digimon | ナノ

01 「俺の屍を越えて行けーッ!」完全体進化!メタルグレイモン

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 眩しかった太陽はすっかり沈み、静かに夜空が輝いていた。

 空とピヨモンが連れ去られたその日の夜、私達は例の洞窟の入り口で光子郎とタケルを除いたメンバーで焚き火を囲んでいた。
 これからどうするべきか早く決めなければならない。もちろん空とピヨモンをどうにかして助ける手立てを第一に考えているのだが、そう全員が気持ちを同じにしているにも関わらず意見は一向に纏らないでいた。
 こうしている間にも空は大丈夫なのだろうかと正直な所気が気でない。だがどうやらそれはみんなも同じらしく、それぞれが表情に焦りを見せている。


「場所も分からないんだぞ?ナノモンが行動を起こすのを待つしかないだろ?」

「その間に空の身に何かあったらどうすんだよ!」

「ナノモンの目的はエテモンを倒すことだ。だったら俺達が先にエテモンを倒せば返してくれるんじゃないか?」

「さっき負けたばっかりなのに……」

「それは言わないお約束……」


 冷静な声音でヤマトが提案するが、それを聞いたミミは昼の戦闘を思い出したようでぶるりと体を震わしながら呟く。そのミミの言葉がグサリと全員に突き刺さり、威勢の良かった太一も俯いてしまう。
 実際、今の情報と状況ではナノモンにもエテモンにも束でかかっても手も足も出ないのが分かりきってしまっていた。

 しん、と静寂が包む。何か、何かないだろうか。


「……憶測なんだけど、ナノモンが去り際に真の力を利用してエテモンを倒すって言ってたよね」

「え?ああ、確かにそんな事を言ってたような……」

「真の力が何のことかは分からないけど、空ちゃんを利用してって意味ならナノモンがエテモンを倒すまでは空ちゃんには手を出さないんじゃないかな」

「……でもそれも本当かは分からないだろ、俺達を騙したヤツだぞ?」


 準備が整い、それからエテモンを倒すまでの間は恐らくだが空自身は大丈夫ではないだろうか、と希望を含めて予測する。だが、それを聞いた太一は考え込みそしてゆっくり首を横に振る。
 確かに太一の言う事も最もだ。となるとやはり今の私達には猶予がない事だけが明らかなのだ。
 今までこんなにも一刻一刻が苦痛に感じた事があっただろうか、こうしている間にも空は。

 パチパチと弾ける音を鳴らす焚き火を見つめながら気まずい沈黙が流れる。そんな私達を離れた場所でタケルとデジモン達がこちらの様子を見ている。


「みんなはしっかり食べて、いつでも戦えるようにしておくんだ!」

「うん、わかった」

「うん……」


 私達の真剣な話し合いを察してタケルも真剣な顔をしてそうデジモン達に告げる。デジモン達もこちらを気にしつつも食事を続けた。

 やがて食事も済むと、夜も深けたのでタケルとデジモン達は洞窟の側で固まって寝始めた。すぐに静かな寝息が聞こえ始めるが焚き火の周りにいる私達はそのまま動かない。
 すると、長い沈黙を破って太一が拳を握って呟いた。


「……俺があの時、空を助け出していれば……」

「自分ばっかり責めるなよ!僕達だって……」


 ぎり、と音が聞こえそうなほど強く拳を握りしめる太一の心の中は私でさえ痛いほどわかる。

 私達にだって空は大事な仲間なのだ。
 だからこそ、ひとりで後悔して背負い込まないでほしいと思う。
 そう同じように思ったのか聞き捨てならないと言うように丈も声を大きくして言ったが、そこまで言って口籠った。

