special


男を知らなさ過ぎる、とでも言ったらいいんだろう。
何度も何度も危ない目にあっているのに、自分が女の子だから、って考えは相変わらずナシみたいだ。
けど、そんなところもアイツのいいところってヤツ?

「かーいちょ、何してるの?」
「…っ!!」

こうやって気配消して近付いてみると一瞬にして俺に対して警戒。
なのに他の男に対しては警戒の欠片もない。
たとえあったとしても俺より程度は低いもの。
嫌いだからって万人に同じ警戒心は抱かない。
むしろ俺だけ特別に。

…特別は特別でも、別のものがいいんだけど。

「碓氷、そうやって後ろから抱きつくのは止めろと、何度言ったら分かるんだ」

…あれ?

「今日は殴らないの?」
「殴ったところで、お前が変わらないのはもう目に見えてきた」

淡々と書類に通す目には俺の姿はない。
あー、ちょっと嫉妬。

「…で、今度は何だ」
「俺だけ見て欲しいナー、なんて」

って、言ったところで見てはくれないだろうけど。

「手を退けろ」
「むー」

拗ねたフリして今日のところは撤退しようか。
警戒心がなかろうと、会長は会長。
鮎沢美咲という人間はこういうものなのだ。
だからこそ、俺はそんな会長に惚れたのだ。
特別になろうなんて、そう簡単な事じゃない。


会長から離れようと、手を退けた時、会長の右手が俺の手首を掴んだ。
そしてそのままくるりと振り返ると、あの真っ直ぐな眼で俺を見つめてくる。

「…、そんなに見つめられたら俺、穴開いて死んでしまうよ」
「見て欲しいといったのはお前だろ!」


真っ赤な顔して目線逸らしちゃって。
さっきの警戒心なんて飛んでったのかしら?
そんなことしたら俺、我慢できませんよ。


「碓氷、」


「ん?」

困惑したような、照れてるような。
そんな光を持った瞳は、何かを求めるように見える。
そうして一つ一つ見つけたものを、会長はゆっくりと紡いでいく。

「正直、お前に何度も何度も助けられて、私としてはお前にどう接していいのか分からないんだ」

「それに、好意を寄せてくれているようで、でも私は男は苦手だし、余計にお前へどう接していいのか分からなくなってきて…」

段々と俯いていく会長の顔は物凄く申し訳なさそうな顔。
そんなの、

「会長らしくないじゃん」

今にも泣きそうな目をして、下を向いたまま。
決して泣く事はないのだろうが、こうして困らせているのは俺で。
…嬉しいような、悲しいような。

俺の腕をきつく掴んだままだった会長の右手を、左手でそっと握ると、少しだけ会長は俺に目を向けてくれた。


「会長は、会長のままでいいよ」

確かに、無茶は過ぎるし、意地っ張りだったり、負けず嫌いで、鈍感で。
でも頑張り屋で、正義感に溢れて、すごく綺麗に輝いてる女の子だから。

「そのままでいてくれるだけでいいんだから」


俺が望む特別とはまだ違うけど、こうして俺の事を考えてくれてるって事は、会長の中での俺は、やっぱり特別なんだって思っていいんだよね?「碓氷、…ありがとう」


「うん」



やっぱり今は俺の望む特別じゃなくても、こうして傍にいるだけでも、周りの男よりは少しだけ特別。
いつの日か、ゴールばっかり見て走る会長が、俺だけを見て走ってくれるまで、俺は前を走り続けておこう。





「って訳でご褒美はキスがいいなー」
「はぁ?」
「だってメイドはご主人様の言う事聞くもんで…」
「っ、お前のメイドになったつもりは毛頭ないわっ!」





俺だけを見てくれるのが、まだまだ遠い先の話でも。
prev | top | next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -