02 「法廷で会おう!」デジモン東京大横断!
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「あっ丈さんと光子郎さん、灯緒さんだ」
「おー!お前たちもなんか食えよ。うめぇぞ〜!」
揚げたてポテトのそれはもう非常に食欲をそそられる香ばしい香りが充満しているバーガーショップ店内。
二階の窓際席に辿り着いた頃には、太一達は既にバーガーをたらふくご馳走になっていた。手にしているハンバーガーの視覚的暴力がすごい。あいむらびにっと!
「……き、君たちもしかして電車賃……」
「うん!全部使っちゃった!」
笑顔で告げられた処刑宣告に、ボトッ!と勢い良くゴマモンが丈の腕から落ちた。痛そうなゴマモンを尻目に、丈はぷるぷると手を震わせている。あっこれ爆発するやつだ。進研ゼミで見た!
「ごめーん、どうしてもハンバーガーの誘惑に勝てなかったのよ〜」
「き、君たちは……!一体何を考えてるんだあああ〜〜〜〜!!!」
──ぐううう〜〜〜〜……。
思いっきり力んで叫ぶと、そのカロリー消費のお知らせのように鳴る腹の虫。みんなの前で格好がつかなくなってしまい、それに真っ赤になる丈。流れるようなコントである。
「食べてやる……!有り金ぜーんぶ食べてやるっ!」
「先輩、私にもお恵みをー!」
「あれ?デジヴァイスが反応してる……」
大股でレジカウンターに向かう丈はいつものようにほっとかれ、光子郎は先程は沈黙していたデジヴァイスを取り出した。画面には私達のお互いのものと思われる印がそれぞれ点滅している。
「みんながいるから復活したとか?」
「いえ、さっき見た時は全く反応しなかったんですが……」
「おかしいわね……」
「こっちの世界では近距離でしか反応しないのかも?」
色々と意見を出し合うが、ここで憶測を語っていても確証は得られない。ゲンナイさんにでも訊けば分かるのかもしれないが、生憎彼はデジタルワールドにいる。
光子郎は眉間に皺を寄せてひとり考え込んでいるが、彼は考えることが好きなのだと微笑ましく見ておこう。というか、今は考えていても特に出来ることもないので仕方がない。
「ねぇねぇ、そんなことよりここからどうやって行くの?」
「そうだね、もうお金無くて電車乗れないもんね」
「どうやってタダでお台場まで帰れるか……」
「いや、都会の一駅や二駅、田舎に比べれば!」
「軽く5駅以上はあるけど……」
「ごめんなさいなめてました」
「へへへ、そのことなら俺に任せろって!ちゃーんと考えてあるさ!」
「ほんとか?」
意見を出し合ったところで、サムズアップしながら笑う太一に一体どんな秘策があるのかと思えば――。
「おーい!誰か乗せてくれい!ヘイヘイヘイヘーイ!カモーン!乗せろぉ!」
「おいおい、今時ヒッチハイクかよ」
「そんなにテレビみたいに上手くいくもんですかね」
「仕込みがないよ仕込みが!サクラ雇わないと!」
まさかの古典的手法に、何とも言えない意見ばかり。
道路脇で急遽作ったお手製看板を掲げながらバタバタ動き回る太一と、植木の影に隠れている私達という怪しさMAXの光景である。もちろん周りからは好奇な目を向けられているので、ある意味目立ってはいる。違う、そうじゃない。
そうこうしているうちに、太一が車道にふらっとはみ出してしまい、横切る車に当たりそうになっていた。危なすぎる!ハードラックとダンスっちまうよ!
「うわあっ!?危ねーだろバカヤロー!」
「どっちがだよ」
「太一じゃ3日くらいはかかるかもなー」
「はい……」
「だったらお前らやってみろよー!」
「うえっ!?僕達が!?」
ヒヤヒヤと呆れでため息をついていると、体を張っている太一は流石にぶーたれた。いや今のは真面目に危なかったよ!
プンスカと怒る太一の指名で、丈と光子郎が車道脇に出る。そして、
「い…………いえ〜〜〜〜い……………」
全く誰も停まってくれない。あまりにも、悲しい程、全っ然停まってくれない。赤面しながらも頑張ってサムズアップする少年達というこの光景に、都会で生きていくことの厳しさを感じて涙が出た。……私なら可愛いから停まるのにな!はい詐欺罪逮捕、訴訟。
あまりに悲しい公開処刑を尻目に、植木で見ている仲間たちは爆笑である。追い打ちィ!