 みんな同じなのだ。


「何か、何かやることがあるはずだ」

「……そうだよ!」


 焚き火を見つめながら眉をしかるヤマトが口にしたその一言。

 一見八方塞がり、事実そうであったとしても唯一無二の大切な仲間が命の危険に晒されているとなれば、そんな事が分かりきっていてもで諦めるなんてことは絶対にしない。今は、確実に空を助けるための手立てを考えよう。
 いくら不安げで眉を下げていても、ここにいる全員の意志は、仲間への想いは堅いのだと確信した。
 みんながこんなに大事に思っているのなら、絶対に成し遂げなければ。

 確信すると自然と口角が上がり、単純にも気持ちが前向きになった。
 やはり私は一言でこんなにも心動かされるほど、どこまでも単純であった。


「ヤマトくん、良いこと言った!太一くん単眼鏡貸してよ!」

「え?」

「なんだよこんな時に!」

「ここで暗い顔して座ってても現状は何も変わらないでしょ?何かが変わってくれるのを待つんじゃない、私達が変えるんだよ!何も分からないのなら、とにかく行動あるのみ!だからピラミッドの様子を見てくるよ。何か変化があるかもしれないしね」


 多すぎる問題が目の前に聳えているのは何も変わっていない。
 だからこそ、こういう緊急事態の時に恒例の如く啖呵を切る私の心の奥底の本音というものは毎回、何かしていなければ罪悪感に押し潰されてしまいそうでもあったからだ。
 それは所謂、とても恥ずかしい気持ちそのものだから、それをなんとか悟られないように啖呵を切って、それにみんなが乗ってくれば大成功。
 そんなハリボテの魂胆だ。

 そういつも体当たりの私の目論見が成功するようにこっそりと祈りながら、立ち上がった私はみんなを見渡す。


「…………灯緒ちゃん」

「……お前はまたホントに、こういう時にさあ……」

「えっ空気読めないのは知ってるよ!?」

「そうじゃなくて……やっぱりいいや」


 なにせわざとなのだから、と心の中で舌を出すように呟いてみる。
 私の思惑を他所に、何か含みを帯びて呟く太一はどこか気の抜けた表情に変わっていた。
 何だ何だ、選択肢を間違えて好感度下がっちゃったかな?デデーン、とでも思うがどうもそうでは無いらしい。
 他の三人も何かを察した含みのあるような顔で、ミミに至っては吹き出すようにクスッと笑う。
 そして、また始まったよいつもの灯緒節、と呟いた太一は単眼鏡をポケットから取り出してぎゅっとそれを握りしめ、


「……俺達も行こうぜ。灯緒にばっかりいい顔させるかよ!」

「ああ、そうだな」

「うん、灯緒くんが言う事も最もだ。だけどやっぱり何かしらするにしても行動は慎重に……」

「灯緒ちゃん行きましょっ!」


 それぞれがそう口にしながら全員が立ち上がった。焚き火に照らされるみんなの顔は先程の表情から一転して柔らかな笑みを浮かべている。

 どうやら私の啖呵は成功したらしい。
 みんなの心が固まってしまえばこっちのものである。みんなが一丸となれば心強いことこの上ないのだから。いーざーすーすーめーやキッチーン!

 太一を先頭に私、ミミ、ヤマト、丈と続いて駆け足で洞窟の入り口まで行くと、今までずっと一人で洞窟で調べものをしていた光子郎が丁度暗闇の中から出て来たところだった。


「光子郎!」

「お疲れ様です参謀!」

「みなさん、どうしたんですか?」

「ピラミッドを偵察しようと思った所存であります!」

「だから洞窟を砂漠に繋いでほしいんだ!」

「――?そうですか、それならその前に丁度分かったことがあります。説明しますのでこちらに来てください」


 光子郎は私達の雰囲気が少し前までと変わった事に気付いたのか控えめに首を傾げる。
 だがすぐにいつもの冷静な表情に戻って言う光子郎に、みんなで「え?」と気が抜けたような声を漏らす。

