嵐の前の
 




ピーン…と、緊迫した空気がその場を支配する。
なまえは刀の柄を握る手に自然と力が入る。



「あんたは確か、なまえちゃんの…
何でこんなところに。」

「界境トンネル。
俺の目的はそれだけだ。」

そう言い龍は一歩一歩と、歩みを進める。


「無駄だよ兄さん。
界境トンネルは、幽助達が…」

「もう遅い。」

断定的な龍の言葉に、なまえとぼたんは目を見張る。


「安心しろ、今更仙水忍に加担する気はない。
もう…俺が通るには充分なほど開いているからな。」

そう言い、変わらず歩みは続き、なまえの横を通り過ぎる。
なまえとぼたんはただ、洞窟の暗闇に消えゆくその背を見届けるしかなかった。
















ブーーーー!!

"ゲームオーバー!!
ゲー魔王の負け!ゲー魔王の負け!!"


そんな機会音が反響する洞窟の中、ゲーム機の側には少年が一人、長い眠りについた。

そしてその傍で、静かに怒りの炎を燃やす青年が一人。


「先を急ごう。」

その一言で、再び歩みを進める四人。
幻海達は蔵馬の残した道標を頼りに、再び元来た道に戻る。



「なんか…今更っすけど、こんなに簡単に人が死ぬなんて…。
しかもあんな小学生が…」

「今のご時世じゃ、戦いで死ぬなんて日本人には無縁だからな。
だが、ほんの数十年前まではよくある話だったんだよ。

それに…幽助達が仙水に勝たなければ、死ぬことは我々も他人事では済まない。」

幻海の言葉に柳沢は思わず俯く。
そして再び口を開こうとしたその時、何かの気配に一斉に足を止める。

ぼんやりとした灯りの中、一瞬赤色が海藤の目に映る。


「なまえさん…?なんでここに…」

何故ここにいるのかと、問おうとしたその時、一段と近付いたことでその人物がなまえではないことに気付く。


「あんた誰だ?!まさか、新手が…」

海藤と柳沢が構えるが、幻海がそれを制する。


「龍…なまえはどうした?」

「別に何もしていない。
俺の目的は、界境トンネルだけだ。」

冷たく光る琥珀色の瞳に、海藤と柳沢は握る拳に汗が滲む。


「仙水を倒すというあんたらの目的の邪魔をするつもりはない。
もう既に、俺が通るれるだけの穴は開いている。

だから…」

俺の邪魔もするな。


その言葉と共に、龍は闇の中を進んで行く。



「な、何なんすかあの人…。」

「龍…なまえの、実の兄だ。」

その言葉に海藤と柳沢は驚く。


「だ、だったら幽助さん達に加勢してもらえるんじゃ…」

「それはないだろうね。
あたしもほんの少ししか関わったことないが、彼奴は余計なことはせん男だ。」

はぁ、と幻海は溜息をつく。




そしてその一時間後、幻海達は元居た洞窟の外へと出る。


「あ!ばーちゃん達が帰って来たよ!」

ぶんぶんと、ぼたんは元気良く手を振る。


「師範…」

「恐らく、さっきあたしらが加勢して倒したのが最後…あとは仙水忍本人が待ち構えているだろう。

一応、幽助達は順調に進んではいる。」


その言葉に、安堵するわけでもなくなまえは複雑な気持ちになる。


(いよいよ…仙水との直接対決…)


ぽん、と幻海がそんななまえの肩に手を乗せる。


「ここに戻ってくる時にコエンマ殿とすれ違った。
恐らく彼は彼なりの奥の手があるんだろう。」

「あの…兄とは…」


なまえはそこまで言って、洞窟に視線を向ける。
幻海も、険しい顔で後ろを振り返る。


「何か…?」

「幽助達の気配が消えた…。」

なまえの言葉にぼたん達は焦りを見せる。


「いや…幽助の気配だけ戻った。
なまえ。」

幻海の言葉になまえはこくりと頷き、瞬間、地を蹴り走り出す。


相変わらず生ぬるい風が吹きつける洞窟の入口。
あまりの静けさに、幻海たちは言いようのない予感を胸にその場に佇んで居た。







2015.09.06 fin 嵐の前の



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