digimon | ナノ

01 「誰がお菓子だ!!」電光!カブテリモン

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「だけど〜ぼくに〜はピア〜ノが〜ない〜」

「はぁ……もうだめぇ……」


 私が陽気に歌う横でミミががくりと膝をついた。
 その傍でタケルも地面に座り込み、ゴマモンやパルモンも力尽きたように倒れ込む。


「一歩も歩けないよぉ……」

「限界かな……」

「ずーっと歩きっぱなしだもん……」

「そんなことでは力石に勝てんぞ!」

「誰?」


 しまったネタが通じなかったか。ジェネレーションギャップを痛感する……。
 只今私達は見渡す限り何もない真っ皿な平野を歩いていた。かれこれこの平野を歩き始めて数時間。歩いても歩いても変わらない風景にみんなもうんざりしていた。
 そしてとうとうミミを筆頭にみんなの疲れもピークに達したらしい。


「あたし、灯緒ちゃんの歌で力も抜けたわ……」

「なんと」

「微妙な驚き方すんな」

「……よし、ここで休憩にしよう!」


 全員が疲れているのを見て太一はみんなに聞こえるように言った。太一が言った後みんなはそれぞれ思うように休憩しはじめる。
 私はどっこいしょと言って木にもたれる。するとミミに「灯緒ちゃんおじさん臭い」と言われた。うるせぇやい、てやんでえバーローちきしょー。


「はぁ……やっぱり動かないよなぁ」


 隣で同じ木に寄りかかりながら光子郎はパソコンを開きタイピングするが、反応しないパソコンを見てため息をついた。


「壊れちゃったんじゃないの?ぶつけたとか水がかかったとか」

「そんなはずは……」


 私が光子郎に話しかけ光子郎が答えた瞬間、光子郎の膝からパソコンが消えた。


「そういう時は、こう叩くと直るって!」

「わあぁっ!止めてくださいよ!」


 見上げると太一が光子郎のすぐ傍に立ってパソコンをバンバンと音をたてて叩いていた。精密機械にそれは悪手じゃろ!
 光子郎は一気に青ざめ、慌てて太一からパソコンを取り返す。御愁傷様です、パソコン。


「俺はお前のためを思って……」

「それは分かるけど、誰だって大切にしているモノを他人に触れられたくないでしょ?」

「ちぇ」


 2人の様子を見ていた空が太一を諫めるが、太一はつまらなそうに口を尖らせてそっぽを向いた。


「そもそも叩くと直るって、テレビのことでしょ?」

「……あれ?そうだったか?」


 一瞬考え、太一が首を傾げた。あれ?違ったっけ?
 するとふと太一が横を見ると、何かを見つけたように表情を変えて一点を見つめたまま走りだす。


「ん?あれは……」

「あぁっ太一待って〜!」


 太一が駆け出すとアグモンも慌てて後を追う。
 それを見ていた丈が不思議そうに言った。


「どうしたんだろう、太一」

「トイレだろ」

「え?大?」

「お前一応女子なんだからそういう事をさらっと言うなよ」

「一応ってなんだ一応って!」


 ヤマト、貴様私をどういう目で見ているんだ!いや今のは流石に汚なかったとは思うけど。ごめんて。


「……あれ?」


 隣でパソコンを見つめていた光子郎が不意に声を上げた。直後ブゥン、と機械の電源が入る音がする。


「やったぁ!直ったぞ!」

「おお!おめでとう!」

「……でも、バッテリーが0になっているのに動いてる……どうしてだろう」

「光子郎くん、まさかエスパー……?」

「違います」


 天才パソコン少年にさらにエスパー能力が加わるなんて……!
 はわわと驚き戦いているそんな私はさておき、光子郎は再び考え込んでいると、ちょっと離れたところから太一の声が聞こえた。


