digimon | ナノ

02 「歪みねぇな!?」完全体進化!メタルグレイモン

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「完全無敵のラヴ・セレナーデ〜!」

「ちょっと!本人目の前にしてアチキのキャラソン歌ってんじゃないわよ!」


 ムキーっと地団駄を踏むエテモンは完全にこちらに気を取られているように見えた。
 太一とアグモンが最後の部屋へと姿を消してまだ数分、時間稼ぎとして私は全力で馬鹿をやって挑発を繰り返している。不意に横目でちらりと光子郎を見ると、何も疑うことなく無言で頷く彼と私の考えが一致していることに気がつく。
 こうして太一達が空とピヨモンを連れて戻ってくるまで、なんとか足止めするしかないと同意しているのだ。


「あーもう、腹の立つ小娘ね!いいワ、威勢のいいアンタからやってあげちゃうから!」

「そりゃ悪手じゃろエテンコ」

「エテンコってなによ!?なんか気持ち悪いからやめてくれる!?」

「灯緒、いい加減調子乗りすぎだ!」


 オネエ口調で意味のわからない気持ち悪い奴に分類される猿の着ぐるみを着た別次元の生命体にまで気持ち悪いと言われてしまった。
 それに妙にショックを受けてしまったが、私とエテモンの間に立ったフレイウィザーモンの声に我に返る。
 あまり刺激してしまったら私の身が危ないと判断したらしいが時既に遅し、エテモンが私とフレイウィザーモンの方向へ跳躍してくるのが目に映る。


「灯緒さん!」

「ワテを忘れてもらったら困りますで!」


 身軽に飛びかかってきたエテモンに、ゴールへと続く道を塞いでいた光子郎とカブテリモンも同じくエテモンへと飛びかかる。
 しかし、押さえつけようと勢いよく覆いかぶさったカブテリモンの図体でさえ、エテモンは軽々と片腕で防いだ。その見た目に合わない怪力にぎょっと目を開く。
 そういえば昨日のコントロールルームで対峙した時も、文字通りちぎっては投げちぎっては投げを軽々とやってのけた怪力の持ち主だったことを思い出す。接近戦はエテモンの本領発揮なのだ。


「ふっふっふー!」

「カ、カブテリモン!」

「フレイウィザーモン!援護だ!」


 いやらしく愉快に嗤うエテモンはその腕で支えるカブテリモンを壁に叩きつける。壁はカブテリモンを中心に円形のクレーターを作ったと思えば、あっさりと崩れ落ち瓦礫と化す。
 そして支えを失ったカブテリモンはその壁の向こう、太一とアグモンが先を行った小部屋へ呻きながら転げ落ちていく。
 それに追い打ちをかけようとエテモンが進み、その後をフレイウィザーモンが追う。


「待ちやがれ!ファイヤークラウド!」

「フン!なによ、火遊びは他所でなさい!」

「エテモン!?」


 フレイウィザーモンが炎の渦をエテモンめがけて撃つが、エテモンが軽く腕を捻って弾かれると簡単に掻き消されてしまう。
 壁が瓦礫となって見晴らしが良くなった先の部屋にはまだアグモンの姿が見えた。
 アグモンの目の前には部屋を区切るように高圧電流のフェンスがそびえ立っている。部屋にはアグモンのみで太一の姿が見えないとなると、どうやら太一は一人先に行った後らしい。
 太一は、一人であのフェンスを超えたのだ。

 激しい音を立てたこちらに咄嗟に気付いたアグモンは、すぐにこちらに向き直り体が光に覆われはじめる。


「アグモン進化!――グレイモン!」

「太一!今のうちに!」

「分かった!」


 グレイモンの巨体が行く手を阻むようにエテモンに立ちはだかる。低いグレイモンの声に、姿の見えない太一の声が応答した。
 まだフェンスの向こうのすぐそこにいたらしい太一は、グレイモンの急かす声に単身最深部の隠し部屋へと向ったようだ。