「あはははははは!!」
「せーの、イエイイエイイエイイエイイエイイエイイエイ!!!!」
もうヤケになっている。やめて、真面目キャラな彼らのライフはゼロよ!涙ぐましい努力に乾杯。
すると、目立とうと大暴れする2人の前にタクシーが停まった。もちろんお金が必要なので折角停まって貰ったがお断りせざるを得なかった。ブレーンコンビ、あえなく撃沈。
そしてお次の三番手はヤマトだ。
「――――」
ヤマトは車道脇に立つと、ゆっくりと腕を上げた。まるで砂埃が吹きタンブルウィードが転がってきそうなハードボイルド的雰囲気のある、張り詰める緊張感にその場の全員がゴクリと喉を鳴らす。
――ビシィッ!
クールなサムズアップが決まるや否や、すぐに真っ赤なオープンカーがヤマトの前に停まった。
「ハァイ……いらっしゃい、ぼうや……」
「エッッッ!」
艶めかしい声をかけたのは、真っ赤なオープンカーに乗るボディコン服に身を包んだ妙齢の女性で、彼女はサングラスをきらりと光らせながらヤマトを手招きをする。これはイケナイ雰囲気ですわ……。レーベル上がっちゃうやつや……。
もちろん、その後ヤマトは茹でダコレベルに顔を赤く染めながらそのお誘いを断った。
「なんで断っちゃうんだよ!」
「あんな車じゃ全員乗れないだろっっ!!!?」
「にひひ」
「まあまあ、ヤマトくんはあのセクシーダイナマイツな大人のお姉さんにまさか誘われると思ってなくて色香にあてられて恥ずかしかったんだよね、大人の階段登ったね、今夜は赤飯だ」
「変な言い方をするなー!!」
まだ真っ赤な顔が収まらないで怒鳴るヤマトを太一とミミと灯緒がニヤニヤと笑う。まあまあ、ヤマトは純情なのだ、そう弄ってやるな。多分しばらくネタにされるだろう。
そして、4度目の正直。
空とミミの美少女コンビが並んでプレートを掲げる。溌剌とした笑顔で道行く車にアピールしているが、まず周りの目が違う。怪しさから微笑ましいものを見る目だ。だってあそこだけマイナスイオン出てるもん、人間所詮見た目よ。これがルッキズムか……。
「お台場に連れてって〜〜〜!」
「今度こそ大丈夫だろ」
「やっぱり女の子ですからね」
「そーそ、男やったらほっときまへんて」
「そーいうもんなの太一?」
「まあな!」
「じゃあなんで私はダメなの?」
「お前は女の子っていうよりただのチビだからな!ドンマイ!」
「明るい笑顔で言うと許されると思っておられる!?法廷で会おう!」
この中で3人目の女の子にも関わらず、する前から戦力外通告を受けた灯緒は、確かにそれはそう!と涙をのんだ。自覚症状ありだよチクショウ!
植木に隠れながらもぎゃいのぎゃいの騒いでいる間に、少し離れた所に青いワゴン車が停まった。恐らく空とミミのヒッチハイクを見てのことだ。流石の顔面強者、人生イージーモード!くっ悔しい!
「停まったぁ!」
「ほらな、お前がいたらこうはならねーよ」
「ひていできないのがくやしいです」
この世の顔面格差社会に嘆き血の涙を流す灯緒など知らず、空とミミが車に駆け寄り運転手に事情を話すと、空は腕で丸を作りミミはピースサインをこちらに送った。
「やったOKだ!」
「へへっチョロいぜ!」
「そういうもんなんだ〜」
ヒッチハイク成功に喜ぶ男性陣と灯緒、そして謎の説得力に頷くデジモン達なのであった。
しかも左ハンドルの外車で、しかも青い大型乗用車でシートが3列もある。そりゃこの人数が乗れる車でないとそもそも停まってくれないだろう。都会の金持ちだー!
助手席にミミ、2列目に空と灯緒、それより後ろにまとめて男性陣が乗る。流石に最後列はぎゅうぎゅう詰めで狭そうだ。そして、デジモン達はそれぞれの膝の上で大人しくぬいぐるみのふりを続けている。運転手によるカーストがありありと分かる悲しい配置である。
ちなみに、金髪長髪の日サロに通ってそうな小麦肌でにやにや……いや、ニコニコしたイケイケなお兄さんだ。人を見た目で判断してはいけない!きっといい人だ!
