digimon | ナノ

01 「邪魔するんやったら帰ってー」追撃!日本へ急げ!

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「そっかそりゃ残念じゃった」


 そう全く残念そうでない声音で言葉にしたのは目の前の半透明の体の人影――ゲンナイだ。
 あれからヴァンデモンの城からまさに命からがら脱出し、再び城近くの森の中にあるゲンナイとの通信装置がある所まで戻って来ていたのだが。


「残念じゃすまないよ、このままじゃ9人目の仲間が見殺しだ!」

「それだけじゃないわ!あんなにいっぱいのデジモンが暴れ出したら、日本中大混乱よ!」

「そうだよ!ヴァンデモンという名のエルニーニョが異常気象を」

「お願いまずは灯緒ちゃんが落ち着いて」

「うーん……」


 ヤマトと空の言う通りの、少しも冷静になれない危機的現状だ。
 飄々としていたのに凄まじいパワーを秘めていた白猫デジモン――もといテイルモン達に簡単に足止めされ、糸も容易く目の前でヴァンデモンを逃してしまったことへの焦りを見て、ゲンナイも唸る。


「もう一度、ゲートを開けることはできないのか?」

「できないこともない」

「ホントか!」


 太一の問にゲンナイは曖昧な言い方ではあるものの即答をした。それにぱっと期待を込めて顔を明るくするが、その微妙な物言いに一拍置いて首をひねる。


「どうやって?」

「簡単には説明できん。道具も使うしのぅ」

「グズグズしている暇はないんだ!」

「巻きで頼む!尺の都合が!」


 一応緊迫した状況であるにも関わらず、いつものようにのらりくらりというか、のほほんというか、のんびりとした物言いのゲンナイに勢い良く太一が早る。太一も中々にせっかちな性分だが、ゲンナイのこのマイペースな空気にはみんなも焦れったいようだ。


「わかった。では、儂の家まで来てもらう」

「家って?」

「えっそんな急に、心の準備が……」

「灯緒一人で待ってて、どうぞ」


 なよっとする灯緒に慣れたツッコミの太一の横でコロモンがたずねた直後、ゲンナイはおもむろに左手を上げると途端にその姿は掻き消えてしまう。まさか通信でも途切れてしまったのか、そうなら流石に驚くより先に呆れてしまうがあのゲンナイという人物だ。お決まりというヤツですな。


「肝心な所でまた?」

「ちょっと、周りを見渡してくれぃ」

「?」


 もう、と呆れていたミミの言葉の直後、すぐにまたゲンナイが映ると言われた通りに全員はあっちこっちを隈なく見回す。
 すると視界に入ってきたのは、天に登る光の筋とでも言えばいいのだろうか。鬱蒼とした木々の向こうに見える空に、大きな光の柱がいくつも揺れているのが見えた。


「あ!あれ!」

「なるほど、あの光が指す先にラピュタが!」

「違うわい。あの光の方向に進めば儂の家に辿り着ける」

「わかった!」

「では待っておる」


 ゆらゆらと揺れてはいるが、あれだけ巨大な光の柱であれば見失うこともないだろう。よし、と安心してハッキリと答えると最後にそう言い残し、そこでゲンナイとの通信は途切れる。
 今はたった一秒でも惜しい状況だ。私達はすぐに言われた通りにゲンナイ、もとい光を目指して一色線に歩みだした。


「よし、行こう!」












「……ちょっと、コレどーいうことーーー!」


 光の柱を目指して小一時間。
 深い森を抜けた先に見たのは大きく開けた場所だった。対岸が見えないのだが、どうやら見えないくらい大きい湖のようだ。
 そこまでは良いのだが、ミミが思わず思いっきり木霊するぐらい叫ぶのも無理はない。なぜなら、


「家って湖の中なのか……?」

「あらあら、お草が生えますわ」


 光の柱が伸びる根本は湖だった。それはもう、まごう事なく水中からだ。
 湖の中から光源があり、光の方に家があるということは、つまりそういうことなのだろう。スタンダードなネタを言おう、訳がわからないよ!


