03 「誰が豆粒ドチビかぁーーーー!!」熱血不敗!ティラノ師匠
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バサリ、と涼やかな追い風を受けて白いマントが大きく靡いた。
バアルモンへと進化した姿はまだ見慣れていないが、それでも安心感というか信頼度というべきか、不安なんて野暮なものなどは一切感じない。あるのは闘志ただ一つ。闘志燃やして家焼くな!
灯緒の前に二度目と降り立ったバアルモンは、その三つ持つ緋色の目を崖上へと向けた。
「さっさと降りてこいよ、頓珍漢ども」
「……やる気満々だな。ならこっちも手加減なんてしねぇ。覚悟はいいな?」
「当たり前だ。悪いがこっちも大人しく忠告を聞くようなお人好しはいねぇんだよ」
「――行くぞお前ら!こいつら全員、二度と舐めた口をきかせるな!」
おいデュエルしろよ!などと言う前に、ティラノモンの咆哮に囲いの二匹も待っていましたと言わんばかりに大きく踏み出した。
三匹の巨体が勢い良く崖から降り、これでもかという程の地響きを周囲に轟かせながらバアルモンの前へと着地する。
その風圧を受けながら、いつの間にそんなに不評を買われていたのかと心の隅で自嘲さえしてしまう。選ばれし子供は世間一般には理解されていない、ということだろうか。
「伊達にお師匠さまに門番任されてねぇんだよ!」
「ファイヤーブレス!」
「プロミネンスビーム!」
三位一体となって繰り出された凄まじい熱量の炎の波は、容赦なくバアルモンとその一歩後ろにいる灯緒とインセキモンごと丸呑みしようと迫る。
バアルモンが防御の姿勢に入り鞭で炎を弾くが、流石にその数匹の力の業火に力押しは難しいらしく顔を顰めた。よけろナッパーーー!などと口でも挟めばどちらからも睨まれそうだ。
「カミウチ!」
「ジ、ジブンも……!」
「大丈夫!まぁ見てなってやつだよ!」
弾いた後に飛び散る火の粉がかかり、条件反射でアチッと声を上げつつ、隣でオロオロしているインセキモンを落ち着かせる。
まだまだこの程度では「ピンチ」とは言えない。顔を顰めてはいるが焦りはないバアルモンを見て口元が緩む。
その間三匹が力を振り絞ってずっと出し続けていた炎は徐々に弱くなっていく。同時にそれを弾くバアルモンの鞭の手は止まず、どちらかが力尽きればそこで決着がつくという天秤の戦況だ。
そして、先に限界が来て折れたのは――セイバードラモンとフレアリザモンが口からくり出していた炎がもう出なくなり、よろめいてその場に尻餅をつく。
「も、もう無理……」
「お前ら、そんなんで――!」
息を切らして弱音を吐いた二匹に、まだ一人立っているティラノモンが反応する。
攻撃の手を緩めてしまった、その一瞬の隙が一番の敗因だったのかもしれない。
瞬間、目にも止まらぬ速さだったのだろう。次の瞬間にはティラノモンの喉元に杖を突き立てるバアルモンがそこにいた。速さが足りない!いや足りてる!