「後ろの席の僕達!」
「はい!」
「オメェら、空ちゃんとミミちゃんと灯緒ちゃんのオマケなんだからな。わぁってんだろな?」
「はーい、僕達オマケでーす」
「オマケは静かにしてんだぞ。じゃねえと、高速だろうがどこだろうがほっぽりだすかんな」
「はーい、静かにしてまーす」
「ひええ今時許されないよこんなジェンダー格差社会……!」
乗せて貰っている以上、悲しいかな運転手のお兄さんがここでは神なのである。一応灯緒も女の子枠で扱っているらしい。仲間の男性陣よりは紳士だ!
信号で止まると、女の子には優しくにこにこと笑いかけてくる。まあ、美少女2人いるからデレデレになる気持ちは分かる、とてもわかる。私もデレデレだもの。
「飴舐める?ミミちゃん」
「あ、はい!」
「はい空ちゃんと灯緒ちゃんも」
「どうも」
「ありがとうございます!」
好意で貰った飴を、不思議そうに見ているピョコモンに空はこっそりとあげる。
灯緒もインプモンに欲しい?と声を潜めて聞くが、なんだか機嫌が悪いようでいらねーしと言ってツンとしていた。なんだこの子興味ないのか。家で昼飯食べた時は現代食にご満悦だったのに。
ご機嫌に飴をコロコロ転がしているピョコモンに満足そうな空に、真後ろの座席の太一が耳打ちをした。
「オイ、なんだよこいつ!あったまくんなあ」
「しょうがないでしょ。お台場まで連れてってくれるっていうんだから」
「ていうか本当にお台場まで行くんだろうねこの車!」
「まぁ悪い人ではないでしょ。きっと、多分、願わくば……」
「願望かよ……」
こそこそと話すが、当のお兄さんは一行一美少女のミミちゃんにデレデレと話しかけていて気がついていない。あの様子からは想像し辛いが、この人数でも乗せてくれるあたり根は悪い人ではないんだろうけども……という気持ちが全員にあった。
ここで彼の態度にムカついて渋っていてもお台場は遠いのだ。背に腹は代えられないとはまさにこの事である。
しかし流石都会、交差点が多くすぐに信号に引っかかり待ち時間が長い。
信号待ち中に、横断歩道からチラリと風船が見えた。大道芸がこんな普通に町中にいるなんて、最近の都会は洒落てるなあ。
流れる都心部の景色を楽しみながら、お台場に着くのを待つのみだ。美味しい?と小声が聞こえ、ミミもパルモンに飴をあげたようだ。そこまではのんびりドライブで良かったのだが。
「ヘヘッ、ヒャッホーウ!」
鼓膜が破れるんじゃないかというくらいの爆音が車内に流れはじめる。
ラジオで好きな曲でもかかったのか、お兄さんは音量を上げて上機嫌でノリノリだが、彼以外は全員両手で耳を全力で塞いでいた。うおお騒音問題!耳が、耳がぁーー!
「あ、あのぉ!お兄さん!おにーさあん!!」
「ん!?なんか言った!?」
「音下げてください!!」
「ええ!?なんだって!?」
「音おおおおおおーーー!!!」
「おトイレ!?行きたいの?」
「そうじゃなくてえええええーーー!!!」
助手席のミミが抗議するも、お兄さんは大音響のリズムに乗ったまま全く気にしていない。いや、でもこの大人数を乗せてくれたし……きっといい人……いい人なんだ……!と言い聞かせて我慢する。
すると、ぐわんぐわんと目眩がするほどの音楽が急に途絶え、ピロリンという速報の電子音に変わった。
『──番組の途中ですが、ここでニュースをお伝えします。先程、練馬区光ヶ丘団地で爆発事故があった模様』
「!」
『その為の影響か、一時光が丘方面は電話、無線、光ケーブルなど一切の通信手段が不通となっていました。現在現地からの情報を収集しており、何かわかり次第追ってお伝えいたします。なお未確認情報ですが、事故現場で象と大きな鳥が目撃されたという複数の証言を得ており、現在事実関係の確認を急いでおります──』
「危ねえな〜!象だってよ!動物園から逃げ出したんだ、アッハッハ!」
象と大きな鳥ですぐに察する。マンモンとバードラモンの戦いのことだと。
私達一行に緊張が走る中、お気楽げなお兄さんはけらけらと笑う。いや、仮にそれが事実だとしてもそんな呑気に笑えるニュースだろうか?爆発事故やで!?まあ直接関係ない事件事故などこんな反応か。
そもそも爆発事故ではなくデジモン達が暴れていることが原因なので、お兄さん以外の私達全員には本当に笑える話ではない。当事者の私達は全て知っているのだ。
――と思ったが、唯一違う方面に緊張が走っている子が実は一匹いたことに、直前まで誰も気が付かなかった。
「……コロモン?――っまさか!?」
――ブリイイイイ!!!