 そのまま私達は光子郎に続いて、昼間と同じように洞窟内の宙にピラミッド内部の地図のホログラムが表示されていた前に集合する。


「ナノモンはどこかに逃げたふりをしてただけなんです。実際にはほとんど移動してなかったんです」

「それじゃあ……」

「えっ、てことは!」

「まだあのピラミッドにいるのか!?」

「はい。ピラミッドの地下、最も深い部分に隠し部屋が存在するんです。間違いなくナノモンと空さん達はそこにいます!」


 みんなの視線を浴びながら光子郎が力強く言い切った。
 このかなり重要な情報が分かったことで私達は一気に選択肢が広がったのだ。まさかどこか遠くに行ってしまったのではと思っていたのに、そうではなくむしろすぐ近くにいたのだ。
 まんまと一杯食わされたという訳だ。流石はナノモン、頭の回転が早く裏をかくのが上手い。

 つまりここからが正念場である。


「エテモンの裏をかいたという訳か」

「空……ここに……」


 地図が動き、ピラミッドの最奥部に点滅する部屋が現れた。昼のコントロールルームから更に奥の、本当に隠された部屋だ。
 そこにナノモンと空も居ると分かればこうしてはいられない。
 その場所を穴が開くほどじっと見つめて、ついに決意したように太一が呟く。


「みんな、危険なのはわかってる。……でも俺どうしても空をこの手で助けたいんだ!だからっ……!」


 太一の声は、言葉を紡いでいくたびに震えて大きくなっていく。太一の胸の内がひしひしと伝わるその声音が私達の心にも響くように洞窟内に反響する。
 だが必死に訴えかけるようなその言葉は、既に言葉にしなくてもここにいるみんなは分かっていた。
 私はみんなの様子をちらりと盗み見ると、全員が同じように優しく笑みを浮かべていることに気が付き、それだけで私はひどく安堵した。
 それはきっと、今の太一も同じ事だろう。


「わかってるよ、太一」

「俺達だって同じ気持ちさ!」

「空さんはここにいるみんなの仲間なんだもん!」

「一緒に助けようよ!」

「みんなで行こう、ピラミッドへ!」

「みんな……!うん!」


 当然だと、最も太一が聞きたかったであろう強い肯定の言葉を言い切る全員の声が再び洞窟内に反響して響き渡る。
 エコーがかかるその声達を聞くと、太一は再び最深部の部屋を微動だにせず見つめる。

 さあ、一世一代のお姫様救出作戦の開始の鐘が鳴った。











 ――次の日。
 計画をするに先立って、テントモンがピラミッドの上空へ偵察をしに行った所、ピラミッドの周辺は夥しい数のティラノモンとモノクロモン達だらけだということが分かった。
 どうやらエテモンはナノモンと私達選ばれし子供達を警戒してピラミッド周辺の警備をかなり厳重にしているらしい。
 ちなみに砂漠周辺ばかりを強化しているらしくピラミッドの側はその限りではなく、つまりエテモンはナノモンは外へ逃亡したと思っていて今現在のナノモンの居所にはまだ勘付いていないということが分かる。


「現在ピラミッド周辺にはこのようにデジモンが配置されていて気付かれずに中に入るのは無理です」


 私達一行は再び洞窟に集まってホログラムの地図を前に作戦会議を行った。
 光子郎がテントモンの情報を元に地図に敵の印を示す。


「その為に俺達がおとりの役目をするわけだな」

「そういうわけですわ」


 あれから入念に立てた作戦を一同で確認しながら私達はコクリと頷く。
 続いて、丈がみんなの前に出て説明を続行する。


「こっちの揺動作戦に敵が乗って動き出したら、その隙をついて太一とアグモンが一気にピラミッドに侵入する。いいな!」

「うん!光子郎、道案内頼むぞ。灯緒も護衛頼んだ」

「まかしとき!」

「はい。でも……」


 当初空を助けるための救出組は太一と光子郎コンビの少数での予定だったが、私が行きたいと駄々をこね、もとい抗議して救出組の戦力として加わったという経緯がある。
 渋々という様子でもなく、意外とすんなりと救出組に加えてもらったということは、私とインプモンもきちんとした戦力として数えられていると分かったのだ。
 あまりの嬉しさに、現在の私のやる気根気元気はゲージMAX、むしろカンストである。

