03 「ローラ!?」蒼き狼!ガルルモン
(11/67)
――ぐぅぅ〜……きゅるるる〜……。
「…………」
ヤバい、ヤバいぞ。これはヤバい。どれくらいヤバいかっていうとまじヤバい。
腹が減って眠れない!
仕方がない、気を紛らわす程度かもしれないが水を飲んで腹を満たすか。
そうと決まれば、ぐっすりと静かに寝ているみんなを起こさないように、鳴り止まない腹を押さえつつ忍び足でそろそろと路面電車を出る。降りた途端、湖面を滑る爽やかな夜風がふわりと頬を撫でる。
湖から奥の森まで、辺りはしんと夜の静けさに包まれ、満点の星空と虫の音がなんとも物思いに更けさせる。ちょっとした深夜徘徊をしている気分だ。田舎では夜は野生動物で危ないから出来ないのでとても新鮮だ。
そんな呑気なことを考えつつ灯緒は水面に近付き、しゃがんで両手で湖の水をすくって飲む。かーっ、冷たくておいしい!
その間も絶えず鳴り続けるお腹を満たそうとがぶ飲みしていると、己の居る位置から路面電車を挟んで反対側――見張り番の焚き火の方から話し声が耳に入る。まだ寝た時間からそう経っていないはずだろうから、見張りの太一だろうか。
ただの「誰だろう?」という単純な好奇心で電車の端へ足を進めると、
「――――あのさ、タケルとお前って……」
「兄弟だよ。親が離婚したから……別々に暮らしてるんだ」
――――しまった。何やらとても真剣な話をしていたらしい。そうドキリと一瞬で察して思わず半歩進んだ足を止める。
聞こえてきたのは二人分の声、太一とヤマトのものだった。話の流れのほんの断片とはいえ、タケル、兄弟、離婚――それらのたった少しのワードだったが、それで今の話の確信がわかりきってしまった。複雑な彼ら兄弟の関係が。
「話はここで終わりだ」とでも言うように、ヤマトは言葉を切るとすぐに立ち上がり、その場から太一の方を振り向きもせずにその場を逃げるように走り出す。
ヤバイ、これはどのくらいヤバイかっていうとマジヤバイ。と再び思っても時既に遅し。
ヤマトが電車の乗降口のある方へと走ってきたそのすぐ横に、偶然にも灯緒が壁に張り付くように立っていたため否が応でも彼の目に自分の姿が入ってしまった。
「あ」
「灯緒……」
「や、やあどもどもども!そんなに急いでどちらまで?」
さ、さすがにどもってしまったな。いや、あんな事実を知ってしまった今、彼とどんな顔をして話せば自然なのだ、と一瞬の間に自問自答する。答えはとぼけた顔、である。
もう寝ていると思われていた灯緒がすぐ側にいたことにさすがにヤマトは驚いた表情をしていたが、すぐにむしろ逆に少し気まずそうに目線をどこかへ泳がせながら、小さく言葉を零す。もちろん、この静かな闇夜の中ではとても良く耳に届いた。
「……聞いてたか?」
「うん。ちょっとだけだけど」
「……そうか」
「……その、盗み聞きしてごめん!いやするつもりはなかったんだけど……じゃくて、絶対に誰にも言わないから!気分悪くさして本当にごめんね」
「いや。いいんだ、別に気にしなくていい」
あわあわと灯緒が身振り手振りで弁解し、最後にぱん!と勢い良く手を合わせて頭を下げるオーバーアクションでとにかく謝る。言い訳より先に誠意が大事だ!
