三度目の正直
 



ふっと、意識が浮上する。
目を開ければ見慣れた自分の部屋だった。
チュンチュンと、小鳥の鳴く声も聞こえる。


布団がやけに暖かい。
首を回し後ろを見やれば、紅い髪が見えた。


ふー、と息を出しながら布団から這い出る。
流石にこの状況にももう慣れた。

いつものように寝巻きから道着に着替えようと、寝巻きに手をかけ脱ぎ捨てる。











「…随分、大胆なことをしてくれるね。」


その声に後ろを見れば、蔵馬の姿をした犬神が寝転びながら頬杖を付いている。


あー、もういいもういい。
そんなことでもう俺は動揺したりしないんだ。
いい加減飽きないのかこいつは。




…こいつ、は…?



「…は…。」


思わず間抜けた声が出た俺を、小首を傾げながら蔵馬の姿をした犬神が見る。
…蔵馬の姿をした、犬神…



急に頭が混乱し出す。
何故混乱するのかわからないことにさらに混乱する。


待て待て待て。
何かが違う。何が違うって、布団に入る前のことを思い出せ。
なんだ、あれだ。創造主に殺されかけたんだ。
で、蔵馬(妖狐の姿)に助けてもらってどうした。
それからあれだ、蔵馬が激怒して壁に穴開けたんだ。
で?で、どうなった。


そこまで思い出すと、顔が日照り出す。
…泣いたんだ、そういえば。

その後の事は覚えていないということは、そこで意識が途切れたということで…
じゃあ誰がここまで運んでくれたのかというと蔵馬しかいないわけで
そうするとここにいる蔵馬は…


「蔵馬…?」

そううわ言のように言うと、にっこり綺麗な顔で微笑み応えてくれる。

で、大胆なことをしてくれるね。っていうのは…


「っ!」

今更遅いがこれは条件反射だ。
露わになってる上半身を自分の腕で隠す。
すると、蔵馬は大層おかしそうにくすくす笑う。


「もう隠したって遅いのに。」

「な、なんで犬神じゃないって言ってくれないんだ。」


そう言うと、蔵馬は怪訝そうに眉を寄せる。
その表情を見てしまったと思うも時すでに遅し。
あぁ、そりゃそうだ。蔵馬は犬神が毎日自分に化けて俺にちょっかい出してるなんて知らないんだから。



「…もしかして、犬神と毎日一緒に寝てるのか?」

「冬だから、寒いからと…犬神が…っ」

蔵馬が布団から出て、ずずいと距離を縮めてくる。
ダメだ、やっぱり本物には免疫がない。


「で?さっきの話からして、犬神は俺に化けて一緒に寝てるんだ?」

「たまに、知らない間に蔵馬に化けてる…。」


ふーん、と蔵馬が至近距離でジトリと睨んでくる。
俺のせいじゃない、俺が頼んだわけじゃないんだ!
と言いたいのに、喉がきゅっと閉まって声が出ない。


「…そういうこと。
だから俺が隣で寝てようとさして驚く事もなく、あまつさえ着替えまでする始末か。」


その問いに答える代わりにクシュン、とくしゃみが出る。
流石にこの時期上半身肌は寒い。

そんな自分に蔵馬がハッとしたその時、障子がピシャッと勢いよく開く。



「「…。」」



そこには今度こそ蔵馬の姿をした犬神がいた。
少しばかり目を見開くも、すぐにニヤリと笑う。


「流石はエロ狐、手が早いねぇ…。
ばーさーん、今日は赤飯だ。」

障子を閉め、犬神はそう大声を出しトタトタと姿を消した。




「…へぇ、よく出来てるじゃないか。」

冷静に感想を言う蔵馬を他所に、タラタラと冷や汗が背中から流れる。
犬神ィィ!!と怒鳴りたくともやっぱり声は出ない。

動揺で動けずにいると、パサリと肩に服がかかる。


「例え犬神と言え、俺の姿で君のこんなあられもない姿を毎日見ているのはいただけないけど
朝から良いものを見れたしイーブンだね。」

ふふっと綺麗に微笑む彼に、やっぱ慣れてるなーとぼんやり頭の片隅で思う。
千年以上も生きてるのだから当たり前か、と自分を納得させる。


「…そういえば、師範が帰ってきてるってことは…。」

仙水忍と何かあったのか。
急に現実に戻る思考回路。
さっきまでの混乱は嘘のように急に頭が冴える。


「…その事で、今から俺と幻海さんで幽助の所に行ってくるよ。」

俺も行く。と口を開こうとすると、ピッと蔵馬の人差し指が唇を塞ぐ。
その感触に、昨夜の事を思い出し再び頬に熱が帯びる。


「君はダメだよ。まだ体力だって戻ってないだろうし…。
今日はここで大人しくしてて。」

ね?と、あやすように頬を蔵馬の手で包まれる。
そうされれば肯定しか自分は出来ないわけで。
何処か納得のいかない顔をしているだろう自分に蔵馬は苦笑をこぼす。


「いってくるよ。」

その言葉にハッとして視線を蔵馬に向けた途端、昨日と同じ温もりを唇に感じる。

ちゅっ、と音を立てその温もりは離れた。

その事態にポカーンとしていると、蔵馬が障子に手をかける。


「…夢じゃなくて良かった。」


そう言い蔵馬は部屋を後にした。



部屋に残る蔵馬の香りと、唇に残る温もりにただただ心臓が慌ただしく鼓動を打っていた。









三度目の正直 2014.11.23 fin



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