02 「王様来てー!棍棒持って来てー!」爆裂進化!グレイモン
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――ジリリリリリリリリリリ……!
「こんな所で電話の音……?」
突然響いた聞き慣れた音に全員が怪訝な顔をする。この無機質な音はどう聞いても普段から聞く電話のベルの音だ。
気になって一斉に音の聞こえる方へ走ると、そこには砂浜に5つの電話ボックスが立ち並ぶという、なんとも不思議で不格好で不釣り合いな場所にでた。
ナ、ナンダッテー!
「どうした?太一」
「止まった……」
先頭を行く太一が一番近い電話ボックスの扉に手をかけて開けると同時に電話の音が一斉にピタリと止んだ。
「こんな所に電話ボックスなんて……」
「不合理です」
「でもこれはいつも見る電話ボックスだな。普通の」
「あたしんちの傍にもあるわ」
みんなは電話ボックスを見ながら口々に意見を言う中、そこでまた丈は希望を見つけたと言わんばかりに嬉しそうに声を上げた。
「ということは、ここは……ここはまだ日本なんだ!」
「にほん?丈、なんだそれ」
「……やっぱり違うかも……」
「ですよねー」
「何その笑顔」
ゴマモンが心から怪訝そうに尋ねたのを聞いて、がっくりと肩をおろした丈の背中を慰めるようにポンと叩く。
さぞ私がニヤニヤして腹立つ顔をしているだろうが心からの表情なので気にしない。ドンマイ丈!
「光子郎、10円貸してくれよ」
「え?何するんですか?」
「決まってんだろ、電話かけるんだよ。うちに」
「あぁ、それならテレカありますよ」
一方、太一に光子郎がテレカを渡すのを見て他のみんなも電話をかけようと他の電話ボックスへ走りだした。
「あ!僕もママに!」
「あたしも!」
「それでは僕も」
「おいタケル!」
「あたしも!」
「あぁっ空くんまで!」
「それじゃあおいどんも!」
みんなが次々に電話ボックスへと走って行ってしまった。
ポツンと残された丈はこの中でも一番常識のあると思われる空の名前を呼ぶも、華麗に無視された。見てたらなんかだんだん丈が不憫になってきた。
とりあえず、私はお金もテレカも持っていないので光子郎にテレカを借りることにした。そのまま電話ボックスも借りる。
「光子郎くん、私もテレカ借りてもいい?」
「いいですけど、多分繋がりませんよ。どこへかけても変な情報ばかり流れるんです」
「そうなの?まぁ、物は試しって言うし!私もかけてみるよっと」
言いながらも表情を変えない光子郎が差し出すテレカを受け取り受話器に手をかける。
とりあえず家の電話にかけようかな。携帯番号は覚えてないし。
「あ、もしもーし?私だよ、私!実はさー、今大変なことになっててさー、ちょっとヤバイ事故に巻き込まれたんだけど……」
「どこの俺俺詐欺ですか」
私の戯言を隣にいた光子郎が呆れたように言う。光子郎くんが俺って言うと似合わないな。
だが今の状況から察するとヤバイ事故に巻き込まれている可能性は微粒子レベルで存在している。あながち間違ってはいないのが怖いところだ。
そして肝心な電話の内容は懸念したとおり散々だった。
「現在回線が込みあっていますん。ピーっとなりましたら伝言を録音できますん。現在この番号は使用されておりますん」
「どっちだよ!」
――リテイク――
「勇者様、ロードしますか?リタイアしますか?復活の呪文を入力してください。10000ゴールドになります」
「王様来てー!棍棒持って来てー!」
パルプンテでも唱えてやろうか!?
「これならどうだ!……あぁ〜……じゃあ次は……」
電話ボックスが立ち並ぶ砂浜へ来て小一時間。
みんなが諦めて少し離れている砂地に腰を下ろして休んでいる間も、丈一人は電話から離れずずっとどこかしらにかけ続けていた。
「結構しつこい性格してるんですね」
「丈らしいや」
「それ褒めてないよね」
光子郎の呟きに太一は懐の深さを見せるようにおおらかに笑った。
しつこいって聞こえ悪すぎだから止めてあげて!彼のライフは0よ!ついでにテレカの残高も0よ!