「おーい、みんなぁ!」


 何か見つけたのか、太一はみんなにこっちに来るように声をかけた。みんなは何事かと急いで太一のいるところまで行く。


「工場だ!」

「おっきい!」


 行って眼下に見えたそれに、真っ先に丈が声を上げる。
 太一が見つけたのは下り坂の下にある大きい工場だった。


「あんなに大きいんだ!人だって絶対いるよ!」

「そうかなー?」


 希望が目の前に現れるといつものように目を輝かせて丈が言う。
 みんなもこれだけの工場を見たため少し期待を寄せているようだ。


「だから行ってみよう!それで誰か大人を探すんだ!」









「ねぇ、何作ってるの?」


 みんなは丈の意見に賛成し工場の中に入る。
 人の気配はないものの、そこではベルトコンベアに運ばれながら何かが作られているようだった。
 タケルが怪訝そうにヤマトに聞いた。


「これはね、巨大ロボを作ってるんだよ。3体が合体して悪い奴らを残虐ファイトで完膚なきまでに叩きのめしてくれるの」

「えぇー!そうなの!?すごーい!」

「絶対違う。変なこと吹き込むな。それにしてもなんだろう……調べてみないと分からないな」

「調べるんなら人がいるかどうかも調べようよ!」


 目の前の大掛かりな機械を見ながら話していると、丈は目を輝かせながらみんなに提案した。


「これだけの工場なら絶対誰かいるはずだ!」

「……あまり期待しない方がいいと思います隊長」

「いや、きっといるさ!いるに決まってる!」


 私が不満げに言うと丈はそんな私を不思議がってか聞いてきた。


「灯緒くん、君はなんで毎回そう希望がない事を言うんだよ?」

「えー、だって」


 なんだ、そんなこと。私にとっては愚問中の愚問だっぜ。


「人間のいないデジモンだらけの世界の方が面白いじゃんか!」


 私が当然のようにケロリと言うと、みんなは一瞬唖然としたがすぐに頭を抱えたり微妙そうな顔をした。な、何その反応!?


「あのね、君はおかしい!」

「誰がお菓子だ!!」

「ベタな間違いすんな」

「でも面白いって……」

「なんで?デジモンばっかりの方が断然面白いし楽しいでしょ!」


 丈が呆れながら言いミミも苦笑いで言う。もちろんみんなも驚いてたりしている。
 みんなは帰りたい一心だろうけど、私は退かんぞ!


「せっかくこんな面白い場所に来たんだ!楽しまなきゃ損損!」

「何言ってるんだよ、こんな何もない場所でちゃんと生きられるわけないだろ!人間を探して元の場所に帰るんだ!」

「んなもん余裕のよっちゃんだ!なんたってみんながいるからね!あとは気合いだ!」

「何の根拠もないだろそれ!」

「まぁまぁ、2人共落ち着けって」


 私と丈の言い合いがヒートアップしていき、やっと太一が仲裁に入った。実際には私はキラキラと目を輝かせ、それに丈が食って掛かってきていたのだが。
 ちっ、今日はこの辺にしといてやろう!


「とにかく!みんなで工場の中を探すんだ!」








「誰かー!誰かいませんかー!」

「こんにちはー!三河屋でーす!みりんお届けに来ましたー!」

「ちょっもうお前黙れ」

「うるさいです灯緒さん」

「……最近皆さんの口が悪くなってきた気がするんですけど、タケルくん」

「灯緒さんがんばれ!」

「公認!?」


 私達は今は2つに分かれて工場内を人間がいないか捜し回っている。
 別行動組は太一とアグモン、空とピヨモン、丈とゴマモン組で、私がいる方はヤマトとガブモン、光子郎とテントモン、ミミとパルモン、タケルとパタモン組だ。
 そうしてしばらく工場内を歩き回っていると、光子郎がとあるドアの前で立ち止まった。


「動力室だ!」

「どうりょくしつ?」


 光子郎が驚いたように声を上げる。
 意味がわからないのかミミは首を傾げた。


「ここの機械を動かしてるってこと?」

「えぇ、そのはずです」

「中に入ってみよう」


 ヤマトが声をかけ、皆はその部屋に入る。
 すると薄暗い部屋の中で真っ先に目に入ったのはなにやら巨大なもの。な、なんじゃこりゃ。


「オバケ電池とモーターだ!こんなので動かしているなんて……!」

「おばけでんち?」

「なにそれ食べ物?」

「食べたら異常症状をきたすでしょうね」

「まじでか」

「そもそも食えねぇからな?」


 また光子郎が感動したように言い、早足でその巨大なオバケ電池とやらに駆け寄る。
 調べる気満々だな!








