digimon | ナノ

01 「でえじょうぶだ、ドラゴンボールがある」妖精!ピッコロモン

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「俺ーの俺ーの俺ーの俺ーの……」

「俺の右手はゴッドハ〜ンド!」


 イエーイ!と歌いながらハイタッチを交わして太一とハモる。
 気分は最高潮。なぜならあの地獄のような砂漠もようやく終わりの気配がやって来たのだ。
 日差しも柔らかくなり、所々に雑草が生えるようになってきた。一番の変化は、熱風ではなく心地良い爽やかな風が吹いてくることだ。我が世の春が来た!
 また、あの豪華客船で休んだおかげでアグモンもすっかり元気になり、太一と一緒に元気良く歩いている。


「いい天気だ!」

「風が気持ちいいね〜!」

「紋章は手に入ったけど……」


 機嫌の良い太一とアグモンの後ろで、ミミが紋章をまじまじと見ている。

 私達の手元には太一、丈、ミミの3つの紋章が手に入った。
 しかしイマイチ使用方法が分からない今の私達には宝の持ち腐れとなっているのが現状である。


「使い方がわからないんじゃあなぁ」

「正しい育て方って言われてもねぇ」


 私達の疑問のほとんどはゲンナイに聞けば答えが分かるのだろうが、こちらからはゲンナイへコンタクトが取れない。
 私達だけで悩んでいても全く答えは出ないし、結局ゲンナイからのコンタクトを待つより他無かった。


「でえじょうぶだ、ドラゴンボールがある」

「いや紋章だろ。でもまだ全部の紋章が見つかったわけじゃないんだ」

「そうですね。まず紋章を全部集めてそれから考えることにしましょうよ」


 ヤマトの問いに答えた光子郎はそう提案すると、みんなも最もだと頷く。ぐう正論。
 そうこう言っているうちに私達が立ち止まっていると、先を歩いていた太一とアグモンがこちらに声をかけてくる。いつの間にか二人は私達からずっと遠く離れた位置にいた。


「お〜い!何やってんだよ〜!」

「早く早く〜!」

「置いていっちゃうぞ〜!」

「今ねぇ、デジモンについてのとっても大事な重要会議してるの!すぐ行くからちょっと待ってね〜!」


 私達が真剣に話しているうちに自然と立ち止まってしまっていたようだ。
 タケルとトコモンが大きく手を振りながら太一達に待つよう伝え、それを聞いて太一達はその位置で立ち止まる。
 すると突如、太一達がいる周りの地面がまるで巨大な蟻地獄のように陥没した。


「な、なんだぁ!?」

「うわあああああっ!?」


 蟻地獄の中心から姿を現したのは、以前ファイル島で私達が一番最初に遭遇したデジモンだった。


「クワガーモンです!」


 私達がデジタルワールドへ来たばかりの時、洗礼をしてくれたあのクワガーモンだ。いくら別個体だろうがクワガーモン自体には良い印象がない。
 そして今まさに、クワガーモンの持つ大きなハサミに太一とアグモンがそれぞれしがみついていた。


「太一くん!アグモン!」

「もがっ!」


 クワガーモンが大きく頭を振ると、太一は宙に投げ出されてしまい遠く離れた場所の柔らかい地面に頭から突っ込んだ。同じくアグモンも放られ、クワガーモンのすぐ側に頭から地面に突っ込んでしまっている。
 アグモンは足をバタバタと動かし藻掻きながら頭を出すと、クワガーモンは威嚇をするように大きなハサミをガチガチと鳴らしながらアグモンに近づく。


「ベビーフレイム!」

「アグモン!」


 急いで対面したアグモンはクワガーモンの頭部に向かって火炎弾を放つ。
 しかし硬く覆われた甲によってダメージはほとんど通らなかった。以前戦ったクワガーモンはこんなに硬かっただろうか、アグモンは驚いてクワガーモンを見る。


「こいつ、ファイル島にいた奴より全然強いや……!」

「アグモン!進化しろ、進化だ!」

「…………っ」


 ガブモンが急かすように言うと、その言葉にアグモンも太一も動きを止めた。
 恐らくスカルグレイモンに進化してしまったことを思い出して、進化すること自体に怖くなってしまったのではないだろうか。
 だがこのままではアグモンが危ない。それに気付き、太一がアグモンに向かって一目散に走る。