それに対し、ゆるゆると首を振ってそれだけ言うとヤマトは歩いて私の横を通りすぎていく。あれだけのデリケートな話を今日出会ったばかりの他人に聞かれても特に怒る様子もなく、むしろ別の思いに耽っているのか咎めることはない。
それはとても優しい態度だった。
最初はクールで近寄りがたいタイプかと思ったけど全然そんなことはない。彼は人一倍優しい人なのだ。そういえば昼間の海岸で、みんなの体調を一番に気遣ったのは彼ではなかったか。
今頃気付くなんて灯緒の両目はとんだ節穴である。
「……ちょっと、近く散歩してくる」
「あ、うん。気を付けてね」
それでもやはり己の家庭事情を聞かれてしまったのは気まずかったのか、ヤマトは灯緒から顔を背けながら歩いて行ってしまう。
当然だ。誰だって他人なんかにズカズカと踏み込まれたくない問題なんて、一つや二つそれ以上にも当たり前にあるものだ。それがただどのくらい大きいか小さいかの違いで、彼は大きく複雑に絡まったものだったというだけ。
なら、遠巻きに見守るのが悲しきかなまだ赤の他人である灯緒の取るべき立ち回りだろう。
それが、普通であるなら。
「ヤマトくん。そういえばさ寝る前にタケルくんがね、言ってたよ」
きっと二人の兄弟の間では当たり前のようにお互いがかけがえのない、代わりと聞かないたった一人の兄弟という、大切な存在だと十分わかっているだろう。
けど、この半日一緒にいるだけで分かってしまうほど、たまにすれ違いそうな二人だったから。
これだけは私がちゃんとした言葉で聞いた二人の絆だったから伝えよう。余計なお節介だと分かっているが、私は悲しきかなこういった面倒臭い人種なのだ。
「お兄ちゃんのこと、大好きだって」
「………あぁ、知ってるよ」
「そうか。んじゃ、おやすみ!」
「……おやすみ」
灯緒は満面の笑み、というよりは何故か力強くなってしまった笑顔のまま言うと、ヤマトは目を見開いていた後で薄く微笑みを浮かべる。
それから最後に「気遣いありがとうな」と後手を振ってそのまま暗闇へと歩いていった。たったこれだけの激励が、ほんの少しでも、たった一ミリ程度でも、彼らの支えになってくれたら嬉しいなと不確定要素に願う。
丸い月と星の輝きは今、私達を見下ろしてどう思っているだろうか。そんなメルヘンな馬鹿らしいことなど考えたってわからないか。
さて、涼しい夜風に当てられていると少し体が冷えてき始めたようだ。焚き火にでもあたりますか。
「あれ?灯緒どーしたの?」
「こんばんはアグモンくん。太一くん、居眠りしてない?」
「してねーよ。灯緒こそ見張り番まで寝てたらいいんだぜ」
「それが寝ようと思ったんだけど、お腹が減って力が出ないよ太一おじさん」
「誰がジャムだ。あー、食べ物はさすがにないぞ」
灯緒の来訪に驚いた太一とアグモンの横に「よっこいしょういち!」と尻餅をついて座る。
食べ物がない、というのは見なくても分かる。夕飯の時にみんなで採ってきた沢山の食料は、一行の全員が全員随分とお腹が減っていたので、残りなんて出る訳もなく綺麗に全て平らげてしまっていたのだ。
つまりここには食べ物は一つもないのだが、今さらこの何が潜んでいるのかわからないような夜闇の中で採ってくるのもただ危険なだけだ。
「ボクが採ってこようか?少しは木の実とかあるかもしれないよ」
「いやあ悪いよ、アグモンくんには見張りだってして貰ってるのに。大丈夫!」
「そう?遠慮しなくていいのに」
「うん、ありがとうアグモン!可愛いなぁ〜こやつめハハハ」
「えへへーボク可愛い?カッコイイがいいなー」
「その俺との扱いの差はなんなんだよ!」
アグモンは優しいなぁ!とその大きな頭をぐりぐりと撫でくり回す。わ〜きゃ〜とじゃれている灯緒とアグモンの二人を見て、ちぇっとつまらなさそうに口を尖らせた太一。ごめんよ、私は今はもうデジモンという未知の存在にメロメロなんだ。
やることも無く火の様子を見ていた太一がおもむろに焚き火に木を加えようとすると、パチン!と音を立てて急に火が爆ぜ、火の粉が舞う。
「わっ!?」
そして弾き飛ばされていった一部の火の塊が、少し離れた場所の地面に落ちていた変な色の巨大な葉のような物の上にポトリと落ちた。
ただそれだけかと思っていたその瞬間――すると落ちたその焚き火の破片の熱さに反応したのか、突然下の葉っぱがまるで「生き物のように」激しく動き出す。
――え?