「次は脅しでは済まねぇ。その意味わかってるか?」
「………――っ!」
今は、助けてやると言っているのだ。
ゴクリ、と誰のでもなく喉が鳴る。ティラノモンの空色の瞳が緊張で大きく見開かれ、対するバアルモンの瞳には迷いは無かった。
「……分かった、分かったよ。降参だ。悪かった」
「ケッ、最初からそう言えってんだよ」
「セリフが小物だなぁ……」
「うるせぇ」
「でも凄いダス!三対一で勝つとは思わなかったダス!」
完全に戦意を無くしたティラノモンから武器を引き、その姿で憎たらしいガキんちょのような口調で吐かれる悪態は本当に似合わない。
こちらの会話を聞き流しながらティラノモンは居心地が悪そうにドスンと尻餅をついた。三匹とも尻餅をついたビジュアルは中々に可愛らしいのだが、今の一連の出来事をティラノ師匠にも伝えなければなるまい。
ピッコロモンやティラノ師匠のように非常に協力的なデジモンもいれば、デビモンやエテモンのように明らかに敵意を向けてくるデジモンも存在するし、今目の前の三匹のように特別な悪意は無くただ己を守るために対峙することになってしまうデジモンもいる。
はっきりと敵であるデジモン以外は全員好意的な仲間、ということでは決してない。
本当ならあまり言及せずにさらっと流してしまいたいが、私達だけでなく選ばれし子供全体に関わる重要な案件なのだ。
「――灯緒」
むむむ、と考え込んでいると不意にバアルモンが耳打ちをする。
何かとバアルモンの視線の先を追うと、そこにはただの茂み――だと認識した瞬間に僅かにガサリと茂みが動いたのが目に入った。明らかにそこには何者かが潜んでいることが分かる。
ティラノモン達を追ってきた仲間達か、または全く別の新たなデジモンか。
正体は不明だが見つけた以上放っておくわけにもいかず、灯緒は慎重にバアルモンとアイコンタクトを交わし、バアルモンは頷くとその茂みに向かって武器を構えた。
「ヘイ、ホールドアップ!そこに居るは何処ぞの間者だ、姿を見せい!」
「わーっ!待って待って〜〜!」
「ち、違うの灯緒ちゃん!」
外国人なのか黄門様なのか。この紋所が目に入らぬか!とでもいうようなポーズでデジヴァイスを手に大声で相手の出方を伺う。
その横で今にも攻撃をしそうな覇気のバアルモンを見てか、慌てて静止の声を上げて茂みから姿を表したのは、青い帽子とピンクの羽毛のトレードマーク――選ばれし子供一行のお母さんと名高い空とそのパートナーのピヨモンだった。
「あれっ空ちゃんとピヨモン!?まさかの感動の再会!」
「ええ、驚かせてごめんなさい。そのデジモン達と戦ってる二人を見つけたから加勢しようと思ってたんだけど……。でも二人共無事で良かったわ」
「アタシたち、あれからずーっと二人を探してたのよ!太一とアグモンも、み〜んな無事よ!安心して!」
「ほ、本当!?インディアン嘘つかない!?」
二人だと気付いてすっかり安心し、お互いに駆け寄って元気そうなその様子を確かめ合う。嬉しさのあまりに心のダムが決壊しそう。
灯緒からみれば大体2日程の別れだったが、随分長い間離れていたような感覚さえするくらいに懐かしく感じる。あまり言葉にはしてこなかったが本当は散り散りになってからというもの、やはりずっと仲間たちの無事を祈っていたのだ。
また、最後にどこかへ吸い込まれて行った姿が焼き付いていた一番気がかりだった太一とアグモンについても既に合流を果たしていたらしく、むしろ最後まで探されていたのは自分達だったかと申し訳なくなってしまった。
とにかく、二人の話によるとこれで選ばれし子供達が誰一人欠けずに無事なのだと、表に現しはしないがドッと安心感が襲ってくる。
「それならとにかく良かった!それで、噂のみんなは?」
「時急域って言ったかしら、ここに入るのは危険だからって入り口で大きなティラノモンに止められたの。だからそのすぐ近くにいるはずよ」
「……そいつらも選ばれし子供なのか?」
私達の話の途中で投げかけられた問は、立ち上がってこちらを横目に見ていたティラノモンからだった。大きな双眸がジロリと空達を捉えている。
「そうだよ。ほら、人間とデジモンのコンビ!これでもまだ信じてもらえないかもしれないけど――」