 意気込みを見せるように片手でガッツポーズをしながら笑ってみせると、逆に横にいた光子郎というと何か言いにくそうに口籠る。
 作戦を主だって立てた光子郎が言おうか躊躇う程のことだ、嫌な予感がする。


「ご懸念か参謀!?」

「どうした?何かまずいことでもあるのか?」

「ここの部屋に入るにはここの隠し通路を通らないといけないんですが……ここの壁にはナノモンのいた部屋と同じように電流が流されているんです」


 それを聞いた途端太一はハッと息を呑んで目を見開くと、言葉が出ないのか口を噤む。
 言わずとも分かる、昨日のことを思い出しているのだろう。

 太一の様子の変化に思わず大丈夫だろうか、とつい余計な心配してしまったが、視線の先で起きた結果に私はその考えをすぐに改めた。
 太一は振り払うように顔を振ると、先程とは打って変わって真剣な眼差しをした顔を上げて言い放つ。


「……俺は、空を助ける。今度こそ!」


 そう拳を握る太一を、全力でサポートするのが私の大事な役割だ。












「空くんを助けるのが第一だ。くれぐれも無理な戦闘はするんじゃないぞ」

「ああ」


 太陽が煌々と真上に上がった頃、いよいよ作戦決行である。
 私達はスフィンクスの口から現在の砂漠の様子を確認する為覗き込む。どうやら先程の偵察から様子は変わりないようだ。


「丈さん達こそ無理は避けてください。エテモンが出てきたらみんな逃げて構いません」

「わかってる。タケルもいいな」

「うん!」

「みんな無事で、ここに帰ってきましょ!」

「もちろん!大船に乗ったつもりでどーんと構えててよ!もちろん私はその気でいる!」

「今度はちゃんと言えたわね!エライエライ」

「わあすごく年下扱いだー」


 ミミは「よしよし」と可愛らしく言って、すぐ祈るように両手を握ってここにいる全員に声をかける。
 その『みんな』にはきっと空とピヨモンも含まれるのだと作戦成功を願って、みんなも深く頷いた。

 そのアイコンタクトを合図に、私達は順々にスフィンクスの口から砂漠へ飛び降りて、見張りに気付かれないように細心の注意を払いながら匍匐前進で進む。
 太陽にじりじりと熱しられている砂がうつ伏せの全身に感じ、ひどく熱く息苦しい。その熱量にじわりじわりと少しずつ体力が吸い取られていくのがわかる。


「よいしょ」

「サンキュ」


 辺りを確認しながら場所を見て、途中でミミが私達の上にカモフラージュ用の地面と同系色の布を被せる。そして再び作戦を決行するタイミングを見計らって敵の動きを見つめる。
 じっと身を潜めて待っているとふつふつと焦りが出てくるが、ここで何かしでかす訳にはいかない。


「……空」

「ハープーンバルカン!」


 太一がピラミッドを見てそう呟いた直後、私達から離れた場所で待機していたゴマモンはイッカクモンに進化する。
 そのまますぐにイッカクモンは丈を背中に乗せ、ピラミッドに直接ミサイルを派手に撃ち込んだ。
 ドォン、ドォン、と爆音を砂漠に響かせながら次々に繰り出しては撃ち込んでいく。すると突然の攻撃にピラミッドから慌てるガジモン達の声が聞こえ始める。


「反撃だー!反撃するんだ!」

「き、来た……!」


 襲撃を仕掛けたイッカクモンを見つけた沢山のガジモン達がわらわらとピラミッドから飛び出てくる。同時にどこからか命令でもしたのか、ティラノモンとモノクロモンの群れもイッカクモンの方へと動き出した。
 最後にミサイルを一発お見舞いし、晴天の下激しい煙幕を張るとイッカクモンは急いでその巨体を揺らしながらピラミッドの反対へ逃げて行く。