「アグモォーンッ!」

「ううっ……」

「何やってんだよ!シザーアームズに挟まれたらおしまいだぞ!」


 今度はゴマモンが必死に叫ぶ。それでもアグモンは進化することに躊躇っているようだった。
 そんな動けないアグモンにクワガーモンの鋭いハサミが迫る。
 アグモンを真っ二つにしようとクワガーモンのハサミが閉じられる瞬間、太一がアグモンを庇って地面に倒れこんだ。
 もし進化できないままでいれば二人の身が危ない。


「アグモンッ!」

「太一ぃ……」

「今行くぞ!」

「駄目だ、間に合わない!」

「いや!間に合わせてみせる!」


 遅れて走り出すが太一達まではかなりの距離だ。だからといって、間に合わないからと言って足を止めることはしない。諦めてなるものか!
 助走をつけた後、柔らかい砂地をスライディングで駆け抜け、太一達の少し後からクワガーモンの頭部に砂を撒きつける。更にその後ろからインプモンも駆けつけた。


「だりゃあああああッ!」

「ナイトオブファイヤー!」

「灯緒!インプモン!」

「急げ!」


 目潰しと炎弾を喰らいクワガーモンが怯んでいる隙に、太一とアグモンにインプモンが退くように声をかける。
 すると私達を新しい敵とみなしたクワガーモンが狙いを変え、その大きなハサミを振りかざした。さあ、あの時の借りを返させてもらおうか!


「行くぞ宿敵!俺様の美技に酔いな!」

「――ピットボム!」


 構えたその瞬間、私の言葉は続かなかった。
 突然、どこからか私達以外の甲高い声が響きわたったからだ。
 そしてその直後、クワガーモンの姿が覆われるように突如大爆発が起きる。爆発により砂煙が巻き起こり、私とインプモンはまともに砂を正面から被り、伏せた太一とアグモンの体を沢山の砂が覆う。
 舞い踊る爆発の砂埃がしばらくしてようやく収まり、あたりが静かになる頃には既にクワガーモンの姿はどこにもなかった。


「――ゲホッ!な、なんだ?」

「ぶはあっ!今からが快進撃だったのに……太一くん、アグモン、大丈夫?」

「ボク達は平気だよ」

「大丈夫だ、でも何が起きたんだ……?」

「ピッピッピッピッピ……」

「…………ああ!?」


 体中の砂をはたき落とし、後ろを見やると太一とアグモンが砂の中から顔を出した。どうやら傷一つなく無事のようだ。その様子にほっと胸をなでおろす。
 その太一の目の前を小さなデジモンが呑気に歩いて横切った。
 そのデジモンは手に槍を持った、薄い羽が背中に生えたピンク色の体毛に覆われた姿をしている。


「大丈夫そうね」

「クワガーモンは?」

「何あれ?変な奴!」


 無言でそのデジモンを見ているとみんなが私達に駆け寄ってきた。
 まさか、この可愛らしいデジモンがクワガーモンを一掃したのだろうか。全員でぽかんとしながらそのデジモンを見ていると、くるりとこちらに向き直って話しかけてきた。


「ピ〜〜!この未熟者!」

「あー!あなたピッコロモンね!」

「ピ、ピッコロさん!?」


 その小さなデジモンは喋ったと思ったら突然厳しい言葉をぶつけてきたが、ピヨモンは嬉しそうに声をあげた。まさかのDBネタ伏線の回収である。
 ミミがピッコロモンとやらを抱き上げる。それに全く抵抗せず大人しくしているのはこちらに好意的であることが伺えた。


「かわいい〜」

「貴様ぁ!私の見せ場を邪魔しおって覚悟は出来てるんだろうな!抱っこさせてください!」

「灯緒ちょっと落ち着こうそうしよう」

「クワガーモンをやっつけたのはピッコロモンだったのね!」

「ピッピッピー!ワタシの魔法の威力見たかッピ!」


 先程の爆発はやはりピッコロモンの攻撃だったようだ。それならばピッコロモンは窮地を救った恩人である。
 ピッコロモンは私の腕の中でふふん、と自慢気にしたかと思えば手に持った槍を子供達に突きつけてきた。