「まだ調べるのか?」


 光子郎の好奇心に付き合うこと数分後。
 ヤマトが呆れたように、興味深そうに調べ回る光子郎に声をかけた。


「はい。先を急ぐんでしたら皆さんだけどうぞ。僕は残ってもう少し調べます」

「じゃあ私も残ろっと。お、なんだこりゃ」

「あ!灯緒さんあまりいじらないでください!」


 目線は機械に向けたまま光子郎はみんなに言うと、その返事を聞いたみんなはぞろぞろと部屋から出て行った。私は完全に戦力外だが何かあった時のために残っておこう。一組よりはマシだろう。
 私は特別機嫌がいいわけでもないが、ふんふんと鼻歌を歌いながらその辺をうろうろと歩き回る。なんか工場の社会見学してるみたいで楽しくなってきた。お、なんだこれ!


「光子郎くん、こんなところにドアがあるよ!」

「どこですか?」


 オバケ電池の側面にドアがあるのを私が見つけると、光子郎が興味深そうにすぐ駆け寄ってきた。
 光子郎がドアを開けて物怖じもせず中へ入る。なんと頼もしい。それに私とテントモンも続いた。
うぉっまぶしっ!


「おぉー変な模様がびっしりだよ」

「これなんでっか?」

「コンピュータのプログラムだ……」

「なるほど、まったくわからん」


 中に入ると広さは狭いが壁一面に何か変な記号のようなものが描かれていた。
 光子郎が呟きながら壁の記号に触る。すると明るかった室内が急に暗くなった。


「!」

「わ!真っ暗!?」

「光子郎はん、工場中の機械が止まってまっせ」


 意外とテントモンは冷静に言い、光子郎も落ち着いて考える。
 お前ら人間じゃねぇ!……テントモンは違ったね、デジモンだね。


「プログラムを間違って消したせいかな」

「そや、消したとこ直せば分かるんちゃいまっか?」

「それもそうだ!」


 光子郎はカバンからマーカーを取り出すと記号の消えた部分を書き足す。
 すると、すぐに部屋の明かりがついた。


「おぉ!本当についたー!」

 へぇー壁に書いてあるだけでこんなこと出来るのか!科学の力ってすげー!


「それにしても不思議だ……電池は金属の溶液と化学変化によって電気を起こす……でもこれは違う。壁に描かれているプログラム自体が電気を起こしている」

「え、何語?」

「日本語ですよ」


 光子郎はパソコンを取り出して何かを打ち込んでいく。いつ見てもタイピング早いなぁ。


「今度は何してはるんですか?」

「このプログラムを分析してみるのさ!」

「え!光子郎くんそんなの出来るの!?」

「はい!」


 お主、本当に小学生か?天才や!光子郎先生や!
 そうしてまた私の中で勝手に光子郎のあだ名が増えていくのであった。
 光子郎は嬉しそうに壁を見渡しながら、もの凄いスピードでタイピングしパソコンにどんどん打ち込んでいく。最早何を操作しているのか分からない私はハテナを浮かべることしか出来ない。


「やっと僕のパソコンの出番ってわけさ!」


 そう言う光子郎の顔はとても楽しそうだ。イキイキ乳酸菌である。
 そんな様子を見てテントモンも同じように思ったらしく、光子郎に訊ねた。


「光子郎はんの顔、何や今までになく生き生きしてまんなぁ」

「そうかい?」

「うんうん、楽しそうだよね」

「ほんまや。どこが楽しいんでっか?」


 テントモンが興味深そうに光子郎に聞く。パソコンで作業をしたまま光子郎は変わらず楽しそうに答えた。


「暗号や古代文字を解読するのに似た楽しさかな」

「ああ!なるほど、わかるかも!」


 まだ付き合いが浅い私が言うのもなんだが光子郎らしい理由だなと感じた。
 パズルを組み合わせていくような、論理的なものが好きなんだろう。私ならクイズやなぞなぞと思えばなんとなく分かる気がする。