 そうだ、今はそれでいい。太一の役目は空を助ける事なのだ。ここは私達に任せて。


「エテモンキー!お前の相手はこっちだよ!」

「あら、まだ歯向かうの?アンタ達も力がない癖になかなかシツコイわね!」

「しつこさだけが売りなもんで。いいセールスポイントでしょ!フレイウィザーモン!」


 向かい合うフレイウィザーモンと、その横で痛む体を言い聞かせてようやく立ったカブテリモン。そしてエテモンを挟む形で立つグレイモンの三体の視線がエテモンに注がれる。
 そして誰が合図をするでもなく、全員が同時に懇親の必殺技を放つ。


「ファイヤークラウド!!」

「メガブラスター!!」

「メガフレイム!!」

「ダークスピリッツ!」


 炎と電撃の塊にぶつかったのはエテモンの闇の力を凝縮した物体だ。
 三方からそれぞれのエネルギーが、三位一体と化したこちらの攻撃もエテモン一体の攻撃で相殺される形となった。
 それに狼狽えるこちらを見て、当然の結果だとエテモンは余裕の表情で私達を嘲笑う。


「そんな、攻撃自体届かない!」

「流石は大スターって所ですかねえ……!」

「さあ!どっからでもかかってきなっどおおおおッ!?」


 そもその実力の差が桁違いなのだ。誇らしく私達を見下す笑いを上げながらエテモンが胸を張る。

直後、突然エテモンの後ろ側にあった高圧電流のフェンスが壊れ、その中からバードラモンの姿が飛び出してきた。
 突然のことで驚いていたためにバードラモンの姿しか目視できなかったが、バードラモンの姿ということは、太一は空の救出に成功したのだろうか。
 私の喜びを前に目の前でエテモンが高圧電流のフェンスの下敷きになってしまい、バチバチと激しく弾ける音に合わさるようにマヌケな悲鳴を上げる。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ〜〜〜――――っ!!!」

「太一!」

「空さん!」

「心配かけてごめん!」

「逃げるぞー!みんなー!」


 太一と空の声がしてバードラモンの背中に注目すると二人が並んで立っている姿が見える。
 そのままバードラモンは体当たりで次々と壁を壊していき、ピラミッドの外へと飛び去っていく。


「空ちゃん!太一くん!無事で本当に良かった……」

「喜ぶのは分かりますけど後でっせ!」

「灯緒さん、早くカブテリモンに乗ってください!」


 その後を慌てて追おうと、カブテリモンの背中に光子郎と一緒に乗せてもらいフレイウィザーモンは横に並走して飛びながら私達もバードラモンに続く。
 最後のピラミッドの外壁が壊れた音と同時に、外で待機していた残りのみんながこちらに注目した。そしてバードラモンの姿に気付いて作戦が成功したと理解したみんなは次々に笑顔を浮かべ、そんな風に走ってくるみんなの姿を見つけた空が嬉しそうに大きく手を振る。


「みんなーーー!」


 空のなんともない元気な姿を見届け、全員が作戦成功だと歓声をあげた。私もほっと息を吐き、笑顔の空を見上げる。

 良かった、本当に良かった。
 何事も無かったらしい空の無傷な姿に、その横でやり切った笑みを浮かべる太一の表情に、ひどく心の中が澄みきった夏の空が広がるのを感じた。
 これでまた誰一人欠けていない私達一行で旅が出来るのだ。
 ナノモンの姿もなく、もうエテモンにこちらから向かっていく用はない。
 みんなと共に紋章を手に、強敵と闘える術を身につける旅を再開するのだ。
 まだ私達は共にあれるのだ。


「さあ、お姫様救出の目的を達成したら後はアウェイのみ!急ごう!」

「ええ、スフィンクスに戻りましょう!」


 前に乗る光子郎に声をかけ、カブテリモンの速度が上がる。合流した他のみんなもまたスフィンクスへと懸命に足を動かす。
 すると再会の喜びも束の間とでもいうように、急に強い風がピラミッドに向かって吹き荒れ始める。風の力はどんどん増していき、私達の進行を邪魔すると同時に周りのティラノモンやモノクロモン達敵デジモンが風に吹き飛ばされてピラミッドに吸い込まれていく。
 突然の暴風にみんなが目を白黒させてピラミッドを振り返った。