「どあああああくっせええええええ!!」
盛大な排泄音と太一の焦る声と共に、急停車して全員が車を降りた。
3列目のシート、そこには立派なウンチ。うん、あの感じはとても健康だ!我慢が出来なかったのは仕方がないが、やってしまったとコロモンは恥ずかしそうにうつむいている。
「〜〜〜お前らぁ……!俺の愛車にクソしやがったのは誰だあああああ!!」
怒りで私達に怒鳴り散らすお兄さん。外車という良い車なだけに、これは怒っても仕方がない。
まさかこのピンク色のもちもちしたぬいぐるみ――デジモンがやりましたとは言えず、もし言ったとしても結局監督不行き届きにはなるので言い訳もできない。
「……ごめん、お――」
「あたし!!あたしがしたの!!」
太一が素直に手を上げようとした途端、空が言葉を遮って前に出た。予想外の名乗り出にピシッと止まるお兄さん。
まさかこんな美少女が!?となる気持ちは分かる。男の子が怒られるよりは、女の子がやったと言った方があまり怒らないのでは、と考えたのかもしれない。空ちゃん……!ここまで優しいとは……!神か?
「ごめんなさい、直ぐに綺麗にするから!」
「嘘だああああ!空ちゃんがそんなことするはずないだろおおお!!!」
「そうだよ、空ちゃんは女神か!優しすぎる!庇わなくていいんだよ」
このお淑やかそうな女の子がする訳ないと、信じられないお兄さんは必死に首をふる。正直、誰が見てもしなさそうな子なのは確かだ。
私は空ちゃんの肩をぽんと叩き、ここぞとばかりにキメ顔を作りながら前に出る。
「何を隠そう、私がしたんです!!出ちゃいましたごめんなさい!!」
「いや!灯緒ちゃんだってしない!!するわけがない!!」
「ええ……?そうかなぁ……?」
「なんで残念がってんだよ」
自分から名乗っておきながら、即否定されるのは予想外である。一行随一の道化の自覚がある自分は、客観的に見ると割としそうな可能性がありそうなんだが。自分で言うのもなんだが!学級王には程遠い、ってコト!?
「後ろにいたのは……!お前か?」
「へっ?」
灯緒も空も眼中に無く、目が本気のお兄さんがジロリと目に捉えたのは、最後列に乗っていた男性陣……そしてその中でも何故か丈に目をつける。ここでもお兄さんのジェンダー偏見が思いっきり出ているなぁ。
突然のガン付けに丈は驚く暇もなく、お兄さんは飛びかかるように丈の首元を掴み上げた。流石の剣幕に、全員が冷や汗をかきながらその光景を見ていた。顔を真っ赤にして逆上しているお兄さんの様子を見るに、落ち着く気配が微塵もない。
「大人しそうな顔しやがって!」
「ちょ、お兄さん!私ですってば!」
「やめてください!」
「うっせえ!」
「うわっ……!」
完全に頭に血が上っているお兄さんは丈に掴みかかった。すぐ側にいた光子郎が慌てて止めようとしたが、そんなことはお構いなしにお兄さんは光子郎を力いっぱい押しのけた。
小柄な光子郎が大の大人の腕力に勝てるはずもなく、その勢いでよろめく光子郎に、丈が叫んだ。
「ああーーーっ!!」
「ん?」
「光子郎ーーー!!」
私達が今いる橋の上は工事中なのか欄干が無く、代わりに置かれていたバリケードが置かれていたのだ。その簡易的なバリケードを押しのけて、光子郎の体がゆっくりと川へと落ちようとしている。
今更その重大さに気が付いたのか、お兄さんもやってしまったとでも言うようにようやく顔をサーッと青ざめさせた。しかしお兄さんを気にしている余裕はない。光子郎が落ちる!
「うわあああああ!」
「光子郎はーん!モチモン進化!――テントモン!」
咄嗟のことにいち早く反応したのはパートナーのモチモンだ。テントモンとなり空中で真っ逆さまに落ちる光子郎の片足を掴んで、なんとか危機一髪。一連の一瞬の出来事に、全員が無意識に止めていた呼吸を再開した。ナイステントモン!