「ぎゃあああああ!?」
「なっ、なんだぁ!?」
バタバタと葉っぱが上下に動き出すと、今度は自分たちがいる周辺から突然地響きが巻き起こり、地面全体――いや湖の島全体が上下左右に激しく揺れ動く。しんと静かだった水面が地響きで小刻みに揺れ、それはやがて大きな波を作り始めた。
周囲の急な異変に目を白黒させる太一、アグモン、そして灯緒はただ転けないように地面に踏ん張っていることしか出来ない。
そう成すすべもない三人の目の前で、突如として湖の波間から巨大な水しぶきと波の音、そして劈くような鳴き声をあげて湖から姿を現したのは、青い体を持ち頭は黄色の竜のような姿の巨大なデジモンだった。
「で、でたあああああ!行け太一くん!」
「俺はデジモンじゃねぇぞ!?」
「お、落ち着いて二人共ぉ!」
そのあまりの巨大な姿にダイスロールに失敗し一時的狂気に陥る。恐らく、有に十メートルはあるのではないだろうか。
湖から半身を上げてこちらを見ている水竜のようなデジモンを前にして、私と太一とアグモンでぎゃいぎゃいと騒いでいるとふと後からも声が聞こえることに気付く。私達の後ろはみんなが眠る路面電車だ。
「やっぱり電車が動き出したんだ!」
「一体どうしたの?」
「地震だわ!」
寝ていたみんなの声は慌ただしく、まだ状況をはっきりと理解していない様子だった。あまりにも突然で直下的で大きな揺れの襲来に起きてしまったらしい。
みんながわあわあと混乱している中、さすがと言うべきか光子郎がいち早く状況を察知したようだ。
「モンスターが出たんだ!」
「シードラモンや!」
その一声にやっと他のみんなも今の状況が理解できたようで、バタバタと路面電車から急いで降りてきた。
外へ出てきてまた地面がぐらぐらと揺れ始める。すぐ側の水面からは水竜デジモンが顔を出しており、それに気付くとみんなも事態が理解できたようで口々に叫んだ。
「やっぱり地震だわっ!」
「島が動いてる!」
「なんだかこの島をシードラモンが引っ張っているみたいだ!」
ゴゴゴ、とまた一段と激しく島が揺れると陸と島を結ぶ足場が崩れ、島はシードラモンの後を追うように動いていく。
「そんなアホな!シードラモンは殺気を感じん限り襲っては来ぃしまへんで!」
「現に襲ってきてはるで!?」
「あ、止まった」
めちゃくちゃ慌てているテントモンはさておき、島は湖の真ん中に移動するとやっと止まった。
「あんさんら、何か悪いことしよりましたかいな!?――――」
そう言ってテントモンは変な葉っぱの上に降りる。
するとまた突然葉っぱが動き出し、葉っぱの先には――――。
「あぁっ!あの葉っぱみたいなヤツ、あいつの尻尾だったのか!」
「やっぱりあんさんらのせいやぁっ!」
「うわあっ!やつが怒ってる!」
「ちょっと熱かったくらいでぶちギレるたぁ忍耐力の無い御人だな。心頭滅却すれば火もまた……」
「言ってる場合じゃないでしょう!」
シードラモンは水中に潜ると下から島に攻撃をしてくる。
そして水の流れに流される島は湖の真ん中に立つ電柱にぶつかり島は止まった。待て待て、何故湖に電柱があるんだ!
「はぁ、やっと止まった……」
「でもこれじゃあどこにも逃げられませんよ!」
光子郎の言うとおり、周りは湖で泳ぐ以外に陸に戻る術はない。
軽く絶体絶命だ。給水ポイント、または温まりポイントはどこだ!消息不明になっちゃう!