「何が起こってるんだ!?」

「こっちが逃げるには好都合です!」

「見て!ピラミッドが!」

「歪みねぇな!?」


 促す声に何事かと目に砂が入らないように気を付けながら振り返ると、ピラミッドはどこか禍々しい謎の黒い光を放っていた。黒い閃光とぐにゃぐにゃと歪む景色に、なぜそう思わせるのか分からないが私達全員がゾッと悪寒が体を駆け巡る。
 ただエテモンを巻いただけだ、どこにこんな現象が起こるトリガーがあっただろうか。


「あああ!?」

「ど、どうなってるんだ!?」

「アッハッハッハッハ〜〜〜!!」


 一体何が起こっているのか検討もつかない。
 不安を抱えながら見ていると、崩れていくピラミッドの中からエテモンの笑い声が響いてきた。
 しかしその笑い声はどこか先程まで聞いていた声とは少し違った。どこかノイズの走る、肉声ではない機械を介したかのような声だ。
 とにかく声の方向的にはエテモンはまだピラミッドの中に居るらしい。と思えば瓦礫と化したピラミッドから姿を現したのは、


「アチキがこんなことでやられると思ってるの!?」

「エ……エテモン!」

「エテモンっていうか、何あの下のぐにょぐにょしてるのは!?」

「ナノモンは勝手にくたばってくれたわ。次はアンタ達の番よ……!」


 そう私達に視線を浴びせるエテモンの姿は、先程まで知っていた姿ではない。
 上半身はそのままなものの、エテモンの下半身はケーブルやコード、電子回路のようなものが集合した黒い謎の物体がくっついていて、それはドクンドクンと脈打つように蠢いていた。それが所々ぐにゃりと蜃気楼とはまた違う歪み方で空間が歪んでいるように見えるのは目の錯覚だろうか。
 兎にも角にも、憎々しげに言うエテモンは今にも私達を殺しにかかってきそうな目をしていた。
 エテモンのあの変貌に何が関わっていたか分からないが、圧倒的なプレッシャーを放つそのおぞましい姿に勝てるビジョンが全く浮かばない。


「くっそぉー!」

「メテオウィング!」

「メガブラスター!」

「ファイヤークラウド!」


 とにかくエテモンが先にこちらに攻撃をしかけてくる前に、慌ててこちらが先制攻撃を放つ。
 だが、こちらの攻撃の全てがエテモンの下半身である謎の黒い物体に当たると何事も起きずに掻き消えてしまう。


「ああん、肩こりに丁度いいわ〜これが代金よ。ダークスピリッツ!」


 軽い調子のエテモンはいつもの攻撃を放つが、それは普段の攻撃の威力とは違い格段にエネルギーが違うものだった。
 大きさも違えばエネルギーの質量とでも言うべきか、とにかく危険度を増したそれを察した標的のバードラモンとカブテリモンが咄嗟に躱した。
 避けられたダークスピリッツは遠くの山とスフィンクスに当たると、それはぐにゃりと空間を歪ませていき、最終的にはそこにはぽっかりと穴が開いたように消えた。
 まるでそこに何も無かったかのように綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
 それを目前にして再び全員がゾッとする。


「ああっ!?」

「きゃあ!スフィンクスが!」

「逃げ道がなくなった!」


 まさか、まるでデータを消去したようにぽっかりと消えてしまう攻撃にも驚くが、何より逃亡先であったスフィンクスを消されたのが痛い。遠くの位置へ繋いでくれる唯一の逃げ道が塞がれ、同時に逃亡作戦が潰されたのだ。
 そうなってしまえば向かう先がない私達はその場で止まり地面に体を伏せてエテモンを見やる事しかできなくなる。


「このままじゃこの世界全体がムチャクチャになっちゃう!」

「でも僕達が叶うはずないじゃないかッ!」

「――いや、まだ一つだけ方法が残っている」

「え?」


 状況についていけないみんなは、暴風に耐えながら地面に伏せ口々にただ思ったことを口にする。
 ただでさえ、前の普通の姿のエテモンにも敵わなかったのだ。
 それから更に今の圧倒的な力を見せつけられ、逃げ道を閉ざされ、世界が壊され、次々に私達に絶望が襲いかかる。
 ――こんなもの、私達がどうにか出来るものなのだろうか。