「どこにかけても聞こえてくるのはでたらめな情報ばかりか……」
はぁ、とヤマトはため息をついて落胆する。直後近くに座っていた太一は一人さっと立ち上がった。
「もう諦めて移動しようぜ」
「ちょっと待て!こっちからかけられなくても、向こうからかかってくる可能性があるんじゃないか?さっきみたいに……」
言いながらも既に行動を起こしている太一にヤマトが慌てて声をかける。太一は思い立ったら即行動、我が道を進む性分らしい。
この二人、仲が良いのか悪いのかどっちなんだろう。ぱっと見ただけでも対照的で正反対だと分かる二人だ。喧嘩するほど仲が良いというやつだろうか。
「ここでじっとしてても時間の無駄だよ」
「しばらく様子を見たらどうだと言ってるんだ!みんな疲れてるんだぞ!」
悪気なしに言う太一の言葉にヤマトは思わず声を荒げた。ヤマトは冷静かつ慎重派なのは明白だ。
実際にみんな疲れており、特にミミやタケルはぐったりと力無く疲れた表情をしている。体力的にもだろうが精神的にもを含めれば全員疲労しているだろう。
そんな疲れているみんなを前に取っ組み合いでも始まりそうな険悪な雰囲気を察して、私は二人の間に割り込んだ。
「まぁまぁ若人達よ、落ち着こう!こういう時こそ熱いハートとクールな頭脳を忘れてはいけないのだ!」
ぐおおぉぉぉおおおー……。
「……………」
「……お腹も減ってきましたしね」
「そ、そうだなぁ……お昼もまだだったもんな」
光子郎はともかく太一にまで察せられた。注目を浴びた瞬間腹がなるとは、これいかに。時限腹爆弾が恨めしい。
恥ずかしいい!いっそのこと罵ってくれ!気を使われると居た堪れない!もうお嫁に行けない!将来は行かず後家だ!
「……よし、休憩だ!休憩!」
先程の危うい空気は霧散し、太一は再びその場に座り込んだ。恥ずかしかったもののとにかくなんとかできたようだ。さて、気を取り直して話の続きをしよう!鼻塩塩!
それを見届けるとみんなのお姉さん兼まとめ役のしっかり者、空が最初に話を切り出した。
「誰か食べるもの持ってる?あたしが持ってるのはこの……あれ?」
空の手がウエストポーチに届いたと思えば、空は腰にあるモノに違和感を感じて怪訝な顔をした。その手を見てみれば、
「これって、あの時空から降ってきた……」
「なにそれ?」
そこには見慣れない手のひらサイズの小さな機械があった。
一体何だろう、携帯ストラップなゲーム?もしかして元ネタのた○ごっち?申し訳無いがメタ推理はNG。
「あ!それ、俺も持ったままだ」
「あたしのバッグにもついてる!」
「僕も持ってるよ!」
「みんな持ったままだったのか」
「え?え?」
なんでみんな持ってるの?お揃い?うわっ君ら仲良いなぁー!
私はまじまじとその小さな機械を見る。万歩計ほどの大きさのそれは、薄い水色の本体に真ん中には大きな液晶画面がついている。
そう機械を凝視している私に気付いたタケルが説明をしてくれた。
「これ、ここに来る前に空から僕達の目の前に落ちてきたんだよ」
「落ちてきたの?」
「僕もよく分からないんだけどね、ビューン!ってスッゴい勢いで!」
身振り手振りで短い両腕を動かすタケルくん。ニュアンスでしか伝わらなかったがとりあえずタケルくんの可愛さにほっこりした。
それにしても、本当に空から落ちてきたってすごく謎じゃないか?宇宙人からの贈り物?むしろ神様?神のみそ汁?
「灯緒ちゃんは持ってないの?」
「持ってないなあ」
「持ってはりますやん」
「え」
両手を広げて肩をすくめる。そんな謎の機械は今しがた初めて目にしたのだ、故にまさか持っているはずも無い。
そう思っていたのだが、テントモンはそう言いながら私の上着のポケットを指差した。そこには何やら不自然な膨らみが。
「な、ナンダッテー」
まさかね、なんて疑いながら恐る恐る言われたとおり探れば手のひらにすっぽり納まるサイズの硬いものが。それを掴んでポケットから出して見れば、みんなが手にしている機械と全く同じものが出てきた。
あったよ、マイ機械。貴様いつ入った!ハイテクな伊賀者か!?こやつやりおる!