「うわっ!襲ってくるぞ!」
「みんな、行くよ!」
「オッケーぃ!」
アグモンがデジモン達に声をかけ、みんなは一斉にシードラモンに向かって攻撃をくりだした。
「マジカルファイヤー!」
「エアショット!」
「ポイズンアイビー!」
「プチサンダー!」
「ベビーフレイム!」
みんなは次々に技をぶつけるがシードラモンにはあまり効いておらずこのままでは到底倒せそうにない。
太一もそう思ってかアグモンに叫んだ。
「アグモン、進化だ!」
「さっきからやろうとしてるんだけど、できないんだ!」
太一の声には応えたいのだろうがアグモンは困ったように首を振った。
「なんでだよ!?」
「だからボクにも分かんないってばぁ!」
「肝心な時に役に立たないヤツだなぁ!」
「シードラモン怒らしちゃった人よりは役立つと思うけど……」
「それは言うなよ!」
太一と言い合っていると対岸から島へヤマトとガブモンが泳いできた。
そうだった、ヤマトは陸の方にいたんだ。
「おーい!タケルー!」
「お兄ちゃん!」
タケルもヤマトを見て安心したような顔を見せて叫ぶ。
タケルが島の端近くまで寄った時、シードラモンの仕業かまた島が激しく揺れた。
「お兄ちゃっ――――わあぁっ!」
「ッタケル!」
「タケルくん!」
揺れでバランスを崩したタケルは湖に落ちてしまった。私が手を伸ばすが惜しくも間に合わなかった。
すぐにゴマモンが湖に飛び込みタケルを背中に乗せる。それを見て丈はゴマモンの活躍に嬉しそうだ。
「いいぞゴマモン!」
「ヤマト、早く!」
「ヤマトー!シードラモンやー!」
私はタケルに手を伸ばして陸へ引っ張り上げて助ける。ああ、ヒヤッとした。
そしてテントモンが叫び、ヤマトはシードラモンを見るとゴマモンにタケルをたくしてまた泳ぎはじめた。
「ゴマモン、灯緒、タケルを頼む!」
「はーいっ」
「おい、シードラモン!こっちだ!」
「ヤマトくん!」
反対側へ囲むようにヤマトは泳ぐ。ヤマトの思惑どおりシードラモンはヤマトを標的に決め攻撃をしようとした。
「ヤマト、一人じゃ危険だ!今助太刀に行くぞおおおおお」
「やめてください!なんで灯緒さんは毎回そうなんですか!」
「私は灯緒よ!いつだって灯緒なのよー!」
「ローラ!?」
私が飛び込もうとするとすぐに光子郎が私を抑えた。よく知ってたね光子郎くん!
私がそんなコントをしている間にガブモンはその隙を狙い、シードラモンに技をぶつけた。
「プチファイヤー!」
ガブモンの技はシードラモンに直撃はしたものの、これといって大したダメージはないようだ。咆哮を上げ、怒ったらしいシードラモンはその長く靭やかな尻尾でガブモンを弾く。
「うわぁっ!」
「ガブモン!――――わっ!?」
ヤマトはガブモンが攻撃を受け悲鳴を上げたのを見て、反射的に動きを止めた。
するとその瞬間、ヤマトは短い悲鳴を残して水中へと姿を消した。どうやらシードラモンに水中へ引きずり込まれたらしい。
――――さすがに冗談じゃすまないって、これは。
「ヤマト!」
「お兄ちゃん!」
タケルもヤマトが引きずり込まれたのがわかり、泣き声を上げる。
さすがにこんな小さい子に『死』は早すぎる。
「ぼ、僕のせいだ……僕を助けようとして、お兄ちゃんは!」
「……!」
するとシードラモンは尾を水上に出す。そこには苦しそうに締め付けられているヤマトがいた。
「ヤマトーーッ!!」
「うああああああっ!!」
太一が叫ぶが、その声はヤマトの苦しそうな悲鳴にかき消される。
「まずい、まずいでっせ!シードラモンは一度掴んだ相手は息絶えるまで締め付けるんや!」
「そんな……!」
「お兄ちゃああああん!!」
タケルは涙を流しながら兄の名を呼ぶ。
ダメだ。軽くリミッター切れた。
「泣くな!泣いたって何も変わらない!」
「!……灯緒?」
「で、でも……どうすれば……」
「私が行く!私が囮になるからその間にヤマトくんを」
急に声を荒げる私にみんなが目を見開く。
そして私が今にも飛び込もうとするとタケルは咄嗟に私の服を掴んだ。
「だ、ダメだよ!そんなことしたら灯緒さんまで……!」