「テントモン!」
「ぐぐぐ……アカン!重たいぃぃ……!」
しかし、テントモン程度の図体では光子郎くらいの子供でも重さに耐えきれず、徐々に高度が下がっていってしまっている。そこそこ流れに勢いがある川面が近づいてくるが、川に落ちる以前に、どこかおかしい。
「あっ、あれは?」
光子郎とテントモンがそれにいち早く気付く。
水面に白い謎の物体が流れてきたかと思ったら、それは水中から波立たせながら、その白い体を起こして現れた。こんな緊急事態の時に一番会いたくないものであり、探しているものに近い存在。それはデジモンだった。
「ゲソモンやぁ!」
「ゲソモン!?」
ゲソモンでゲソー!?その名の通りダイオウイカもびっくりの巨大なイカの姿をしているデジモンだ。現実のイカと違うのは、その上をいく巨体と黒く光る鋭い牙や触覚の先にあるツメだろう。
先程のマンモンと同じく話せるような高度な知能はないようで、ただ獲物を見つけたと言わんばかりにこちらに野性味のある敵意がむき出しである。
「うわあああああ!イカのバケモンだああああ!」
「海のデジモンはオイラに任せて!」
腰を抜かしつつ情けなく逃げていくお兄さんには誰も気に留めず、その横を通ってゴマモンがゲソモンとのタイマン相手に名乗り出た。
「ゴマモン進化!――イッカクモン!」
「わああああああ!また出たあああああ!」
お兄さんが急に姿を現した毛むくじゃらの怪獣にまた叫んだ。先程のラジオニュースで象が逃げ出したなどと笑っていた余裕など全くない。
コンクリートで囲われた狭い川幅で、巨体同士のゲソモンとイッカクモンが対峙する。体当たりと触手のムチの応酬が始まる。
「ハープーンバルカン!」
「先輩!あれ見るっす!」
「怪獣か!?嘘だろ」
「お父さん!ビデオビデオ!早く!」
「よーくできてるなー」
「ホンモンじゃねーのか?」
「まさかぁ。何かのイベントだろ?」
「おいおい……すっげー……」
二匹はザッパアアアン!と遠慮なしに水しぶきを上げてド派手に戦うものだから、いつの間にやら道路や橋の上の周りには瞬く間に大勢の人で埋め尽くされた。
老若男女のギャラリーは口々に好きなことを言いながら、一目謎の巨大怪物達を見ようとどんどん集まってくる。既に見世物状態だ。たんまり見物料取れそうな勢いである。
「なんだよ、もう終わりかー?」
だが、2匹は一度大波を起こした瞬間に水中へと姿を隠した。私達もそれに紛れて、その場を抜け出してイッカクモンと合流するべく海へ向かった。
ここまで乗せてくれたお兄さんにも、一応お礼の念を送っておこう。お兄さん、ウンチの掃除できなくてごめんなさい!
水しぶきに紛れて喧騒を抜けてた私達は、そのまま進化しているイッカクモンに乗せてもらい、海を行くことになった。
丈は単身ゲソモンを倒したからかやけにご機嫌でイッカクモンの頭の上に、他の私達はイッカクモンにけん引されている丸太に乗っている。
電車だのヒッチハイクだのまともな現代社会の交通手段で行こうとしたのに結局こうなってしまった。今までの経験上、乗り心地云々よりもデジモン達に無理を強いらなくてよい分、こっちの方が遥かに快適だと知ってしまっているので仕方がない。
まあ、遠くの元いた陸地ではまだ沢山の人混みが見えているが、海の上に出てしまえばこっちのもんだ。
「なんか大騒ぎになっちまったな……」
「しょうがねえだろ。ま、なんとかなるさ!」
「そうそう!意外とみんなショーだと思って楽しんでたしモーマンタイ!」
太一と灯緒は楽観的に笑いあった。もしかすると、ラジオのニュースのようにデジモンもとい大きな生物を見たという目撃情報がこれからも出回る可能性は大いにあるが、それに私達が関わっているとはまだバレていないのだから、希望を持っていこう。私達のミッションはこれからが本番なのだ。
「お台場に向けて、しゅっぱーつ!」
「進行〜〜!!」
意気揚々と片手を上げて号令をかける丈に続く。
夜色の反対側の空には星が瞬き始めた夕陽の中、一行は波に揺られながらお台場へと海路を進んだ。
まだ、ヴァンデモンが動く気配はない。
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