「交代だ!」

「今だ……」


 丈が声を張ると、同じく違う離れた場所でヤマトは既に進化を遂げていたガルルモンに乗って機を伺う。
 ヤマトは作戦通り、襲撃者であるイッカクモンを追って一直線に走っていくガジモン達を確認すると、彼らに狙いを定める。そして、その背中に向かってガルルモンが跳びかかる。


「フォックスファイヤー!」

「あっちにもいるぞ!」

「さあ、うまくついて来てくれよ……!」

「追え!あいつらを追うんだ!」


 ガルルモンが青い炎を振りまきガジモン達に襲撃すると、攻撃だけしてすぐさま丈とイッカクモンとは別の方向へ走りだした。走り去るガルルモンを何の疑いもせず追いかけていくガジモン達。
 まんまと私達の作戦通り、戦力の分散が成功した。ナノモンやエテモンは賢く抜け目が無いが、ガジモン達は素直で助かったといったところである。
 それを私達はじっと身を潜めて成り行きを見守っていると、


「今日こそ決着をつけるわよ!」


 そう独特の口調の声がしたと思えば、ピラミッドからトレーラーに飛び乗ったエテモンの姿が見えた。
 そのまますぐにトレーラーは走り出し、イッカクモンとガルルモンが逃げた方向へと煙を立てながら消えていく。
 それそのまま身を潜めながら見送り、ようやく辺りが静かになった所で先に太一が立ち上がる。


「……そろそろ行ったかな?」

「うまく逃げてくれよ……行くぞ!光子郎、灯緒」

「はい」

「いあいあ!」

「気を付けてね!」

「ああ!」


 いよいよ作戦の本腰だ。気合いを入れつつ、続いて光子郎と私も立ち上がる。その後ろをアグモン、テントモンとインプモンが続く。
 後ろ手に残るミミの声を聞きながら素早く布から抜け出し、太一を先頭に私達は昨日と同じようにピラミッドの隠し通路の場所へと走っていく。


「確か、この辺だったよな?……ここだ!」


 太一が壁に手をついて手探りですぐに隠し通路を見つけてた。躊躇いなく壁を通り抜け、内部の隠し通路を走り抜ける。


「気を付けてください!昨日の戦闘で使えなくなってる通路もあるはずです」

「あっ……これは」

「行き止まりだ」


 光子郎が声をかけた直後、角を曲がった所で壁が崩れており、通路が瓦礫の山となっていた。横を見るとどうやら崩れた壁から隣の通路に行けるようだ。
 ただし、そこは隠し通路ではないので特に安全の保証はない難関である。


「隠し通路から出なきゃダメですね……」

「仕方ないよ、慎重に行こう。誰もいない?」

「……大丈夫だな」


 太一がそっと隠し通路から少しだけ覗いて普通の通路の方を見回して確認し、慎重に通り抜ける。
 それから何度かそういった通路が通れなくなっている場所にぶち当たり、所々迂回しながらも順調に先を急いでいた所で急にピラミッドの中に放送が流れた。


『エテモンさま大変です!残りの選ばれし子供がピラミッド内に侵入しました!』


 しゃがれた声から察するにガジモン達だろうか。
 その声の後すぐに喧しくウーウーとサイレンが鳴り響き、どこから出てきたのか通路をたくさんのガジモン達が慌しく走り回る。場違いにもこんなにガジモン達はいたのかと変に驚いた。
 とにかく私達は慌てて身を潜め、ガジモン達の様子を見ながらひそひそと声を抑えて話し合う。