「――改めて、悪かったな」
選ばれし子供の特徴は『人間とデジモンのコンビ集団』と分かりやすいものではあるが、それがまだ二ペアのみだと信憑性は薄いだろう、と憶測して言葉を続けているとそれを遮るようにティラノモンが頭を下げた。
物騒だが正当な物言いをしていた彼らだったが、ただ口調が乱暴なだけでやはり根はティラノ師匠の教えを受け継いでいるような、一筋通ったデジモンらしい。
『こちらが過てば相手が誰であろうと頭を下げる』なのか『一度負けた相手には誠意を尽くす』なのかは分からないが、今はこのどちらでもいい。ただその真っ直ぐな姿勢が嬉しかった。
「良いよ、誰これ構わず疑うことが常日頃になっちゃってる今のデジタルワールドが悪いんだからさ。いやあ、住み難い世の中だね〜!だからそのお手伝いを君達にもして欲しいんだ、兄弟子殿」
世直し世直し!とそう言って笑い、ティラノモンに拳を突き出す。
一拍置いてティラノモンが手の甲で突き合わせ、それを見守っていたインセキモンやセイバードラモン、ダークリザモンも表情を明るくさせて灯緒を囲んだ。
「ああ、仕方がねぇな。考えておいてやるよ」
「ヒューッ!その言葉が聞きたかった!」
「ジブンも手伝うダス!」
「じゃあ、折角だし……」
「お、オレ達も……」
「「どうぞどうぞ」」
「!?」
突然のダチョウ倶楽部にその場は爆笑に包まれ、こうして時急域での攻防は終わりを告げた。
しかし、ここでぐすぐずしている暇はない。1秒でも早くこの時急域から出なければどんどん時間は過ぎ、外の世界とズレていってしまう。逆浦島太郎状態は御免である。
すぐに私達はこの大所帯の全員で時急域の出口へと走り出した。先頭にティラノモン達が行き灯緒ペアと空ペア、そしてゴツモンはその後ろを着いて行く形になっているのたが、
「灯緒ちゃん、本当にあのデジモン達のことはいいの?」
「え?いいのって……」
走りながら、不意に空の言葉が耳に届く。『あのデジモン達』とは前を行くティラノモン達のことだ。
空がどの辺りから私達の戦いを見ていたかは知らないが、その質問の仕方だと戦闘前の会話も聞いていたのかもしれない。
明らかな敵でなくても、敵になりうる思考のデジモンは普通にいるということ。それはつまり敵なのか、共にあれる仲間なのか、守るべき者達なのか。自分の中では答えは出ていない。ただ頭の悪い自分が分かることをしよう、と思うが単純脳だから結局答えが出るわけもない。
だからそんな単純脳なりに、
「うーん。私は聖人じゃないけど、目の前のデジモンくらい助けてあげたいと思うやん?素敵やん?」
「その思考がそれよね」
「んんん?その指示語はどこをさしてるのだろうか」
「聖人よ。……私には出来ない考え方だなって、そう思うの」
「そこまで図太いつもりはないなあ。空ちゃんこそ思ってそうな印象だけどね。私はいつも迷ってばっかりだよ」
何の理由も知らされずに『選ばれし子供』として選ばれたことが、自分がすごいとは思えない。
隠しているつもりだが結局は不安で満たされていて、パートナーや周りのみんな、デジモン達からの期待の眼差しに負けそうになる。
だが、かけられる期待に応えたいと、応えられる自分でありたいと、その願いが頭を満たすのだ。だから、弱い私の決意を揺るがせない為にその理由が一つでも沢山欲しいのだ。
だから、目の前に助けを求めているデジモンも、そうでなくても手を差し伸べたい。それがやがて積み重なって、大きな理由になる。
――これは全て、パートナーがバアルモンへと進化を遂げたあの時にした、今世紀最大の決心だ。
「……あたし、あたしは……」
振り返りバアルモンに笑いかける灯緒を、眩しそうにして目を細めて見る空はすぐに目を逸らして、何かを振り払うかのように走ることに専念しているようだった。
「よくぞ戻った。インセキモンのことは聞き及んでいる。まずは謝らせてくれ、馬鹿弟子が申し訳ないことをした。お前も謝らぬかこの大馬鹿者めが!」
時静域のティラノ師匠の元へ戻って開口一番、ティラノ師匠が一緒に戻って来たティラノモンの頭を掴み無理矢理お辞儀をさせた。
ギリギリってすごい音してるよ!ティラノモンの頭が熟れたスイカみたいにパァンしちゃう!グロい!