「なるほど、2ヶ月山を探しても見つからなかった訳です」

「それよりどうやって行くんだよ?」

「オイラが様子を見てくるよ!……あ?なんだぁ?」


 やいやいと私達が困惑しているのを見て、ゴマモンが水に入りながら意気込んで言う。するとその直後急に水が淡く光り始め、周囲にボコボコと泡が立ち始めた。


「オイラじゃ……ないぞ……ははは……」


 反射的に目を瞑ってしまう程の眩しい光は徐々に強まっていき、そのまま光はこちらに向かって水面を走り、なんとその光を境目に目の前の湖が真っ二つに割れた。
 その割れて外気に触れるようになったそこに湖底へ続くようにずっと先まで伸びる長い階段が姿を表した。パカーンと割れた手前でポカーンとしてしまう。


「嘘ーーー!?」

「選ばれし子供たちはモーセだった……?」

「違うと思います。でもこれって……」

「これを降りろってことかしら?」

「だろうな」

「よし、降りてみようぜ」

「みんな待ってよ〜〜!」


 流石恐れなど知らずワクワクを隠せない輝いた表情の太一を先頭にして、下へと続く長い階段を降りるべく踏み出す。
 濡れていて滑りやすい階段に注意を払いながらも、水の壁のようになった湖を横目に見ることができるという現実では体感できないであろう神秘的な光景には、太一だけでなくみんなも思わずため息が出るほど目を輝かせた。沢山の魚の群れが目線の高さで悠々と泳ぐ姿を横目に見ながら、どんどん湖底へと降りていく。


「歩きにくい……」

「タケルくん気を付けてぬおおおああっ!」

「ぎゃああああ!」

「うわっ!?」


 危なっかしい足取りのタケルに手を差し出そうとしたところ無駄に灯緒は後続の丈とヤマトを巻き込みすっ転んだ。丈諸共転び、ヤマトはよろけてなんとかバランスを崩さずに済んだが、憎たらしいのは隣にいたインプモンは助ける事もなく見事に避けた。この薄情者!ツンデレ!進化後イケメン!


「ごめんヤマトくん!大丈夫か丈くん!?」

「ずれた眼鏡に向かって言わないでくれる?」

「はは、丈も灯緒も早く立てよ、服濡れてるぞ」


 尻もちをついている灯緒と丈に怒らずに笑ったヤマトに小言の一つでも言われるかと思っていた灯緒は驚いたが、それよりも驚いたのはヤマトと丈の距離感だった。
 旅が始まった頃、正直そんなに必要な会話をする程度の接点の無い二人だったが、いつの間にこんなに仲良くなったのだろう。話に聞いたところレストランで一緒に働かされたなんて事は聞いたのだが、きっかけはその時なのだろうか?


「みんな変わっていくんだな……友情とはかくも美しきかな」

「キモい」

「もう、にやけてないで灯緒ちゃんが一番気を付けてよね」

「あ……あれ!」


 シンプルに罵るインプモンと、代わりに空から小言を貰っていると、パタモンは突然前を見て声を上げた。えっちらおっちらと歩いている間にも随分と深い所まで降りてきていたらしい。その声に釣られて視線を足元から上げれば、水の壁の向こうに湖底に建つ建物らしき影が揺らいで見える。あれが噂の竜宮城かな?居るのはお爺さんだけど。


「あそこかしら」

「だと思う……」


 階段もやっと湖底まで降りてきて終わり、先程見えた建物の影に向かう。そうして辿り着いた湖底に建っていたのは、日本家屋の立派なお屋敷だった。
 母屋は平屋だがとにかくサイズが大きく、お城かと見間違う程の立派な門が構えられており、塀は白塗りの壁の非常に頑丈そうなものだ。中々に我が家と良い勝負だ。


「ごめんくださーい!」

「勝手に入りますよー!」

「オウオウ、邪魔するでー!」

「邪魔するんやったら帰ってー」

「あいよー、って誰や今言ったの!?」


 まあゲンナイなら私達の来訪を待っている訳だし遠慮はいらないだろうと、挨拶もそこそこに敷地に足を踏み入れると、そこにもまた伝統的な豪華な日本庭園が広がっている。
 おおっと歓声を上げる私達は既に観光気分になっている一行である。選ばれし子供達さまツアーご案内!