「気付かれたみたいでんな」

「あと少しなのに……あの通路を右に行った正面の壁がナノモンの部屋に通じる隠し通路になっているんです」

「本当にすぐそこか……どうする?強行突破する?」

「ダメだ、敵が多すぎる。次から次に出てきやがるし」

「クッソぉ……!」


 ほとんど目の前にゴールが見えている状態なのに、その目の前に敵がうようよと走り回っている。とても見つからずに行ける数ではないし、だからといってここで進化してガジモン達と戦闘して余計な力を削りたくはない。
 どうしようかとこそこそと話していると、突然音を立てて真上の天井が砕けそこから今一番会いたくないヤツの姿が現れた。全身茶色の影が私達の目の前に堂々と降り立つ。


「ああっ!?」

「うわあああああ!」

「見〜つけた!ナノモンがどこにいるか教えて貰うわよぉ」


 ニヤリ、としてやったり顔で笑うエテモンと目が合う。その情報まで嗅ぎつけてきた奴の賢さにも驚くが、今は足を止めている場合ではない。
 この現状をどうするか、答えは決まっていた。先程私が口走った通りの事をやるまでだ。――ただ一つの相違を除いて。
 私と同じ考えだったらしい光子郎が私と同時に太一の前に背を向けて立ち塞がる。


「太一さん!ここは僕達で何とかします!早く空さんを!」

「俺の屍を越えて行けーッ!」


 その声を合図にテントモンとインプモンも臨戦態勢に入る。一瞬驚いて目を丸くした太一だったが、すぐに私達の意を汲んでアグモンを連れて走りだした。


「テントモン進化!――カブテリモン!」

「インプモン進化!――フレイウィザーモン!」

「光子郎、灯緒、頼んだぞ!」

「待つのようおおおッ!?」


 エテモンに背を向けて太一とアグモンがゴールへの通路を走り抜ける。すぐさまその背をエテモンが追おうとするのをカブテリモンがその大きな図体で行く手を塞いだ。
 そして行く手を阻むその巨体に驚いて足を止めたエテモンに、問答無用でフレイウィザーモンが炎を纏う杖を振るった。


「隙あり、ファイヤークラウド!」

「アッチチチ!ちょっとなにすんのよ、スターの顔に火傷なんてしたら最悪じゃないっ!」

「猿も木からフライングニードローップ!残念だったね、ナノモンはルスだ!帰れ!」

「それアチキの台詞ーっ!全く、嘘おっしゃい!アンタ達がナノモンの居所を知ってるのは分かってんのよ!さっさと吐きなさいっての!」


 太一とアグモンの姿が見えなくなったと分かると仕方なくこちらに振り向きなおるエテモンは指を突きつけて言い放った。
 プンスカと漫画チックに憤っているのを装っているが、それがこちらを油断させる上っ面であることを知っている。奴は残虐で冷徹なデジモンであることは分かっている。
 そんな奴が私達と話す気があるなんて思えない。予想できるのは、私達が油断する隙を見て完膚なきまでに叩きのめそうとするギラギラとした敵意だ。
 結局、どちらとも話し合いで終わるとは全く思っていない。
 正面から堂々と言葉をぶつけ合うのみだ。


「仮にそうだとして、簡単に口を割るとでも思ってんのか?だとしたら、とんでもなくお目出度い頭だな!」

「私達は私達の手で仲間を救うためにここにいる。話しあう気は毛頭ないよ、エテモン!」

「ふぅん、アンタ達も諦め悪いわね……その悪足掻き、いい加減にしないと痛い目みるわよ……!」

「当たり前だよ、手放すなんて絶対にごめんだね」


 空が大事だ。ピヨモンが大事だ。子供達が大事だ。デジモン達が大事だ。インプモンが大事だ。みんなが大事だ。今ここでみんなと出会ってこうして一緒にいるこの今の世界が大事だ。
 他にも数えきれない大事なものが存在しているのも気付いている。

 欲張りで自分本位で諦めの悪い私なのだ。
 絶対に諦めたり、手放したりなんてしてやるものか。



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