時も黒い歯車が原因だったなあ。一体黒い歯車って何なんだろう。
「助ケテ貰ッタノニ本当二申シ訳ナイ事ヲシタ」
「気にすんなって!故障なんだから!」
「どう見てもロボットかアンドロイドというよりもサイボーグなんだが」
「どう違うんだ?」
分かりづらいがどことなく落ち込んだ様子のアンドロモンを太一が明るくフォローした。太一、故障ではないと思うよ!
するとアンドロモンは私に向き直った。
「君モ怪我ヲサセテシマッテ本当二スマナイ」
「別にいいって!これは私が勝手に転んだ際のモノだから気に病むこたないよ!」
「ソウダトシテモ申シ訳ナカッタ……。ソレデハ」
私は笑いながら言うとアンドロモンは少し表情を柔らかくした。
実際怪我をした所は空の救急セットを借りて応急手当て済みで立って歩くのももう平気だ。無理をしてるって言われれば否定はできないけどな!
「君達ノ疑問二答エテアゲタイガ私モ答エヲ知ラナイ。ソノ代ワリココカラ出ル方法ヲアドバイス出来ル」
申し訳なさそうに頭を下げていたアンドロモンは頭を上げ、そう言いながら彼の後ろにある大きい管を指差した。
ホッホーウ!配工官がいそうだ。
「地下水道ヲ行クトイイ」
「ありがとうアンドロモン!」
「達者でな!」
「君達ノ幸運ヲ祈ル。無事元ノ世界に帰レルヨウ……」
雑音気味の機械まじりの声なのだが、とても優しい声音でアンドロモンはそう言って私達を見送ってくれた。どうか、そんな心優しい彼にも幸があらんことを、と私も祈って手を降った。
「よい……しょっと!」
「よし、これで全員出てきたな!」
管から下へ降り、最後にミミが降りると太一がみんなを見渡した。
「なんかじめじめして気持ちの悪い所だな……」
「ああ……」
「まぁ地下水道なんてこんなもんでしょ」
「そうね……そこまで臭くないのが救いかもね」
ヤマトや太一、空が顔をしかめながら地下水道を見渡す。ほんと下水道じゃなくってよかったよ!
「そういえば灯緒、なんでインプモンがこんなとこにいたんだ?」
「あれ、気づいてなかったの?」
思い出したように太一が私に問いかけた。今更だな。
「最初っからあの子私達の後着けて来てたんだよ?」
「え、そうだったの!?」
「気づかなかった……」
言うと、ミミと丈が驚いて声を上げた。他のみんなも知らなかったらしい。
なんたってあの子ツンドラ……じゃなくてツンデ……おや誰か来たようだ。
「でもインプモンまた行っちゃったね」
「大丈夫だよ」
タケルが残念そうに言った。それに私は笑って答える。
「すぐ来るさ。あの子も言いたい事があるみたいだったからな」
私の言葉に分からないのかタケルやみんなは首を傾げた。そりゃそうだ、私とインプモンしか分からないはずだからね。
「ま、気楽に行こうよ!」
私達は歩き始めると少ししてタケルが光子郎に問いかけた。
「そうだ、ねぇ光子郎さん!さっきパソコンでテントモンを進化させたんでしょ?」
「そうだよ」
「僕のパタモンも進化させられるの?」
光子郎はパソコンとパタモンを交互に見る。一瞬考え、そしてすぐに明るく声を上げた。
「――できるかもしれないな!」
「本当!?」
タケルは嬉しそうに声をあげ、光子郎はパソコンを開いて文を打ち込んでいく。しかしパタモンに何の反応も起きない。
「……反応なし?」
「あれ、おかしいな……」
「なんです、また壊れましたん?」
「じゃないと思うんだけど……」
困った顔をしてパソコンを操作する光子郎にテントモンが聞く。
するとそんな光子郎を2つの影が挟んだ。
「そういう時は叩くに限る!」
「そうだ!」
何故か嬉しそうな太一とアグモンが光子郎のパソコンを叩こうと構え、勢い良く突撃した。
「叩けえぇーっ!」
「うわっ!」
――ゴッ!
………おわかりいただけただろうか。
驚いた光子郎は咄嗟に避けると、見事に痛そうな鈍い音を立てて太一とアグモンがぶつかった。
「いってー……!」
「あんた達の能天気は叩いたって治らないって!」
「うまい!空、座布団二枚!」
涙目になり痛がる2名に空が呆れたように言い放つ。そんな和やかな雰囲気にみんなも笑った。
さあ、はりきって地下水道を抜けよう!
←/【BACK】/→