「全くキミたち選ばれし子供なんでしょ、危なっかしくて見ていられないッピ!」

「はぁ……」

「そんなんじゃ折角紋章とタグを手に入れても宝の持ち腐れだッピ!」

「可愛くないこのデジモン……」

「ピッコロさんはそんなこと言わない!」

「コラ、何をするッピ!」


 突如現れた見ず知らずのデジモンに何故かお説教を長々と聞かされる。ミミが呟いた言葉に思わず同意してしまう。思わずピッコロモンをポイッと放る。
 だが放られてもピッコロモンは私達に駄目出しを言い続ける。


「デジモン達もデジモン達だッピ!キミ達みんなたるんでるッピ!努力が足りないッピ!根性がないッピ!」

「…………。ピッピピッピうるさい奴だな……」

「アタシ努力ってキライ……」

「どーせオイラ根性ないよ……」


 初対面であるのにこの言われ放題の酷い言い草に、大人しく耳を傾けていたみんなもあからさまに顔を顰めた。
 何でこんな見ず知らずのデジモンにそこまで言われねばならんのだ。ギエピー!
 そしてピッコロモンは衝撃の言葉を出した。


「よって、キミ達みんな今日からワタシの元で修行するッピ!」

「修行!?」

「なんですのそれ?」


 突然飛び出したワードに驚いてピッコロモンを見る。
 修行とか言い出したぞ、この鬼畜バグデジモン。精神と時の部屋かな?それよりトレーマニュアル寄越せよ!


「特にそこのキミ達!」

「俺!?」


 ビシィッ!と槍を突きつけられたのは、太一とアグモンだ。思いもよらぬご指名に二人はぎょっとして飛び上がる。
 デジモンの星を目指して強制ギプス装着で特訓でもするのだろうか。思い〜込んだ〜ら!


「キミとそのアグモンは重症だッピ。スペシャルメニューで猛特訓だッピ!」

「スペシャルメニュー!?」

「猛特訓〜!?」

「そしてそっちの君は顔つきはいいが負傷してると見たッピ。ワタシの薬を分けるッピ!」

「この顔は生まれつきだ!」

「そうじゃねぇだろ」


 顔つきって何?顔面偏差値のこと?余計なお世話だよ!
 しかし、服で隠れている怪我を短期間で見抜くとはやはり只者ではないようだ。また、薬をくれるとなれば私にとっては願ってもないことで。
 となると私はピッコロモンについて行ってもいいと思いが傾いているが、他のみんなはどうだろうか。


「さ、着いてくるッピ!ピッピッピッピ……」


 歩く時にアレを言い続けないといけないのだろうか。ピッコロモンはこちらの返事も聞かずにさっさと歩いていってしまう。
 だが、まだ全員ピッコロモンについて行くとは言っていない。お互いにチラリと目を合わせると、急いで全員で輪になって会議を始める。


「どうします?」

「信用できるのかな?あのデジモン」

「どうなんだ、ガブモン」

「口煩いけど悪いデジモンじゃないよ」

「お、言うねえガブちゃん」

「黒い歯車もケーブルもついてないみたいだし……」

「いいじゃない、デジモン達の正しい育て方がわからないのは事実だし。それでみんなで合宿すると思えば楽しいわよきっと」

「歩くよりのんびりできそうかなぁ?」

「太一はどうなんだ?」

「行ってみようぜ!面白そうじゃんか!」

「決まりだね!」

「おお〜〜!」

「何を愚図愚図してる、早く来るッピー!」


 意見が纏まったところで私達は一斉に声を上げる。
 直後、既にその気のピッコロモンの喝を受け、私達は慌ててピッコロモンの後をついて行った。











「まだぁ〜!?」

「もう少しだッピ」

「もう少しもう少しってさっきからそればっかりぃ〜……」


 ついて来いと言われて小一時間。
 相変わらずサバンナを歩いているが中々ピッコロモンの言う目的地に着かない。まさか罠ってことはあるまいな……。
 パルモンがしょんぼりと頭の花を萎びかせながら言うと、ここでようやくピッコロモンが止まった。