 丈が自暴自棄に叫ぶ声の後、それとは180度違う揺るがない真っ直ぐな声音でそう聞こえた。
 言葉を発したのは太一だ。その声と同じく真っ直ぐな瞳と、その胸に淡く輝く紋章を手に。
 太一はすくっと立ち上がると、私達が制止の声を上げるより先に一人真っ向にエテモンに向かって走り出す。


「太一くん、紋章が……」

「行くぞグレイモン!」

「わかった太一!」

「ホッホッホ、まだやる気なのね?」

「俺は逃げない!絶対に!」


 グレイモンを引き連れてこちらに向かってくる小さな姿を目の前に嗤うエテモン。
 対し、太一は覚悟を声に出し走り続ける。そして言い切ると同時にオレンジに光り輝くタグを上空へ掲げた。その眩い光は地面に伏している私達の目にも写った。
 その光はどこか優しく、勇気づけてくれるような暖かい光。


「見て!太一さんの紋章が!」

「光ってる!紋章が光ってる!」

「スカルグレイモンの時とは、違う光だ……!」

「はんっ!無駄だって言ってるでしょ!」


 紋章の光など気にする様子もなく、エテモンは再びあの山一つとスフィンクスを消し去ったダークスピリッツを撃つ。その暗黒のエネルギーの塊は真っ向からグレイモンの腹部に当たってしまい、弾かれる勢いでその巨体を揺らして後ろ向きに倒れこんだ。


「うっ!」

「最後まで諦めるな!グレイモン!」

「太一の勇気が……ボクの体に、力がみなぎってくる……!」


 砂埃を上げて倒れる相棒に、太一が真っ直ぐな瞳を向ける。
 先程から太一の目はそうだった。
 きっとあのフェンスを乗り越えたことで、空を助けたことで、太一の中の何かとても大切なものに火が宿ったのだ。
 絶望の色なんて微塵もない、前だけを見据える勇気の炎がそこにはあった。

その瞳に答えるように倒れてもなお、グレイモンはゆっくりと立ち上がってエテモンに向き直る。再び立ったグレイモンの瞳もまた太一と同じ真っ直ぐな、勇気をたたえた瞳をしていた。
 その瞳と瞳、まるで一体となって呼応するように太一のデジヴァイスとタグの光が一層増して、とうとうオレンジのまるで太陽の如く眩い光が周辺を、太一とグレイモンの姿を包み込む。


「グレイモン!超!進化あああああ!」


 グレイモンが勇気を携えた雄叫びを上げる。
 オレンジ色の紋章の浴びてグレイモンの姿が徐々に変化していく。
 その巨体に対して小さかった右腕には機械と化した鋭い爪のついた鈍色の大きなアーム。頭部と胸部も同じく頑丈そうな鈍色に光る機械に覆われ、最後にその背中に紫色の翼が二対光の粒子をばら撒いて現れた。そして、変わらない空色の瞳が力強さをそのままにそこにあった。


「――メタルグレイモン!!」



「こ、これは……!」

「紋章の力だ!」

「これが……グレイモンの正しい進化……!」


 太一がこれでもかというくらい目を見開いて己の相棒――メタルグレイモンを見上げる。
 以前のスカルグレイモンへの進化の時とは違う、暖かな光を浴びて進化を遂げたメタルグレイモンの瞳はしっかりと太一を写している。
 その瞳と暖かさを感じるだけで、メタルグレイモンは太一の想いに答えた結果の進化なのだと、求めていた強さなのだと心の内に響いたのだ。


「少しぐらい進化したからってアチキに勝てるはずないでしょ!はぁ!」


 目の前で輝かしく進化をしたのを見てもなお見下すように吐き捨てたエテモンは、再び暗黒のエネルギー攻撃をメタルグレイモンめがけ振り投げる。
 だがそれはメタルグレイモンに見事命中したものの塊はボスン、と間抜けにも気の抜ける音を出して消え去ってしまった。