「解読する楽しさねぇ。で、解読して何かええことあるんでっか?」

「もしかすると謎が解けるかもしれないよ!この世界がどういう世界で、君たちが何者か、とか」

「あ、それ知りたい!」


 光子郎が嬉しそうに言い私も賛同するが、テントモンはどこか理解できないらしく光子郎にまた質問をした。


「で、解読して何かええ事でもあるんでっか?ここがどこで自分が何者かなんてウチさっぱり興味がおまへんな!」

「そりゃ本人はそうだろーよ!でも私達はデジモンなんて全く知らないんだし」

「まぁそうやろうけど……灯緒はんは自分のことどうですん?」

「んーどうだろ」


 自分のことは自分でよく分かってる!……わけないか。急に言われるとわからないや。そんな話を始めてしまっては哲学になってしまう。
 私にそう言い、そのままテントモンは光子郎に首を傾げながら話題を振る。


「光子郎はんも自分が何者かなんて興味ありまっか?」


 今の流れからの軽い質問。しかし光子郎は急に表情を暗くして俯いた。


「……僕は……」

「光子郎くん?」

「………………」


 なんか、地雷踏んじゃったみたいだな。
 私とテントモンは顔を見あわせた。テントモンも悪気があって聞いた訳じゃないので急にどうしたのかとおろおろと心配そうにしている。
 自分は何者か、か。


「ヘイ、少年!」

「!?」


 私は光子郎の顔を両手で掴み無理矢理私の方を向かせる。光子郎は急にそんなことをされたのに驚いて目を見開いた。


「名前は?」

「い、泉光子郎……」

「住所、学年!」

「……お台場、小学四年生……」

「私は?」

「……矢吹灯緒さん」

「そう!君は光子郎、私の大事な友達!」

「?」


 立て続けに光子郎に質問し、私が笑うと光子郎は意味がわからないのか怪訝な顔をする。
 自分が何者かなんて哲学、今は分からなくてもいい。きっとそのうち嫌でも分かる時が来るんだから。


「周りのものに惑わされるな、君は君だ!他の誰でもない!私の知ってる光子郎は君1人」

「――――」

「目、覚めた?」

「光子郎はん!灯緒はん!」


 目の前でひらひらと手を降ってみせる。ぼーっとしていた焦点がじわじわと合っていくような感覚だ。
 すると急にテントモンが慌てたように声を上げた。その声に光子郎はハッと我に返ってテントモンを見る。


「な、何?」

「どうしたの?」

「おかしいでコレ!見てみなはれ!」


 テントモンは光子郎のパソコンの画面を示す。
 そこには先程表示されていた画面そのままではなく、画面の文字があちこちに動き回っていた。


「あ、勝手に動いてる……」

「何これ?」


 そのまま文字は動き、だんだん形を変えてなにやら3Dの地形のようなものが表示された。


「あ!」


 光子郎が何かわかったのか声を上げたその瞬間。


「あちあちあちっ!体が熱いがなぁ〜っ!」

「テントモン!?」

「うおっまぶし!どうしたの!?」


 急にテントモンの体が光りだしテントモンは叫びながら暴れ出した。
 突然のただ事じゃない様子に光子郎は原因だと思われるパソコンをすぐに電源を落とす。


「ふぅ〜……」

「大丈夫?」

「はいな……」


 パソコンを消し光が消えると、テントモンはぐったりと地べたにへたり込んだ。一体今のはなんだったんだろう。
 そんなテントモンの様子を見て光子郎はパソコンを閉じた。


「調べを続けたら危険ですね……」

「そうみたいだね」


 さて、それじゃあどうしようか。
 と思いながら開けっ放しのドアから外の廊下を見る。我ながらなんて運のいい。その一瞬で私が見たのは走っていく小さな黒い影。


「あ!」

「灯緒さん?」

「どうしたんでっか?」


 不思議そうに私を見る光子郎とテントモンをそのままに私は走りだした。見間違えるもんか!


「インプモンだ!」



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