「着いたッピ。ここだッピ」

「ここって……何もないじゃない!」

「冗談キツいっスよピッコロさん〜」


 驚いて周りを見るが特別何かある訳ではない。相変わらずサボテンのみのサバンナだ。
 意味が分からずにいるとピッコロモンは勢い良く飛び、槍を回し踊るようにしてよく分からない謎の呪文を唱える。


「ピー!ルホルバロホルバソビカッピ!トブカラトドカヌシタカッピー!」


 キラキラと魔法の光が舞うと、ピッコロモンの前にファンタジー物でよく見るような空間のゲートがどこからともなく現れた。
 ゲートの向こうには沢山の木々が見える。


「な、なんだぁ!?」

「驚くことないッピ。ワタシの結界の中だッピ。さ、着いてくるッピ」

「これが精神と時の部屋……ゴクリ」


 ここでもピッコロモンは驚く私達を置いて一人でさっさと歩き始めてしまう。
 今更怖気づいても仕方がない。みんなもそう決心したかのようにお互い顔を見合わせると、ピッコロモンの後をついてゲートをくぐった。

 結界の中に入ると風景はがらりと一変し、所狭しに植物が生い茂っていた。しばらく乾燥地帯続きだったためジャングルが久しく感じられる。


「ジャングルだ〜」

「ねえ!後ろ見て!」


 空の声に後ろを振り返ると、鬱蒼とした木々の向こうのサバンナ地帯に何か車のようなものが走っているのが見える。
 モノクロモンが馬車の馬のように"笑天門"と書かれた貨物を引いている。それはどこかに向かってサバンナを走り去っていった。
 丈は眼鏡をずらしながら驚く。


「今度はなんだぁ!?」

「あれはエテモンのトレーラーだッピ」

「ええっ!?」

「エテモンキーの!?」

「でも心配することないッピ。向こうからは結界の中は見えないッピ」


 それはありがたいことなのだが、エテモン達はあんな便利な乗り物に乗っていたのか。あれでは徒歩の私達は簡単に追いつかれてしまうじゃないか。
 それだけ言うと再びピッコロモンは特に気にする事なく前に進んでいく。結界の主のピッコロモンがそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。
 しかし、意外と近い所にエテモンがいることにも驚きだ。なんにせよ細心の注意を払うべきだろう。
 再び、私達はその後に続いた。











 しばらく深緑に覆われたジャングルの中を行くと、私達の前に階段が出てきた。
 その前でピッコロモンも止まり後ろの私達一行に振り返る。


「この上がワタシの家だッピ」

「この上って……えぇ!?」

「冗談キツいっスよピッコロさん〜。いや本当に……」


 けろりと言ってのけるピッコロモンだが私達は度肝を抜かれた。
 なぜなら階段を見上げているとこちらの首が痛くなる程のとてつもなく長い階段がそこにはあったのだ。
 ひとつの切り立った山の頂上まで続いている。登り切るまで一体どのくらいの時間がかかるか想像もつかない高さだ。


「何よぉこれ!信じられない〜……!」

「これを登るんですか!?」

「何段あるのかなー?」

「数えるだけ無駄だ……」

「ちょっと、修行はもう始まってるってわけ!?」

「そういうことッピ!」


 はあああああ〜〜……。
 ここまでも頑張って歩いて来たというのに、こんなハードモードな訓練を初っ端からやらせるなんて。このデジモン、きゅるんと可愛い顔してかなりの鬼畜だ。
 全員が揃ってため息をついてその場に座り込む。これからこの長い階段を登ると思うとやる気が出ない。見ているだけで目眩がしそうだ。
 そんな横でテントモンはふふふ、とこっそり笑う。


「ふふ、こんなもん楽勝やがな!なんでならワテ……」

「言っとくけど今後の修行中は空は飛ばないでほしいッピ!」

「どひ〜……」

「楽することばっかり考えないでピッピと登るッピ!」

「はぁ〜……」


 そんなズルはピッコロモンにはお見通しだったようだ。こんなことではこれからのピッコロモンの"修行"とやらも思いやられる。
 二度目の深く長いため息をついてから、私達は渋々階段を登ることになったのだった。



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