「じゃあどうするの?お兄ちゃんを助けたいでしょ?……どうすればいい?」
「……それは……でも!」
言い淀でいると、はっとしてタケルはパタモンに向き直り懇願する。
「……パタモン、お願い!お兄ちゃんを助けて!」
「ボ、ボクの力じゃシードラモンには通用しない……ガブモン、お前なら!」
「む、無理です!オレにそんな力は……!」
タケルはパタモンに泣きながら言うがパタモンは自分よりガブモンの方が力は上だと判断したらしく、ガブモンに言う。
しかしガブモンも謙遜しているのか怯えているのか、自分はヤマトを助けられないと否定した。
ああもう、このままじゃ時間だけがいたずらに経っていく。こんなことをしている暇だって、一秒の猶予だってないというのに。
「なに言ってんの!今動かないで、いつ動くんだよ!」
「でも……!」
「たった今、ダチが死にかかってるんだよ?相手の力量を測って怖じ気づいてる場合じゃないんだ、力の問題じゃないんだよ!ヤマトを助けたいでしょ!?」
「………っ!」
「灯緒さん……」
彼らにではなく、私に言っているのだ。言葉にして自分を鼓舞しなければ膝が崩れ落ちてしまいそうで、私はただ自分に向けて言いたい放題言い放つ。全部、役立たずの自分への暴言だった。
そう言っている間もヤマトはシードラモンに締め付けられ、苦しそうに呻く。
「ぐああああああっ!」
「っ!」
「お兄ちゃああん!」
「やっ……ヤマトぉぉ!」
涙が溜まるガブモンの深紅の目にヤマトのハーモニカが映る。
「……もう、ヤマトの吹くハーモニカが聴けないなんて……!あの優しい音色が聴けないなんて……!」
ガブモンはぎゅっとハーモニカを強く握りしめた。
「ヤマトォーーッ!」
「……ガブモン……?」
ガブモンとヤマトの腰にある機械が輝く。
これは、太一とアグモンの時と同じ。
「ガブモン進化!――ガルルモン!」
眩しい光が辺りを照らした後ガブモンがいた所にはその小さな姿はなく、大きな蒼い狼がいた。
ガブモンの十倍はあろうか、人を乗せれるほどの巨体は青と銀の模様の毛に覆われ、鋭い牙がずらりと並ぶ大きな口と、手足の紫の爪の威力は計り知れない。しなやかでたくましく、美しい狼だ。
「……進化、した……!」
ガルルモンはシードラモンに飛びついて噛み付くと、シードラモンは悲鳴をあげ尻尾に捕えていたヤマトを解放した。
ヤマトはそのまま湖に落ちたが余力を振り絞り島にたどり着き、タケルと私が手を伸ばしてヤマトを引き上げる。
「掴まってヤマトくん!」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「俺より、ガブモンが……」
苦しそうに荒い息をしながら、ヤマトはガブモン――――ガルルモンを心配しながら振り返った。
でもヤマトが助かって良かった。これで一安心だ。
ガルルモンの雄姿にテントモンが興奮気味で説明をする。
「ガルルモンの毛皮は伝説の金属、ミスリル並みの強度なんや!」
「なんですか、伝説の金属って?」
「伝説やさかいわても見たことないさかい、知りまへん」
「でましたテントモン特有曖昧知識!」
「物知りなんだかそうじゃないんだかわかんねぇ奴だな、テントモンって」
「んなアホな!」
私と太一の容赦ない言葉にショックをうけるテントモン。これは実際そうだから仕方ないね。
そんな風に呑気にしていると今度はシードラモンが技をくりだして反撃してきた。
「あ、あれはシードラモンの必殺技、アイスアローや!」
「ガルルモン!熱くなれよおおおおお!」
テントモンと私が叫ぶ。ノリはもう実況と解説だ。
シードラモンが白い息を吐くとガルルモンの体がだんだん凍っていく。しかしガルルモンは自力で氷を砕くと、シードラモンの頭めがけて技を出した。
「フォックスファイヤー!」
ガルルモンは口から青い炎を噴き出してシードラモンのアイスアローを相殺しそのままシードラモンの頭を焼く。
まともに正面からそれを浴びたシードラモンは空を裂く悲鳴をあげ、口から黒い煙を上げながら湖に沈んでいった。
「やったあ!」