「どうやらこれは何か……」
――ぐううぅぅぅぅうう……。
そう切り出した光子郎の言葉にかぶって、誰かの腹の虫が鳴る。と思ったらご本人の腹だったらしくすぐに光子郎は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
あ、ようやく表情が変わった。そうなると随分歳相応の雰囲気がでるなと的外れな感想を思う。
「……あ、と、ところで誰か食べ物をって話でしたよね」
「プッスー、ドンマイ!光子郎くん」
「……言わないでください」
おお腹の虫を飼う者同士よ、と肩ポンする。
赤くなる光子郎と私の戯れをスルーして空が本題の話を続ける。
「あたしが持ってるのはこの旅行用の救急セット、絆創膏と消毒薬、あとは針と糸くらいよ」
そう言いながら空はウエストポーチから所持品を次々に取り出し、みんなに見えるように手前に並べる。
おお、なんと出来る女の子らしい持ち物だろう。女子力高いなぁ。
「僕はこのノートパソコンとデジカメ、携帯電話。でもここに来てからどれも使えなくなってるんです。まだバッテリー残ってたはずなのに……」
「すげえメカメカしい!」
「よく持ってくるよなぁこんなの。サマーキャンプに」
太一と一緒に光子郎の手の平よりもだいぶ大きい機械たちをまじまじと見る。
デジカメと携帯はともかくとして、ノートパソコンなんて重いだろうによく持ってきたなあ。それにパソコンって不要分じゃないのだろうか。今時のサマーキャンプって随分自由なんだなあ。
「太一さんは?」
「え、俺?えーと、これだけ。単眼鏡」
「俺も食べ物は持ってないな……」
光子郎が太一に促すと、太一がポケットから取り出したのは単眼鏡のみ。続いてヤマトも何も持ってないらしい。
太一とヤマトはそもそも物がたくさん入るようなバックやポーチ類を持っていない。服のポケットに入るサイズのものしか持てないので、もちろん食べ物だって持っていても飴玉くらいだ。何も持っていないのは一目でわかる。
ここまでメンバーの半数の所持品を見てきて見事食べ物はない。がっくしと残念そうに眉を下げるみんなに明るく声をかけたのはタケルだった。
「僕持ってるよ!ほら!」
「あーっお菓子!おいしそうね!」
満面の笑みでタケルは自分の背負っていた若草色のリュックを下ろすと、みんなに見えるようにリュックの中を見せた。そこには沢山のお菓子が詰まっており、それを見た隣のミミが大きな目を輝かせて嬉しそうな声を上げる。これにはみんなもおおっと声を弾ませた。
するとそこでミミはふと気になったのかお菓子よりもタケルの方をじっと見つめた。
「あなた、うちの子ども会の子じゃなかったわよね?」
「うん!夏休みだからお兄ちゃんとこに遊びに来たんだ!ね、お兄ちゃん!」
「あ、あぁ……」
ミミの素朴な疑問に、タケルはぱっと明るく答えるとヤマトに話を振った。タケルとは裏腹に、ヤマトはいきなりのことでびっくりでもしたのか、または気まずかったのか口籠り気味の小さい声で返事をする。
今の2人の会話を聞いて太一が光子郎にこっそりと耳打ちをする。
「ヤマトがお兄ちゃんだってさ」
「従兄弟ですかね」
「不良組織的な兄かもよ。ヤマトの兄貴!みたいな」
「まじで!?ヤマトの奴嘘だろ!?」
「それはないと思いますけど……」
まさかヤマトは不良グループに……?なんて冗談を混じえて会話に入る。でも実際二人はよく似ているし本当に兄弟じゃないんだろうか。
私達の会話を聞いていただろう空は、一瞬気まずそうに目を彷徨わせると気をそらせようとしたのかすぐに話題を戻した。空は何か知ってるのかな。
「ねぇ、ミミちゃんは何持ってるの?そのバッグ随分大きいけど」
空がミミにバッグを指差しながらたずねる。
するとミミはその示された大きなベージュ色の肩掛けバッグから次々と色んな物を出し始めた。
「え?これ?これはねぇ、これでしょ、固形燃料でしょ、釣糸、コンパス、懐中電灯、それから……」
