死神が降りてきた
 



「蔵馬もどっか行っちまっただーーーーーー?!!」

マンションの一室に幽助の声が響き渡る。
そんな声に海藤は、今日は学校も休んでたよ。と答える。


「うぬれどいつもこいつも…。
こうなりゃ俺一人で乗り込んでらやぁゲキィーーーー!!!」

「おちつけィ」

熱くなった幽助を幻海が足蹴にして止める。
場所がわかったのだから焦る必要はないと、皆口々に言う。

しかし熱の冷めない幽助は外に出かけてしまった。


「いいんですか。
まさか本当に一人で乗り込む気じゃ…」

「そこまでバカなら死んだ方がいい。
何だかんだ言っても桑原が気になるんだろ。」
(それに蔵馬も大方なまえの所だろう。)











ガバリと勢いよく起き上がる。
ドクドクドクドクと、心臓が異常などほど脈打つ。
そして、急に思い出したかのように胃が収縮し何かが這い上がってくる。


急いで台所へ向かう。
流しに顔を近付けた途端、案の定胃から這い上がってきたものが口から出る。

蛇口を捻り、勢いよく水を出す。
空っぽの胃からは胃液しか出ない。
喉が焼けるように熱く、口の中が気持ち悪い。


暫くして落ち着くと、そのまま流しを背に床に座り込む。

(何だっていうんだ…。
"まだ大丈夫" 、だなんて絶対嘘だろ。)

確実に自分の身体は衰弱している。
今までこんなことがあったか。


ギシリと床の軋む音が耳に入る。
師範は幽助のマンションにいるはずだ。
犬神も付き添ってる。



「誰だ…。」

泣けなしの力で霊気を練る。
まさか、仙水忍か…?

キッと目を細め、壁の向こうにいる人間を睨みつける。
ドクドクと再び心臓が脈うつ。


ギシリ、と一段床の軋む音が大きく響き、人物の足が見える。
その瞬間、霊丸を構える。



「…っ蔵馬?」

目に映った人物に驚く。
薄暗い闇の中でもわかる赤髪に翡翠色の瞳。



「はい。そうですよ。」

困ったように笑い、両手のひらを肩まで上げて降参のポーズをとる。
その姿に構えていた霊丸を降ろす。


「…何でここに?」

ギシリギシリと音を立て、蔵馬が近づいてくる。
そしてそっと自分の前にしゃがみ込む。


「最近君の様子がおかしかったからね。
今は幻海さんも幽助の所だし…心配になってきてみたんですよ。」

やっぱり顔色が相当悪い。

そう言いそっと頬に手を当てられる。


「…大丈夫だ、心配はいらない。」

「何が大丈夫なんですか。こんな死にそうな顔して…。
大丈夫、俺が来たからにはすぐに楽にしてあげますよ。」

薬草を取り出そうとしてるのか、懐に手を入れゴソゴソとしている。

その手首をそっと掴む。
すると蔵馬は顔を上げる。


「蔵馬、その必要はないよ。
だって…」



ズガン!!



盛大な音を立て、蔵馬の脇腹に穴が空く。
突き抜けた霊丸は、壁をパラパラと崩していた。


「ど…して…。」

ゴホっと蔵馬が吐いた血が、自分の顔にかかる。



「…流石に血の臭いまで真似は出来なかったか…。
誰だお前は。」

そう言うと、蔵馬の顔のままそいつはニヤリと顔を歪める。


「まだ時期尚早だったみたいだねぇ…。
まさかこんな力があったなんて…。

でも、ここまできて私も引き下がるつもりはないよ。」

グッと首に手を回されそのまま締め付けられる。


ダメだ、今の身体じゃ霊丸一発が限界だ。


「18年10ヶ月と14日…前回よりも3年1ヶ月22日記録を更新か。
充分だよ。」


まさか、こいつ…


「お、前…創造主か?」

「おお、知ってたか。
さしずめ龍からの情報か…。
予定よりもえらく長生きするから気になってね。
迎えにきたよ。」


その瞳にゾッとした。
こいつ、普通じゃない…!


「ふざけ、るな…。」

首を掴んでる腕の手首を掴み、霊気を集中する。
掴む手が震える。


「何をやっても無駄だよ。
君たちの頭の中に特別な印をつけててね。
それでいつだって君たちを制御できるんだ。

最近変な夢をよく見ていただろう?
全て私の仕業だよ。」

最近魔界と人間界の穴がデカくなったお陰で、制御が容易くなったよ。


ニィィっとそいつは蔵馬の顔のまま笑う。


「ついでに言うとね、毎回龍にお前たちを処理させてたんだけど…
どこで間違えたのかなぁ、龍の制御がなかなかうまくいかなくてねぇ。
お前が長持ちしてるのも気になるし、直接来てしまったよ。」

全く武闘派じゃないから、完全に弱ってから連れて帰ろうと思ったんだけどね。


あっはっはっ、と無邪気に笑う。
なんなんだ、こいつ。
兄さんを苦しめていたのも、最近自分の身体がおかしいのも、全部全部…


「まさか、妹を殺したのも…」

「あぁ、あれね。まさか、不慮の事故だよ。
だからもう一度創り直そうとしたら、龍に邪魔されちゃってね。

私の何百年分もの研究がパーになっちゃったよ。」

「っ!殺してやる…!」


バチバチっと音を立て、首にかかっていた手がボトリと落ちる。

こいつだけは、絶対に…


「ほぉ…。まだこんな余力が。
お前が長持ちしてるのも、霊力を高めてるお陰かな?」

「っお前のせいで!
どれだけ兄さんが苦しんで…!
どれだけ妹が悔しい思いをしてるか知ってんのか!!」

ギッと創造主を睨みつけるも、素知らぬ顔で何かブツブツ言いながらメモを走らせている。

ふざけんな…


「っ…!」

急に目の前の男に恐怖を抱く。
なんだ?さっきまであんなに…


「ちゃんと伝えてあげたよね?
君たち…龍は今はできないか、お前をいつだって制御できるって。
どうやら恐怖心で支配するのが一番容易いようだねぇ…。」


ガタガタと手が震え、心臓がキュッと締め付けられる。
何やってんだ、これは俺の身体だ。
なに簡単に操られてるんだ。


「大丈夫、私とて何百年もお前を見て来たんだ。愛着ぐらいある。
大人しくしてくれてればいいんだ…。」

さっき開けたはずの脇腹の穴も
落としたはずの手も、もう元通りになっていた。

手が再び首に伸びてくる。


「少しの間だけ、おやすみ…。」









死神が降りてきた 2014.8.9 fin



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