ヤマトとタケルは歓声をあげるとガルルモンから戻ったガブモンに駆け寄る。
「ガブモン!」
「なんとか無事だったみたいだね」
「なんだよ、進化できるならはじめからしろよ!」
ヤマトとガブモンが互いに笑いあう。その隣でタケルも嬉しそうに笑顔を見せた。
「ガブモン、ありがとう!助けてくれて!」
「いや、そんな……」
「それに、お兄ちゃんも本当にありがとう!」
「べ、別に」
タケルは二人にお礼を言うとヤマトとガブモンは揃って顔を赤らめた。
「照れ屋なんだから」
「それはお前だろ!」
ガブモンがヤマトをからかうように言うとヤマトは更に顔を赤くした。似た者同士だなぁ。
「それに、お礼なら灯緒にも言うべきだよ」
「え、私?」
「灯緒?」
ガブモンはそう言って私の隣に来る。
なんでいきなり私が呼ばれたし。
「うん。灯緒が俺の背中を押してくれたからオレはヤマトを助けられたんだ。ありがとう灯緒!」
「いや、私全然大した事してないっていうか、何もしてなくない?」
「ううん、灯緒さんはすごいよ!ありがとう灯緒さん!」
お言葉はありがたいが、ぶっちゃけ一人でギャーギャー騒いでいただけなんですが。毎度のように騒ぐしか脳のない自分を振り返り、今思うとただのヒステリーオバサンやあれ。布団叩きながら物申す奴や。
しかし今日だけで何回感謝を言われてるんだろうか。特別なことはしていないし出来ていない。むしろ邪魔まである。
そしてガブモンとタケルの言葉にヤマトまでも納得したらしく、私にお礼を言った。
「そうか……ありがとな、灯緒」
「……どういたしまして!」
もやもやと言いたいことはあるけど、二人共すっきりした笑顔で私にお礼を言うもんだから私も嬉しくなって笑顔で返す。
「でもどうやって岸に戻るんだ?」
「オイラに任せて!マーチングフィッシーズ!」
太一が言うとゴマモンはすぐに反応して魚達の力を借りて島を陸まで動かした。魚の底力を見た!
「久々の陸だ〜……!」
「うぅ〜疲れたぁ……」
岸まで戻るとみんなはぐったりと地面に座り込んだ。たった一晩だったが、それがあまりにも濃い時間だったために揺れない地面が懐かしく感じる。
そもそも結局寝れていない為、疲れがどっとのしかかるのはみんな同じようだ。既に明るくなってしまった空の下でも気を抜くと目が閉じていくのに逆らえない。
みんながそれぞれくつろいでいるなか、光子郎が疑問を口にする。
「でも、どうして今度はガブモンだけが進化したんでしょうね」
「確かに。どうなの?みんな」
「えっとそう言われても……」
直接聞いてみてもデジモン達は困ったように言う。うーん、本人も分からないのか。
「……もしかすると、ヤマトくんがピンチだったから?」
空ははっとしてそう言いながら体を起こした。
それに太一も思う所があるらしく少し考えて、その推測に頷く。
「……この前アグモンが進化した時も俺が危機一髪の時だった」
「彼らが進化するのは、僕達に大きな危機が迫った時ですか?」
「そうよきっと!」
「なるほどー」
光子郎が分かりやすく言うと空は強く同意した。
大きな危機が迫った時、私達を守るためにデジモン達は進化する。
あーあ、今頃はインプモン何してんだろうなぁ。
ドサリ、と何かが倒れる音がしたと思うと隣でミミが地面に倒れこんでいた。
「どうしたの、ミミちゃん?」
「もうここで寝る……」
それだけ言うとミミはすぐに寝息をたてて本格的に寝はじめた。寝不足や緊張からの解放が一気にきたんだろう。
空がそんな様子を見て優しく笑う。
「ふふ、たった1日ここで過ごしただけなのに逞しくなったね」
「ほんとだね〜」
「そのうちボクみたいにガッチリした体になるね、きっと」
「アタシみたいな翼も生えるかもねっ!」
「そんなのいやぁ……」
空と私が笑いあうとアグモンやピヨモンが便乗して口々に冗談を言い始めた。ミミも寝ぼけているのか、寝ながら嫌そうに返事を返した。
すやすやと気持ちよさそうな寝顔を見ていると、段々私も眠たくなってきた。今はとりあえず休もう。十分休んでから出発だ。
みんな、おやすみなさい!
←/【BACK】/→