そしてその様子を少し遠巻きに見ているセイバードラモンとダークリザモンは、ティラノ師匠の剣幕に恐れおののいてプルプルと小動物のように震えている。あらかわいい。
「いやいや、なんくるないさー!むしろ兄弟弟子の絆が深まったってもんよ、なあ兄弟!」
「うぐっ……お前に言われると余計に惨めになるからやめろ!」
「泣きよるん?ティラノモン泣きよるん?」
「……売られた喧嘩は高ーく買うぜ?」
「調子にサーフィンしましたごめんなさい兄弟子殿」
ぐりぐりと押さえつけられて呻き声しか出せないティラノモンだったが、灯緒お得意のおちゃらけを披露すればわざわざ力を振り絞って返事をする。
そんな一見落着した師弟達の再会を側で見ているのは、探しに探していた――いや、ここはどうも探しに探されていたとでも言うべきか――誰一人欠けることなく揃っている子供達とデジモン達総勢14名の選ばれし子供達一行だ。
と、内心水を指すノリツッコミはともかく感動の再会なのだ。誰も傷一つ無く元気なそれぞれの懐かしい姿達に感極まってダイブする。
「良い子のみんな〜!こーんにーちはー!社会の荒波に揉まれて現実の無情さを思い知った灯緒お姉さんだよ〜!強い子良い子の君たちは元気だったかな〜!?お返事は〜?」
「は〜〜〜〜い!!」
耳に手を当てると、意気揚々に挙手するタケルやデジモン達の元気な返事に満足に頷く。
楽しげなデジモン達の横に立つ保護者のようになっている子供達は、久しぶりに目にしたうっとおしさ五割増しのハイテンション灯緒節に面倒臭そうにしたり呆れたり笑ったりなど、十人十色の反応を見せた。
変わらないその様子に混ざって、別れていた間に何かしらあったのか、それぞれどこか逞しくなって見えるのは気のせいではないのだろう。
「……久しぶりの再会なのに全く君は……」
「変わりませんね、灯緒さんは」
「相変わらずのテンションだな」
「あははっもー灯緒ちゃんったらホント可笑しいんだから!」
「ま、灯緒だしな。無事で一安心だぜ!」
「あたぼーよ、そう簡単にくたばってたまるかってーの!今の私は全世界の奥様の敵であるそんじょそこらの油汚れよりもしつこいぞ!とにかく、太一くん達こそみんな無事で良かった!」
いやはや本当に、こんなに早く再会出来て良かった。下手すれば数カ月くらいの予想だったのだ。
みんなが灯緒を懐かしがってくれているのと同じく、灯緒もまたそれぞれの姿も顔も声も、全てがとても懐かしく、温かく、大切なものだと実感する。『この話のおかげで彼氏が出来ました』と言える日も近い。いやない。
本当に、いつの間にかこんなにも仲間達が大切だと思っていたのか。深層心理とはどうにも自分では分からないものだ。
「それにしても、よくここにいるのが分かったね?割と近くにいたの?」
「ええ、偶然そうだったんですよ。このティラノモンみたいなデジモンが教えてくれたんです。灯緒さんとインプモンは時急域にいるって」
「うむ。お前達が時急域へ行ったすぐ後に選ばれし子供達一行が見つかったと報告を受けたのだ。故に急ぎ知らせに一人寄越したまでよ」
「流石ティラノ師匠!私に出来ないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるぅ!」
「それで、インプモンはどうしたんだ?」
「そこに気付くとはやはり天才か……聞いて驚け見て笑え!なんとインプモンならここにうおっ」
沢山の色んなデジモンが一度に集っているこの場で、怪訝なヤマトの問いに返事を言いかけて半歩後ろに目を向ければ、まだ退化せずにバアルモンの姿をしているパートナーが立っていた。
高身長だからか、意図せず見下されているような威圧感が半端ないその姿に、自分でも「バアルちゃん何その目つき怖っ」とどこぞの変態という名の紳士のクマのようなことを思いつつ、そんな灯緒以上にその場のみんなもインプモンが進化したその姿に目を丸くさせた。
冒頭での安心感とは何だったのか。メメタァ。
「おおー!進化したのか!」
「すごいね!カッコいいー!」
「……ま、まあな。べっ別にどうってことねーし」
突如みんなの注目の的となったバアルモンは、照れながらもツンデレは忘れずに発揮している。
そんなバアルモンを見上げながら、はぁーっと感嘆の声を上げたのは太一だ。まだ完全体への進化は数回しか遂げていない故に珍しさもあるのだろう。
自由に完全体進化が出来るとなると思わず普段のテンションも高い。高まるううううう!
「結構みんな次の完全体進化できるようになってきてんのな。俺とヤマトと光子郎と、んで灯緒で四人目か」
「みんなも?すごーい!君達は何だかんだ言っててもちゃんと育てられてるフレンズなんだね!ワシが育てた!」
「もちろんですわ、ワテは自信ありまっせ!」
「ヤマトだって立派なもんだよ!」
「ボクだってそうだよ、ね〜太一〜」
「ふむ。完全体に進化できる力を持っているとは、お主ら中々に鍛えておるな」
モチモン、ガブモン、アグモンがこぞって自分のパートナーをキラキラと輝く目で訴える。ティラノ師匠も加わり、まるで学校の先生に家族というか親自慢をしている幼子のようでとても微笑ましい。その三匹は。
話題の四匹の最後、パートナーをちろりと見上げる。早くしろー!間に合わなくなっても知らんぞー!