「…………」
「結構本格的なサバイバル用品だな……」
「せっかくキャンプに行くんだからパパの道具借りてきたの!内緒で!」
えへ、と悪気なく笑う彼女に恐怖さえ覚えました。きっとミミちゃんは一番怒らせてはいけないタイプだ。私の第六感が警鐘を鳴らしている。
そんな可憐な見た目とは裏腹に随分と図太さを見せるミミに、みんなも想像していなかったらしく驚いてたり呆れたりそれぞれ表情を変えた。ですよねー。
「普通は持って来ないぞ、こんなの」
「だがこれからは役に立つかもしれないな……」
「そうね。この先どうなるか分からないし」
「そっか……それもそうだな」
ヤマトや空がまさかのラインナップに驚きながらも深刻そうに言うと、太一もそれに同意する。
確かに、きちんとした準備なんてものも全くなく突然サバイバル生活に放り出されたのだ。これだけのキャンプ道具一式があるだけでこれからのサバイバル生活の難易度がぐんと下がるだろう。ありがたやありがたや。
「灯緒ちゃんは?」
「熱い魂と心の剣だ」
「本当は?」
「単身ですが何か」
いや、必要だろ熱い魂と心の剣!精神的に!これからのサバイバル生活を乗り切るにはある意味一番重要だと声を張って言いたい!
特に空ちゃんとヤマトくんそんな冷たい目で見ないで!そしてタケルくん、君もそんなに目をキラキラと輝かせないで!私を見るなあぁぁ!
「そういや、丈はまだ電話してるけど何か食い物持って来てな……」
心の中でシャウトしながら悶絶いる私を置いて、話題を1人離れている丈に移そうと太一がちらりと未だ電話をかけ続けている丈を見た。
私も太一につられて話題の人物となった丈を、いや丈のバッグを見る。
……え?
「「あれ非常食だ!!」」
「えぇ!?」
「本当だ!」
そう。丈が肩からかけているカバンにはでかでかと赤字で「非常食」と書かれていた。慌てて目を擦ってみて、再びカバンの文字を見る。何度見ても同じ文字だ。非常食を求め過ぎてそう見えるのではなく、実際にそう書かれていた。
目が飛び出る勢いで太一と私が同時に叫ぶ。太一と光子郎と私は思わず丈がいるところまで勢いのまま走って、電話をしているのもお構いなしに声をかける。まあ電話は未だに繋がっていないだろうけど。
「おい丈!非常食持ってるじゃないか!」
「え?なんで僕がそんなもの持たなくちゃいけないんだよ」
「気づいてないのかよ丈おおお!その眼鏡は本体じゃなくて飾りなの!?」
「なに急に失礼なこと言い出すんだよ!」
「だってそのバッグ……」
太一が丈に言うと丈は怪訝な顔をしながら振り向いた。その顔は全く、これっぽっちも、一ミリも気付いていないようだ。そんな眼鏡じゃ明日も見えないよ!明日はどっちだ!?
ぎゃーすか声を上げる三人を置いて、光子郎は丈のバッグにそろそろと視線を向ける。
「バッグ?……あ、そうだ!」
光子郎の言葉で丈もやっと自分が非常食を持っているのを思い出したようだ。カバンを肩から外して紐を掴んで手に取ると、私達に寄越すのかと思いきや。
そのままカバンを手に丈が早足に歩いて行く先は、まさかのミミだった。
「これをミミくんに届けに行くところだったんだ!」
「あたし?」
急に話を振られて怪訝な顔をするミミに、丈は説教をするように厳しい顔をしてカバンを示した。
「ミミくん!君は非常食当番だったろ?ちゃんと管理しておかなくちゃダメじゃないか!」
「えー……だって重たいしー……」
「そういうワガママ言ってちゃ――」
「まぁまぁ。食べ物があるってわかっただけでもめっけもんだ!」
丈先生がガミガミと説教をし、嫌そうに顔を歪めるミミの2人の一方的な口論が続きそうだったところを慌てて太一が諫める。リーダーお疲れさまです。
「昼飯にしようぜ!」
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