開いたパンドラの箱
 



しん…と静寂が支配する。
地面に仰向けになっている幽助から目が離せない。

小さく出血している部分は心臓のある場所。
そしてジワリジワリと幽助の背中からだろうか、赤い液体が広がっていく。


「へ…へへ、だまされねーぞ。
ほんとは笑うのこらえてやがるだろてめー!」

桑原君は戯けたように矢継ぎ早に口を開く。


突然足に感じた痛みに視線を向ければ犬神が思い切り足をふんずけていた。
そしてその黒い瞳が幽助を写す。

それにハッとし、急いで幽助の胸に霊気を帯びた手をかざす。

撃たれてから今の間まで十数秒。
止まらず、自分の膝にまで広がる温かな血液にぞわりと悪寒が走る。


止まれ、止まれ。
塞がれ。
そして動け、体に酸素を送れ。
それから…


「てめぇ何姉弟子に手ぇ焼かせてんだ。
いつまでも寝てたらこっぴどく怒られんぞ。おい、聞いて…」

「映画は終わってしまっていたね。
とても美しい鎮魂曲。今の彼にピッタリだったのに。」


ざわりと空間を支配する邪気。
界鏡トンネルから数多の妖魔達が飛び出す。

それとほぼ同時に放たれる酷く冷たい妖気と燃え滾る妖気。

黒炎を纏った龍は仙水忍目掛けて躍り出る。


「このまま魔界まで運んでやるぜ!」

駆け出す飛影、続く銀髪の蔵馬、そして桑原君。
向かう先は仙水忍と同じ界鏡トンネルの中。


「っ蔵馬!!」

駆け出した途端、何かが腕を掴む。


「コエンマさん、離してください!
俺もっ…」

「なまえ、お前は行ってはいけない。」

「どうして?!」

もう見ているだけはたくさんだ。
武術会の時も、傷つく蔵馬を見ていることしかできなかった。
あの時は運良く助かったが、今度ばかりはそうもいかない。
魔界で何かあれば蔵馬は…


「万が一、界鏡トンネルが開き切った時…お前は来させるなと、前以て蔵馬から頼まれていたんだ。」

コエンマさんから出た言葉に驚きが隠せなかった。
こうなってしまうことを、蔵馬は少なからず想定していたのだ。


「それに…このままでは、いずれ雑魚妖怪だけではなく、A級以上の妖怪も出てくるだろう。」

「え…でも、結界が張ってあってA級以上の妖怪は通れないんじゃ…」

御手洗の言葉にコエンマさんは苦虫を潰したように顔をしかめる。


「桑原が斬るさ。仙水と戦うために。」

「な、なぜ?!勝ち目はないのに!」

「そういう奴らだ。
…ワシにはもう止められん。その力も資格もない。」


ぽっかりと空いた真っ黒な穴を見る。
そこからは生ぬるく、腐敗を伴った風が吹き出している。


仙水忍が魔界に行った。
そしてこのまま穴を放置していれば再び妖怪達が顔を出すだろう。

ならばやることは一つ。
もう一度穴を塞ぐしかない。

だけど、魔界には蔵馬達がいる。
仙水忍と戦うために。

そんなことせず、仙水忍だけを魔界に送り出しておけば、あとは穴を塞ぐだけで済んだというのに…


「幽助…」

お前のために三人は迷うことなく仙水忍を追った。
負けることがわかっていて、それでもなお、一寸の迷いもなく…





「…何だか妙だねぇ。」

そう言う犬神の視線の先の幽助にもう一度目を向ける。


「本当にその小僧の心臓は止まってるのかい?」

その言葉に幽助の胸に耳を当てる。
聞こえるはずの心音も、息遣いも全く聞こえない無音。


「…なにも…聞こえない。」

そう言うと、今度はコエンマさんが思案顔になる。


「…おかしい。そろそろ幽助の霊体が上がってきてもいい頃合いだ。」

「?!死んでないってことですか?」

「いや…死んでるからおかしいんだ。」


そんな会話を傍に聞きながら、洞窟入り口から近づいて来る気配に立ち上がる。
それに続き、コエンマさんも険しい顔で入り口を見やる。

そして暫くすると数名の戦士が現れる。



「霊界特防隊!!」


着くや否や、霊界特防隊は穴を塞ぎにかかる。


「あ…あの人たちは?!」

「霊界の軍隊。その中でも彼らはエリートの戦士だ。」

コエンマさんが御手洗の質問に答える間に、隊長と思しき年長の男が近づいて来る。


「コエンマ様、お怪我は?」

「大丈夫だ。」

そうしてる間に数名は、人間界に近づいてきた妖怪達を始末するために亜空間へと入っていく。
穴が塞がり切るのに一週間…それまでに蔵馬達が戻ってこなければ…


突然こちらに向けられる霊気に視線を向ける。
見れば二人の特防隊がこちらに向けて霊丸を構えていた。


「小僧、小娘離れろ。」

「!」

「なっ…」

「何をする!!」








「浦飯幽助を抹消します。」


隊長から放たれた言葉にコエンマさんも驚きを隠せない。
そして更なる真実を聞くことになる。





魔族大隔世


浦飯幽助が魔族の子孫であるということを。









2015.09.06 fin 開いたパンドラの箱



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