夢現の狭間で
 



2日後。
幽助たちは二手にわかれて蟲寄市の様子を見に行く。

そこで幽助たちが見たものは、大量の魔回虫に埋め尽くされた街だった。
一方、蔵馬たちは街を外れ穴の中心部を探索する。



「…しかし、何だか話しがデカ過ぎてしっくりこねェなぁ…。
今の俺から見りゃ、何も変わりネェんだけどよ。」

「桑原君は今、霊感が殆どない一般人と同じ状態ですからね。
だからこそ、街では特に騒ぎになってない。」

「あんな大量の虫が飛びまわってるエズラなんて、見ない方がいいさね。」

ぼたんはそう言い両手で自分の肩口を掴む。



「しかしよぉ…なんつーか、こういうの見つけるのなら、なまえが得意そうじゃねぇか。
なまえはどうしたんだ…?」

最近見かけねェけど…


ちらっと様子を見るように、桑原は蔵馬の顔を盗み見る。
その横でぼたんと海藤は固唾を飲む。


そう、3人はこっちのことも気になっていた。

この件になまえが絡まないのはおかしい。
蔵馬のみならず、幻海もなまえのことを口にしない。
幽助に聞いても「んなもん、本人に聞きゃーいいじゃねーか。」なんて言う始末。



沈黙にザッザッと足音だけが響く。

「なまえも恐らくこの件について調べてますよ。
ただ、これに関した依頼も沢山入ってるみたいで…疲労が溜まってるんでしょう、休養をとってますよ。」


柔らかく笑み、桑原を見上げる。
その表情に3人はホッとする。
なんだ、別に蔵馬と何かあったわけじゃないのか、と。



「それなら良かった!
てっきりあたしゃ蔵馬と痴話げ…」

むぐっとぼたんの口を海藤が抑える。
彼は一度アトリエで地雷を踏んで学んでいた。


「そ、そうだったのか。
なら、これが終わったら見舞いにでも行ってやるかぁ…」

アハハハハと、桑原は笑って誤魔化す。
彼もまた、アトリエでのことがトラウマになっていた。
















縁側からぼーっと庭先を見る。
いつもと変わらず静かなものだった。
やはり日に日に夢見が悪い。
最近では起きてても夢の中にいるようだ。


「酷い顔してるねぇ…。」

「…師範たちと一緒に行ったんじゃないのか。」

視線だけそちらに向けると、案の定犬神がいた。
するとクツクツと笑う。


「なんだ、1人じゃ寂しいだろうと思って居てやってんのに、私じゃ不満かい?」

やはりあの狐がいいか?

と、黒い霧に覆われ"蔵馬"が姿を現した。


なまえはそれを一瞥し、また庭先に視線を向ける。
その反応が面白くなかったのか、犬神は本来の姿に戻る。


(こりゃ相当参ってるようだね…。)

犬神は幻海との会話を思い出す。









丁度なまえが屋敷にいない昼過ぎ。
幻海と犬神は茶を啜っていた。


「…お前さん、もしかしてなまえの中に戻れないのかい?」

「おや、気付いてましたか。」

ふふふ、と上品に口をあて笑ってみせる。
昔からよく使っていた黒髪の娘の格好だ。


「普通、憑き物は宿主の中か、それ専用の入れ物に入ってるもんだからな。
お前さんみたいに宿主がいるのに、こうも単独で泳いでることなんて、そうそうない。」

ズズッと茶を啜る音が響く。


「寝てる時とか、無防備な時に入ろうとするんだけどねぇ…どうも"なにか"に弾かれる。」

あの狐に化けたりするのも、なまえの隙を作る為だった(もちろん反応が面白いのもある)。


「いや、別に何の不自由もないんだけどさぁ…あれは私の入れ物だ。
実に不愉快だ。」

「…なまえの中に別の何かが入ってるってことかい?」

スッと幻海の目が細まる。
奥義を引き継いでも、あの時と変わらぬまま、まだまだその眼光に衰えはない。


「いや…中から押し戻されるというよりは、外の表面に壁がある感じだ。
それがなまえの意思でないのは確かだ。」

そう言うと、幻海は顎に手をあて思案する。


「…魔界の穴が開いているのに何か関係があるのかもしれんな。」

「…。」

「最近のあやつは何だか妙だしな。
まるで夢遊病の類にでもかかってるようだ。」

ジッと見据えられる。
流石は自分をなまえに封印しただけはある。



「あんたも食えない婆さんだねぇ。
流石は"悪名高い霊光波動拳の幻海"と言ったところか…。」

「…なら、"元・伝説の極悪盗賊"の耳にも入れておいた方がいいんじゃないか?」



茶を飲み切り座布団から立ち上がる。
襖を開け、外を見ればどんより曇っていた。











いつの間にか、柱にもたれかかりなまえは眠っていた。


「…お手並み拝見とするさ。」










夢現の狭間で fin.2014.7.6



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