「なんかすごーい!」

「ほんと……」


 目線をあちらこちらに向けていると、綺麗に手入れのされた立派な松の木や、隅まで綺麗に敷き詰められた丸石と見事な枯山水、そして庭を横切るように造られた人工の川と池に、日本庭園によくある扇状の橋――その上に小さな人影が一つ、こちらに背を向けてぽつんと立っていた。


「ゲンナイ、さん?」

「よく来たな。子供たち」


 光子郎の声に、背を向けて川を覗き込んでいたゲンナイはゆっくりと振り向いてこちらに視線を合わせた。それはまさしく生身の人間にしか見えなかった。今までのホログラムではなく本物の生身ということてあれば、これがファーストコンタクトになる訳だが。


「本物なのか?」

「ええ」


 太一もどこか目の前にいるゲンナイの浮世離れした雰囲気を感じ取っていたのだろう。思わず呟いたらしい言葉に光子郎が短く返答すると、本物と分かりゃ容赦しねぇ!とでも言うように、ずんずんとゲンナイに突っかかっていく。


「やいジジイ!お前に聞きたいことがある!」

「なんじゃ?」

「今までどうして直接出て来なかったんだよ!」

「出不精でな」


 太一の言いたいことを引き継いで丈が聞くと、ゲンナイは扇状の橋を降りてこちらへゆっくりと向歩いてくる。
 ホログラムでも等身大で映されていたために知ってはいたが、生ゲンナイさんは近くで見ると益々小さい背丈をしている。灯緒といい勝負の小柄さ故か威圧感なども全く無く、ヤマトに続いて物怖じせずにタケルもゲンナイに言葉を投げかける。


「そもそもアンタ何者だ?」

「人間?それともデジモンなの?」

「どちらでもない」

「選ばれし子供たちって何!?」

「この世界とお前たちの世界を救う為に選ばれた子供たちのことじゃ」


 ミミの問いに、ゲンナイはゆらりと空を眺めながら言う。もちろんここは湖底のため、ここからは本来の空は全く見えず、空の青ではなく海の青、魚たちが泳ぎ回る景色のみが広がっているのだが。
 それを眺めながら退屈とでも言いたそうに、または決まり切った返答をするのも疲れるとでも言うように、ゲンナイの声音は適当ささえ含んでいるように聞こえた。


「俺達を選んだのは誰だ」

「選んだのはゲンナイさんなの?」

「ゲンナイさんは最近の世界情勢をどう思う?」

「お馬鹿、難しいことを聞くでない。ん〜、もういいじゃろ。今お前たちがしなければならんのは9人目の仲間を助けることだ。さ、家の中へ」


 結局ヤマトと空と灯緒の問には答えず、ゲンナイはくるりと向きを変えて屋敷の中へと案内をする。
 建物内へと全員が入れば、今までやって来た道の水の割れ目が消えて家のすぐ外には湖の水で満たされた。
 畳が敷き詰められた広い客間へと通され、部屋の間戸から外を沢山の種類の水中生物たちが泳ぐ景色が見られた。まるで水族館、いや本当に竜宮城のようだ。


「きれ〜〜!」

「鯛にヒラメか……湖のくせに」

「まあデジタルワールドだし」

「便利な言葉だよね、それ」


 タケルとパタモンは窓辺まで行って嬉しそうにはしゃぎ、私達の横で丈がさり気なく博識を披露しているとスッと音を立てて襖が開きゲンナイがやって来た。


「あれは、儂が作ったメカじゃよ。ひとり暮らしは寂しいもんでなぁ。これを見ろ」

「メカ!?」


 突然の爆弾発言を投下するゲンナイ。もしや名前の通り稀代の発明家だったりするのだろうか。
 ぽろっと重要そうな言葉を零しておきながらそれ以上本人はそれには特に言及せず、これからプレゼンをするように茶の間にスクリーンが下りてくる。スクリーンには地球の世界地図が映されており、世界地図から拡大していき日本、東京と縮尺が切り替わっていく。


