赤い月の夜
 


これはまだ、幽助達と出会う半年前のお話し。



"南野秀一"こと蔵馬は、ふらりと寄った本屋で思いの外長居してしまい夜の道を帰宅していた。


(今日は満月か…)

それも赤い満月。


そんな夜は何故か少し気が高ぶる。
それは他の妖怪たちも例外ではないらしい。


いつもより感じる妖気が仄かに強い。


(何事も無ければいいが…)


そんなことを考えていると
路地裏で強い妖気を感じた。


(やっぱりな)

こんな満月の夜は必ず何かが起きるのだ。


ここから自宅までそう距離はない。

見過ごすわけにはいかないな。


そう考え足早に妖気の放たれる路地裏へと急いだ。













目的の路地裏に近付くと
妖怪の他に人間の気配も感じた。


(まずいな、人間を襲っているのか。)


そう思い、曲がり角を曲がろうとしたとき




ザシュッ





その音が聞こえた瞬間に妖気が途絶えた。

(何が起こった?)


気配を消しながら覗くと


こちらに背を向け、赤い月を背景に
頭からつま先まで全身黒で覆われた人間が、妖怪の死骸であろうモノの前に立っていた。


(これは霊気…長居は無用だな。)


そう思い、もと来た道を戻ろうとしたその時


シュッ


という風を切る音がしたと同時に
左頬にピリっとした痛み。

そして背中で感じる、氷で射抜かれたかのような冷たい殺気。



「残党か…」


そんな声が聞こえ、声の主と対峙すると


赤い月よりも深い深紅色の瞳

街灯の光に照らされて、白く光る刀


それを確認した瞬間、影が動く。


蔵馬はハッとして声をあげる。


「待て!君は勘違いしている…!」


そんな声が聞こえているのか否や
間髪いれず、刀を振りかざしてくる。


避けている間に壁に追い込まれ

そして




ドカッ






目の前には深紅色の瞳



刀は見事に首のすぐ近くに刺さっている。



その瞳を見た瞬間ぞくりと背が粟立った。



「…何故反撃しない?」


赤い瞳の人物は微動だにせずそう問うてきた。


「だから、勘違いだと言っただろう?
俺はそいつの仲間じゃない。」


そう言うと、さらに殺気が強くなったが
暫くしてその殺気は収まり、刀もゆっくりと抜かれた。


「信じるんですか?」

「抵抗してこないのがその証拠だろう。
それに嘘をついてる目には見えない。」


そう言いながら鞘に刀を収める。


久々に感じた緊迫感から脱したためか、
安堵の息が漏れる。


「すまない。無関係なのに怪我をさせてしまった。」


「あ、あぁ…驚いたけど大した怪我じゃないから大丈夫だ。」


俺がそう言うと、すっと左頬に手を当ててきた。


そのことに驚き退こうとすると


「安心しろ。お詫びの治療だ。」


そう言うやいなや、左頬に仄かに熱が集中する。


その意外と小さな手と、背丈に再び驚いていると、
治療が終わったのかその手が離れ、深紅色の瞳と再び目があう。


その時、この人物をもっと知りたいと思った。

今わかるのは瞳の色と背丈のみ。


隠されてると知りたいと思ってしまうのは、
元盗賊の性なのかもしれない。


「凄い、もう傷が塞がってる…
かなりの使い手だね。」

「半分はお前の回復力だ。
師範に比べれば俺はまだまだだ。」

意外と謙虚なんだな、と考えていると
その人物はくるりと背を向けて歩き出す。


「君、名前は?」

そう問うと足を止め、少しだけこちらに振り返る。


「別に仕返しなんてしませんよ。
ただ知りたいだけです。」


「…なまえだ。」


なまえ…。


「お前は?」


「蔵馬。」



それがなまえと俺の出会いだった。











赤い月の夜fin 2013.7.2



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