「…………」
「…………バアルちゃんは?」
「……………………」
「ねぇ、バアルちゃんは?ねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ?NDK?」
「うっとおしいわ!一々聞かなくてもこうして結果でお前が正しいって分かってんだろーが!!」
「ォウッ」
ずいずいと来る灯緒のあまりのウザさにムキになって思わず大声で言い放ったバアルモンの言葉に、逆に不意打ちを食らう形になった。
どこから出したんだよというような変な呻き声を上げた事よりも、今自分の顔が赤くなっているだろうことに変に焦ってしまう。アツゥイ!
自分が何を口走って相棒を真っ赤にさせたのか、一拍置いてバアルモンも気付き照れるどころか隻眼をキッと鋭くさせて焦っていた。
「ばっい、今のはそういう意味で言ったんじゃないからな!?」
「うんうん、わかってる。結婚しよ」
「なんでそうなんだよ!全然わかってねえだろ!」
「正しい?見直した?惚れ直した?NDK?」
「しつこいわ!最近お前はオレになにを求めてんだよ!」
「私はただコンビとして愛されてる実感が欲しいだけなんだけどなあ〜」
「……もういい、黙れ腐れドチビ!!」
「誰が豆粒ドチビかぁーーーー!!」
「はぁ、この騒がしさが懐かしくなってるなんて世も末だよ……恐ろしい……」
「いつもなんダス?地上は分からないことだらけダス」
やいのやいの言っている私達コンビに頭を抱えている丈はどうやら灯緒節の洗脳がされているようだ。馬鹿め、トラップカードオープン!
それにしても、人型のクールな雰囲気を纏うバアルモンがギャースカとみっともなく灯緒と言い合っている様子は、見慣れていない周囲にはさぞシュールな事だろう。なんと言っても中身はあのちびっ子ギャングなインプモンなのだ。
憤慨していたが結局拗ねてしまったバアルモンは、その分ツンデレーションが態度に出ているからとても分かりやすい。
「バカの極みだな」
「お、極めた?もしや免許皆伝!?」
「免許皆伝も何も、お主は弟子の前に選ばれし子供なのだ。行くのだろう?みなと共に」
弟弟子コンビの掛け合いに呆れていたティラノモンにピースサインをしていると、ティラノ師匠がゆっくりと私達と選ばれし子供達を見渡す。
そうだ、私たちは何ものんびりとしている場合ではないのだ。エテモンを倒し、全員が紋章を手に入れた今、次にはまた何をすればいいのか道標のゲンナイを探しながら次の進化をするためにまた旅をするのだ。ずっと一箇所に留まることは出来ない。
「もちのロン!みんな、2日間の短い間だったけどお世話になりました。師匠の教えを胸に私達は世直しの道を進みます!」
あおーけばーとうーとしー。そんな歌が脳内を流れるような雰囲気である。
出会いは突然で、別れは随分と早い。だが、それはまた再会すれば良いのだ。さよならなんて……そんな寂しいこと言うなよ……。
共に特訓をしたティラノ師匠、捻くれた兄弟子ティラノモン、ただの良い子のインセキモンはもちろん、一歩下がった所で見ているのはセイバードラモンとダークリザモン。そして少し離れた森の木々の上にブラキモンの顔だけが覗いている。
一期一会、袖振り合うも多生の縁。そんな言葉がピッタリの連中だった。
「うむ。お主らが戦いの末に取り戻してくれる平和な世のその時に、また逢おう」
「それまで俺も自分を磨いてお前らより強くなってやっからよ。楽しみに待ってな」
「ジブンも、君たちに助けてもらったことずーっと忘れないダス!頑張るダスよ!」
既に大団円な雰囲気になっているが、本当にまだまだこれからの戦いは長いのだ。
――こうしてダイノ古代卿の面々の見送りを受け、全員揃った私達選ばれし子供達は再び歩き出す。
ただ、
「…………」
夕焼けの中歩く一行の最後尾、前を行く私達を見やる空の顔を覗き込むピヨモンの、二人のその影のある表情がやけに目にこびりついた。
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