「日本……」

「東京ね!」

「……練馬区だ!」

「うむ。ヴァンデモンの居場所を表しておる」


 ぴろりん、ぴろりん、と音を立てて赤い丸がとある場所で点滅している。
 それがリアルワールドでヴァンデモンが今現在居る所らしいのだが、そこで太一とヤマトが同時に何かに気付いたのかハッとして食い入るように地図を見る。


「……なんだよ?」

「いや……大したことじゃない。お前は?」

「いや俺も……。ただ、光が丘だなあ、って」

「光が丘!?」


 地図上で赤く点滅を繰り返す位置――その場所は、どうやら灯緒以外の子供達がよく知る場所だったらしい。もちろん、当たり前に知らないデジモン達を除き、田舎暮らしの私だけがアホ面でぽかんとしていたのは言うまでもない。


「……ど、どどどどこ!?」













「さあ、ゲートを開ける方法を教えてくれっ!」

「せっかちじゃのう」


 茶の間から場所は変わり、私達はゲンナイに書庫のような所へと案内された。壁一面に本がギッシリと詰まっている棚をゲンナイがごそごそと何かを探し回っている。
 その背中をまだかまだかと眺めていれば、しばらくしてゲンナイが年を思わせないくらい軽やかに脚立から飛び降りた。


「これを使うのじゃ」


 そう言って私達の前に並べられたのはカードだ。
 それぞれデジモンの姿が描かれている他には特に変わった所も無いごくごく普通のカードに見える。まるでトレーディングカードのようなそれには、今まで出会ったデジモン達が多く描かれ、その中にゴマモンとアグモンの姿を見つけると関係する二匹がキラキラと目を輝かせた。インプモンカードは……無いのか、残念。


「あっオイラのがある!」

「あ!アグモンも!」

「えーっいいなぁ!」

「これって?」

「カードじゃ」

「んなことわかってるよ」

「ゲートの石版に9つの穴があったじゃろ」


 ゲート、とはヴァンデモンの城の奥で見たあのゲートのことだ。石造りの巨大な門の前には確かに台のようなものがあったのを思い出した。ただあの場では戦闘で慌ただしくしていたのであまりまじまじとは見ていないが、流石と言うべきか光子郎だけはしっかりと頷いた。


「ええっと……はい。ありました」

「その穴に、このカードをはめ込むのじゃ」

「でもカードが一枚多いです」

「良くわからんのが一枚混じっておる」


 良くわからん、と曖昧な答えではこちらも何とも言えない。パッと見たところでは特にこれといって枠から弾かれそうなデジモンなどいないように見える。
 というか、そこまで個別のデジモンの特徴を知っていないので分けるにも基準が分からない。


「どの穴にはめ込むんだ?」

「いやそれも…………わからん」

「はぁ〜〜〜〜……」


 流石にゲンナイのこの重要な所まできて急に匙をホームランでぶっ飛ばす言動にも慣れてきてしまった。全員がまたかという顔をしている。むしろノルマ達成。


「ま、いいや!適当にはめ込んでみようぜ!」

「あーーっ駄目じゃよ!そんなことをしたら全く訳のわからん別の世界に飛ばされてしまう〜〜!」


 のほほんと楽観的に言った太一に、ゲンナイは今まで見なかったような形相に変わる。太一に後ろから羽交い締めしすると、意外と力があるのか太一は苦しそうにしている。


「そんなに世界って色々あるの?」

「平行世界とか多次元空間ってやつ?ワックワクのドッキドキ!」

「そんな良いものばかりではない、更にお前たちが不完全に復元されることもあるう〜〜!」

「なにそれ?」

「エヘン!つまりじゃなぁ……」


 これこれこうこう、とゲンナイが説明をする。つまり簡単に言うと、例えばどこか分からない別の世界に飛ばされたとしてその後にミミとパルモンが外見的な意味で混じり合い――。


