2.
「##name_1##ちゃん、掃除終わったからいつでも戻していいよー。」
馬のたてがみを整えていると、小屋の方から堀川君の声が聞こえた。
##name_1##というのは無銘の私に主様がくれた名前だ。
堀川君に返事をし、馬を小屋に戻そうとすると
出陣した舞台の帰還の笛が聞こえてくる。
「あ、兼さん達が帰ってきたみたいだね。」
「あとは戻すだけだから、出迎えに行っても大丈夫だよ。」
「あはは、ありがとう。
でもいいんだ、きっと馬を戻しにここに来るだろうからね。」
流石は堀川君。
いつも兼さんのお世話を焼いてるだけあって、今日の出陣体制もバッチリ把握してるらしい。
そうして読み通り、馬の蹄の音が近づいて来る。
「兼さん、おかえりなさい!」
「おおー。」
と、馬を引き連れて兼さんが片手を上げて応える。
元主の影響か、この二振りはいつもよくよく視線が絡む。
そして…
「あ!髭切さん、膝丸さんもおかえりなさい!」
現れた源氏の双剣。
髭切さんは和かに、膝丸さんは端然と堀川君に応える。
「兄者、後は俺がやろう。」
「たまには僕も、自分でやるよ。」
この二振りも、兄弟刀と言われる由縁かいつも共に在る。
戦に出る時も、食事も、風呂も、部屋も同じだからむしろ単体でいることを見たことがない。
そんな風に観察をしている私に気付き、髭切さんがこちらに視線を寄越す。
「あぁ、今日はコマチが当番なんだね。」
「…##name_1##です。」
四六時中一緒にいる弟の名前を覚えないのだから、赤の他人の私の名前なぞ覚えないのは当たり前なのたが、流石に主様から頂いた名前を間違えられるのはいい気がしない。
「後は私が戻しときますから、着替えてきてはどうですか御三方。」
「そうかい?
じゃあお言葉に甘えようかな。」
と、あっさり髭切さんから手綱を受け取る。
そんな兄とは正反対に、依然手綱をよこさない膝丸さんからは自ら貰いに行く。
「ほら、髭切さんがいっちゃいますよ。」
と言えば、すまんな。と一言詫びを入れて直ぐ様兄の後を追い隣に追いつく。
「堀川君も、兼さんのお手伝いしてきてあげてよ。
前に堀川君居なかったとき、大変だったんだから。」
「えぇ…でも僕も当番なんだけど…」
と、渋る堀川君の手からも手綱を横取り、ほら行った行ったと急かせば、直ぐ戻ってくるからね!とパタパと走って行った。
「…。」
兄弟、相棒、旧友。
有象無象の集まりで出来た"##name_1##"という付喪神には、逆立ちして生活しても手に入らぬものだった。
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