「なんですって!?」

「うおおおおおおおーーーー!!!」


 エテモンの遥かにパワーアップしたはずの必殺技を体の中心に受けたにも関わらず、メタルグレイモンは傷一つ負うことなく勇ましく雄叫びを上げる。そしてぽかんと口を開けている隙だらけのエテモンの元へ突っ込んでいく。
 その間も太一の腰にある彼のデジヴァイスは絶え間なく、メタルグレイモンに力を注いでいくかのように光り震え続けている。


「メタルグレイモン!」

「うぅっ!?よくもよくもぉ!踏みつぶしてくれるわ!」


 メタルグレイモンの全力の体当たりで弾き飛ばされ、憎々しげに吐き捨てたエテモンがそのケーブル類が幾重にも凝縮されたドス黒い体をメタルグレイモンへと振りかぶった。
 対するメタルグレイモンも両腕を胸の前に縮こませて構えると、どこからか激しいエネルギーの風が吹き始め、メタルグレイモンを中心にそれが渦巻いていく。
 そしてメタルグレイモンの体も再びまばゆく光りはじめた。


「メタルグレイモンが光ってる!」

「光のエネルギーだ!聖なる力だよ!」

「いっけええええええええ!!」


 何が起こるのかとメタルグレイモンから目を逸らさずに言っているうちにもメタルグレイモンの光りはどんどん強さを増していく。目が痛いくらいのエネルギーの光を前に、トコモンもこれでもかと丸い目を見開いて叫ぶ。
 直後、メタルグレイモンが叫んだ。


「ギガデストロイヤー!!!」


 メタルグレイモンが縮こませるていた両腕を開き、腕に隠されていたメタル化している胸部の左右の蓋が開くとそこから巨大なミサイルが二発、爆音と共に撃ちだされた。
 凶悪な笑みをしている二発のミサイルは見事エテモンの胴体にヒットする。たちまち閃光と大爆発が巻き起こり、地面を揺らす激しい爆風が辺りを巻き込みながら肥大化していく。


「き、消えたくない!アチキは大スターなのよ!何でこんな所でええええええーーー!?」


 その凄まじい爆発の中心で必死に声を絞り叫ぶエテモンの声も、圧倒的な爆風と空間の歪みにかき消されていく。
 やがてその声が聞こえなくなると、エテモンが完全に空間の歪みに引きずり込まれ消滅したことを悟った。

 だが強敵を倒したことに喜んでいる暇は私達には無かった。
 エテモンが消えた場所を中心に空間の歪みがますます大きくなっていき、更に風が強く吹き荒れる。
 その状態で依然遠巻きに地面に伏している私達よりずっと前にいる太一の体がふわりと浮き、今にも空間の歪みへ引きずり込まれようとしていく。


「うわああああああっ!」

「太一ィッ!」

「メタル、グレイモン……!」


 悲鳴を上げて浮かび上がってしまった太一を慌てて食い止めようとメタルグレイモンが右腕の爪を地面に刺し、腕を壁にして太一を助けようとする。だが、余りにも強い風は毎秒重ねるごとに強さを増していき、とうとうメタルグレイモンの巨体が浮かび上がった。
 驚きと恐怖に悲鳴を上げる太一とメタルグレイモン諸共、空間の歪みへと姿を小さくしていく。破れた空間へと呑み込まれていく。それを私達は地面に伏して見ているだけで。


「太一ぃーッ!」

「ば、ばか野郎!」

「太一!灯緒!」


 そんなもの、欲張りな私が耐えられるわけもなく。

 空の悲痛な叫びを横に私は後も前も見る間もなく、ただ目の前でどんどん距離が空いて小さくなっていく仲間の姿をどうにか掴みたくて咄嗟に体が前へと進んでいった。

 最後、目の前が真っ白に塗り替えられていく。
 重力が離れ上下左右の感覚が分からなくなり、自分の立ち位置もわからなくなった時、私はみんなの呼び声を遠くに聞きながら手を掴まれた。



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