「それはイヤーーーーーーーッ!!!!」

「…………」

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」

「じゃからヴァンデモンが呪文でやったことをお前たちは自分の力でやらなければならん」

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」

「わかんないことばっかりなのに?」

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」

「とにかくカードは渡しておく。まぁ、今夜はゆっくり休むがいい。ここなら敵も襲って来ん」


 叫び続けるミミちゃんと地味にショックを受けているパルモンを見事にスルーしながら、ゲンナイからぽん、と寄越されたカードを私達はまじまじと見つめるしかなかった。これもまたなんてアバウトな無理難題なんだ。












 こうしてゲンナイの屋敷で私達一行は一晩を過ごす事となった。ここのようなきちんとした建物内で夜を過ごすのは実に三度目だ。デビモンの幻の屋敷、コロモン村、そしてゲンナイの屋敷。こうしてみると長い旅をしてきたのに三回しかない事に驚きである。運が悪いのだろうか。
 ただ、デビモンの作り出した幻だった一回目のお陰で泊めて貰える事に若干のトラウマを感じつつ、なんだかんだでここまで導いてくれたゲンナイを思いお言葉に甘えさせて貰った。

 食事もごく普通の家庭料理をご馳走になり、清潔な寝間着を借りて大広間で全員分の布団を並べて朝までゆっくりと休息した。今までの野宿ばかりの旅路を思うとまさに天国だ。

 そして次の日、客間で全員で朝ごはんを食べ終わった所で機を狙ったようにゲンナイが襖を開いた。十分な睡眠と満腹のお陰で私達もベストコンディションだ。


「準備はいいかな?」

「はい!」


 しっかりとした声音ばかりが響いたことにゲンナイは満足そうに頷くと、おもむろにゲンナイは光子郎に手にしていたパソコンを差し出した。


「光子郎のパソコンにアダプタを取り付けた。ここにデジヴァイスを差し込めば、アナライザーにその持ち主が出会ったデジモンの情報を加えられる。新機能もいくつか入れておいた。暇な時にマニュアルを見ておきなさい」

「ありがとうございます!」

「よく分からないけどすごいことは分かる……!」


 昨日の夜、ゲンナイと光子郎は何やら難しい事を話していたらしいのだが恐らくこれの相談か何かだったのだろう。
 つまり、光子郎のパソコンにデジモン図鑑的な機能を追加してくれたらしい。メカを作ったりとゲンナイは機械について詳しいようだ。多分、訊いても私達に必要でなければはぐらかされるだろうが。


「選ばれし子供たちよ、大変だろうがその力を信じなさい」

「……選ばれし子供の力かぁ……」


 そうゆったりとした口調で語るゲンナイの期待に満ちた言葉に、頭を伏せて力なく呟くのは丈だ。そのあからさまに自信の無さが現れている態度に、きりりと気合いを入れた表情の空が喝を入れた。


「ねぇ、信じましょうよ!」

「そうだよ、私達にはみんながついてるじゃないか!ここまできて丈くんは仲間の絆が信じられないっていうのかね?」

「えっ!?ええっと……」


 空に続いて灯緒はずいっと詰め寄ってつらつらと出まかせに――いや、信じている言葉を並べると、そんなに今のポロッと出た言葉をこんなに真剣に捉えられたのかと呆気にとられた丈は驚いた。
 更に、ここで何を思ったのかいつもクールなヤマトや普段一歩下がった所にいるタケルまでもが便乗して笑った。


「出たな、灯緒の威勢張り」

「灯緒さんの言うとおりだよ!みんながいるから大丈夫!ね、丈さんもそんなことないよね!」

「そ、そ、うだね……?」

「…………」


 無理矢理言わせたような丈の弱々しい返事に灯緒とタケルは顔を見合わせて苦笑する。まあ、この慎重さが丈の良い所でもある。
 そしてそれは、丈だけではなく全員に言えることで、それぞれの短所長所を補いながら私達はここまで来れたことを知っている。
 やはりしばらく離れ離れになっていた効果か、以前以上に深くなっている子供達の絆を目の当たりにして私はにこにこと笑いが抑えきれなくて、最後にインプモンにきもいと言われて拗ねた。
 そうしてしっかりと互いを確かめる子供達を、ゲンナイは静かに見守っていた。


「役に立たなくてスマン。では行け、子供たちよ。幸運を祈っておる」

「はい!」



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