変わらない場所。



「ムサシー、明日の事だけど、あれ、ムサシー?」



部屋に入ると、ムサシの姿はない。


「ムサシなら出かけたニャ」

「えっ、こんな時間に?危なくないか?」

「行き先は言ってなかったニャ、明日には帰るって言ってたけどニャー」

「うーん、大丈夫かなー」



晩御飯のカンヅメにも手をつけず、いつも三人揃う食事の場でニャースだけがカンヅメを開けている。
ニャースの横に座り自分もカンヅメを開ける。


「いただきまーす。」


慣れた手つきでカンヅメを開ける。
ニャースはムサシの手をつけなかったカンヅメに手を伸ばす。


「それ、ムサシのだろ?怒られるぞ」

「食べていいって言ってたニャ。」

「ムサシが?…うーん、なんか様子変だった?俺、今朝から会えてないから、」

「ニャーも詳しくはわかんにゃいが……確かに落ち込んでた気はするニャ。」

「……俺、ちょっと探してくる。」




なんだか突然不安になって、飛び出した。カンヅメも食べかけのままわニャースの「どこ行くニャー!!」という言葉を背に。




走る。走る。


なんだか胸が急く気持ちだ。
ムサシが見つからないのが何故かすごく不安だった。



ムサシが一人で出かける事なんてよくある事なのに。不安で仕方が無い。

何かを忘れてる気がする。
大切な、何かを


そんな思いのまま
夜の街に、森に走り続けた。



「ムサシーっ!」


自分の声だけが大きく響く。
どこに行ってしまったんだろう、
早く彼女を見つけたい、今、ムサシの声が聞きたい。そんな思いだけが募る。


〜♪〜♪


「この、音、」


酷く錆び付いたヴァイオリンの音が森のおくから響いてくる。
とても上手とは言えないけれど、でもこの音、懐かしい。
こんなとこで、ヴァイオリンなんて、
と疑問を抱きながら音に近づく。



草をかき分けて、その向こうをみると一人の女性が座り込んでいる。


「あ、」



どうして、思い出せなかったんだろう。くる途中に。ここは、あの場所……今日は、七夕、だ。



「ムサシっ…!」


ヴァイオリンをひいてる人がムサシだと一瞬でわかった。
気づいた時には駆け出していてムサシのそばにきていた。



「こ、コジロウ…!?な、んで…」


「ごめん、遅くなって、ごめん、」


「遅くなってって…別にあんたと約束なんてしてないわよ」


「…うん、隣いい?」



ムサシは訳がわからないと言った様子だったけれど、「いいけど、」と一言言った。
隣に座るとムサシは気まずそうに持っていたヴァイオリンを俺とは反対側においた。



「なんで、ここにきたの」


「なんでって、…ムサシが、いなくなってそれで、」


「私が出かけるのなんていつものことじゃない。」


「そうだけど…、でも、心配でっていうか、なんか俺が不安で、」


「コジロウが?……別に明日になればちゃんと帰ったわよ。」


そういいながらもムサシは言わない。
今日ここにきた理由を。


「今日、七夕だな。」


「……そうね。」




横をみると、ムサシは上を見上げている。ああ、そうか周りが暗いからよく星が見えるのか。
…ムサシってこんなに綺麗だったっけ、いや、何考えてるんだ俺。


「あ、あのさ、なんでカンヅメ食べなかったんだ?」


自分の気持ちをごまかすようにどうでもいい質問をしてしまう。ムサシは一瞬怪訝な顔をして「別に。」と言った。


「別に、…ただ、ここに早くきたくて。今日じゃなきゃ……ダメなのよ。」



「…ムサシ。」


いつものムサシでないことはわかっていた。いや、いつも隠している気持ちを今日は出してくれてる。



「……なにか、あったなら俺聞くから。」


「なにかって、」


「いつもと違うのくらい分かるよ、付き合い長いんだからさ。」



ムサシは「あんたっていつもそう、」
と言ってため息をついた。



「ロケット団なのに優しすぎるし、お人好しだし、騙されやすいし、」


「うっ、」


「でも、嫌いじゃないわ。そういうとこ。」


「えっ、」


「なによ、間抜けな顔しちゃって。」


「いや、だって、」


「だから、だから……あんたは、いつまでもここにいない気がしたのよ。」


「どういう…、」


「あんたは、こんなこというのはあれだけど、私とは違う。ここにいなくたって、生きていけるし、大袈裟だけどもっと優しい世界で生きていけると思うのよ、だから、…」



すぐに否定したくなって、言葉を挟もうとしたけど、ムサシは今まで見たことのない顔で、



「だからここにきたかったの。」



と言った。


「ここにくれば、思い出せる気がした。あんたと初めてであった時のこと。
再開できた時のこと。あの時、私嬉しかったの、きっとコジロウが思ってるよりずっとずっと…嬉しくて。……感謝してるわ。」



「ムサシ、俺は、」



「ここにくれば、私も優しい気持ちになれたから。なんて、…わたしらしくないわよね、行きましょ。」



「ムサシっ!!」



俺はムサシの腕を掴んだ。


言いたい事がある。

伝えたい事がある。


「あ、あのさっ、俺は」




いいたい事がありすぎて上手く言葉が引き出せない。でも


「俺は、ムサシのことが好きだよ!!」


「なっ、何言ってんのよ急に!!」



「あっ、間違え…いや間違ってないけどそうじゃなくて!!」



言い出す言葉を間違えてしどろもどろする。
その様子をみてムサシが吹き出す。



「もーっ、コジロウってば、そういうところほんとあんたらしいわね。」



ムサシが笑っていて、俺もホッとする。今なら、伝えられる。


「ムサシ!俺さっ、俺2人が好きだよ!!その、だから、これからもさ旅を続けたい!!今度はさ、ニャースも一緒にここにこようよ、来年も、再来年も、…みんなでさ。」


いつだってそうだ。

何があったって変わらないのは
三人でいたいって想い。


これは今も昔も変わらない。




ムサシは一瞬キョトンとして



「馬鹿ね。……当たり前でしょ!ピカチュウを捕まえてサカキ様に認められるまでは諦めないんだから!
……でも、ありがと、コジロウ。」



笑って、俺は、「そうだな。」と言って、
ムサシは「ニャースのところに帰りましょうか。」と言った。



帰るって言ってくれたのがなんだか嬉しくて、浮かれてたら、ムサシに怒られて、帰ったらニャースはムサシにカンヅメ食べた事を怒られて「理不尽だニャ!!」と言ってムサシは「冗談よ。」と笑った。





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読んでいただきありがとうございます!
相変わらず文章も拙く、文才もなくですみません…!!
何年越しの続き、書いていいものか迷いながらも
いろんな思いを込めて書かせていたただきました。
受け取っていただけると嬉しいです。

2014.12.21 華音

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